世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、時に和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたい人たちのヒントになれば幸いです。

政府の汚職を実演で証明したチェコ共和国のハッカソン

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Photo by Martin Krchnacek on Unsplash

政府の「サイト開発費」の異様な高さをハッカソンで証明

古今東西、権力者は自分の力を濫用したい誘惑と戦い、時には打ち勝ち、時には破滅へと突き進む代物です。

そんな個人の内面に暮らしが左右される一般市民はたまったものではない、ということでそのチェック&バランス機能としてジャーナリズムが存在しているわけですが、インターネットが発達した今の時代、ジャーナリストに加えて「デジタル・テクノロジスト」も社会に公正さを保つ重要な存在となっていくのかもしれません。

今回は、チェコ共和国政府が高速道路の通行証を販売するeコマースサイトの開発のために、明らかに必要以上の予算を私企業にこっそりつぎ込もうとしていることを糾弾すべく、プログラマーやコーダーなどの「デジタル・テクノロジスト」たちが取り組んだユニークかつ、劇的な結果を導いたハッカソンをご紹介します。

世界的クリエイティビティの祭典カンヌライオンズのブランド・エクスペリエンス&アクティベーション部門とダイレクト部門の2部門で2021年、金賞を獲得した取り組みです。ぜひご覧ください。

Anticorruption Hackathon "反汚職ハッカソン"

www.youtube.com

[雑和訳] タイトル[過去40年、チェコ共和国全体主義体制の下にあった] [一般市民は変革をする術を持たなかった] [共産主義の終焉から数十年を経た現在にしてなお、汚職の蔓延は収まることがなかった] […これまでは。]

ニュース”多くのチェコ市民が抗議の声をあげています” 市民「この国を誇りに思いたいのに、今はできません」 タイトル[2020年1月、私有企業Asseco Central Europeがeコマースのプラットフォーム開発について政府との契約を勝ち取った] [その価格は1,600万ユーロ(約20億7,000万円相当)。しかしその公示すら無かったのだ]

ニュース「4億チェコ・コルナの契約です」 タイトル[そこで反汚職を掲げる団体Znamkamaradaは行動を起こすことにした]  [我々だったらこんなものはタダでできる。しかも2日以内で] Znamkamaradaのスタッフ「我々はハッカソンを計画しています。コードが組める人はこの週末、参加してください」

タイトル[高まるプレッシャーの中、首相はZnamkamaradaと対面することを承認した] [そしてハッカソンが始まった。194人のプログラマーが昼も夜も開発に取り組み続けた] ニュース「数百人のコーダーたちが週末、サイト作りに取り組み続けています」 プログラマー「このアプローチでサイト構築は可能であることを示したいです」

レポーター「順調にいけば、日曜の午後6時には完成しそうです」 「しかも全て無料で作られてしまうのです」 「果たして約束通り、時間内に完成できるのでしょうか?」 中の人「できると思います」 タイトル[そして、48時間以内にサイトは完成した]

[Assecoとの契約はキャンセルされた] 要人「本日、刑事告訴を提出するつもりです」 タイトル[交通省大臣は罷免に] ニュース:「臨時速報:交通省大臣が罷免されました」 タイトル[1,100万ユーロ(約14億2,500万円相当)に上る納税者のお金が救われた]

[政府は24万ユーロ(約3千100万円相当)を超えるIT関連の契約については公示の上、入札を行うことを約束した] 中の人「政治家は公金の使用について、より慎重になることでしょう」 タイトル[Znamkamaradaによる反汚職ハッカソン]

デジタル・テクノロジストたちが力を合わせて大臣を罷免に

いかがでしたでしょうか?社会に真偽が判別し難い情報が溢れかえってしまっている今、権力者の犯罪については「真実を記事にする」というジャーナリスト的動きだけではその影響力に限界が出てきているのも事実です。

