世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

コロナ克服を祈念して、2022年の執筆を開始します

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Photo by Branimir Balogović on Unsplash

今年こそ、コロナの克服を

2020年からパンデミックにより、人々の暮らしはすっかり変わってしまいました。新しい株の出現により未だ克服はできてない状況ですが、冷静に考えればたった2年の間に有効なワクチンが開発され、貧困国への供給など、数多くの問題はあるものの世界中でワクチンが受けられる状況になったという点は人類の進化として誇りに思って良いのかな、と思います。

去年の年明け最初の投稿は、米議会襲撃という愚かな事態に衝撃を受け、キング牧師やガンジーによる20世紀を代表するソーシャルキャンペーンを紹介しました。今年は「今年こそ」のコロナ克服を祈り、昨年の世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズにてプリント&出版部門のグランプリを獲得したこの取り組みをご紹介いたします。

Courage is beautiful "勇気は美しい"

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[雑和訳] ニュースキャスター”このキャンペーンは、その名も「勇気は美しい」というキャンペーンで…” "Doveはヘルスケア・ワーカーのヒーローたちに光を当てる素晴らしい広告を始めました"
”#勇気は美しい、のタグラインがDoveのビデオが広まると共に注目を集めています” ”看護師や医師が感染を防ぐために装着するギアによる、彼らの顔のアザを見せています””これらの表現からは彼らが共通して持つ、我々を守ろうとする決意や、苦労を感じることができます” タイトル文字[勇気は美しい]
看護師のアマンダさん「3月か4月ごろ、彼らは私が写真をシェアしたインスタで打診をしてきました」同パトリックさん「病院にいるスタッフたちは忘れられていました。このキャンペーンで同じような状況にある他のヘルスケアワーカーたちの姿を見て、一人じゃないと感じることができました」同リナさん「とにかくパワフルだと思いました。この中の一員であることに誇りを感じることができました」
ナレーション「世界中の病院施設に隣接するビルボードに、そこで奮闘するヘルスケアワーカーたちに向けた広告が掲出された」パトリシアさん「わぁ、私だ、私たちのことだと気づいてびっくりしました」ベサニーさん「私の看板を初めて見た時はウルッときて、このグローバルキャンペーンの一員であることを誇りに思いましたね」アマンダさん「私の写真がニューヨークタイムスの1面に載るなんて、想像もできませんでした」
*世界中のさまざまなメディアの、この取り組みに対する賞賛のコメントが入る 結果:世界で合計20億強のアーンド・インプレッションを達成。ソーシャルメディアの99%がポジティブに反応。ツイッターだけで1日あたり36万のハッシュタグ・メンションを獲得。500万ドル強のドネーションを獲得。
SnapのCEO「目下、Doveによる素晴らしいキャンペーンがSnap(のソーシャルメディア)で展開されていて、(ブランドの)差別化のための素晴らしい取り組みだと考えています」
司会者「人々の体型や肌の色、年齢などについて、いつも素晴らしい意見表明をおこなってきたDoveによる、もう一つの賞賛すべき取り組みだといえるでしょう」*最後、さまざまな言語の文字で”勇気は美しい”というスローガンが入る

人々の美にこだわってきたブランドゆえに成立した取り組み

いかがでしたでしょうか?特にこのキャンペーンが行われたパンデミック初期にはこの疾病について未知の部分も多く、最前線で患者のために戦っていた医療関係者に対する差別的な言動は今よりもはるかに多かったかと記憶しています。
彼らが報われない気持ちで疲労困憊し、通勤・退勤するその路上でこのような広告を目にしたら、そのメッセージはさぞかし温かく感じられたことだろうと思います。
さらに人々が家に閉じこもり、屋外広告の価値に疑問符がついたこの時点であえて「屋外広告にしかできないこと」をやり遂げた勇気も素晴らしいと思います。

さらに最高なのが、この取り組みを行ったブランドがDoveだったこと。Doveは2006年にカンヌライオンズのフィルム部門でグランプリを獲得した(私の中ではその先見性で未だに21世紀のベストグランプリです)”Evolution”を皮切りに、世界的ボディケアブランドの責任として、ほぼ一貫して現代における「Real Beauty(本当の美しさ)」とはどうあるべきなのか、を問い続けてきました。ここで彼らのいくつかの過去キャンペーンを見てみましょう。

