世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

パキスタンの「見えない子供たち」を救った通信会社の素敵な取り組み

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Photo by Syed Bilal Javaid on Unsplash

出生登録されていない6,000万人の子供たち

今、世界には11億人もの「見えない人たち」がいると言われています。これらは正式な出生登録がなされていない人たちで、その3分の1に当たる3億6,600万人が子どもたちだそうです。出生登録されていない、ということは、彼らが医療や教育、司法といった公共サービスの網から漏れ、人身売買をはじめとする搾取の格好のターゲットになってしまうことを意味します。

そしてパキスタンには6,000万人もの「見えない子供たち」がいるそうです。3億6,600万人のうちの6,000万人、というのは結構な数で、解決はほぼ不可能に感じますし、これを解決すれば、そのアイデアは世界中の見えない人たちを救いうるソリューションとなります。

今回はデジタル技術を駆使して、その解決に取り組んだパキスタンの通信会社Telenor Pakistanの取り組みをご紹介します。以下の事例紹介ムービーをご覧ください。

(ちなみにこちら、世界のクリエーティビティの祭典、カンヌライオンズのメディア部門とモバイル部門で今年、パキスタン初となるグランプリをダブル受賞した取り組みとなります。)

デジタル出生登録で「見えない子供たち」を救う

www.youtube.com

【雑和訳】「出生証明書とは、誰もが持っているはずのものですよね?ーいいえ,違います。パキスタンにいる6,000万人以上の未登録の子供たちにとっては。そしてそれを持たないことは、彼らが一生、医療や社会保障、公共教育の提供から外れ、児童婚や児童労働に対して無防備になってしまうことを意味します。

(証明書発行の基礎となる)出生登録率の低さは、社会的、経済的要因により引き起こされます。特に、都市部から遠く離れた山村の自宅で生まれた子供たちや、避難民の子供たちにとって登録はほぼ不可能な状況です。

そこで、出生登録へのアクセスを改善するために、私たちはパキスタン第2のモバイルネットワークを持つ通信会社Telenorとコラボレーション。デジタルによる出生登録を促進するイニシアティブを開始しました。

権限を与えられた各コミュニティのリーダーやヘルスワーカー、医療スタッフたちが出生の情報を登録し、報告するシンプルなアンドロイド対応のアプリを開発。アプリでは加えて、両親のIDや住所、電話番号など、子供たちにとっていくつかの基礎となる情報の登録も行いました。

送られた出生登録のデータは権限を与えられた政府のスタッフにより確認、承認されます。そしてそれは、子供たちにとって出生証明書を受け取るための法的な道筋となるのです。」

[*西側主要メディアによる称賛の記事がいくつか入る]

「この取り組みにより、パキスタン国内の426の遠隔地の山村に住む、120万人の子供たちが社会から”見える状況”になりました。そして彼らは人権の基礎となる、最も根本的なものを手に入れたのですー未来への希望を」

官民連携の可能性を示すショーケース

いかがでしたでしょうか?確かにこの取り組みには、世界中が見聞きした瞬間に驚いてワッ!と湧き上がるような鮮やかなアイデアはありません。

ただ、これを実現する上でのTeleorの地道な努力(このソリューションを実現するまでに同社は2014年の試験運用以来、何年も試行錯誤を重ねていたそうです)と、各地のコミュニティリーダーから地方-中央政府までを見事に繋いで、絵空事ではなく実際の成果に結びつけたところに、その場限りのプロモーションではなし得ない凄みがあると感じました。

ムービーにはありませんでしたが、パキスタン政府はこの成果を受けてこの登録システムの対象エリアをさらに36地域、拡大する計画を立てているそうです(さらにはミヤンマーでも同様の取り組みが行われるそうです)。

そして何より素晴らしいのは「Telenorがパキスタンにポジティブな影響を与える会社である」と答えるパキスタンの人が、この取り組みにより12%も上昇したこと。…汗をかいたものが報われる。やはり世の中は、こうでなければいけません。

またデジタル技術がものすごいスピードで進化する中、官がそれを先取りして住民たちにソリューションを提供する、というのはなかなか難しいと思います。それを考えると、進取の精神に富む民間企業のアセットを柔軟に取り込んで地域の暮らしの質を爆上げさせたこの取り組みは、日本の官民連携のありようを考える上でも大いに参考になる事例だと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。

それではみなさん、また来週!