そんな状況に対し、このアイデアのようにデジタル・テクノロジストが力を合わせて「おかしな事実」を自分たちの行動で証明する、という方法は新しいですし、一方「みんなで大きくて悪いものに立ち向かう」というストーリーは今度東西、なぜかあらゆる人々をの心を巻き込む力があります(私もこの取り組みを翻訳している間、映画「サマーウォーズ」を観た時のようなワクワクを感じていました)。

そうした人間の根源的なインサイトを踏まえつつ、ハッカソンという(フェイクだと糾弾しにくい)新しい形式で権力の悪をやっつけたところに、この取り組みの凄まじさがあると思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

メディアミックスが光る、ブラジルのプライドパレード

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Photo by Margaux Bellott on Unsplash

実際に会えないという制約を見事に逆用

制約はイノベーションの元になります。今では当たり前のように多くの人が自宅からZoomなどのオンラインチャットツールを使って打ち合わせを行っていますが、それも「パンデミック回避」という制約の末に世界中が成し遂げたイノベーションだと言えます。

性的マイノリティの人たちが偏見や差別と戦うために世界中で繰り広げてきたプライドパレード。今回はコロナウイルスの影響でそれが現実の道路で開催できないという制約を、見事なメディアミックスで克服したブラジルのアイデアをご紹介します。

世界的クリエイティビティの祭典カンヌライオンズのエンターテインメント部門(音楽)にて2021年、グランプリを獲得した取り組みです。

Feed Parade "フィード・パレード"

vimeo.com

[雑和訳] ナレーション ”パウリスタ通りはブラジルの民主主義にとって意味深い場所です。そこでは1997年以来、世界最大規模のプライドパレードを行われてきました。しかし2020年、ブラジル社会がLGBTのコミュニティに対する度重なる攻撃に直面していた時…”

*【ブラジルでの暴行によるLGBTの人々の犠牲者数は過去最高に -ガーディアン】【ブラジルでは反同性愛者による暴力が伝染 -ニューヨーク・タイムズ】などニュース記事の記事が入る 

"明らかな理由(=コロナによる影響)でパレードはキャンセルされてしまいました"

"しかし南米最大のeコマース業者で、このパレードのスポンサーであるmercado livreは、今こそ彼らが商品を届けるだけではない、自由を届ける存在であることを示すチャンスだと決意しました… 例えロックダウン中であっても”

パウリスタ通りはサンパウロ中心部にある全長2.5キロのまっすぐな通りです” "我々は1平方メートル単位でこの通りを撮影し、" "ブラジルで最も象徴的なこの通りをインスタグラムのフィードに変換しました" ”そしてインフルエンサーを使い、我々は人々に「フィード」・パレードへの参加を呼びかけました”

"参加の方法は簡単でした。インスタグラムのフィード上の写真をタップし、コメントを残すだけ" "15分の内に、パウリスタ通りはブラジル中からの参加者のコメントで埋め尽くされました" "このフィードパレードは、LGBTQ+コミュニティに熱狂を巻き起こしました"

"そして、人々がその取り組みが終わったと思った後日、ブラジルで最もビッグなアーティストの一人であり、活動家である人物がミュージックビデオを発表しました" "そしてそこには、フィード・パレードに参加したすべての人々がフィーチャーされていたのです"

*【1秒あたりのコメント数:50以上】【500万インプレッション以上を獲得】など結果が入る 

”そして、世界最大のプライドパレードは生き延びたのです”

試みを盛り上げた現実とSNS+音楽の見事な組み合わせ

いかがでしたでしょうか?一般論にはなりますが現実でのイベント実施が難しい場合、実体験による興奮や一体感は削がれるものの、デジタル化することで地理的な制約を超え、より多くの人たちが参加できるようになる、という利点があります。

今回はさらにパレードの道が「直線である」という所に着目し、インスタグラムのフィード上にその道を再現した、ということと、フィードの機能を活かして誰にでも簡単に参加できるUIを設計した点が素晴らしいと思いました。

さらにご当地の有名ミュージシャンともコラボしてそのMVでもこの取り組みを活用した、という点が、ともすれば一過性で終わってしまいがちなSNSを活用したキャンペーンのインパクトを長引かせる意味で効いていると思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

