世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、時に和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたい人たちのヒントになれば幸いです。

お湯で洗濯…が常識のアメリカ人の行動を変えたキャンペーン【カンヌ2022より】

UnsplashのJeremy Salleeが撮影した写真

実は「冷たい水」で洗濯する日本は少数派だった?

今を遡ること29年前(!)の8月。韓国の延世大学にて留学を始めた私は、住み始めた学生寮の地下にあるランドリーに洗濯をしに行きました。そこで驚いたのが洗濯機のデフォルト設定が「温水洗い」だったこと。日本の洗濯機では水温の調整ダイヤル自体を見たことがなかったので、どう設定を変更するかもわからず、電気代がもったいないのでは…と思いつつ洗濯したことを覚えています。

そして実は、冷たい水のままで洗濯機を回す日本は先進国では少数派らしく、アメリカでも、ヨーロッパでも韓国と同様、お湯で洗濯機を回すことが普通のようです。

今回はその慣習によって発生してしまうCO2の排出を抑えるために、アメリカの洗剤ブランドTideが冷たい水でも高い洗浄力を発揮する商品を開発。それを普及させるために行ったキャンペーンをご紹介します。

ちなみにこちら「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022のSDGs部門で金賞(Gold)を受賞するなど、高い評価を獲得したキャンペーンになります。それでは以下の紹介ビデオをご覧ください。

「#TurnToCold / #冷水で洗おう」

youtu.be

【雑和訳】

ナレーション:どうしたら洗剤ブランドが自動車40万台分の排出量に相当する、10億キログラムのCO2排出を(水温調整用の)ダイヤルを捻るだけでアメリカから削減することができるのでしょうか?/

実は冷たい水(cold water)を使うことで(温水での洗濯に比べ)洗濯時のエネルギー消費量は90%も削減できるのです。そこでTideは製造方法をアップグレードし、冷たい水でも他のあらゆる洗剤よりしっかり洗濯ができるようにしました。/

あとは、人々に温水での洗濯をやめるよう納得させるだけ。そこで私たちは「冷たい(cold)」を象徴する2人を起用。/

(画面上にラッパー&俳優の"アイス"Tとプロレス団体WWEのレジェンド、ストーン・”コールド”・スティーブ・オースティンが登場し、受話器を取る)/ タイトル画面:COLD CALLERS(冷たい電話主) 〜アイスTとストーン・コールド /

ナレーション:放送では、彼らがポップカルチャーを担うあらゆる人たちに向けてメッセージを伝達 /

アニー・マーフィー「アニーだよ」Mr.T「Mr.Tだ」ゴードン・ラムゼイ「もしもし」ヴァニラ・アイスヴァニラ・アイス・アイスベイベーだよ」/

アイスT「冷たい水でTideを使ってみないかい?」/ ヴァニラ・アイス「なんで?」/ アイスT「環境に良くて」/ ストーン・コールド「節約にもなるんだ」/

アニー・マーフィー「ハイハイあー、環境ね、木とか灌木を救うやつね。いくら節約になるの?」/ アイスT「1年で電気代100ドルぐらい…」/ ゴードン・ラムゼイ「すごい!冷たい水に変えよう!」/

ナレーション:音楽、エンタメ、スポーツ、あらゆる業界が一つのメッセージ「#TurnToCold」のもとに団結。/ Mr.T「Tideで冷たい水に切り替えないなんて可哀想な奴らだぜ」/ ストーン・コールド ♪ストーン・コールドが言ってるんだ!/

ナレーション:そして、私たちはこのキャンペーンを考えうる限り最も大きなステージ、NFLに拡大。/ ストーン・コールド「アメフトって洗濯物、めっちゃ多いよね」/ アイスT「キミらめっちゃ汚れてるやん」/

ナレーション:その通り。なので私たちは、NFLの15チームに彼らの汚いユニフォームを、冷たい水で洗うようお願いしました。何百万人ものNFLファンに、Tideは冷たい水でも良く洗えることを証明するために。/ (NFLの中の人たちが次々と、Tideを使った冷たい水での洗濯を進める) /

ナレーション:結果は?…アメリカの人々は応えてくれました。/ Tideの売上は39%上昇。 / アーンド・メディアでのインプレッションは20億ドル相当を記録。 /

しかし、最も大切なことは、13億もの洗濯物が冷たい水で行われ、未来の世代のためにエネルギーが節約されたことです。/ 子供「冷たい水で洗おうね〜」/

ナレーション:Tideで#TurnToCold(#冷たい水で洗おう)   

キャンペーンを一つにまとめたハッシュタグが見事

いかがでしたでしょうか?実はこのアイデア、構造をよく見るとセレブたちを使ったメッセージの拡散部分と、NFLのユニフォームを使った実証部分の2つに分かれているんですよね。しかし、セレブの活用だけだと「冷たい水でも汚れがちゃんと落ちるのか?」という疑念を拭えないし、NFLの汚れたユニフォームを使った実証だけでもアメフトファン以外への拡散力に欠ける。

その両方をわかりやすく明快な「#TurnTocold」というハッシュタグで見事に一つにまとめたことで、両者の強みが生きる大きなキャンペーンに組み上げることができたのかな、と思います。

最近ではいろんなデジタルメディアが活用できるからと、あれもこれもといろんなメッセージや事情を詰め込んで、全体的に狙いがよくわからなってしまっているキャンペーンなどもあるのかな、と思います。

そんな状況に陥りそうなときは、この事例を研究することで何か参考になることがあるのかもしれないな、と思いました。

そしてNFLといえば、Tideは毎年2月に開かれるNFLスーパーボウルの全米テレビ中継でも毎回、印象的なコマーシャルを放映しています。

今年も間もなく2月。今年はどのような名作CMがTideから飛び出すのか、(または飛びださないのか!?)を、注意深く見ていければと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