「加工された美」への違和感を表明したEvolution


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タグライン「これでは、美の概念が歪んでしまうのも無理はない。女の子たちのためのReal Beautyワークショップに参加しよう」

「自分の美しさ」への過小評価を可視化したドキュメント


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目撃者の話をもとに似顔絵を描く犯罪捜査の似顔絵師が、被験者の似顔絵を描く。本人の自己評価に基づいて書いた似顔絵と、彼らの友達のコメントに基づいて描いた似顔絵との差で「人々は本人が思うより美しい(=だから自信を持って)」というメッセージを打ち出した感動的なキャンペーン

いかがでしたでしょうか?これらの15年以上にわたる一貫した「美」への取り組みがあったからこそパンデミックの第一線で戦う人たちに「勇気は美しい」と言い切る強さがDoveの中の人たちにもできたのだと感じますし、同時にこの取り組みの受け手(ヘルスケア・ワーカーや一般の人々)に対しても、他のブランドでは真似のできない説得力を感じさせることができたのだと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。
それではみなさん、今年もどうぞよろしくお願いいたします!

2021年のベスト・ソーシャルキャンペーン10選<第1位〜第5位>

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Photo by Myriam Zilles on Unsplash

今回は2021年のベスト・キャンペーンをご紹介

 

前回は2021年に世界で話題となったベスト・ソーシャルキャンペーンの第5位から第10位までをお伝えいたしました。そして今年最後の投稿となる今回は、いよいよTOP5の登場です!選考基準は独断と偏見でありつつ、「革新性」「スケール」「読者の反響」の3点に軸を置いて選ばせていただきました。作品の詳細については、それぞれの文中に張った過去記事へのリンクをご覧ください。それではドラムロール!

 

第1位 「Contract for Change(変革のための契約書)」

第1位は!!アメリカの有機ビールブランド"Michelob Ultra Pure Gold"が全米の農家に有機農業への転換を促すために行ったキャンペーンです。国が動く前に、人類がこれから進むべき農業の道を先取りして動いた「革新性」と、アメリカ全土の農家の暮らしに影響を与えうる「スケール」、そして「読者の反響」のどれもが高いバランスで揃っていました。

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コロナ禍を経てブランディングの力点がいよいよ「ユニークな広告表現などでいかにターゲットの心を掴むか」から「ターゲットが望む社会のために、いかにブランドが(嘘偽りなく)貢献しているか」という”リアル・アクション”に移ってきている中、このキャンペーンはその教科書的事例として語り継がれることでしょう。

 

第2位 「#wombstories(#子宮の物語)」

英国の生理用品ブランドBodyform。2010年台中頃から「なぜ生理用品のCMでは生理の血は青い水として表現されるのか?」など、生理にまつわる社会的なまやかしを糾弾することで女性の社会進出に寄り添ってきたこのブランドの集大成となるキャンペーンです。「性能の良いナプキンを使って、今日も軽やかに行きましょう!」という数多ある競合他社のメッセージを完膚なきまでに叩きのめす、とても強力なキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

個人的には当初、このキャンペーンが世界的に高い評価を得ている理由がいまいちしっくりこなかったのですが、調べるうちに自分自身が、女性がこの社会で受けているさまざまな差別や偏見に気付かされました。そういった意味でも印象深いキャンペーンです。

 

第3位 「Donation Dollar(募金用1ドルコイン)」

こちらも電子化が進む中、リアルな貨幣の価値を再定義した傑作アイデアです。オーストラリアではさまざまな市民団体をサポートするための取り組みとしてなんと、国の銀行が発行するコインの一種として「募金用コイン」を発行してしまいました。

みんながスマホ決済に移る中「現金はそろそろオワコン?」という時代の流れを感じるのですが、それに安易に流されず「手元に実際に流通する」という現金特有の価値に着目し、ソリューションにつなげたところにこのアイデアの凄まじさを感じます。ましてや貨幣発行当局との交渉などを考えたときに日本でこれをやろうとしたら…と考えるだけでクラクラするレベルです。アイデアと実行が見事につながった、稀有な事例といえるでしょう。あとは2〜3年後、この取り組みが具体的に、オーストラリア社会にどのような影響を与えたかをみてみたいと思います。

