世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

【名作探訪 その2】交通事故の衝撃を人体で”視覚化”したキャンペーン

UnsplashのMae Dulayが撮影した写真

本ブログお休み中(2016~19)の名作をもうひとつ

前回の記事では、後のBlack Lives Matterムーヴメントの爆発につながる、2018年に行われたナイキのキャンペーンをご紹介しました。今回は、2016年にオーストラリアの交通事故委員会(TAC / the Transport Accident Commission)が行った交通事故防止のための啓蒙キャンペーンを取り上げさせていただきます。

海外の交通系キャンペーンは事故のどぎつい状況をリアルに(ときにはグロテスクなぐらいに)表現する広告で視聴者に衝撃を与えるものが多かったのですが、これはその流れを変え、「自分の頭で考えさせる」つまり、エンゲージさせることの効果を世に示した名キャンペーンです。

この「Meet Graham」キャンペーン、カンヌライオンズ2017でグランプリを2つ、ゴールドを8つ受賞するなど、大きな評価を得た取り組みになります。それでは、解説ムービーをご覧ください。

「Meet Graham / グラハム氏に会おう」

youtu.be

【雑和訳】スミソニアンの見出し”一度見たら、目が離せなくなる” / BBCの見出し"道路の安全に関する忘れられない顔" / CNNの見出し”グラハムは我々よりもずっと長生きするだろう” /

タイトル:グラハムに会おう - 道で生き残るためにデザインされた唯一の人間 / ナレーション:25年以上に渡り、オーストラリア最大の公共保険機構である交通事故委員会(TAC)はショッキングな広告表現を行ってきました。しかしオーストラリアの人々の関心は薄れ、事故の犠牲者数は上昇を見せていました。私たちは、コミュニケーションの新しい方法を求められていたのです/

ニュースキャスター「オーストラリアの交通事故委員会は、前代未聞の交通事故防止キャンペーンにより、大きな国際的議論を巻き起こしています」/ ナレーション:インタラクティブでもあり、教育的でもあるこの彫像は、比較的衝撃が低い交通事故をサバイブするためには、人体がどのように変化しないといけないかを示しています。

数ヶ月に渡り、外傷外科医と交通安全の技術者が世界的に認められたアーティストとコラボレーション。過去何十年にもわたる交通安全に関するデータや医学調査、そしてクリエイティビティを用い、確固たる事実に基づく人類の進化系を世に問いました。それぞれのパートの肉体的な変化は新しい情報に基づいていて、それは一般的な交通事故の当事者となったときに、自分の体にかかる衝撃を示しています。

私たちはまず、グラハムをアートやサイエンス、政府のインフルエンサーたちに公開しました。そして全国各地、車による交通事故が多いエリアを巡る展覧会を実施したのです。来場者はGoogleによるARツールTangoを使って彼の皮膚の下に潜入、(サバイブするために)なぜその進化が必要なのかを学びました。

議論や討論、そしてmeme(ミーム)さえも通じて、彼は24時間も経たぬうちに、道路の安全性に対する国際的な議論をスパークさせたのです/ (さまざまな議論の声が入る)/

ナレーション:彼を好もうが、嫌おうが彼を無視することはできません。この交通安全に対するメッセージは国際現象になりました。しかしグラハムがもたらしたこれらのグローバルな衝撃よりも特筆すべきことは、彼が今や、学校のカリキュラムに組み入れられることで、そのメッセージを未来のドライバーたちにも伝えることができるということです /

文字要素:ツイッター、fb、redditでナンバーワン・トピックに / メッセージの想起率は89% / この日まで、28万7,282人がグラハムに対面しています /

ナレーション:2017年5月、グラハムは交通安全に関する国際的な顔としてWHOの国際会議に参加。私たちに、路上での私たちのもろさを啓蒙する予定です。/ タイトル:グラハムに会おう - 道で生き残るためにデザインされた唯一の人間 / TAC-交通事故委員会

極上の視覚化で事故の衝撃を”俳句”化

いかがでしたでしょうか?事故の衝撃をひたすら悲惨に描くのではなく、「人体の進化」に置き換えて視覚化させたこのキャンペーン、その発想の切り替えと、あとはグラハムさんの不快さと愛嬌が入り混じったような”なんとも言えない造形”の完成度の高さが、世界中の人々の耳目を集めたベスト・プラクティスでした。

過激な情報が入り乱れている現在、ショッキングな映像だけでは1日も経たずに忘れ去られてしまいます。大事なのは「受け手の頭に考えさせる」つまり、エンゲージさせること。そのことで、その思考は受け手の人生の一部になり、場合によっては一生を通じた態度変容・行動変化のきっかけとなりうるのです。

そして受け手の頭に考えてもらうためには、情報をひたすら与えるのではなく、あえて「排する」ことで、その余白を自発的に埋めてもらうことも効果的な方法のひとつです。

(私はこれをメッセージの「俳句化」と密かに名づけています。)

「交通事故を無傷で生き延びるためには、体がこんなふうにならないといけない、(ということはもしも自分が事故に遭ったら…)」と、みなまで言わずに考えさせる。そして、ともに同じイマジネーションを働かせた”共犯者”として賛同者を増やしていく。そんな手法を見事に着地させたキャンペーンとして、このアイデアはそれに相応しい評価を受けていると思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!