続きを読む

ディスレクシア(発達性読み書き障がい)はビジネススキル【カンヌ2022より】

UnsplashのJason Goodmanが撮影した写真

思い込みの”枠”を作り直す、リフレーミングのチカラ

人類の歴史上、楽しいばかりで人生を生き抜いた人はほとんどいないと思います。長い人生を振り返った時、概ね楽しかったな…と思うためには、時にはつまらないな、とか、難しいな、という状況からなんとかして自分が楽しめる要素を見つけ出して、その状況を楽しいものとして捉え直す(リフレーミングする)ことが不可欠です。

そして、リフレーミングを自分の心の中だけではなく他人の心に応用すれば、あのトム・ソーヤのペンキ塗りの話のように、社会的にこれまでネガティブに捉えられていた物事をもポジティブなものに変えてしまうことが可能です。(もちろん、その逆もできてしまうのですが…。)

今回はディスレクシア(発達性読み書き障がい)の人たちに対する職場の人たちのネガティブな思い込みを、見事なリフレーミングで見事に変容させたヴァージンとリンクトイン、そして社会的に成功したディスレクシアたちによるチャリティ団体Made By Dyslexiaによる取り組みをご紹介します。

ちなみにこちら「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022にて、その年のベスト級のアイデアに与えられるTitanium Lionを受賞するなど、高い評価を獲得したキャンペーンになります。それでは以下の紹介ビデオをご覧ください。

「Dyslexic Thinking / ディスレクシア的思考

youtu.be

【雑和訳】

女性司会者「英国では、推定で600万人以上の人たちがディスレクシアだとされていまして、それに起因する学習への妨げは、”隠れた障がい”とも言われています」/

文字による表示:"私は自分の#ディスレクシア的思考を周りに隠してきましたが、今やそれらはスキルとして認知されています!-@ChrisWilkinson"/ "#ディスレクシア的思考がリンクトインのオフィシャルスキルになって、嬉しくて涙が出た -@lovethewayoure"/ "Wow! リンクトインのスキルに#ディスレクシア的思考が追加できて感極まるわ -@Savvy"/  

文字要素:世界の5人に1人がディスレクシアです / しかし、その97%がディスレクシアをネガティブに捉えています/

ジェイミー・オリバー、起業家「自分が否定された感じになるよね」/ キーラ・ナイトレイ、俳優「自分はバカなんだと感じました。他人よりも劣っていると」/ オーランド・ブルーム、俳優「愉快ではないよね」/

ジョン・ケリー、Dictionary.comのシニア編集長「ディスレクシアという言葉に対する人々の現在の感覚は明らかに時代遅れの認識で止まってしまっています」 /

ジュリア・キャロル博士、コベントリー大学「このネガティブな認識は職場にとても大きなダメージを与えています。そして多くのディスレクシアを持つ人々がとてつもなく大きな成功を果たしてきたことを考えると、不当なものだといえます」/

文字要素:職場でのディスレクシアに対する人々の認識を改めさせるために / 私たちは、社会のディスレクシアに対する見方を変えたのです/ リンクトインのオフィシャルスキルのタグ:”ディスレクシア的思考+” ヴァージンxリンクトインx Made By Dyslexia/

文字要素:ディスレクシアを職場のスキルとして再規定(リフレーミング)/  ケイト・グリッグス、Made By Dyslexia「私たちの調査によると、ディスレクシアを持つ人々はまさに、世界経済フォーラムがまとめた職場が求めているスキルの数々を持っています」/ 文字要素:世界経済人フォーラム・2023年のトップスキル 1:分析的思考とイノベーション 2:複雑な問題の解決 3:クリティカルな思考と分析 4:学習戦略 5:リーダーシップ /

ニコール・レバリッチ、リンクトインのコミュニケーションVP「(*画面上ではヴァージンの会長、リチャード・ブランソンのプロフにディスレクシア的思考が加えられる)リンクトインは、あなたの職場でのスキルを紹介する場所です。なので私たちはプラットフォームに変更を加え、世界中の人々が自分のプロフィールに「ディスレクシア的思考」をスキルとして足せるようにしました」/

文字要素:変更後、わずか1週間で1万人以上の人々がこのスキルを追加 / ディスレクシアに対するソーシャルメディア上のポジティブな認識は1,562%上昇しました /

タマラ・ピケット、ヴァージンのコミュニケーション・グループディレクター「キャンペーンの開始以来、より多くの人々が立ち上がり、自分がディスレクシアであることを話し始めました」/

リチャード・ブランソン「自分がディスレクシア的思考を持つことを誇りに思います!」/

ナレーション:そして、Dictionary.comはディスレクシア的思考をオフィシャルな単語として登録 / (*各メディアからの好意的な声や記事の抜き出しが流れる) / 文字要素:13,553人の人事担当責任者がこのキャンペーンを認知 /

ローラ・パウエル、ウエルス・アンド・パーソナル・バンキング、グローバル人材担当責任者「私たちは今、積極的にディスレクシア的思考を持つ人材を求めています。そして、マイクロソフトやEY、facebookなど他のさまざまなグローバル企業も同様の動きを進めているというのは本当だと思います」/

リチャード・ブランソン、ヴァージン・グループ創設者「自分が持つディスレクシア的思考は、他人が問題だと思う物事の中にソリューションを見つけるのに役立ってきました」/ キーラ・ナイトレイ、俳優「(ディスレクシア的思考は)とても大事な要素です。世界は変わり続けてますし」/  オーランド・ブルーム、俳優「これこそがリーダーたちが持つ資質ですし、また、我々の人間性を進化させる考え方だと思います」/

リンクトインのオフィシャルスキルのタグ:”ディスレクシア的思考+” ヴァージンxリンクトインx Made By Dyslexia

イデアはリフレーミングが9割(笑)

いかがでしたでしょうか?実は私はかなりのリフレーミング好きでして、いつも身の周りや自分のことについて、どういったフレームで括ればもっとやる気が出るだろう、とか、他人にやる気を出してもらえるだろう、とか、そんなことばかりを考えています。