コロナ克服を祈念して、2022年の執筆を開始します

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Photo by Branimir Balogović on Unsplash

今年こそ、コロナの克服を

2020年からパンデミックにより、人々の暮らしはすっかり変わってしまいました。新しい株の出現により未だ克服はできてない状況ですが、冷静に考えればたった2年の間に有効なワクチンが開発され、貧困国への供給など、数多くの問題はあるものの世界中でワクチンが受けられる状況になったという点は人類の進化として誇りに思って良いのかな、と思います。

去年の年明け最初の投稿は、米議会襲撃という愚かな事態に衝撃を受け、キング牧師やガンジーによる20世紀を代表するソーシャルキャンペーンを紹介しました。今年は「今年こそ」のコロナ克服を祈り、昨年の世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズにてプリント&出版部門のグランプリを獲得したこの取り組みをご紹介いたします。

Courage is beautiful "勇気は美しい"

www.youtube.com

[雑和訳] ニュースキャスター”このキャンペーンは、その名も「勇気は美しい」というキャンペーンで…” "Doveはヘルスケア・ワーカーのヒーローたちに光を当てる素晴らしい広告を始めました"
”#勇気は美しい、のタグラインがDoveのビデオが広まると共に注目を集めています” ”看護師や医師が感染を防ぐために装着するギアによる、彼らの顔のアザを見せています””これらの表現からは彼らが共通して持つ、我々を守ろうとする決意や、苦労を感じることができます” タイトル文字[勇気は美しい]
看護師のアマンダさん「3月か4月ごろ、彼らは私が写真をシェアしたインスタで打診をしてきました」同パトリックさん「病院にいるスタッフたちは忘れられていました。このキャンペーンで同じような状況にある他のヘルスケアワーカーたちの姿を見て、一人じゃないと感じることができました」同リナさん「とにかくパワフルだと思いました。この中の一員であることに誇りを感じることができました」
ナレーション「世界中の病院施設に隣接するビルボードに、そこで奮闘するヘルスケアワーカーたちに向けた広告が掲出された」パトリシアさん「わぁ、私だ、私たちのことだと気づいてびっくりしました」ベサニーさん「私の看板を初めて見た時はウルッときて、このグローバルキャンペーンの一員であることを誇りに思いましたね」アマンダさん「私の写真がニューヨークタイムスの1面に載るなんて、想像もできませんでした」
*世界中のさまざまなメディアの、この取り組みに対する賞賛のコメントが入る 結果:世界で合計20億強のアーンド・インプレッションを達成。ソーシャルメディアの99%がポジティブに反応。ツイッターだけで1日あたり36万のハッシュタグ・メンションを獲得。500万ドル強のドネーションを獲得。
SnapのCEO「目下、Doveによる素晴らしいキャンペーンがSnap(のソーシャルメディア)で展開されていて、(ブランドの)差別化のための素晴らしい取り組みだと考えています」
司会者「人々の体型や肌の色、年齢などについて、いつも素晴らしい意見表明をおこなってきたDoveによる、もう一つの賞賛すべき取り組みだといえるでしょう」*最後、さまざまな言語の文字で”勇気は美しい”というスローガンが入る

人々の美にこだわってきたブランドゆえに成立した取り組み

いかがでしたでしょうか?特にこのキャンペーンが行われたパンデミック初期にはこの疾病について未知の部分も多く、最前線で患者のために戦っていた医療関係者に対する差別的な言動は今よりもはるかに多かったかと記憶しています。
彼らが報われない気持ちで疲労困憊し、通勤・退勤するその路上でこのような広告を目にしたら、そのメッセージはさぞかし温かく感じられたことだろうと思います。
さらに人々が家に閉じこもり、屋外広告の価値に疑問符がついたこの時点であえて「屋外広告にしかできないこと」をやり遂げた勇気も素晴らしいと思います。

