世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

自殺者についての私たちの”思い込み”を鋭く突いた英国発キャンペーン【カンヌ2023受賞作より】

UnsplashのLukas Rychvalskyが撮影した写真

🏷️ 今年のカンヌライオンズを揺るがしたビッグ・インサイト

皆さんは、日々の暮らしの中で自分がどれぐらいの思い込みに囚われているかを数えてみたことはあるでしょうか?

答えは「ほぼ無限」です。蛇口のハンドルのてっぺんが青なら冷たい水、赤ならお湯が出る、というような単純なものはより快適に生きていくために必要な思い込みですが、中には「〇〇な人は××なはずだ」というように、生まれつきの身体的・精神的特徴につけ込んで人の優劣を決めつけるなど、私たちの社会の進化を妨げる思い込みもたくさんあります。

そのような思い込みの厄介な点は、そのような思い込みが社会的に当たり前すぎてほとんどの人がそのおかしさに気づけない、というところです。

今回は、そんな「思い込み」の中でも特にこれまでタブーとしてあまり顧みられてこなかった、自殺者についての思い込みを鋭くついた取り組みをご紹介します。

ちなみにこちらは今年の「クリエイティビティの祭典」カンヌライオンズのフィルム部門でグランプリを獲得、他にもブランド・エクスペリエンス&アクティベーション部門、ヘルス&ウェルネス部門、アウトドア部門で金賞を獲得するなど、非常に高い評価を受けたアイデアとなります。それでは以下の紹介ムービーをご覧ください。

🪧「The Last Photo / 最後の写真

youtu.be【雑和訳】文字要素: 人々は、自殺しそうな人たちがどういう人たちかを理解していると思っています / (Googleの検索窓に、”自殺願望”という言葉が入力されると、その言葉に関連した画像が検索結果として表示される)/ でも実際は、/ 自殺を考える人が、必ずしも自殺しそうに見えるわけではありません /

女性の声「その笑顔は、カメラに向けたものではなくて、"本当に幸せ”、という感じのものでした」/ 男性の声「人生や将来への期待に溢れている、それがアレックスという奴でした」/ 別の男性の声「この写真が撮られた時、彼の人生はまさに順風満帆といった感じで、彼が自死を選んでしまった時、その予兆がどこにあったのか振り返ってみても、私も家族も、友達たちも見つけることができませんでした」/

文字要素:6月20日。1年で持つとも幸福だと言われるこの日*に (*出典:ハフポスト) / CALMとitvは自殺者たちに対する人々の思い込みを変えるべく、立ち上がりました / タイトル:最後の写真 /

スタジオの朝のワイドショー司会者 「本日、命を救うことを願い、新しいチャリティキャンペーンが始まりました」/ ロンドン、サウスバンクの現場レポーター「私は今、サウスバンクの現場にいます。現場は50枚の間違いなく素晴らしく、美しい写真に囲まれています。そして、写真の中のひとりひとりの笑顔はとても幸せそうに見えます」/ 文字要素:しかし、それらの写真の真実は、それらがもたらすイメージとは異なるものでした / 現場レポーター「悲しいことに、ここに展示されている人々は皆、自ら命を絶ったのです」/ 「そしてこれらは、彼ら自身が撮った、最後の写真なのです」/ (展示の入り口にある” 自殺を考える人が、必ずしも自殺しそうに見えるわけではありません。”という文言をカメラが捉える) /

写真を見た人々の声「素晴らしい」「力強い」「誰も自殺しそうになんか見えないのに…」「誰もわからないのね」「正直、ちょっと圧倒されてしまいました…」/

文字要素:そして同じ日に、90秒のムービーも公開されました / それは、彼らの最後のムービーをまとめたものでした / 音楽:私に楽しさをください、私に太陽をください、私に… /

文字要素:(そしてこれらは)英国に自殺に関する過去最大の論争を巻き起こしました / BBCレポーター「この取り組みは、自殺をする人に対する私たちの思い込みをひっくり返しました」/ コメンテーター「自殺という言葉がいまだにタブーで、恥や汚名で隠されてしまっているのです」/ その他の声「彼らにも友人やご両親、パートナーや子供たちがいるのです」/ 「どこにも予兆なんてありませんでした。まったくです」/ 「自殺は、私たちが思い込んでいるイメージとは全く違うものなのです」/

文字要素:7日間で50万人以上が現場を訪問 / 女性の声「私の兄は感情を押し殺すことが多かったので、その笑顔の裏にどんな気持ちを抱えていたのか、何度考えてみてもわからないのです」/ 文字要素:オンラインでの自殺についての会話量は、33%の増加を見せました / 16億インプレッションを記録。メディア予算はゼロ / ラジオDJの声「自殺願望は突然訪れます。私たちは、人々が自殺についてもっと話し合うことが直接的な防止策だと考えています」/ 文字要素:募金額は前年比400%上昇 / 遺族のひとり「展示されていた兄の写真を見て、全てが蘇ってくるような気がしました。皆さんには、話を聞くように試みて欲しいと本当に思います。一人の命を救うということは、本当に奇跡的なことなのですから」 / タイトル:最後の写真 / *CALMとitvのロゴ入る

🏷️ 面倒だけれど、やはり日々の「思い込み」を疑おう

いかがでしたでしょうか?

この紹介ムービー見た瞬間、自分もハッとしました。若いころは人生について色々と思い悩んでいたほうなのですが、年を取るに従い、知らぬ間に自殺を他人事だと思い込み、自分の身の周りでは起こり得ないものだと思い込んでいましたし、また心の中で、そうすることで自分が見たくないものに蓋をしていたのかもしれないな…と反省させられました。

また自分だけではなく、周りの人々もお互いにそうして「思い込み合う」ことで、ちょっと声をかけるだけで実は簡単に助けられたはずの命を救い落としてきたのかもしれない、と思うと、ビデオの中の遺族たちの声がより一層、重く感じられます。

そして紹介ムービーの中にあった通り、こちらのキャンペーンには自死を選んだ人たちが撮影した最後の動画をまとめた90秒のムービー版があります。上のキャンペーン全体を紹介するムービーを理解してから見るとまた、印象も変わって来ると思います。ぜひ、以下からご覧ください。

🪧「The Last Photo: Film ver. / 最後の写真: 動画編

youtu.be

【雑和訳】文字要素:これは、自ら死を選んだ人たちが生前、最後に撮影した動画です / 自殺を考える人が、必ずしも自殺しそうに見えるわけではありません / どうすればあなたが命を救えるか、考えてみてください / *CALMのロゴ入る 

・・・悲しくて、また口惜しくて言葉もありませんね。

しかし悲劇を繰り返さないためにも、こういったキャンペーンから学んだことを活かして、いざという時には話しかけ、一人でも多くの命を救うことが残されたものの責務なのだと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!