この世のアイデアの基本は、薄々と感じていながらこの社会の多くの人が見えていない「本当のこと」を、これまでにない角度でリフレーミングすることで、人々にはっきりと気づかせることです。

(だから人々は見事は優れたアイデアを見た時に「やった!」ではなく「やられた!」と思うわけですね。)

私たちはこれまで”ディスレクシア「なのに」成功した人”としてリチャード・ブランソンやその他大勢の人々を括ってきました。しかしこの取り組みが順調に発展していけば、人々の彼・彼女たちに対する認識はやがて”ディスレクシア「だから」成功した人”へとフレームチェンジしていくことでしょう。

そしてその変化はまさに今、学校でディスレクシアに悩みながらも一生懸命頑張っている子供たちにも大きな励みとなるに違いありません。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

テック分野に潜むジェンダーギャップをやっつけろ【カンヌ2022より】

UnsplashのThisisEngineering RAEngが撮影した写真

STEM分野に起きているジェンダー格差に迫ったキャンペーン

皆さん、STEM教育という言葉をご存知でしょうか?Science(科学)とTechnology(技術)、Engineering(エンジニアリング)とMathmatics(数学)の4つの教育分野の頭文字をとったもので、21世紀にますます重要となる学びの分野をまとめて言い表す言葉なのですが、この分野は同時に、世界各国で女性たちの進出が遅れている分野でもあります。

この分野で女性の進出が遅れる、ということは、今世紀を担うSTEM領域から開発されるものが男性目線に立った(=女性には使いにくい)ものになってしまう、または女性にとって切実な問題に対するソリューション開発が後回しにされてしまう、ということに繋がりかねません。世界人口のおよそ半分が女性だと考えた場合、これは由々しき事態です。

そこで今回は、アメリカで長くこの問題、特にコーディングの分野でのジェンダー不均衡の解決に向けて取り組んでいるNPO「Girls Who Code」が同国音楽業界のディーバ、ドージャ・キャットとコラボして取り組んだ素敵な事例を紹介したいと思います。

ちなみにこちら「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022のBrand Experience & Activation部門にてゴールド(金賞)を獲得するなど、高い評価を獲得したキャンペーンになります。それでは以下の紹介ビデオをご覧ください。

「DojaCode with Doja Cat / ドージャ・キャットとドージャコード

youtu.be

【雑和訳】

女性A「人生でコーディングとワルい女ほどワクワクするものはないわ」/

ナレーション:「Girls who code(コーディングする女性たち)」は次世代の女性のコーダーたちにインスピレーションを与えたいと考えていました / 文字要素:コーダーの性別 男性75%・女性25% /

ナレーション:しかし、若い女性たちの身の回りにはコードを学ぶよりもクールなことがあふれています。なかでも彼女たちを惹きつける存在といえば… / *画面上のドージャ・キャットの活躍ぶりを伝える記事や映像がコラージュされる / 授賞式の司会者「ドージャー・キャット!」/  

ナレーション:そこで、ドージャー・キャットがパワフルな女性についてのヴァイラル・ソングをリリースするタイミングで、私たちはそれを、コーディングの次世代を担う女性たちを後押しする機会としました /

インフルエンサーA「ちょっと、聞いてください。ドージャ・キャットがGirls who codeとタッグを組みました」/ インフルエンサーB「ドージャー・キャットのビデオをコーディングできるんですって。マジで!?」/ インフルエンサーC「コーディングできるミュージックビデオなんですって!」/

ナレーション:その通り。これまでで初となる、コーディングができるミュージックビデオDojaCode。(そこでは)密かにコード学習のレッスンとなるインタラクティブな体験ができるのです。コードのスニペッドを使うことで、若い女性たちはミュージックビデオのストーリーを変えることができます。

ミュージックビデオをディレクションしながら、コードのやり方の基礎を学べるのです。DojaCodeは世界を席巻しました。まさに、全ての世界に。メディア予算は0ドルにもかかわらず、1,000万ドル相当の露出効果を創出。世界中の女性が何百万分もの時間、学んでいる、という自覚もなしにコーディングに没頭しました / *世界中で没頭する女性たちの画像が次々と挿入される。/

ナレーション:インターネットを(いつものように)消費する代わりに、女性たちはそれを創造したのです。世界で最もホットなミュージックビデオを、これまでで最もクールなコーディングのクラスに変えてしまうことで /

ドージャ・キャット「これこそが教育よ」

エンタメをきっかけに、多くの女性にコードの楽しさを教育

いかがでしたでしょうか?こちらのアイデア、男性のコーダー比率をなんとかしてカットしようとするのではなく、まずはこれまでコードに触れたことがない女性たちにその「楽しさ」を学んでもらうことで、コーダー全体のパイを大きくしていこうという考え方が前向きでとても良いな、と思いました。

また、紹介ビデオの最後の方にあったナレーションのように、コーディングの方法を学ぶことで人々はインターネットをモノを買う「消費の場」とするだけではなく、何かを創る「創造の場」に変えることができます。

ジェンダー問題を超えてそういう意味でも、インターネットの世界をより豊かにするための実に意義深い取り組みだなぁ、と思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

自国のスモールビジネスを救うべく、国民的スターが立ち上がったキャンペーン【カンヌ2022より】

UnsplashのDICSONが撮影した写真

2023年もどうぞよろしくお願いいたします

このブログも途中、長いお休みを挟みつつ9年目を迎えました。ここ数年で世界は大きく対決モードにスイッチしてしまった感がありますが、今こそ武器ではなく、アイデアの力が我らを明るい未来へと導いてくれるはず…という願いをこめて、今回も地道に世界からの素敵なアイデアをご紹介していこうと思います。

今回は、正月休みに観た「RRR」という滅茶苦茶かっこいいインドのアクション映画に触発されて、インドの国民的スター、シャー・ルク・カーンが主役となったソーシャルキャンペーンをご紹介したいと思います。

