世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

パーキンソン病患者たち共通の「悩み」を楽しみに変えたセラピー【カンヌ2023受賞作より】

UnsplashのVladimir Munが撮影した写真

🏷️ やりたくないことを、いかにやりたくするか

やりたくないことを、いかにやりたくするか。これは私の人生後半戦の一大テーマです。

時間が無限にあるように思えた若い頃は、やりたくないことをやる余裕もありましたが、人生も半分過ぎるともう、そんな余裕はありません。

残された時間を、いかに自分がやりたいことで埋め尽くすか。人生をより意義深くするためにはふたつの努力 - やりたいことを周りから頼まれる確率を増やす努力と、やりたくないことの中にやりたい理由を見つけて、やりたいことにすり替える努力 - が必要なように思えます。

今回は、これらふたつの努力の中から後者に近い形のもの、つまり、パーキンソン病の患者がやりたくないこと(=症状緩和のためのエクササイズ)を、インスタやフェイスブックといったSNSプラットフォームを活用することで見事「やりたいこと」にすり替えたアルゼンチン発のアイデアをご紹介します。

ちなみにこちらは今年の「世界的クリエイティビティの祭典」カンヌライオンズのファーマ部門でグランプリを獲得するなど、非常に高い評価を受けたアイデアとなります。それでは以下の紹介ムービーをご覧ください。

🪧「Scrolling Therapy / スクロール式セラピー:

youtu.be【雑和訳】女性「3年前は、私が笑っているときはみな気づいてくれました。今では私がハッピーなのか、悲しんでいるのか、誰も分かってくれません」/

文字要素:パーキンソン病において最も残酷な症状のひとつが、患者たちから感情表現を奪ってしまうことです / それは、仮面化と呼ばれています / この症状の改善をするためには、1日45分のエクササイズが必要です / しかし、それを行う患者は3%しかいません /

パーキンソン病患者のカルロス・テナイロンさん(46歳)「毎日続けることが本当に難しいんです。なんかいつも、子供みたいなことをさせられている気持ちになってしまって…。悲しくなってしまいます」/

ロゴマーク:ユーロファーマ - ラテンアメリカを代表する製薬会社 - がお届けする / タイトル:スクロール式セラピー / 文字要素: ソーシャルメディアに使う時間を、パーキンソン病の症状を緩和させるエクササイズに /

ユーロファーマ研究所 グループ・メディカル・マネジャー チアゴ・モナコ博士「パーキンソン病は神経変性の障害です。なので、より早い時期にエクササイズを始めれば、その分より筋力を維持しやすくなると言えるでしょう」/

ナレーション : オープンソースのAIプラットフォームを使い、スマホ内臓のカメラで使用者の表情を認識。それぞれの表情を、(SNSを)ブラウズする時のコマンドに変換するアプリを開発しました / 私たちは、エクササイズの中でも最も重要な表情をアプリで識別。笑顔を”like”のコマンドに、驚いた表情を”スクロール・ダウン”のコマンドに、おどけた表情を”スクロール・アップ”のコマンドに、悲しい表情を”動画再生”のコマンドに変換したのです /

神経学者 M.ユージニア・ゴンザレス・トレド博士「エクササイズはとても重要です。筋力を強化するだけでなく、バイオ・フィードバックを行いながら、筋肉と脳との接続をも強化するのです。あなたが感情を表情で表すと、脳の活動を改善しながら、その感情をより強く感じることができるのです」 /

ナレーション:このスクロール式セラピーのアプリにより、パーキンソン病の患者たちはSNSプラットフォームを、自分の表情で操作できるようになりました。しかも、エクササイズが適切に行われているかをビジュアルでチェックできる機能付きで /

文字要素:”10カ国で” "45,128人の医者と一緒に" "10億以上のインプレッションを創出" / 12週間使い続けることで、症状の改善を達成 / 世界中850万人の患者が無料で使用可能 /

15年前にパーキンソン病に罹患したマルシア・ディアスさん(61歳)「私たちを人間たらしめているのは、感情を見せる能力です。それは、最も素晴らしいギフトだと思います」 / ロゴ: ユーロファーマ

🏷️ 欲望も惰性も老若男女、ヒトの基本はそんなに変わらない

いかがでしたでしょうか?

自分とは違う立場にいる人たちのためのソリューションを考えるとき、私たちはどうしても「こういう人たちは〇〇だから××なはず」と、それらの人たちに自分とは違う枠をはめて考えがちです。

このアイデアの素晴らしい点は、そういう”思い込みの特別枠”を外して「SNSって意味なくても毎日ついつい見てしまうんだよなぁ…(できればもうちょっと有意義に過ごしたかったなぁ…)」という普通の人々が持つインサイトを、パーキンソン病に悩む人々にフラットに応用して課題解決した点にあります。

思えば老若男女、車椅子の人だって、アスリートだって、弁護士だって、遊び人だって、固いものにぶつかれば痛いし、恋に落ちればドキドキします。他人のSNS上のタイムラインを見て優越感に浸ったり、劣等感に悩んだりと、気づいたら無駄な時間を過ごしていて、自分の情けなさに笑ってしまうようなことは、難病に悩む人にだって、いわゆる普通の人々にだってきっとあるはずです。

自分と立場の違う人たちのためにソリューションを考える時、彼・彼女たちをきちんと理解するために情報を集めることは必須ですが、そこでの学びに囚われすぎても発想がぎこちないものになりがちです。

どんなヒトでも、結局は同じ人間。行き詰まったら自分の日常の延長線上に彼・彼女たちをフラットに置いて発想することで、今回紹介したアイデアのように、より人間らしく、ユニークなアイデアも出てくるのかな、と思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!