さらに最高なのが、この取り組みを行ったブランドがDoveだったこと。Doveは2006年にカンヌライオンズのフィルム部門でグランプリを獲得した(私の中ではその先見性で未だに21世紀のベストグランプリです)”Evolution”を皮切りに、世界的ボディケアブランドの責任として、ほぼ一貫して現代における「Real Beauty(本当の美しさ)」とはどうあるべきなのか、を問い続けてきました。ここで彼らのいくつかの過去キャンペーンを見てみましょう。

「加工された美」への違和感を表明したEvolution


www.youtube.com

タグライン「これでは、美の概念が歪んでしまうのも無理はない。女の子たちのためのReal Beautyワークショップに参加しよう」

「自分の美しさ」への過小評価を可視化したドキュメント


www.youtube.com

目撃者の話をもとに似顔絵を描く犯罪捜査の似顔絵師が、被験者の似顔絵を描く。本人の自己評価に基づいて書いた似顔絵と、彼らの友達のコメントに基づいて描いた似顔絵との差で「人々は本人が思うより美しい(=だから自信を持って)」というメッセージを打ち出した感動的なキャンペーン

いかがでしたでしょうか?これらの15年以上にわたる一貫した「美」への取り組みがあったからこそパンデミックの第一線で戦う人たちに「勇気は美しい」と言い切る強さがDoveの中の人たちにもできたのだと感じますし、同時にこの取り組みの受け手(ヘルスケア・ワーカーや一般の人々)に対しても、他のブランドでは真似のできない説得力を感じさせることができたのだと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。
それではみなさん、今年もどうぞよろしくお願いいたします!

2021年のベスト・ソーシャルキャンペーン10選<第1位〜第5位>

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Photo by Myriam Zilles on Unsplash

今回は2021年のベスト・キャンペーンをご紹介

 

前回は2021年に世界で話題となったベスト・ソーシャルキャンペーンの第5位から第10位までをお伝えいたしました。そして今年最後の投稿となる今回は、いよいよTOP5の登場です!選考基準は独断と偏見でありつつ、「革新性」「スケール」「読者の反響」の3点に軸を置いて選ばせていただきました。作品の詳細については、それぞれの文中に張った過去記事へのリンクをご覧ください。それではドラムロール!

 

第1位 「Contract for Change(変革のための契約書)」

第1位は!!アメリカの有機ビールブランド"Michelob Ultra Pure Gold"が全米の農家に有機農業への転換を促すために行ったキャンペーンです。国が動く前に、人類がこれから進むべき農業の道を先取りして動いた「革新性」と、アメリカ全土の農家の暮らしに影響を与えうる「スケール」、そして「読者の反響」のどれもが高いバランスで揃っていました。

wsc.hatenablog.com

コロナ禍を経てブランディングの力点がいよいよ「ユニークな広告表現などでいかにターゲットの心を掴むか」から「ターゲットが望む社会のために、いかにブランドが(嘘偽りなく)貢献しているか」という”リアル・アクション”に移ってきている中、このキャンペーンはその教科書的事例として語り継がれることでしょう。

 

第2位 「#wombstories(#子宮の物語)」

英国の生理用品ブランドBodyform。2010年台中頃から「なぜ生理用品のCMでは生理の血は青い水として表現されるのか?」など、生理にまつわる社会的なまやかしを糾弾することで女性の社会進出に寄り添ってきたこのブランドの集大成となるキャンペーンです。「性能の良いナプキンを使って、今日も軽やかに行きましょう!」という数多ある競合他社のメッセージを完膚なきまでに叩きのめす、とても強力なキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

個人的には当初、このキャンペーンが世界的に高い評価を得ている理由がいまいちしっくりこなかったのですが、調べるうちに自分自身が、女性がこの社会で受けているさまざまな差別や偏見に気付かされました。そういった意味でも印象深いキャンペーンです。

 

第3位 「Donation Dollar(募金用1ドルコイン)」

こちらも電子化が進む中、リアルな貨幣の価値を再定義した傑作アイデアです。オーストラリアではさまざまな市民団体をサポートするための取り組みとしてなんと、国の銀行が発行するコインの一種として「募金用コイン」を発行してしまいました。