今から2年前、インドはデルタ株の感染爆発により困難に陥っていました。特にインド各地の小規模な個人商店は衛生面の懸念やeコマースの普及により、売り上げの急減に悩まされていました。

そんな状況で迎えたインド最大規模のヒンズー教のお祭り、ディワリの時期に、インドの国民的大スター、シャー・ルク・カーンが現地でも人気のチョコレートブランド、キャドバリーと組んで行ったのが今回のキャンペーンとなります。

ちなみにこちら「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022にて、その年のベスト級のアイデアに与えられるTitanium Lionをはじめ、Creative Data部門やDirect部門でゴールドを受賞するなど、高い評価を獲得したキャンペーンになります。それでは以下の紹介ビデオをご覧ください。

「Shah Rukh Khan-My-Ad / シャー・ルク・カーンを使ったマイ広告

youtu.be

【雑和訳】

ナレーション:大きなブランドは、セレブを起用するほどの大きな広告予算に恵まれています / しかし、小規模なお店の店主たちはそうではありません / そして彼らはいまだに(コロナによる悪影響から)立ち直れていませんでした /

そこで行ったのが”Shah Rukh Khan-My-Ad(シャー・ルク・カーンを使ったマイ広告)”というキャンペーン /

TVキャスター「みなさん、シャー・ルク・カーンです!」 「彼は世界中の誰よりも多くの熱狂的なファンを持つ大スターです」「世界で最も人気の大スター」「フォーブスは彼を世界中で最も人気のスターのひとりだと呼んでいます」/

ナレーション:私たちは、世界で最も偉大な大スター、シャー・ルク・カーンを彼らのブランド・アンバサダーにすることでスモールビジネスを営む人たちを支援することにしたのです /

(*以下、CMからの抜粋)シャー・ルク・カーン「今年のディワリには、あなたも”Fashinova Emporium”で洋服を買いませんか?」「最新のスマホを、”Siddhivinayak Electronics”で買って、素敵なセルフィーをポストしてください」/ パートナー「何してるのあなた?」「スイーツ食べた?」/ 字幕:この(キャドバリーの)アソートも買ってご賞味ください」/

ナレーション:私たちはマシンラーニングを活用して、各地のお店の名前を広告内で告知できるよう、シャー・ルク・カーンの表情と声を再現できるようにしました /(*以下、CMからの抜粋)シャー・ルク・カーン「あなたもぜひ、近所の”Choice Of Fashion”でショッピングしてください」「”Royal Fashionで”」「”MK Clothsで”」「”Laxmi collectionで”」/

ナレーション:(シャー・ルク・カーンが)各地のお店の名前を告知する、さまざまなバージョンの広告が作られ、PINコードを活用したターゲティングで、視聴者の近所にあるお店の名前を伝える広告が配信されました。しかし全てのストアを網羅することは不可能なため、私たちは人々に自身で”シャー・ルク・カーンを使ったマイ広告”を作る権利を与えました。そしてWhatsApp Forwardsなどの自分自身のソーシャルメディア・ネットワークで、自分のお店をプロモートできるようにしたのです。/

Podcastの音声「あなたが小さなお店のオーナーや商人だとして、シャー・ルク・カーンがあなたのお店を宣伝してくれるんです。なんて素晴らしいことでしょうか!」/キャスター「キャドバリーの広告キャンペーンは広告の枠を超えて広がっています」/ 女性の声「(画面上にSNS上に寄せられたコメントを表示しながら)ボリウッドスターのシャー・ルク・カーンを使った広告の話題がソーシャルメディアを席巻しています」/

文字要素:作られた広告の数=13万 / 広告視聴数=3000万以上 / 無料で600万ルピー相当のPR効果を獲得 / ビジネスの伸び率=35% /

ナレーション:”Shah Rukh Khan-My-Ad(シャー・ルク・カーンを使ったマイ広告)”

 

お金の寄付だけがドネーションじゃない

いかがでしたでしょうか?趣味嗜好が細分化された日本では国民的なスターというものがいなくなって久しいですが、インドにおけるシャー・ルク・カーンさんの存在感たるや、おそらく私が子供だった頃の石原裕次郎さんのようなカリスマだったのかな?と思います。

もしもそんなスターが自分のお店を宣伝してくれたら…という、一昔前だったら絵空事だったことをデジタル技術とマシンラーニングの力で実現したところに、この企画が高く評価されたポイントがあるのかな、と思います。

また、これだけのカリスマがチャリティをする、というと、これまでは稼いだお金をポーンと寄付をする、という話が多かったのかなと思いますが、このアイデアはお金の代わりに、自分の肖像権を困った人たちのために寄付をした、ということもできそうです。

技術の進化とともに、これまでやりたくてもできなかったことができるようになっていたり、また、これまで気づかなかった角度でのアクティビティが知らぬ間にできるようになっています。

 

それに気づくか、気づかないか。

気づきを実行に移すか、諦めるか。

 

それはすべて、私たち次第です。

 

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

見えてきた未来の兆し - 2022年のソーシャルキャンペーンを振り返る

UnsplashのAmbreen Hasanが撮影した写真

今年紹介したキャンペーンが示す、5つの「未来の兆し」

今年は今回合わせて44回、このブログに記事を更新させていただきました。毎週更新を志すこのブログ、今年はワクチンの副反応やコロナ感染、そして3年ぶりの旅行などで何度か穴を開けてしまいましたが、アクセス数の変化に喜びもせず、穴を開けても落ち込みもせず、淡々と更新していくという、ブログを続けるための良い「サボりかた」を学べた気がします。

そして、今年最後のブログでは、今年皆様にご紹介したアイデアから見えてきた、5つの「未来の兆し」を紹介させていただきます。

今年の記事へのリンクをバリバリ貼ってまいりますので、ざっと見て興味のあるものを”つまみ食い”するイメージで来年への備えとしていただけると幸いです。

 

