世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

女性のDV被害を防ぐために、ドラマを活用したチョコレートブランドのキャンペーン【カンヌ2022より】

UnsplashのNadine Shaabanaが撮影した写真

女性史月間の3月をスルーしてしまいました

バタバタしているうちに4月になってしまいました。今回のトピックを考えていたときに、ふと3月が女性史月間だったことを思い出し、「しまった!」と思いつつ今回はこのテーマに関連するアイデアを紹介しようと思います。

ちなみに女性史月間とは”歴史上の出来事、あるいは現代社会の出来事に対して女性が行った貢献に焦点を当てると定められた月間のこと”です(Wikipediaより)。3月8日の国際女性デーと合わせて、その起源と背景については以下の記事が参考になると思います。

front-row.jp

日本でも徐々にその認知は上がってきていて、合わせて女性の社会進出に対する声援も大きくなってきてはおりますが、過去の記事でも何度か触れた通り、日本社会における男女格差はいまだに大きく(ジェンダー・ギャップ指数2022では先進国中最低となる146カ国中116位)、一刻も早くその解消が求められています。

そして今回取り上げる「女性に対するDV問題」は日本でも、年間の相談件数がここ数年では15万件を超えるなど、かなり深刻な問題のひとつです。内閣府のウェブサイトでも、その理由として「夫が妻に暴力を振るうのはある程度は仕方がないといった社会通念、妻に収入がない場合が多いといった男女の経済的格差など、個人の問題として片付けられないような構造的問題も大きく関係しています」とあります。

いまだにそんな社会通念があること自体受け入れ難いですが、今回は日本社会からDVが根絶されることを願って、チョコレートブランドのLactaがギリシアで行った、DVによる女性嫌悪殺人(女性であることを理由にした殺人、以下フェミサイド)を減らすための試みをご紹介します。

こちら、クリエイティビティの祭典カンヌライオンズ2022で女性の地位向上に資するアイデアを評価する「グラス部門」の金賞を受賞したキャンペーンになります。それでは早速、その解説ムービーをご覧ください。

「Don`t Ever Leave Me / 私を離れないで」

youtu.be【雑和訳】文字:2021年7月、ギリシア / 26歳のGaryfalliaさんは、彼氏に崖から突き落とされて殺害された /

ニュースキャスターA「フェミサイドにより、恋人に殺された女性たちの長いリストにまた新たな名が刻まれてしまいました」 / ニュースキャスターB「彼女はここ10ヶ月で13人目の犠牲者です」/

ナレーション:フェミサイドが続発する社会においては… / TV番組の司会者「2021年、ギリシアでは18件のフェミサイドが発生しました。これは2020年の50%増になります」/ ナレーション:女性は見せかけの愛に騙され、虐待を受ける関係へとはまり込んでしまいます /

被害者の友人「彼らはとても幸せなカップルだった、ということは強調しておきたいです」/ ナレーション:ブランディングの一環として、これまで様々な愛を(ドラマ仕立ての)エンタメとして描いてきたチョコレートブランドのLactaは今回、何が愛”ではない”のか、について描くことを選択しました /

「私を離れないで」はギリシアの夏の太陽の下、ありふれた恋愛で始まるオンラインドラマ / 劇中の彼氏「僕のものになってほしい。僕だけのものに」/ ナレーション:しかしすぐに、愛だと思っていたものが、所有欲を示す兆候に変わっていきます / そしてストーリーは陰惨なものへと移り変わり… / フィナーレは実際の事件に基づいた、悲劇的なものになります  / 彼氏「こっちに来いよ。別れさせてやるよ!」/ (崖から突き落とされた女性の悲鳴) /

ナレーション:このドラマは女性たちに、手遅れになる前に(異性との)有害な関係から早く逃れるよう促しました / 文字要素(ドラマのタイトルに副題が入る):「私を離れないで - なぜならあなたを傷つけたいから」/

識者「Lactaは本当に素晴らしいショートフィルムを作ったと思います」/ コメンテーター「これはいわゆる恋愛ドラマをひっくり返した、愛のない恋愛ドラマです」/ TVの司会者「ゾッとします。身の毛もよだちます」/ アンカーウーマン「この問題は国中を巻き込んだ議論となっています」/

ナレーション:このキャンペーンは、ギリシア社会に必要とされていた議論を巻き起こした / 文字要素:10日間、YouTubeのトレンドで第1位に/ 識者「愛の中に暴力は存在し得ないのです」/ 文字要素:700万のインターネットユーザーを持つ国で、120万のオーガニックビューを獲得 / 女性司会者「多くの視聴者の心を動かし、バズったのです」/ 文字要素:教育者により、学校でも上映された / 

ナレーション:しかし何より大切なことは、NGOとの協力で何百人もの女性たちを救ったことです / NGOの女性「(このキャンペーンにより)たとえ1人でも、女性が救いの声をあげたのだとしたら、私たちは目的を達成したといえるでしょう」/

文字要素:家庭内暴力に耐える女性たちからの救援の要請が8倍に /  虐待のサインを見分けるためのウェブサイトへのアクセスは650%上昇 / 真実の愛はあなたの権利で、私たちはそれを守るためにここにいます / (LactaとNGO団体のロゴマーク入る)

なぜチョコレートブランドが?

このキャンペーン、素晴らしいものだと思いますが、なぜチョコレートブランドがこれをする必要があったのでしょうか? 日本のチョコレートブランドがこのようなキャンペーンをしたら、自分たちはどう感じるでしょうか?

日本だとチョコレートを食べるときに、陰惨なDVのことなど思い出したくない、というのが多くの人々の本音でしょうし、私も正直、そう考える人間の1人です。

(さらにチョコレートとDVの因果関係が希薄なため、なぜわざわざチョコレートがそこまで言うのか、ということも頭をよぎります。)

Nikeのキャパニックを使ったキャンペーン然り、世界のブランドは人々の心地よさをある程度犠牲にしてまでもこのような勇敢(または過激?)なメッセージを打ち出すことが、ままあります。

日本のブランドも、世界に打って出るときには同じような勇敢さが必要なのでしょうか?さらには「和をもって尊しとなす」日本社会でも、同じような動きをすべきなのでしょうか?

答えはありませんが、少なくとも易きに流れずその問いを持ち続けることと、そして必要な時には立ち上がる準備が大切なのかな、と思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!