世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

よりインクルーシブなスポーツ環境を実現すべく、ライバルたちを巻き込んだアディダス【カンヌ2023受賞作より】

UnsplashのCapstone Eventsが撮影した写真

🏷️ ニューロダイバーシティ(神経多様性)をスポーツにも

皆さん、ニューロダイバーシティという言葉をご存知でしょうか?詳しくは以下のリンクからご覧いただければと思うのですが…

ideasforgood.jp

この記事によるとニューロダイバーシティとはASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)などに起因する発達障害を神経や脳の違いによる「個性」だと捉える概念のことだそうで、日本語では、「脳の多様性」あるいは「神経多様性」などと訳されています。

この言葉自体がまだあまり普及していないことからも分かる通り、ニューロダイバーシティを持つ人の社会進出は(少なくとも日本では)まだあまり進んでいないように感じます。

そこで今回は、そんな彼・彼女たちの社会進出を促すべく、まずはスポーツの分野でアディダスが取り組んだ素晴らしいキャンペーンをご紹介しようと思います。

ちなみにこちらは今年のカンヌライオンズ、ダイレクト部門でグランプリを獲得、他にもPR部門で金賞を獲得するなど、非常に高い評価を受けたアイデアとなります。それでは以下の紹介ムービーをご覧ください。

🪧「Runner 321 / ランナー321番

youtu.be

【雑和訳】(アディダスのロゴから始まる)/ 文字要素: リオネル・メッシ >>> 10番 / ベーブ・ルース >>> 3番 / マイケル・ジョーダン >>> 23番 / 多くのスポーツには、子どもたちをインスパイアする番号があリます / しかし、それらの番号を、あなたとは全く違う人たちがつけていたとしたら、どう思うでしょうか? /

アディダス・アスリートのクリス・ニキック氏「私が小さかった頃、人気のスポーツ競技で私に似た人を見ることはほとんどありませんでした」/ 文字要素:どうしたら、彼らは自身の可能性を感じることができるのでしょうか? /

アディダスがお届けする、Runner 321 / ナレーション:321は、ダウン症を引き起こす染色体を象徴した数字です / 文字要素:トリソミー21* -ダウン症であることを示す染色体 (*トリソミー21とは21番目の染色体が(通常2本のところ)3本ある状態を示す、つまりはダウン症であることを示す用語です) / 321は象徴的であるだけでなく、インクルーシブな番号でもあります / テレビの解説者たちの声「アディダスはダウン症の人々のコミュニティを代表して、この番号を生み出したのです」/「今や、他のあらゆるスポーツと同じく、ランニングは象徴的な番号を手に入れました」/

文字要素:(この取り組みは)アディダス初の、ダウン症を抱えるアスリートによって立ち上げられました / 世界で最もアクセシブルなスポーツ、ランニングを通じて /

ナレーション:アディダスは、全ての主要なマラソン大会の主催者たちに向けて、321番のゼッケンをつけたビブスを、ダウン症の人々のために確保するようお願いしました / それらを着ることが、自ら(マラソン大会のような)メインストリームなスポーツでダウン症の人々を代表することになるのだ、ということがわかるように /

文字要素:我々のソーシャル・キャンペーンは、すべてのメジャーなマラソン大会に、ランナー321番を取り入れるように投げかけました / アディダスの公式アカウント ”ランナー321番が今や、あらゆるマラソン大会で現れています。@ボストンマラソン*さん、あなたも参加しますか?”(*投げかけ先のマラソン大会の名前がロンドン、ベルリン、東京、ニューヨーク、アテネへと変わっていく) /

一週間もたたず、反応が届き始めました /  ニュースキャスター「クリス・ニキックさんは10月のボストンマラソンでゴールすると、人々に大きな印象を残しました」/ ボストン・ヘラルド紙 ”ボストンマラソン、321番のビブスをニューロダイバーシティ(神経多様性)を持つアスリートに毎年供与することに” / ニュースの司会者「インスピレーションを与えてくれますね!」/

文字要素:オンライン上には、すべての大会でインクルージョンを求める声が続出 / (さまざまなマラソン大会に向けて、同様の取り組みを行うよう促すコメントが次々と映し出される) /

文字要素:しかし、問題がありました / ほとんどのマラソン大会は、私たちのライバル会社によってスポンサーされていたのです /

…そこで、奇跡が起きました / ナイキのシカゴマラソン レースディレクター、メアリー・ベス・ジョンソン氏「私たちは、私たちのすべてのレースで321番のビブスを用意することについて本当にワクワクしています」/

文字要素:世界の6大メジャーマラソン大会すべてに、ランナー321番が採用されることに /

ウェブサイトでは、マラソン大会の運営者用に、ランナー321番を実施するためのツールキットを提供しました / そして、ダウン症を持つ次世代のランナーたちをリクルーティング / "私もランナー321番になりたいです! 申し込み" / これまでに278人が応募、今も増加中 /  (さまざまなメディアの絶賛のコメントが次々と映し出される) /

ランニングに、最初の象徴的番号を創出 / さらにそれは、ダウン症のアスリートたちをインスパイアする、最初の象徴的番号となりました / アディダスのマーケティング&コミュニケーションVP、ジェイ・ホールダー「321番は、あらゆる世代にインスピレーションを与えるものになるでしょう」/

文字要素:今日までに、252のマラソン大会がランナー321番を採用している / (アディダスのロゴ+impossible is nothing.)

🏷️ 巻き込まれて気持ちよければ、ライバルも巻き込まれる

いかがでしたでしょうか?

この紹介ムービーからも分かるとおり、この取り組みの素晴らしさにさらに拍車をかけているのはナイキやニューバランスなど、ライバル各社がこの取り組みに喜んで参加している、という部分です。

SDGsの17個目のゴール(パートナーシップで目標を達成しよう)にもある通り、これからはより良い社会を作るためには、敵味方や利害などの既存の枠組みを超えた協力や協働、コラボレーションが欠かせません。

紹介ムービーのラストのアニメーションでも表現されている通り、321という番号が実はアディダスのロゴの「3本線」をさりげなく象徴しているところなど、組む側からすると若干エグい部分はあるのですが、それでも低コストで行えてイメージアップに効果があるなど、ライバルが組みやすく、組んで気持ちの良い仕組みを編み出したアディダスにまずは敬意を評したいですし、同様に彼らとのコラボを受け入れたライバルメーカーたちにも「あっぱれ」を差し上げたいと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!