未来の兆し1:変節を恐れない企業・ブランド

今年取り上げたアイデアを見返していて特に顕著だったのは、企業やブランドによるメッセージやアクションの「変節」でした。しかもその変節が中〜長期単位で起きているのではなく、数年単位で繰り返されていたりするのが、今の時代の変化スピードの凄まじさを示しています。
例えば以下の記事では、英国のテレビ局チャンネル4の、パラリンピック放映キャンペーンにおけるメッセージの変遷から、パラアスリートたちに対する彼らの姿勢や目線の素晴らしい変化が学べると思います。

wsc.hatenablog.com

他にもかつては「古いものは捨てちゃいなよ」とメッセージしていたIKEAが、今ではサステナビリティの増進に積極的に参加していることがわかる、この記事もかなり印象的でした。

wsc.hatenablog.com

 

未来の兆し2:技術によるマイノリティの権利回復

また、デジタルテクノロジーの活用により、これまで伝えられず、そして顧みられてこなかったマイノリティたちの声が世界に届き始めています。

こちらは今年、大英博物館にうやうやしく飾られている展示物の背景にある、かつての植民地支配の事実をARフィルターを活用して訴えた「The Unfiltered History Tour」についての記事です。

wsc.hatenablog.com

また、黒人の肌を美しく表現することにこれまで力を入れてこなかったことを反省し、彼・彼女たちの肌も綺麗に映す「Real Tone(リアル・トーン)」エンジンの搭載を決めたGoogleの取り組みについて触れた、以下の記事も参考になると思います(記事の真ん中あたりの「Lizzo in Real Tone(あるがままの色のLizzo)」をご覧ください)。

wsc.hatenablog.com

また、罹患する人が比較的少ないために、なかなか対策や理解が進まない難病の人たちへの支援を促すべく、その難病のつらさを3Dプリンタ技術で可視化させた以下のキャンペーンも見事でした。

wsc.hatenablog.com

 

未来の兆し3:権威への抵抗もよりダイレクトに

「兆し2」と連動して、一般の市民たちの声も、権威や為政者たちに届きやすくなっています。そして、声だけでなく、デジタル環境の進化は人々により直接的な「アクション」を取る機会を創り出しています。

以下の記事はロシアによるウクライナ侵攻に対し、ウクライナ市民たちが自国の歴史や文化を守るための行動を可能にした素晴らしいデジタル・ムーヴメントについてです。

wsc.hatenablog.com

また、必要以上に高額な政府のウェブサイト開発費に潜む汚職を自らの技術力で暴いた、チェコ共和国で行われたテクノロジストたちによるハッカソンの取り組みも痛快でした。

wsc.hatenablog.com

そして、紙とインクが足りないという、日本では理解し難い理由で選挙を延期しようとしたレバノン政府に対し、自社の紙とインクを供給することで戦った現地の新聞社の取り組みも、紹介後に反響が大きかった記事のひとつでした。

wsc.hatenablog.com

 

未来の兆し4:インクルーシブな社会への挑戦は続く

そして、引き続き女性や性的マイノリティ(LGBTQ+など)に対する、目に見えたり、見えなかったりする様々な障壁を取り除き、誰もが自信を持って、自分の能力を堂々と発揮できる環境を広げよう、そしてもっとインクルーシブな社会を作っていこう、と今年も世界各地で様々な取り組みが行われました。

特に印象的だったのは女性の避妊用ピル服用が法律で制限されているホンジュラスで、その法律が届かない同国の領海外に人工の島を作り、そこで女性たちのピルの服用を可能にした、というアイデアです。最初見た時、その発想力に度肝を抜かれました。

wsc.hatenablog.com

また、過去の取引履歴や実績がないために銀行から融資を受けにくい、というメキシコの女性にビジネスチャンスを創るべく、彼女たちの近所でのツケのやり取りをデジタルデータベース化して融資を受けられるようにした、という以下のアイデアも感動的でした。

wsc.hatenablog.com

 また、フィリピンの乗合バスのデコレーションに描かれた様々な女性蔑視表現を改めさせたこの取り組みも、スケールは小さいながら、その着眼点は素晴らしいと思いました。

wsc.hatenablog.com

性的マイノリティに対する取り組みも様々なものがありました。コロナ下で中止となったブラジルでの大規模プライドパレードをデジタル上で行なったこちらの取り組みや…

wsc.hatenablog.com

同じくブラジルのスタバが行なった、とてもパーソナルで胸を打つこの取り組み。

wsc.hatenablog.com

そして、日本の性的マイノリティが就職で直面する悩みを描いたパンテーンのキャンペーンなど。

wsc.hatenablog.com

かつては私も、性的マイノリティに対しては無知ゆえにステレオタイプで捉えていたことがありました。しかし、上記のような素晴らしい取り組みを知り、学ぶことで徐々に彼らの置かれた立場や気持ちを心から理解できるようになりました。

残念ながらかつての私のような人が、まだまだ世の中にはたくさんいるはずです。来年以降も様々なアイデアが、この社会を少しでもよりインクルーシブなものに進化・発展させていくことを期待していますし、もちろん私も様々な形で微力ながら応援していきたいと思います!

 

未来の兆し5:モノ作りのパラダイムシフト

そして最後は、私が感動した「モノ」について、紹介させていただきます。

こちらは、「ポイ捨て」という環境的にかなりNGな行為を善行にすり変えてしまったインド発の、イノベーティブな蚊取り線香のアイデアです。

wsc.hatenablog.com

もうひとつ、こちらは世界最大級のパイナップル生産会社Doleによる、サステナビリティ活動の模範解答のような取り組みです。

wsc.hatenablog.com

前者は、「パッケージ=捨てるもの」という思い込みを捨てることでこのようなアイデアに辿り着いてますし、後者は、新素材の普及のために活動していた、食品業界とは全く関係のない人物とのコラボレーションにより、「サステナブルな新素材」という素晴らしいソリューションにたどり着くことができたようです。

技術も社会も、こんなスピードで変革している時代は過去にもありません。暮らしに仕事に、そして全てに。昨日と同じものは何一つないのだという精神で日々新たに、あらゆるプロセスを思い込みなしに見つめ、ゼロから考え直してみるという「熱狂的遊び」の精神がこれからの時代を動かす人たちの核となっていくのだと感じました。

 

 ・     ・     ・

以上、いかがでしたでしょうか?