みんながスマホ決済に移る中「現金はそろそろオワコン?」という時代の流れを感じるのですが、それに安易に流されず「手元に実際に流通する」という現金特有の価値に着目し、ソリューションにつなげたところにこのアイデアの凄まじさを感じます。ましてや貨幣発行当局との交渉などを考えたときに日本でこれをやろうとしたら…と考えるだけでクラクラするレベルです。アイデアと実行が見事につながった、稀有な事例といえるでしょう。あとは2〜3年後、この取り組みが具体的に、オーストラリア社会にどのような影響を与えたかをみてみたいと思います。

 

第4位 「SALLA 2032」

最低気温マイナス45.3度を記録したこともある、フィンランド北部の街Salla。しかし地球温暖化がこのまま進めば、雪の減少とともに現地の伝統文化や観光資源が消えてしまう…。そう危惧した現地の人々が行った驚きのキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

実はこの10選を考え始めた時は、これがダントツの第1位だろうと考えていました。目の付け所はもちろん、このブログのそのものの趣旨である「常識に加えたひとひねり」も秀逸ですし、読者の反響も一番でした。さらに(東京オリンピックがあった)2021年を締める上でも良いキャンペーンだったのですが、審査を進めるうちに「スケール」という点では比較的短期間の話題化を目的とするPRスタントの域を出ていないのでは?という疑念が覆せず、4位という結果になりました。

 

第5位 「Naming the Invisible(見えない子供を救う)」

そして第5位は、パキスタンのテレコム会社Telenor Pakistanによるキャンペーンです。遠隔の村を中心にパキスタンに数多く存在する、6,000万人もの出生記録をもたない子供たちをデジタル技術の活用で救ったキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

こちら、アイデアとしてはモバイルアプリを開発して出生記録を取っていくという、とてもシンプルなものなのですが、とにかくそのスケール感の大きさで5位に飛び込んできたイメージです。

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「今年の10選」、いかがでしたでしょうか?

この10選からだけでも既存の「広告」や「プロモーション」の枠内だけで収まりきるキャンペーンではもはや、人々にインパクトを与えることができないんだな、ということを痛感する結果となりました。

そしてこの今もきっと、世界のどこかで素晴らしいアイデアが生まれ続けています。来年も引き続き、たとえそのひとかけらだけだとしても皆様にシェアできれば幸いです。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!それでは皆さん、また来年!

2021年のベスト・ソーシャルキャンペーン10選<第6位〜第10位>

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Photo by Myriam Zilles on Unsplash

今回と次回で2021年のベストキャンペーンをご紹介

今年はこのブログにたくさんの記事を書きました。

そこで!皆様に記事のひとつひとつを見直していただくのも大変だろうと思いますので、その中でも特に印象的だったアイデアを今回と次回の2回で合計10個、ご紹介させていただきます。

 

選考基準は「革新性」「スケール」「読者の反響」

最初はサラッとまとめて今年を締めるつもりだったのですが、甲乙つけ難いものが多く、熟考の末選考基準を上記の3つに設定しました。それでも悩んだ時は私の好みで決めました(すみません!)。では、今回は第6位から10位までを発表します。それぞれの詳細は各記事に置いたリンクからご覧ください。それではドラムロール!

 

第6位 「#Steal our Staff(#我々の社員を盗んで)」

スタッフの80%が何らかのハンディキャップを持つ人たちで構成されているイギリスの石鹸メーカー、Becoが障がい者の雇用を広めるために行った挑戦的で、でも人間の暖かさが溢れているキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

私はこの作品が大好きで最初は2位に入れていたのですが、選考基準のひとつに置いた「スケール」的には第1位〜5位のものに比べれば小さいということで、僅差の6位にしました。商品パッケージを履歴書にしてしまうことで、差別化しにくいカテゴリーの代表であるトイレタリーの購入体験を「障がい者たちへの応援活動」に変えてしまったところに、この取り組みの素晴らしさがあります。

 