 

第4位 「SALLA 2032」

最低気温マイナス45.3度を記録したこともある、フィンランド北部の街Salla。しかし地球温暖化がこのまま進めば、雪の減少とともに現地の伝統文化や観光資源が消えてしまう…。そう危惧した現地の人々が行った驚きのキャンペーンです。

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実はこの10選を考え始めた時は、これがダントツの第1位だろうと考えていました。目の付け所はもちろん、このブログのそのものの趣旨である「常識に加えたひとひねり」も秀逸ですし、読者の反響も一番でした。さらに(東京オリンピックがあった)2021年を締める上でも良いキャンペーンだったのですが、審査を進めるうちに「スケール」という点では比較的短期間の話題化を目的とするPRスタントの域を出ていないのでは?という疑念が覆せず、4位という結果になりました。

 

第5位 「Naming the Invisible(見えない子供を救う)」

そして第5位は、パキスタンのテレコム会社Telenor Pakistanによるキャンペーンです。遠隔の村を中心にパキスタンに数多く存在する、6,000万人もの出生記録をもたない子供たちをデジタル技術の活用で救ったキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

こちら、アイデアとしてはモバイルアプリを開発して出生記録を取っていくという、とてもシンプルなものなのですが、とにかくそのスケール感の大きさで5位に飛び込んできたイメージです。

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「今年の10選」、いかがでしたでしょうか?

この10選からだけでも既存の「広告」や「プロモーション」の枠内だけで収まりきるキャンペーンではもはや、人々にインパクトを与えることができないんだな、ということを痛感する結果となりました。

そしてこの今もきっと、世界のどこかで素晴らしいアイデアが生まれ続けています。来年も引き続き、たとえそのひとかけらだけだとしても皆様にシェアできれば幸いです。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!それでは皆さん、また来年!

2021年のベスト・ソーシャルキャンペーン10選<第6位〜第10位>

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Photo by Myriam Zilles on Unsplash

今回と次回で2021年のベストキャンペーンをご紹介

今年はこのブログにたくさんの記事を書きました。

そこで!皆様に記事のひとつひとつを見直していただくのも大変だろうと思いますので、その中でも特に印象的だったアイデアを今回と次回の2回で合計10個、ご紹介させていただきます。

 

選考基準は「革新性」「スケール」「読者の反響」

最初はサラッとまとめて今年を締めるつもりだったのですが、甲乙つけ難いものが多く、熟考の末選考基準を上記の3つに設定しました。それでも悩んだ時は私の好みで決めました(すみません!)。では、今回は第6位から10位までを発表します。それぞれの詳細は各記事に置いたリンクからご覧ください。それではドラムロール!

 

第6位 「#Steal our Staff(#我々の社員を盗んで)」

スタッフの80%が何らかのハンディキャップを持つ人たちで構成されているイギリスの石鹸メーカー、Becoが障がい者の雇用を広めるために行った挑戦的で、でも人間の暖かさが溢れているキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

私はこの作品が大好きで最初は2位に入れていたのですが、選考基準のひとつに置いた「スケール」的には第1位〜5位のものに比べれば小さいということで、僅差の6位にしました。商品パッケージを履歴書にしてしまうことで、差別化しにくいカテゴリーの代表であるトイレタリーの購入体験を「障がい者たちへの応援活動」に変えてしまったところに、この取り組みの素晴らしさがあります。

 

第7位 「Raising Profile(プロフィールをより良くする)」

新型コロナウイルスの影響により街から人が減り、創刊以来の危機に瀕していた雑誌ビッグ・イシュー。そのピンチを解決するだけでなく、なんと恵まれない境遇の人たちの未来へのチャンスをも広げてしまった、そんなポジティブな姿勢が大好きなキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

こちらはリンクトインの活用が見事であることや、コロナによる社会変化に鮮やかに対応した点、そして、ターゲットであるホームレスの人たちに、このキャンペーンが終わっても生き続けるスキルを与えたところがミソだな、と思いました。

 