この記事を書き始めたときは昨年と同様、「今年のベスト5」を選ぼうと思っていたのですが、今年のアイデアを全部見返した後に感じたのが「あ、もうランクづけとかやってる時代じゃかも…」ということでした。

デジタル技術の発展と普及が今、モノの大小や時間の過去、未来の概念を急速に弱体化させています。私たちが今、足を踏み入れているのはものすごく小さな取り組みが世界を大きく動かしたり、過去の発想を今の技術でトライすることで、いくらでも別の答えが導けてしまう世界です。

そんな時代に一つ一つのアイデアや取り組みの優劣をつけることがどれほどの意味があるのか…と悩みながらまとめた結果が、上の5つの「未来の兆し」です。

どう考えてもカオスなこの時代。タフな世界を泳ぎきるには、クロールの息継ぎのように、週に一度ぐらいは水面から顔を出し、世界の潮流をインプットしておくことが大切だと思います。

そしてそんな時に、この小さなブログの更新が、来年以降もこの世界の、どこかの誰かのお役に立てればと願っています。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!それでは皆さん、また来年!

 

 

【関連記事】

wsc.hatenablog.com

wsc.hatenablog.com

黒人の子供たちを砂糖の過剰摂取から守ったアメリカのキャンペーン【カンヌ2022より】

UnsplashのMyriam Zillesが撮影した写真

カギはユニークなオリジナル・キャラクターの活用

日本はキャラクター大国だといわれることがあります。確かにご当地ゆるキャラからさまざまなブランドのマスコットまで、その種類は豊富であり、おそらくひとつのキャラクターも見ずに街を歩く、ということは日本ではほぼ不可能だといえるでしょう。

ただし同時に、キャラクターを作るだけ作って持て余してしまっている組織や自治体も多数あると思います。

街に溢れるさまざまなキャラクターたちを見るにつけ、ただ「周りが作っているから」という理由で、何でもかんでもキャラクター化してしまえば良い、というものでもなさそうです。心を込めて開発したキャラクターにきちんとその効果(=作った目的の実現)を発揮してもらうためには、やはり彼・彼女たちを支える独自で力強いメッセージやコンセプト、そしてインサイトが不可欠です。

ということで今回は、米国の黒人系市民団体Hip Hop Public Healthが子どもたちを砂糖の過剰摂取から守るために取り組んだ、ユニークなキャラクターを活用したアイデアをご紹介します。

ちなみにこちら「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022にて、非営利団体によるヘルスケア分野の取り組みでその年ベストのものに与えられるGrand Prix for Good Healthを獲得したのをはじめ、Health & Wellness部門でゴールドを受賞するなど、高い評価を獲得したキャンペーンになります。それでは以下の紹介ビデオをご覧ください。

「Lil Sugar -Master of Disguise / 変装の名人リル・シュガー

vimeo.com

【雑和訳】

画面の中の男性「砂糖の過剰摂取は今、公衆の健康危機を招いています」/ 画面の中の女性「健康な食品へのアクセスは、人種と健康に関する、公正さに関わる問題です」/ 画面の中の男性(オラジデ・ウィリアムズ博士・Hip Hop Public Health創設者・コロンビア大学神経学教授兼スタッフ長)「私たちは、これらの不公正さに光を当て、私たちの子供たちに伝える必要があります。砂糖が添加されている食品は山ほどありますが、気づいている人は少ないでしょう。何故なら企業がそれを”砂糖”と記述することをやめているからです」/

チャックD(Public Enemy)「マルトース(Maltose)!」/ ダグ・E・フレッシュ(The Human Beat Box)「デクストロース(Dextrose)!」/ ダリル・マクダニエルズ(RUN D.M.C)「マルトロデクストリン(Maltodextrin)!」/ 男性たち「これらは全部、砂糖、砂糖、全部砂糖なんだ」/

オラジデ博士「砂糖には150種類もの別名があるのです。そもそも、どうしたらこんなものと戦うことができるのでしょうか?言いましょう。我々は、これらの”隠れ砂糖”をすべて、白日の元に晒すことにしたのです」/

タイトル画面:リル(Littleの略語)・シュガー 変装の名人 /

ナレーション:ヒップポップ界のレジェンド、 ダリル・マクダニエルズと影響力を持つRUN D.M.C(による) / 文字「ミュージックビデオ」/

♪ ”そうさお前を蝕むために、お前の体に忍び込むんだ 次々と名前を変えて そう俺はスーパースターのマルトース ナッツやミルクに潜んでいるから気をつけな” /

ナレーション:ヒップホップのミュージックビデオで子供たちの関心を栄養に向けると同時に、リル・シュガーのアプリはゲーミングを使い、子供たちを砂糖の専門家にすることに成功しました。/

カメラをあらゆる食品の成分表示欄に向けるだけで、そこに潜む”変装した砂糖”のキャラクターを見つけることができ、それらを集めることで、子供たちは友達と戦ったり、ポイントを稼ぐことができるのです。いわば公衆の健康のためのポケモンGoのようなものだといえるでしょう。/

そしてリル・シュガーの絵本は子どもたちに、親子でともに学ぶ後押しとなりました。/

このキャンペーンはヒップホップの巨匠たちからの応援を受け、地域でのイベントや全国規模の学校でのカリキュラムなどを通じて、すでに何百万人もの子供たちに届いています。/