第7位 「Raising Profile(プロフィールをより良くする)」

新型コロナウイルスの影響により街から人が減り、創刊以来の危機に瀕していた雑誌ビッグ・イシュー。そのピンチを解決するだけでなく、なんと恵まれない境遇の人たちの未来へのチャンスをも広げてしまった、そんなポジティブな姿勢が大好きなキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

こちらはリンクトインの活用が見事であることや、コロナによる社会変化に鮮やかに対応した点、そして、ターゲットであるホームレスの人たちに、このキャンペーンが終わっても生き続けるスキルを与えたところがミソだな、と思いました。

 

第8位 「The Bread Exam(パンこねテスト)」

女性たちが自身の体について語ることに対してタブー視をする文化的・社会的な風潮があるレバノンでは、結果として乳がんについての知識が広まらず、女性たちがその初期段階を見逃してしまうことが多いそうです。そこでこのキャンペーンでは、乳がんの初期段階を発見する方法を、パンをこねるレシピの中に織り交ぜてレバノンの女性たちに伝えました。

wsc.hatenablog.com

社会的なタブーや制約を逆手に取る、という点ではこのアイデアは10選の中でもピカイチだと思います。さらに「今月、パンこねた?」という日常的な言葉を「今月、乳がんのチェックした?」という意味の暗喩として流通させたという点も天才的だと思いました。

 

第9位 「Hellmann’s Island(ヘルマンズ島)」

第9位はマヨネーズなどの調味料を販売しているブランドHellmann'sがどうぶつの森を使い、クリスマスに恵まれない人々のために行った素敵なキャペーンです。

wsc.hatenablog.com

ゲームの中の「カブが腐る」という現象に着目し、それを現実世界でのドネーションとつなげたところが素晴らしいのはもちろん、どうぶつの森を使うことでシリアスになりすぎず、プレイヤーたちに行動を促したところがうまいなぁ、と思いました。

 

第10位 「Vivaldi's For Seasons(ヴィヴァルディの”季節のために”」

そして最後は、気候変動のおぞましさをヴァイヴァルディの「四季」で表現したこのアイデア。1700年台初頭に作られたこの傑作の構成楽曲である「春」「夏」「秋」「冬」を、それぞれ現在の気候に合わせて編曲したらこうなる…というものです。

wsc.hatenablog.com

イデアとしては相当ユニークで、読者の皆様の反応も大きかったこの取り組み、5年前ぐらいまでであればもっと高い評価になっていたことと思います。ただ、今の世界の関心はアイデアひとつひとつの面白さよりも、これらの取り組みを行った結果、社会にどんな”実質的変化”が起こせたのか、に移っています。そこの部分の薄さが、今回このアイデアを10位に置かせていただいた理由です。

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「今年の10選」、後半の次回は社会に与えた「実質的変化」のインパクトが比較的大きなアイデアをご紹介させていただきます。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!それでは皆さん、また2〜3日後に!

まさかのインフルエンサー、ハチを守るために立ちあがる

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Photo by Dmitry Grigoriev on Unsplash

ハチ(Bee)を救うことは、人間を救うこと

6月からずっとほぼ毎週、世界的クリエイティビティの祭典カンヌライオンズの受賞作を紹介し続けておりますが、まだまだこれでもか、というぐらいに次から次へといいものが出てきます。

今週はソーシャル&インフルエンサー部門(←こんな部門があったのね…)で金賞を受賞したこの作品。フランスで行われた、ハチを守るためのSNSを活用したキャンペーンです。

いうまでもありませんが、ハチは知ってか知らずか、花粉を体につけて自然を飛び回ることでこの星の生態系維持に多大なる貢献をしてくれています。

(人間が食べる果実や種子として栽培される作物の実に75%が、何らかの形でハチの貢献により成り立っているという調査結果もあるほどです)

しかしそのハチが現在、気候変動や殺虫剤による影響などで、その数を急速に減らしているといいます。

その保護のために必要なのは、やっぱりお金…ということで、今回はインスタグラム上で「とあるインフルエンサー」をとてもユニークな方法で活用することで、見事に資金を稼いだ事例をご紹介いたします。