第8位 「The Bread Exam(パンこねテスト)」

女性たちが自身の体について語ることに対してタブー視をする文化的・社会的な風潮があるレバノンでは、結果として乳がんについての知識が広まらず、女性たちがその初期段階を見逃してしまうことが多いそうです。そこでこのキャンペーンでは、乳がんの初期段階を発見する方法を、パンをこねるレシピの中に織り交ぜてレバノンの女性たちに伝えました。

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社会的なタブーや制約を逆手に取る、という点ではこのアイデアは10選の中でもピカイチだと思います。さらに「今月、パンこねた?」という日常的な言葉を「今月、乳がんのチェックした?」という意味の暗喩として流通させたという点も天才的だと思いました。

 

第9位 「Hellmann’s Island(ヘルマンズ島)」

第9位はマヨネーズなどの調味料を販売しているブランドHellmann'sがどうぶつの森を使い、クリスマスに恵まれない人々のために行った素敵なキャペーンです。

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ゲームの中の「カブが腐る」という現象に着目し、それを現実世界でのドネーションとつなげたところが素晴らしいのはもちろん、どうぶつの森を使うことでシリアスになりすぎず、プレイヤーたちに行動を促したところがうまいなぁ、と思いました。

 

第10位 「Vivaldi's For Seasons(ヴィヴァルディの”季節のために”」

そして最後は、気候変動のおぞましさをヴァイヴァルディの「四季」で表現したこのアイデア。1700年台初頭に作られたこの傑作の構成楽曲である「春」「夏」「秋」「冬」を、それぞれ現在の気候に合わせて編曲したらこうなる…というものです。

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イデアとしては相当ユニークで、読者の皆様の反応も大きかったこの取り組み、5年前ぐらいまでであればもっと高い評価になっていたことと思います。ただ、今の世界の関心はアイデアひとつひとつの面白さよりも、これらの取り組みを行った結果、社会にどんな”実質的変化”が起こせたのか、に移っています。そこの部分の薄さが、今回このアイデアを10位に置かせていただいた理由です。

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「今年の10選」、後半の次回は社会に与えた「実質的変化」のインパクトが比較的大きなアイデアをご紹介させていただきます。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!それでは皆さん、また2〜3日後に!

まさかのインフルエンサー、ハチを守るために立ちあがる

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Photo by Dmitry Grigoriev on Unsplash

ハチ(Bee)を救うことは、人間を救うこと

6月からずっとほぼ毎週、世界的クリエイティビティの祭典カンヌライオンズの受賞作を紹介し続けておりますが、まだまだこれでもか、というぐらいに次から次へといいものが出てきます。

今週はソーシャル&インフルエンサー部門(←こんな部門があったのね…)で金賞を受賞したこの作品。フランスで行われた、ハチを守るためのSNSを活用したキャンペーンです。

いうまでもありませんが、ハチは知ってか知らずか、花粉を体につけて自然を飛び回ることでこの星の生態系維持に多大なる貢献をしてくれています。

(人間が食べる果実や種子として栽培される作物の実に75%が、何らかの形でハチの貢献により成り立っているという調査結果もあるほどです)

しかしそのハチが現在、気候変動や殺虫剤による影響などで、その数を急速に減らしているといいます。

その保護のために必要なのは、やっぱりお金…ということで、今回はインスタグラム上で「とあるインフルエンサー」をとてもユニークな方法で活用することで、見事に資金を稼いだ事例をご紹介いたします。

課題は深刻ですが、ソリューションはかわいいです。是非、以下の事例紹介ムービーをご覧ください。

"Bee"ンフルエンサー(Bee_nfluencer)

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【雑和訳】ポスト[ハチが絶滅したら、人類は4年も持たないだろうーアインシュタイン] ポスト[レオナルド・ディカプリオ「気候変動によりハチが危機に瀕している」] 文字[オンラインで、ハチは多くの関心を集めている][でも彼らが本当に必要なのは][資金だ]

テレビの司会者「今、インスタを利用してとある昆虫が、彼女の種を間持つために活動を始めています」「Beeさんとつながりましょう!彼女は今、10万人以上のフォロワーとつながっています。彼女は自称、史上初の”Bee”ンフルエンサーです」