オラジデ博士「人々はいつも黒人たちの命がいかに大切かを主張しますが、これらの(食品に関する知識の)不均衡を解消しない限り、そして早すぎる死の波を押し返さない限り、デモ行進などをしても意味がないものとなってしまうことでしょう。具体的なアクションが必要で、そしてそれこそが、Hip Hop Public Healthとリル・シュガーのすべてなのです」/

ダグ・E・フレッシュ「リル・シュガー。俺たちはもう騙されないぜ」/ ダリル・マクダニエルズ「気をつけろよ。落とし前をつけてやるからな!」/ チャックD「お前こそがナンバーワンのPublic Enemy(公衆の敵)だ!」/

文字:「リル・シュガー 変装の名人」/ロゴ:Hip Hop Public Health

 

この取り組みが単なる”キャラもの”に終わらなかったワケ

いかがでしたでしょうか?最後のチャックDの一言が痺れますね。これでリル・シュガーはPublic Enemy公認のPublic Enemy(公共の敵)となりました。

そして紹介ビデオの中で触れられたミュージックビデオの全編が以下になります。ヘルスケアのコンテンツとは思えない完成度の高さで、私も楽しく最後まで見てしまいました。。。

youtu.be

【雑和訳】最後のナレーション:砂糖はさまざまに名を変えて潜んでいます。「シュガー・リル」のアプリをダウンロードして、彼らの正体を暴きましょう。

 

アプリのアイデアも面白いですよね。

ただし、このキャンペーンがこれほどまでに受け入れられた根本の理由は、ミュージックビデオの格好良さでも、アプリの仕組みの巧みさでもありません(もちろんそれらもとても大事なのですが)。

このキャンペーンの鍵は「砂糖はさまざまな名前に変装して、我々が毎日食べている食品の中に潜んでいる」という事実の強さです。

それがあるからこそ、人々はもっと知りたいと思い→ビデオやアプリを体験するし、→結果日頃の生活を改めようと考える、という順番です。

日頃、人々の興味を惹くアイデアもなくビデオやアプリをやたらと作り込んでいるキャンペーンを見かけますが、そういったものは上の順番を守っていない(=人間の心理の原理を無視している)ので成功しません。

何故ならそれは、エンジンもつけずに翼をあべこべに張って「飛ばない!」と叫んでいる飛行機のエンジニアのようなものだからです。

何億もかけたあべこべな飛行機よりも、1枚5円の折り紙で作った、空力の原理に則った紙飛行機の方が飛びます。飛行のコンテストでは勝てる可能性があるのです。

それが私がアイデアを愛している理由であり、その分析・探求をやめられない理由です。

 

…ということで、

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

PS. キャラものの名作キャンペーンとして、以下の過去記事を貼っておきます。こちらも何が人の心を掴んでいるのか、分析してみると学びになると思います。

wsc.hatenablog.com

人工音声の味気ない生成過程を、病に悩む人たちへの良い機会に変えたアイデア【カンヌ2022より】

UnsplashのWill Francisが撮影した写真

大手企業たちによる、素晴らしいパートナーシップ

皆さん、SDGsの最後の一つ(SDGs17)に「パートナーシップで目的を達成しよう」というものがあるのをご存知でしたか?

今の社会課題は、一握りの大金持ちからの施しや、一つの企業の頑張りで解決できるものではなくなってしまいました。気候変動も、プラごみ問題も、政治家から企業やNPO、そして我々一人一人がそれぞれの価値を持ち寄り、パートナーとして力を合わせることで初めて解決の可能性が見えてくる壮大な課題です。

逆に言えば、パートナーシップにはそれだけの可能性があるのだ、とも言えるのではないでしょうか?

ということで今回は、ロールスロイスNPOとパートナーシップで課題に取り組むことで、難病に悩む人たちの心を救った、Dellintelによる素晴らしいアイデアをご紹介します。

体の自由が徐々に失われ、いつ声を失うかわからない難病「運動ニューロン疾患(Motor Neuron Disease / MND)」を抱える人々は、まだ症状が軽いうちに自分の声のデータをアップロード(ボイスバンキング)して、自分の声に近い人工音声を生成する選択肢がありますが、その生成過程があまりに面倒で時間がかかるもののため、その選択肢を逃してしまう人々が多数いたそうです。

そんな状況を変えるために、上述の大企業たちはパートナーシップを通じ、どんなアイデアを編み出したのか?以下の紹介ムービーを、和訳を参考しつつご覧ください。

(ちなみにこちら、「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022、ファーマ部門でのグランプリをはじめ、エクスペリエンス&アクティベーション部門やラジオ&オーディオ部門でゴールドを獲得するなど、高い評価を獲得した取り組みとなります。)

「I Will Always Be Me / 私はずっと私

youtu.be

【雑和訳】

スチュアート・モス - Rolls-Royce、IT イノベーション責任者「私の父は2013年に運動ニューロン疾患と診断されました。クリスマスまでに彼は歩けなくなり、イースターまでには話せなくなりました。運動ニューロン疾患を持つほとんどの人は、話す能力を失います。独房にいるようなものです。 あなたは自分の体に閉じ込められてしまいます」

リチャード・ケイブ - 言語療法士、MND協会「運動ニューロン疾患(MND)を患うほぼ全員が声を失います。 難しいのは、それがいつになるのか、誰もわからないことです。 ボイスバンキングは、誰かの自然な声の合成近似を作成する方法です。 通信デバイスにロードして入力します」

スチュアート・モス「運動ニューロン疾患にかかっていることがわかったとき、おそらく最もしたくないことは、自分の声を(自分の人工音声を作るために)バンキングすることです」

リチャード・ケーブ「それは平均で3か月かかります。 最低でも 1600 フレーズを録音する必要があります」

スチュアート・モス「『牛が月を飛び越えた』とか、『赤い大型トラック、黄色い大型トラック』とか、そういう意味のないフレーズを読まなければなりません。今まで誰も、そのつらさについて十分に考えてきませんでした」