課題は深刻ですが、ソリューションはかわいいです。是非、以下の事例紹介ムービーをご覧ください。

"Bee"ンフルエンサー(Bee_nfluencer)

www.youtube.com

【雑和訳】ポスト[ハチが絶滅したら、人類は4年も持たないだろうーアインシュタイン] ポスト[レオナルド・ディカプリオ「気候変動によりハチが危機に瀕している」] 文字[オンラインで、ハチは多くの関心を集めている][でも彼らが本当に必要なのは][資金だ]

テレビの司会者「今、インスタを利用してとある昆虫が、彼女の種を間持つために活動を始めています」「Beeさんとつながりましょう!彼女は今、10万人以上のフォロワーとつながっています。彼女は自称、史上初の”Bee”ンフルエンサーです」

文字[ねぇ、私の名前はBですよ!][私はインスタグラム初のハチのインフルエンサー][私はフランス財団と"ハチ・ファンド"を作ったの][ハチの保護に資金を集めるために][最初は小さく始めたの][そしてどんどん拡げていったワケ]*フォロワーがどんどん増えていく[私は生きているインフルエンサー][最近じゃ色んな企業がお金を払って、パートナーになってくれてる]*Ricola、Airbnbなど、色んなパートナー企業のロゴと、その協賛ポストが入る[去年のクリスマスは][(フランスの百貨店)ギャラリー・ラファイエットのアンバサダーにまで招聘されたの][私はメッセージを至る所に振り撒いたわ][そして5月20日の「世界蜂の日」には][私はGUERLAINとパートナーを結び、最初のフィルターを世界に向けてローンチしたの][これまでに私はハチ・ファンドに10万ユーロ以上を集めたわ][そして実際に、ハチを保護するためのローカル・プロジェクトに資金を援助しているの] *結果が羅列[実在するオーガニックなフォロワー数 28万4,130人][104つの投稿には、212万2,428のLikeがついた][Loveコメント数は1万6,111]*彼女を話題にした色んなメディアのロゴが入る [私をフォローしてね][応援する人が多ければ、それだけ資金も集まるはずだから][インフルエンサーも(その気になれば)良いことはできるのよ!][@bee_nfliencerをフォローしよう][ハチを救うために]

思いつきだけで終わらない、完成度の高いポストが決め手

いかがでしたでしょうか?ハチの問題は、ハチに言わせるのが一番!というシンプルなアイデアですが、面白そうなので私も早速彼女(@bee_nfliencer)のインスタをフォローしてみました。毎回毎回、上のムービーでも紹介されていましたがインスタで流行った画像のパロディなどがかわいく散りばめられていて、見ていて飽きないものでした。

人間以外のキャラがインスタのアカウントを持つ、というアイデアは別段新しくはないと思うのですが、やはり「どんなハチが、どんなことを、どんなトーン&マナーで更新していけば人は面白がるのか」という部分がしっかりとプロの手によってデザインされているからこそ、ここまで人々が”ノッて”くれたのだと思います。

そして実は、彼女のポストには最後、衝撃の結末が待っているのですが…。

これ以上は言えませんので、是非彼女をフォローして、直接ご自身の目でご確認ください。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

全米の生産者に有機農業への転換を促した、ビール会社の勇気ある試み

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Photo by Melissa Askew on Unsplash

 

「広告では差別化できない時代」を代表するソリューション

私は広告業界で働き20年を超えますが、時代は大きく変わりました。この20年で大きく変わったのが、デジタルの進化による消費者たちの「調べる力」と「広める力」の飛躍的向上、そして昨今のSDGsムーヴメントが象徴する、今の社会のありように対する危機感です。

それに合わせてブランディングの力点も、「ユニークな広告表現などでいかにターゲットの心を掴むか」から「ターゲットが望む社会のために、いかにブランドが(嘘偽りなく)貢献しているか」という”リアル・アクション”に移ってきています。

