世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

地中海から難民は消えていない

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Photo by Tanjir Ahmed Chowdhury on Unsplash

自由を求め、今も漂い続ける難民たち

地中海の美しい海岸線に打ち上げられた、小さな子供の亡骸…。ショッキングな写真が世界中に広まった2010年代の中頃、世界の耳目は中東・アフリカ地域の紛争国からヨーロッパへと移動する難民に注がれていました。

しかし今はどうでしょう。彼・彼女たちに関する報道も、ネットの人たちの間の論争もなくなり、あたかもISISの退潮とともに難民たちも消え去り、地中海に平和が戻ったような錯覚を覚えます。

しかし事実は全く異なり、国境なき医師団によると、2021年5月13日の段階で「今年に入って地中海中央部を横断しイタリアに到着した人の数は約1万3000人に上ったが、少なくとも555人が死亡または行方不明となっている」そうです。

prtimes.jp

しかも 難民のヨーロッパへの流入を減らすために、今ではなんとEUが、同地域の主要な紛争国の一つであるリビア沿岸警備隊を支援。彼らの手で捕らえられた難民たちは人権が抑圧された収容所で、厳しい暮らしを予備なくされているそうです。

地中海で難民を救う民間団体SeaーWatch.org

人権についてのEUのダブルスタンダートの是非はさておき、こんな状況の中頑張っているのが民間の団体「Sea-watch.org」。彼らは人々の募金により、地中海に船や飛行機を派遣。難民たちの救助・支援活動を続けています。

そこで今回は、人々の関心の低下が募金額の低下に直結する中、なんとかこの問題への関心を取り戻してもらおうと、彼らが実施した取り組みをご紹介したいと思います。

世界のクリエイティビティの祭典、カンヌライオンズのアウトドア部門で金賞を受賞したアイデアです。それでは例によって、雑な和訳とともに紹介ビデオをご覧ください。

LIFEBOAT-The Experiment (実験:救命ボート)

www.youtube.com

【雑和訳】[難民はいらない]ポーランドの司会者:”ダメダメダメ。私たちへ絶対受け付けません” その他司会者”地中海の難民””事態はコントロール不能になっています”「あらゆるヨーロッパの人々が難民について語ってきました。ただし、間違った理由で」

”絶対に来ないでほしい””イタリアがアフリカを受け入れることはない”「政治やメディアは、それぞれの野望を果たすためにこの状況を利用しました。しかしそうすることで、もっとも大切なことを忘れてしまったのです」

国連難民高等弁務官"これは難民の数の問題ではないのです。人命の問題なのです。"「この問題に関する人々の議論に人間性を取り戻すべく、Sea Watchは人々の視点を大胆に変える取り組みを行ないました」「LIFEBOAT-The Experiment (実験:救命ボート)」

「実際に地中海を渡った難民たちの証言をもとに、難民たちが脱出の途上、地中海で体験したあらゆる状況を再現するシミュレーターを設営」難民”屋根もなく…””食べ物もなく…””めちゃくちゃに揺れて…”

「我々はヨーロッパ社会を構成する人々の代表として、40名のあらゆる年齢やジェンダー、職業の参加者を招聘。彼らに、難民が地中海で体験したことの一端を体験してもらいました」「5時間に亘り、彼らは恐怖や飢え、ストレスと不安を体験。その後、この難民危機の実際の一面を視聴してもらいました」

参加者A”(シミュレーターなので)安全なのは分かっていたけど、中には泣き出す人もいました。パニックになる人もいましたね”参加者B”とても怖かったです。いつでもボートから飛び降りることはできたのですが…”

「統合的なPRキャンペーンが、この取り組みの周知を後押し。さらに同名のドキュメンタリー・ショートフィルムがアカデミー賞のノミネート監督であるスカイ・フィッツジェラルド監督によって制作された」スカイ・フィッツジェラルド監督"もしこの経験が、たった一人の難民問題に対する物の見方を変えただけだとしても、それは十分、意義深い成功だと考えています”

「結果、この試みに関する1,000以上の記事が作られ、5億近い人々にリーチした。そしてそれは、難民問題に関する論争に欠けていたものを取り戻したのです」”人間性””人間性””人間性””人間性” メルケル首相"海上救助は人間性に基づくものです。以上" [Sea-Watch.org]

いかがでしたでしょうか?しかしこの2分間のムービーだけでは、この実験の実際がわからないかもしれません。興味を持たれた方は、以下のムービーをご覧いただくとこの実験の過酷さをよりリアルに感じられることと思います。

実験の様子をより詳しくまとめたムービーはこちら

www.youtube.com

今、多くの企業が気候変動に夢中になって我も我もとネットゼロを叫んでいます。とても大事なことではありますが、一方で忘れられがちなのはSDGsの思想の根幹をなす「誰も取り残さない」という部分です。

いくら気温上昇をうまく抑えたとしても、どこかの誰かの苦しみを放置して平然としていられる、人間性の欠けた世界のままではとてもではないが世界が良くなったとはいえない。そんな戒めを与えてくれる取り組みだと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!