ニック・ゴルダップ - ケア改善担当ディレクター、MND 協会「2019年、私はスチュアート・モスから電話を受けました。 そして、私たちはもし、彼の業務上のパートナーであるテクノロジーの巨大企業たちとボイスバンキングのプロセスを変革できたらどんなに素晴らしいだろう、と話し合ったのです」

スチュアート・モス「最高のイノベーションは通常、チームワークから生まれます。 そこで私たちはこの課題についてのシンクタンクを立ち上げました」

リズ・マシューズ - Dell Technologies、グローバル ブランド担当上級副社長「私たちは、このプロジェクトに飛びつきました。 テクノロジーの活用で、私たちは人々の生活をどのように変えることができるのでしょうか?」

ラマ・ナッチマン - intelフェロー、intel コーポレーション、ヒューマン & AI システム リサーチ ラボ ディレクター「私たちは人間の経験全体について考える必要があります。 実際のところ、どのようにすれば(この仕組みが)もっととっつきやすくなるのでしょうか?」

リチャード・ケーブ「ボイスバンキングは変化しています。 問題は、テクノロジーについて心配することなく、人々が自分の声をバンキングする方法をどのように見つけることができるか、ということです」

スチュアート・モス「私たちが全体的にやりたかったことは、全体のプロセスをもっと速くすることでした。 そして、Dellintelが行ったことはさらにその上のレベルでした」

リズ・マシューズ「私たちは、MNDに苦しむ人々が、ボイスバンキングと同時に彼らの物語を周りの人たちにシェアする人ができる本を創る、というアイデアに辿り着きました」

文字要素:I Will Always Be Me -あなたの声を届ける本

リズ・マシューズ「最先端のボイスバンキング テクノロジーを活用するプロジェクトに、ニューヨーク タイムズのベストセラー作家と受賞歴のあるイラストレーターが参加したらどんなに素晴らしいかを想像してみてください」

ニコラス・スティーブンソン - I Will Always Be Meのイラストレータ「(MNDに苦しむ人々の)外面で起きていることと、それとは別に内面で起こっていることを、どのように表現すれば良いのでしょうか?」

ジル・トウィス- I Will Always Be Meの作家
「自分が経験していることを説明する言葉をが見つからない人たちは、(この本を通じて)家族に”すべてが変化していきますが、私はずっと私であり続けます”と伝えることができます」

アリス・スミス - SpeakUniqueのCEO「この本に書かれている内容には、(ボイスバンキングのために)カバーする必要があるすべての異なる音と、すべての異なる音のコンビネーションが含まれています。 声を合成するために必要なものはすべて、物語のテキストに含まれているのです」

MNDの人たちの朗読:”すべてが変化しています” , ”たくさんの医者に診てもらい、たくさんの電話をかけてきました”

ニック・ゴルダップ 「この本は、愛する人に向けて本当は言いたいことを言えずにいた(MNDの)人たちに、それを言うきっかけを与えます」

MNDの人たちの朗読:”以前と同じように動かなくなった”

ニック・ゴルダップ「人々は自分の声を登録しているのだ、という実感も持たずにボイスバンキングを行うことができます。現時点では、他にはこのようなものは存在しません」

MNDの人たちの朗読:”すべてが変化しています。 しかし、私はずっと私です。 ずっと大好きだよ”

ラマ・ナックマン「このプロジェクトの素晴らしい点は、(これまでとは違い、ストーリーの朗読という)人々にとって非常に自然なことをしてもらい、その過程でその声を十分にキャプチャして、それを再現できるようにしていることです」

アリス・スミス「この本を読む過程を通じ、人々はさまざまな感情を引き出されます。 デリケートな部分やユーモア、そしていくつかの質問を読んでもらうことで、合成音声による自分の声が、より自然に、感情豊かに再現されることになります」

再生された人工音声:「私はI Will Always Be Meを読んでボイスバンキングをしました」

リチャード・ケーブ「このプロジェクトは、ボイスバンキングがアイデンティティに関わるものであることを認識しています」

ラマ・ナックマン「どの開発組織もある程度の革新性を持っているものです。ただし私たちは(これまでよりも)ずっと 短時間で、ずっと多くの成果を上げることができるのです

スチュアート・モス「ボイスバンキングが間もなく体験できる…などと私たちがこうした場で発言するようになるなんて、誰が思ったでしょうか? しかも今、あなたは最も近くて最愛の人に対してそれを行うことができるのです」

リチャード・ケーブ「何のためにテクノロジーを使うのか? と言われたら、このためだ、ということでしょう」

ニック・ゴルダップ「私たちがこのようなものにたどり着くなんて、私にとっては夢の範囲を超えています」

スチュアート・モス「私たちが始めたことを活かすことができれば、世界は変わる可能性があります」

文字要素:I will always be me -あなたの声を届ける本 〜デル テクノロジーズとインテル

素晴らしい取り組みが生み出した、素晴らしい結果

いかがでしたでしょうか?ちなみにこの本を朗読するのに必要な時間は30分ほど。自分の人工音声を作るのにそれまで3ヶ月かかっていたことを思えば、この試みの素晴らしさがさらに際立つと思います(逆に言えば、それまでいかに患者たちのニーズが無視されてきたかの裏返しでもあるのですが)。

この4分半のムービーの中には本当にさまざまな組織からの、さまざまな人たちが登場し、それぞれの想いを語っていましたよね。(和訳中はどのコメントを誰が話しているのか、それを見分けるだけでも大変でした…)

そしてこの、素晴らしい人々による、素晴らしい取り組みは以下の素晴らしい結果を呼び込みました。

・ローンチ後、2ヶ月も経たぬ間にこの取り組みは英国で最も人気のあるボイスバンキング方法に

・この取り組み前、ボイスバンキングをする英国のMND患者は12%しかいなかったが、最近MNDだと診断された患者の実に72%がこの本を使い、ボイスバンキングを行なっている

この取り組み、企業や組織の枠を超えたパートナーシップを通じて私たちが世界に対してできることを教えてくれる、実に模範的な事例だと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!