世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、時に和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたい人たちのヒントになれば幸いです。

つい募金したくなる「人間心理」のスキを突いた見事なアイデア

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Photo by Katt Yukawa on Unsplash

人は黄金を作ることはできないが、カネを生み出すことはできる

今、夢中になっている本があります。「Alchemy:The Magic of Original Thinking in a World of Mind-Numbing Conformity(邦題:欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング)」という本なのですが、必ずしも論理的ではない人間心理を操ることで、大きなビジネスチャンスを作り上げてきた事例(=ゴールドではなく、カネを"錬金"した事例)が満載で、毎日数ページずつですがゆっくり楽しみながら原著を読んでいます。

市場調査でコーラよりも圧倒的に不味いと出た炭酸飲料を、あえて高く売りつけることで世界的に業界2番手のシェアを確立したレッドブルの事例から、戦争の費用を捻出するために、鉛のアクセサリーを「国家貢献の証」として社交界で流行らすことで貴婦人から宝石類の寄付を集めたプロシア国の事例まで、目から鱗の事実が盛り沢山なのですが、今回は将来、この本に続編が出たら事例として掲載されそうなアイデアをご紹介します。

オーストラリアの遺伝子医療(ゲノミクス)の研究所が、難病の克服に努める彼らへの募金を呼びかけるために行ったキャペーンです。それでは以下の事例紹介ビデオをご覧ください。

Disease Dilemmas(病気のジレンマ)

www.youtube.com

【雑和訳】「私はブライアンです。7年前、パーキンソン病と診察されました」「私はキャサリンです。2018年の7月に膵臓がんだと診察されました」[タイトル:あなたはどちらに募金をしますか?]

司会者「いろんな募金先がある中で、あなたならどちらの医療費に募金をしますか?」[タイトル:Disease Dilemmas(病気のジレンマ) byガーヴァン医療調査研究所] ”この問いは、ガーヴァン医療調査研究所による新しいキャンペーンの根幹を成すものです”

「いい1日って、今日も真面目に頑張るぞ、と目覚められる日じゃないかなって思います。そんなふうに朝起きれたら、その日は私は昏睡状態に陥らずに済んだ、ということですから」「一番辛かったのは、子供たちに自分ががん患者だと伝えることでした。あれは辛かった…」

「私はキャンディスです。私は1型糖尿病です」「私はアンドレアです。骨粗鬆症に苦しんでいます」「私のように、3〜4、6ほどの病気があなたや、あなたの家族を見舞うかもしれません。あなたは全てを救いたいと思うはずです」

「そこが、ガーヴァンのゲノミクスの出番なのです」「ガーヴァンは私に多くの望みを与えてくれました。彼らは常に、患者たちに遺伝子工学を駆使して選択肢を与えようとしてくれるのです」「私はずっと、ガーヴァン研究所への感謝を忘れることはないと思います。彼らのリサーチが文字通り、私の命を救ったのです」

「遺伝子に関する病気で苦しみながら親たちが亡くなっていくのは辛いことです」[(このキャンペーンは)8,700万インプレッションを獲得][ウェブサイトへのトラフィックは61%向上][キャンペーン期間中、合わせて1,900万ドルが寄付された]「でもそこで、他の選択肢があるという希望が持てるよう、積極的に活動してくれる人がいるということは本当にありがたいことです」
[タイトル:あなたはどちらに募金をしますか?]

[でも、一度に両方を救える募金先があるのです]

[(それは)ガーヴァン医療調査研究所]

無視できない「問い」の前に、人の心は惹きつけられる

いかがでしたでしょうか?通常、街を歩いているときに看板やポスターなどで「難病の人を救ってください」というメッセージを振りかけられても、人々は「ああ、またこの手の募金か」と即座に判断して、興味を遮断してしまうことでしょう。

なぜなら私たちはこれまでの経験で、そういった募金があまりに多すぎて、対処してもキリがないことを学んでしまっているからです。そこでこのキャンペーンを考えた人は「遺伝子工学で広範囲の難病の治療に貢献している」というこの研究所の特徴に着目して、押し付け型のメッセージの代わりに、「難病Aと難病B、どちらの患者を救いますか?」という難題を、屋外広告にありがちな笑顔からはかけ離れた、深刻な患者たちの表情とともに人々に投げかけました。

幾千とある「この手の募金」とはかけ離れた突然の問いかけに街ゆく人々の興味は遮断できません。「え、なになに?」と興味を惹かれ、同時に「えーと…でも、膵臓がんの患者と乳がんの患者、そもそも病気の種類で人の生き死にを区別して良いのか…。なんなんだこの広告は?」と思ったところで「両方救える募金の方法があるんです」とガーヴァン研究所への寄付が訴えかけられる。

その瞬間、すでにあなたはこのキャンペーンの考案者のトラップにハマっているのです。すぐに募金まで行き着くかどうかはその人次第ですが、あなたは少なくとも、ガーヴァン研究所がどういう組織であるかまでは学んでいることでしょう。

情報の洪水の中、人々を振り向かせるのは「人間の芯」をついたメッセージ

インターネットの発達でただでさえ情報量が爆発してしまったこの社会で、人々の脳の仕事は「いかに有益な情報を獲得するか」から「いかに無駄な情報を遮断するか」に変わってきてしまっています。

ここ10年で人々の脳に分厚く築き上げられた「遮断の壁」を越えるには、ターゲットとなる人々の誰もが納得するメッセージを見つけ、そこを突かなければなりません。その意味で「もしも究極の状況におかれた場合、誰を生かし、誰を殺すのか?」という、誰もが何回かは考えたことがあり、できれば避けたいと感じている問いを起点にキャンペーンを作り上げた点は本当に見事だな、と感心しました。

いやぁ、アイデアって本当にイイもんですね。

それではみなさま、また来週!

 

<参考資料>

「欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング」リンク先

www.amazon.co.jp