文字[ねぇ、私の名前はBですよ!][私はインスタグラム初のハチのインフルエンサー][私はフランス財団と"ハチ・ファンド"を作ったの][ハチの保護に資金を集めるために][最初は小さく始めたの][そしてどんどん拡げていったワケ]*フォロワーがどんどん増えていく[私は生きているインフルエンサー][最近じゃ色んな企業がお金を払って、パートナーになってくれてる]*Ricola、Airbnbなど、色んなパートナー企業のロゴと、その協賛ポストが入る[去年のクリスマスは][(フランスの百貨店)ギャラリー・ラファイエットのアンバサダーにまで招聘されたの][私はメッセージを至る所に振り撒いたわ][そして5月20日の「世界蜂の日」には][私はGUERLAINとパートナーを結び、最初のフィルターを世界に向けてローンチしたの][これまでに私はハチ・ファンドに10万ユーロ以上を集めたわ][そして実際に、ハチを保護するためのローカル・プロジェクトに資金を援助しているの] *結果が羅列[実在するオーガニックなフォロワー数 28万4,130人][104つの投稿には、212万2,428のLikeがついた][Loveコメント数は1万6,111]*彼女を話題にした色んなメディアのロゴが入る [私をフォローしてね][応援する人が多ければ、それだけ資金も集まるはずだから][インフルエンサーも(その気になれば)良いことはできるのよ!][@bee_nfliencerをフォローしよう][ハチを救うために]

思いつきだけで終わらない、完成度の高いポストが決め手

いかがでしたでしょうか?ハチの問題は、ハチに言わせるのが一番!というシンプルなアイデアですが、面白そうなので私も早速彼女(@bee_nfliencer)のインスタをフォローしてみました。毎回毎回、上のムービーでも紹介されていましたがインスタで流行った画像のパロディなどがかわいく散りばめられていて、見ていて飽きないものでした。

人間以外のキャラがインスタのアカウントを持つ、というアイデアは別段新しくはないと思うのですが、やはり「どんなハチが、どんなことを、どんなトーン&マナーで更新していけば人は面白がるのか」という部分がしっかりとプロの手によってデザインされているからこそ、ここまで人々が”ノッて”くれたのだと思います。

そして実は、彼女のポストには最後、衝撃の結末が待っているのですが…。

これ以上は言えませんので、是非彼女をフォローして、直接ご自身の目でご確認ください。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

全米の生産者に有機農業への転換を促した、ビール会社の勇気ある試み

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Photo by Melissa Askew on Unsplash

 

「広告では差別化できない時代」を代表するソリューション

私は広告業界で働き20年を超えますが、時代は大きく変わりました。この20年で大きく変わったのが、デジタルの進化による消費者たちの「調べる力」と「広める力」の飛躍的向上、そして昨今のSDGsムーヴメントが象徴する、今の社会のありように対する危機感です。

それに合わせてブランディングの力点も、「ユニークな広告表現などでいかにターゲットの心を掴むか」から「ターゲットが望む社会のために、いかにブランドが(嘘偽りなく)貢献しているか」という”リアル・アクション”に移ってきています。

今回は、ブランドによる見事なリアル・アクションの代表事例としてアメリカの有機ビールブランド"Michelob Ultra Pure Gold"による取り組みを紹介させていただきます。世界のクリエイティビティの祭典、カンヌライオンズのPR部門で今年、見事グランプリを獲得した作品です。

それでは事例紹介ムービーをご覧ください。

 

変革のための契約書(Contract for Change)

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【雑和訳】農家「農業はもはや品質を求めていない。求められるのはより多く、速く、安く作ることばかりだ」スーパー:我々は、我々の命を支える生態系を破壊している。農家「農家のほとんどは、自然な作物を育てることを望んでいる。だけどもう、抜けられない(大量生産の)トレッドミルに載っかってしまっているんだよ」

スーパー:アメリカ人の90%は、有機作物によるものを買いたいと望んでいる。しかし、有機栽培をしているアメリカの農地は、全体のわずか1%だ。農家「有機農業への転換には、3年かけて大きな投資をする必要がある。でも、転換したとして、買い手はおそらくいないだろう」

スーパー:有機ビールのリーダーとして。Michelob Ultra Pure Goldプレゼンツ ”変革のための契約書(Contract for Change)” スーパー:アメリカの農業の変革を促す、革命的な契約書。農家「私は今日、有機作物の買い手を3年後に補償してくれる契約書にサインしました」

