デジタル時代だからこそ出てきた新聞の”価値”
全てがデジタル化していく中、新聞にはリアルな紙を使っている、というユニークさを持っています。
私も野菜を保存するときや、濡れた靴を乾かしたい時など、読み終えた新聞紙をありがたく活用させていただいておりますが、今回は権威に対するチェック&バランス機能の砦としての新聞の価値と、リアルな「紙」や「インク」を使っている、という物質的な新聞の価値の双方を見事に活用することで自国の民主主義を救った、レバノンの新聞社による素晴らしいアイデアをご紹介します。
この取り組み、カンヌライオンズ2022のプリント&パブリッシング部門でグランプリ、ダイレクト部門で金賞を受賞するなど高い評価を得たアイデアです。詳しくはぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。
「The Elections Edition / Annahar新聞・選挙特集号」
【雑和訳】ナレーション: レバノンは腐敗しています。/ TVのアンカーマン「一般のレバノン市民が置かれた状況の酷さは生活の至る所に顕著に表れています」/
ナレーション:石油もなし。ネットもなし。電気もなし。食料も、薬も。しかし2022年に迫った選挙は、事態の沈静化を望む市民たちの微かな希望でした。しかし現政権は権力の維持を望み、選挙の延期を行うための言い訳を唱え続けてきました。その言い訳とは、選挙を行うための紙やインクが不足している、というもの。/
政治家「(選挙には)ペン、文房具、そしてインクも必要です。それらは何処から供給されるのですか?」/
ナレーション:そこで民主主義を守るべく、人々のための新聞Annaharは、人々が待ち望んでいた2022年選挙のための特集号を「印刷せずに」発行しました。…代わりにAnnaharは、特集号のための紙とインクを、投票用紙を印刷するために寄附したのです。/
アンカーマン「Annaharは私たちの投票が歴史に刻まれるよう、新聞を印刷しませんでした。新聞は発行されず、代わりにこの日の新聞に使われるはずだった紙とインクは、2022年の選挙に必要な物資として活用されるそうです」/アンカーウーマン「今回の選挙はなんとしても実施されなければなりません」/
ナレーション:2月2日、レバノンのすべての新聞販売スタンドでは、(Annaharの)新聞紙がない空のスペースに、私たちの狙いを伝えるメッセージと、オンライン版新聞へのリンクが示されました。トラックは、その日の発行に使われる分の紙とインクを、政府の提携プリント業者に運搬。この(オンラインでしか)存在しない特集号はバイラルに拡散しました。私たちは、選挙の実施を確実なものとするためのムーヴメントに火をつけることに成功したのです。/
(*いくつかのSNS上のコメントや、メディアの反響の引用記事が入る)/
ナレーション:プライベートなニュースメディアやリサイクル会社もこのムーヴメントをサポート。/ 廃棄物管理団体のメンバー・Marieさん「我々は、自分たちが持つあらゆるリソースを通じてこのムーヴメントを支援します。この選挙は予定通りに行われなければいけません」/
ナレーション:そして選挙の候補者までもがこのムーヴメントに名乗りを上げました。Annaharは、真の変化を期待するレバノンの人々の間に希望を復活させたのです。プリントしない新聞により、私たちは紙やインクを節約しただけではありません。私たちは民主主義を救ったのです。/
ナレーション:結果、レバノンの選挙は予定通り行われることになりました。そして、政府も投票用紙に必要な紙やインクの不足を言わなくなりました。/
文字:選挙特集号は、選挙を生かすための身代わりとなったのである/
紙名ロゴ:Annahar
メディアの使命を果たさない、という使命の果たし方が見事
いかがでしたでしょうか?最近のカンヌライオンズではソリューションのスケールがより重視され、このアイデアのような「とんち」がピリリと効いたアイデアを見ることが少なくなってきている気がするのですが、今回この新聞社が取り組んだ「民主主義を守る」という大使命を果たすためにあえて、新聞社の使命である新聞を発行「しない」というとんち回しは素晴らしいな、と思いました。
さらにこのアイデアが素晴らしいのは、上の翻訳ではあえて飛ばしましたがこの号のデジタル版が、(デジタル版として)最も読まれた号となったこと、Twitterのトレンドに登ったこと、1200万ドル分のアーンドメディア露出を果たしたこと、などを通じて、これまで紙の新聞に触れたことのない若い人たちにも大きなプロモーション効果を果たしたと推測されるところです。
そして勿論、リサイクル団体などとコラボをすることで、選挙のために必要な紙とインクを実際に集めきった、という点も、大いに評価されるべきところだと思います。
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!