世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

【名作探訪 その1】ブランドがトランプに楯突いた!マーケティングの一線を越えたナイキの名キャンペーン

UnsplashのJosh Reddが撮影した写真

ブログお休み中(2016~19)の間の名作をひとつ

2014年に個人的な趣味で始めたこのブログですが、海外駐在中の2016年から4年間はほぼ開店休業状態を続けておりました。この休業期間中ももちろん、世界からはいくつもの傑作キャンペーンが世に出たのですが、このブログではそのほとんどをスルーしているのが現状です。

そして前回の記事では、2018年に行われたこのキャンペーンのことを思い出し、引用しました。と同時に、このキャンペーンはぜひ一度、このブログでも紹介しておきたいと思い、今回取り上げさせていただきます。

トランプ大統領時代のアメリカで行われたこのナイキによる「Dream Crazy」キャンペーン、パンデミック発生前最後のカンヌライオンズ2019でグランプリを2つ、ゴールドを5つ受賞するなど、大きな評価を得た取り組みになります。それでは早速、その解説ムービーをご覧ください。

「Dream Crazy / 解説ムービー」

youtu.be

【雑和訳】ニュースレポーター「ナイキの靴を燃やす動画をアップする人も現れました」/ キャスター「ナイキは、政治的な議論に真正面から飛び込みました」/ T Vショーのホスト「頭に来たからナイキの靴を燃やした、だって?」/ トランプのツイート:ナイキは何をやってるんだ?/
文字要素:Just Do itを掲げて30年。ナイキはクレイジーな夢を持つアスリートたちを讃えたいと考えました / そして、クレイジーな夢を持つアスリートといったら、コリン・キャパニック以上の人物はほとんどいません /
ニュースレポーター:「コリン・キャパニックは国歌斉唱中、起立することを拒み、膝をついて警察の(黒人に対する)残虐な仕打ちに抗議しました」/ ナイキのSNSへのポスト:“想いを貫け。すべてを犠牲にしたとしても” /
レポーター「ナイキは最新のマーケティングの顔として、コリン・キャパニックを起用しました!」 / 男性の声「想いを貫け。すべてを犠牲にしたとしても」/ ウーピー・ゴールドバーグ「ナイキは、“リスク”を犯したのでしょうか?」/ ウーピーの相手「いや、立ち上がったのよ」/
ニュースキャスター「シーズン開幕戦の今晩、ナイキは、コリン・キャパニックを使ったCMを流しています」/ CMのナレーション:みんなが君の夢をクレイジーだといったとしても、気にするな。そのまま行け / 文字要素:私たちは、そのメッセージをさまざまな街で露出しました /
ニュースの声の数々「昨晩、アメリカ中の家庭の夕食での話題はこれでした」「もうナイキの製品は買いません」「ナイキの株価は3.6%下落しました」/ イベント司会者「(ナイキによる)この敵対的なアクションの勝者はどちらになると思いますか?」/ ドナルド・トランプ「我々だ」/
文字要素:その後、素晴らしいことが起きた/ ジム・キャリー「今日はナイキを買って履いてきたんだ!」/ セレブ「ナイキを讃えたいわ。立ち上がって!私たちはあなたたちと共にあるわ!」/
文字要素:SNSでのポスト数・メディアによるカバー数は記録破りのものに / コメンテーター「この取り組みはもはやアメリカという国を超えて、世界を共鳴させていると思います」/ (世界中のニュースメディアの音声が重なる)/ ニュースレポーター「ナイキの株価は先週金曜日、史上最高値を叩き出しました」/
街の人「これからはもっとナイキを買うよ!」/ スパイク・リー「ナイキは歴史の正しい場所に立っています」/ (ニュースメディアの称賛の見出しが入る)/
文字要素:1億6,300万ドル相当のメディア露出・60億ドル相当のブランド価値向上・31%の売り上げ向上を記録 / キャパニック「大事なのは夢がクレイジーかどうかじゃない。夢がどれだけクレイジーか、なんだ」

炎上を鎮火させた「真摯さ」と抜け目ないビジネス的「計算」

このキャンペーン、国が極端な保守とリベラルに分かれる中、黒人にとってもリベラルな社会を守るために国歌斉唱に反抗し、選手としてのキャリアを犠牲にしたキャパニック選手をあえてブランドの顔にすることで売り上げの上昇を果たしたという、マーケティングが政治的論争に真正面から飛び込んだ、かなりリスキーな取り組みでした。

ナイキのような世界的ビッグブランドがこのようにアメリカの半分を敵に回す、という選択をとった勇敢さは素晴らしいですが、それができたのもナイキが創業以来保ち、アピールし続けてきた(Just do itに代表される)リベラルな精神と、マイケル・ジョーダン以来、時代を超えてアスリートを(時折ゴタゴタはあるものの)サポートしてきた、という事実がもたらす真摯さ(authenticity)に加えて、allbirdsなどの新興ブランドがZ世代の注目を集める中、自らの古びていくブランドイメージを刷新するため、年齢が高めの保守層を切り捨てた方がビジネス上得策である、という計算がベストタイミングで組み合わさった結果だといえるでしょう。

よって、他のブランドが安易に真似すると単なる炎上商法として揶揄され、大火傷をしかねない手法です。

なのでこのキャンペーンを形だけ真似することは絶対にオススメしませんが、この取り組みから学べることといえば、将来を見据えて、ネットの人々に有無を言わせない自らの創業精神に根差した「実績」と「本気」を日々積み上げておくことが、いざという時のブランド資産になりうる、ということだと思います。

では最後に、Dream CrazyのCM本編を紹介して、今回のブログを閉じたいと思います。

「Dream Crazy / 本編」

youtu.be

【雑和訳】

コリン・キャパニック:みんなが君の夢をクレイジーだといったとしても、自分はできると思っているのに嘲笑ったとしても、気にするな。そのまま行け。なぜなら奴らが気づいてないのは、クレイジーだといわれることは侮辱ではなく、褒め言葉だということなのだから /

俊足を目指すなら、学校一でも世界一でもなく、史上最速を目指そう / オデル・ベッカムのジャージを着るのではなく、彼に自分のジャージを着させるんだ / 街一番のクイーンでも、ラインバッカーでもなく、両方になってやろう / 20パウンド減量して、アイアンマンになるんだ。脳腫瘍を克服した後にね /

何者かになるために、誰かのようにならないといけない、なんてことはないんだ / 難民の生まれだとしても、サッカーの国家代表選手になることを諦めてはいけない。16歳で / 地球一のバスケットボールプレイヤーになるのではなく、バスケットボールよりも偉大になってやろう /

“想いを貫け。すべてを犠牲にしたとしても” /

誰かがスポーツ史上最も偉大なチームについて語るときに、それが自分のチームだったらどうかな? / 片腕しかなかったとしても、フットボールを見るだけで満足するな。最高峰のリーグでプレーするんだ / 見ろ、コンプトンの生まれで、テニスのベストプレイヤーになるだけじゃなく、最も偉大なアスリートになった少女だっているんだ /

大事なのは夢がクレイジーかどうかじゃない。夢がどれだけクレイジーか、なんだ /

文字要素:あなたがやらなきゃ、それはただのクレイジーだ。Just do it.

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!