ナレーション ”この契約書は、サインした農家が3年間で有機農業への転換を完了した場合、その有機作物に対し、Michelob Ultraが最初の買い手になることを保証する。必ず買い手がいる、という保証により我々は、農家の人々が有機農業に転換する際の一番大きな障壁を除去したのだ”

 農家「有機農業に移行する3年の間は、生産量が下がってしまうので収入が低下します」ナレーション ”この悩みもまた、全米の農地のわずか1%しか有機農業に活用されていない大きな理由のひとつだ。

この契約には、有機農業への転換期間中、(Michelob Ultraブランドを保有する)アンハイザー・ブッシュ社の他のビールブランドが有機作物でない、既存の作物を通常の価格より25%高く買い付ける、という条項も入っている。なので契約者は収入を保つことができるのだ。

さらにこの契約書には、主要な農業関連機関や組織を通じた、綿密なトレーニングも含まれている” 

スーパー:この契約は、全米の契約書に向けて告知された。ラジオパーソナリティ「すべてのアイダホの農家の皆様へ。もし有機農業への転換をお考えなら、ぜひ我々にお電話ください。ともに、あなたの農業の未来を変えていきましょう!」

スーパー:我々の声は、全米の農家に届いた。そして国中のメディアにも。スーパー:10万4,000エーカーの農地が転換中。有機作物の供給量の増加は、2023年までにMichelob Ultra Pure Goldを25%成長させるだろう。

ナレーション ”一度有機農業に転換すれば、農家はMichelob Ultra Pure Goldへの原材料だけでなく、他の何千ものブランドにも有機作物を提供することが可能になる” 

農家「農作地に生き物が戻ってくるのを見るのは本当に美しいです」スーパー:生物多様性は34%向上。農家「それが農家になった理由なのですから」

 

勇気あるリアルアクションがブランド力になっていく

いかがでしたでしょうか?これをご覧になった方の中には、今や、この有機ビールブランドを買い、応援することが、世界を変えるための素晴らしい行動に思えてくるのではないのでしょうか?

思えば今年のカンヌライオンズ受賞作は、単なる消費行動を、社会的に意義のある活動へと変えた素晴らしい事例に満ちあふれていたと思います。例えば、石鹸の購入を障がいを持つ人たちの社会進出応援に変えてしまったこの事例とか…

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カンヌは世界から、これから日本に押し寄せるトレンドを先取りする場所でもあります。ぜひ、これらの先行事例をヒントに、みなさんの組織でも私たちの社会の改善につながり、あなたの組織に唯一無二のブランド力を与えるような素敵なリアルアクション、考えていただけると幸せです。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

パキスタンの「見えない子供たち」を救った通信会社の素敵な取り組み

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Photo by Syed Bilal Javaid on Unsplash

出生登録されていない6,000万人の子供たち

今、世界には11億人もの「見えない人たち」がいると言われています。これらは正式な出生登録がなされていない人たちで、その3分の1に当たる3億6,600万人が子どもたちだそうです。出生登録されていない、ということは、彼らが医療や教育、司法といった公共サービスの網から漏れ、人身売買をはじめとする搾取の格好のターゲットになってしまうことを意味します。

そしてパキスタンには6,000万人もの「見えない子供たち」がいるそうです。3億6,600万人のうちの6,000万人、というのは結構な数で、解決はほぼ不可能に感じますし、これを解決すれば、そのアイデアは世界中の見えない人たちを救いうるソリューションとなります。

今回はデジタル技術を駆使して、その解決に取り組んだパキスタンの通信会社Telenor Pakistanの取り組みをご紹介します。以下の事例紹介ムービーをご覧ください。

(ちなみにこちら、世界のクリエーティビティの祭典、カンヌライオンズのメディア部門とモバイル部門で今年、パキスタン初となるグランプリをダブル受賞した取り組みとなります。)

デジタル出生登録で「見えない子供たち」を救う

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【雑和訳】「出生証明書とは、誰もが持っているはずのものですよね?ーいいえ,違います。パキスタンにいる6,000万人以上の未登録の子供たちにとっては。そしてそれを持たないことは、彼らが一生、医療や社会保障、公共教育の提供から外れ、児童婚や児童労働に対して無防備になってしまうことを意味します。