今回は、ブランドによる見事なリアル・アクションの代表事例としてアメリカの有機ビールブランド"Michelob Ultra Pure Gold"による取り組みを紹介させていただきます。世界のクリエイティビティの祭典、カンヌライオンズのPR部門で今年、見事グランプリを獲得した作品です。

それでは事例紹介ムービーをご覧ください。

 

変革のための契約書(Contract for Change)

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【雑和訳】農家「農業はもはや品質を求めていない。求められるのはより多く、速く、安く作ることばかりだ」スーパー:我々は、我々の命を支える生態系を破壊している。農家「農家のほとんどは、自然な作物を育てることを望んでいる。だけどもう、抜けられない(大量生産の)トレッドミルに載っかってしまっているんだよ」

スーパー:アメリカ人の90%は、有機作物によるものを買いたいと望んでいる。しかし、有機栽培をしているアメリカの農地は、全体のわずか1%だ。農家「有機農業への転換には、3年かけて大きな投資をする必要がある。でも、転換したとして、買い手はおそらくいないだろう」

スーパー:有機ビールのリーダーとして。Michelob Ultra Pure Goldプレゼンツ ”変革のための契約書(Contract for Change)” スーパー:アメリカの農業の変革を促す、革命的な契約書。農家「私は今日、有機作物の買い手を3年後に補償してくれる契約書にサインしました」

ナレーション ”この契約書は、サインした農家が3年間で有機農業への転換を完了した場合、その有機作物に対し、Michelob Ultraが最初の買い手になることを保証する。必ず買い手がいる、という保証により我々は、農家の人々が有機農業に転換する際の一番大きな障壁を除去したのだ”

 農家「有機農業に移行する3年の間は、生産量が下がってしまうので収入が低下します」ナレーション ”この悩みもまた、全米の農地のわずか1%しか有機農業に活用されていない大きな理由のひとつだ。

この契約には、有機農業への転換期間中、(Michelob Ultraブランドを保有する)アンハイザー・ブッシュ社の他のビールブランドが有機作物でない、既存の作物を通常の価格より25%高く買い付ける、という条項も入っている。なので契約者は収入を保つことができるのだ。

さらにこの契約書には、主要な農業関連機関や組織を通じた、綿密なトレーニングも含まれている” 

スーパー:この契約は、全米の契約書に向けて告知された。ラジオパーソナリティ「すべてのアイダホの農家の皆様へ。もし有機農業への転換をお考えなら、ぜひ我々にお電話ください。ともに、あなたの農業の未来を変えていきましょう!」

スーパー:我々の声は、全米の農家に届いた。そして国中のメディアにも。スーパー:10万4,000エーカーの農地が転換中。有機作物の供給量の増加は、2023年までにMichelob Ultra Pure Goldを25%成長させるだろう。

ナレーション ”一度有機農業に転換すれば、農家はMichelob Ultra Pure Goldへの原材料だけでなく、他の何千ものブランドにも有機作物を提供することが可能になる” 

農家「農作地に生き物が戻ってくるのを見るのは本当に美しいです」スーパー:生物多様性は34%向上。農家「それが農家になった理由なのですから」

 

勇気あるリアルアクションがブランド力になっていく

いかがでしたでしょうか?これをご覧になった方の中には、今や、この有機ビールブランドを買い、応援することが、世界を変えるための素晴らしい行動に思えてくるのではないのでしょうか?

思えば今年のカンヌライオンズ受賞作は、単なる消費行動を、社会的に意義のある活動へと変えた素晴らしい事例に満ちあふれていたと思います。例えば、石鹸の購入を障がいを持つ人たちの社会進出応援に変えてしまったこの事例とか…

wsc.hatenablog.com

 

カンヌは世界から、これから日本に押し寄せるトレンドを先取りする場所でもあります。ぜひ、これらの先行事例をヒントに、みなさんの組織でも私たちの社会の改善につながり、あなたの組織に唯一無二のブランド力を与えるような素敵なリアルアクション、考えていただけると幸せです。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!