(証明書発行の基礎となる)出生登録率の低さは、社会的、経済的要因により引き起こされます。特に、都市部から遠く離れた山村の自宅で生まれた子供たちや、避難民の子供たちにとって登録はほぼ不可能な状況です。

そこで、出生登録へのアクセスを改善するために、私たちはパキスタン第2のモバイルネットワークを持つ通信会社Telenorとコラボレーション。デジタルによる出生登録を促進するイニシアティブを開始しました。

権限を与えられた各コミュニティのリーダーやヘルスワーカー、医療スタッフたちが出生の情報を登録し、報告するシンプルなアンドロイド対応のアプリを開発。アプリでは加えて、両親のIDや住所、電話番号など、子供たちにとっていくつかの基礎となる情報の登録も行いました。

送られた出生登録のデータは権限を与えられた政府のスタッフにより確認、承認されます。そしてそれは、子供たちにとって出生証明書を受け取るための法的な道筋となるのです。」

[*西側主要メディアによる称賛の記事がいくつか入る]

「この取り組みにより、パキスタン国内の426の遠隔地の山村に住む、120万人の子供たちが社会から”見える状況”になりました。そして彼らは人権の基礎となる、最も根本的なものを手に入れたのですー未来への希望を」

官民連携の可能性を示すショーケース

いかがでしたでしょうか?確かにこの取り組みには、世界中が見聞きした瞬間に驚いてワッ!と湧き上がるような鮮やかなアイデアはありません。

ただ、これを実現する上でのTeleorの地道な努力(このソリューションを実現するまでに同社は2014年の試験運用以来、何年も試行錯誤を重ねていたそうです)と、各地のコミュニティリーダーから地方-中央政府までを見事に繋いで、絵空事ではなく実際の成果に結びつけたところに、その場限りのプロモーションではなし得ない凄みがあると感じました。

ムービーにはありませんでしたが、パキスタン政府はこの成果を受けてこの登録システムの対象エリアをさらに36地域、拡大する計画を立てているそうです(さらにはミヤンマーでも同様の取り組みが行われるそうです)。

そして何より素晴らしいのは「Telenorがパキスタンにポジティブな影響を与える会社である」と答えるパキスタンの人が、この取り組みにより12%も上昇したこと。…汗をかいたものが報われる。やはり世の中は、こうでなければいけません。

またデジタル技術がものすごいスピードで進化する中、官がそれを先取りして住民たちにソリューションを提供する、というのはなかなか難しいと思います。それを考えると、進取の精神に富む民間企業のアセットを柔軟に取り込んで地域の暮らしの質を爆上げさせたこの取り組みは、日本の官民連携のありようを考える上でも大いに参考になる事例だと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。

それではみなさん、また来週!

つい募金したくなる「人間心理」のスキを突いた見事なアイデア

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Photo by Katt Yukawa on Unsplash

人は黄金を作ることはできないが、カネを生み出すことはできる

今、夢中になっている本があります。「Alchemy:The Magic of Original Thinking in a World of Mind-Numbing Conformity(邦題:欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング)」という本なのですが、必ずしも論理的ではない人間心理を操ることで、大きなビジネスチャンスを作り上げてきた事例(=ゴールドではなく、カネを"錬金"した事例)が満載で、毎日数ページずつですがゆっくり楽しみながら原著を読んでいます。

市場調査でコーラよりも圧倒的に不味いと出た炭酸飲料を、あえて高く売りつけることで世界的に業界2番手のシェアを確立したレッドブルの事例から、戦争の費用を捻出するために、鉛のアクセサリーを「国家貢献の証」として社交界で流行らすことで貴婦人から宝石類の寄付を集めたプロシア国の事例まで、目から鱗の事実が盛り沢山なのですが、今回は将来、この本に続編が出たら事例として掲載されそうなアイデアをご紹介します。

オーストラリアの遺伝子医療(ゲノミクス)の研究所が、難病の克服に努める彼らへの募金を呼びかけるために行ったキャペーンです。それでは以下の事例紹介ビデオをご覧ください。

Disease Dilemmas(病気のジレンマ)

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【雑和訳】「私はブライアンです。7年前、パーキンソン病と診察されました」「私はキャサリンです。2018年の7月に膵臓がんだと診察されました」[タイトル:あなたはどちらに募金をしますか?]

司会者「いろんな募金先がある中で、あなたならどちらの医療費に募金をしますか?」[タイトル:Disease Dilemmas(病気のジレンマ) byガーヴァン医療調査研究所] ”この問いは、ガーヴァン医療調査研究所による新しいキャンペーンの根幹を成すものです”

「いい1日って、今日も真面目に頑張るぞ、と目覚められる日じゃないかなって思います。そんなふうに朝起きれたら、その日は私は昏睡状態に陥らずに済んだ、ということですから」「一番辛かったのは、子供たちに自分ががん患者だと伝えることでした。あれは辛かった…」

「私はキャンディスです。私は1型糖尿病です」「私はアンドレアです。骨粗鬆症に苦しんでいます」「私のように、3〜4、6ほどの病気があなたや、あなたの家族を見舞うかもしれません。あなたは全てを救いたいと思うはずです」

「そこが、ガーヴァンのゲノミクスの出番なのです」「ガーヴァンは私に多くの望みを与えてくれました。彼らは常に、患者たちに遺伝子工学を駆使して選択肢を与えようとしてくれるのです」「私はずっと、ガーヴァン研究所への感謝を忘れることはないと思います。彼らのリサーチが文字通り、私の命を救ったのです」

「遺伝子に関する病気で苦しみながら親たちが亡くなっていくのは辛いことです」[(このキャンペーンは)8,700万インプレッションを獲得][ウェブサイトへのトラフィックは61%向上][キャンペーン期間中、合わせて1,900万ドルが寄付された]「でもそこで、他の選択肢があるという希望が持てるよう、積極的に活動してくれる人がいるということは本当にありがたいことです」
[タイトル:あなたはどちらに募金をしますか?]

[でも、一度に両方を救える募金先があるのです]

[(それは)ガーヴァン医療調査研究所]

無視できない「問い」の前に、人の心は惹きつけられる

いかがでしたでしょうか?通常、街を歩いているときに看板やポスターなどで「難病の人を救ってください」というメッセージを振りかけられても、人々は「ああ、またこの手の募金か」と即座に判断して、興味を遮断してしまうことでしょう。

なぜなら私たちはこれまでの経験で、そういった募金があまりに多すぎて、対処してもキリがないことを学んでしまっているからです。そこでこのキャンペーンを考えた人は「遺伝子工学で広範囲の難病の治療に貢献している」というこの研究所の特徴に着目して、押し付け型のメッセージの代わりに、「難病Aと難病B、どちらの患者を救いますか?」という難題を、屋外広告にありがちな笑顔からはかけ離れた、深刻な患者たちの表情とともに人々に投げかけました。

幾千とある「この手の募金」とはかけ離れた突然の問いかけに街ゆく人々の興味は遮断できません。「え、なになに?」と興味を惹かれ、同時に「えーと…でも、膵臓がんの患者と乳がんの患者、そもそも病気の種類で人の生き死にを区別して良いのか…。なんなんだこの広告は?」と思ったところで「両方救える募金の方法があるんです」とガーヴァン研究所への寄付が訴えかけられる。

その瞬間、すでにあなたはこのキャンペーンの考案者のトラップにハマっているのです。すぐに募金まで行き着くかどうかはその人次第ですが、あなたは少なくとも、ガーヴァン研究所がどういう組織であるかまでは学んでいることでしょう。

情報の洪水の中、人々を振り向かせるのは「人間の芯」をついたメッセージ

インターネットの発達でただでさえ情報量が爆発してしまったこの社会で、人々の脳の仕事は「いかに有益な情報を獲得するか」から「いかに無駄な情報を遮断するか」に変わってきてしまっています。

ここ10年で人々の脳に分厚く築き上げられた「遮断の壁」を越えるには、ターゲットとなる人々の誰もが納得するメッセージを見つけ、そこを突かなければなりません。その意味で「もしも究極の状況におかれた場合、誰を生かし、誰を殺すのか?」という、誰もが何回かは考えたことがあり、できれば避けたいと感じている問いを起点にキャンペーンを作り上げた点は本当に見事だな、と感心しました。

いやぁ、アイデアって本当にイイもんですね。

それではみなさま、また来週!

 

<参考資料>

「欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング」リンク先

www.amazon.co.jp