おとなしかった今年のスーパーボウル広告
さる2月13日、アメリカの広告業界が一年の中で最も注目するイベント、スーパーボウルが終了しました。
毎年、そのテレビ中継枠で世界的広告主の数々が大金を使い、(多くはその夜限りの)豪華なテレビCMを打つことで有名なのですが、今年のCMの数々はこちらからご覧いただけます。
今年のCMは総じておとなしめで、昨年までのようにサステナビリティやDEI(ダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平性)・インクルージョン(包摂性))の推進を訴えるような、社会的メッセージを軸とした内容はあまりなく、軽く楽しめるものが多いように感じました。
一方、クルマのブランドは多くがEV(電気自動車)をテーマとしたCMをオンエア。その中の多くは、EVへと切り替えることに対する「ためらい」をなくすための様々なストーリーを展開していました。
今回は、その中からふたつのCMをご紹介いたします。NexflixとコラボしたGM(ゼネラル・モーターズ)の一本と、RAM Trucksによる、EVに対する不安を男性の「性の悩み」になぞらえた、オトナなユーモア広告です。
「Why not an EV? / なぜEVじゃないの?」
【雑和訳】
Will Ferrell「ゼネラル・モーターズはEV化を進めるそうです。そしてNetflixも映画やショーにより多くのEVを登場させることで、それを応援するそうです」/
「ゾンビが群がる中でも?…痛いっ!EV」/ 「誘拐される時も?…EV」/ 「こんな場面でも?…この時代にはないか」/
「ここも違うね」/ Erica(ストレンジャー・シングス内の登場人物)「あなた、ストーリーをめちゃくちゃにしてるわよ。何やってんの?」/ Will Ferrell 「自分もここは違うって言ってるじゃん!」/
女性「あとでね、負け犬!」「また行ったわね」/ Will Ferrell 「でも、さっきの場所以外ならどこに登場してもおかしくないんです」/ 「なんで劇中のもっとたくさんのクルマをEVにしないんでしょうか?」/
ゾンビ化しつつあるWill Ferrell 「それはNetflixが最低限できることです」/
文字要素:(あなたも)EVに、ふさわしいステージを与えましょう。/ ゾンビ化しつつあるWill Ferrell 「お前、やりやがったな。文字通り「殺られ」ちまったわ。ハハハ…」/
企業ロゴ&スローガン:GM & Netflix -みんなで一緒に
「Premature Electrification / 早”漏電”症 」
【雑和訳】
レポーター「EV車の購入にワクワクしているけれど、買っても満足をもたらさないのではないかとご不安ですか?」/ 「だとしたらあなたは、”早漏電症”を危惧する多くのアメリカ人の1人かもしれません」/
「症状の一つは、あなたが望むほど(走りが)持たないのでは、と恐れることです」/ 患者の声「たっぷり充電していたのに、たまに持たなくなってしまうことがあるんだ」/ 患者のパートナー「いつも持たないんです」/ 患者「色々努力はしてるんですが…」/
レポーター「また、必要な積載量を運べるだけのパワーがあるのか」/ 患者2「これを動かせるだけのパワーがあるか自信がないよ…」/ 患者2のパートナー 「私は冒険が好きなので、とことんイキたい派なんですが。イケるかイケないかなんて、そんなことは心配もしたくないんです」/ 患者2「だよね」/ 患者2のパートナー「それが悩みです」/
レポーター「そしてチャージをし続けられないのでは、という自信の喪失」/ 患者3のパートナー「興奮してくるたびに止めなきゃいけないというのが、私にはしっくりこないんです」/「始めて、止めて、始めて、止めて…」/
レポーター「もしPE-早漏電症にお悩みでしたら、RamREV.comにアクセスいただき、満足感を増やすためにデザインされたオプションのついたRamの1500Revが、あなたに合うかを確かめてみてください」/ 企業ロゴ&スローガン:RAM - あなたのために作られた 2024年後半に登場/
患者3のパートナー「止めて、始めて。止めて、始めて…」
来年は社会的メッセージ広告の深化・復活に期待
いかがでしたでしょうか?
これらの広告から、アメリカではすでに「次に買う自動車=EV」という意識が定着していて、そのシェアの取り合いを各ブランドが始めている、ということが伺えます。(ちなみにCM中のURLには2月18日現在、なぜかアクセスできないのですが、RAMの車種に関するサイトはこちらになります)
また、冒頭に「今年のスーパーボウルでは、社会的メッセージを軸とした内容はあまりなかった」とお伝えしましたが、だからといって広告主の興味がこれらの課題から逸れてしまった、と捉えるのは早計だと思います。
SNSなどを通じてあらゆる人が自己発信できるようになった現在、企業はもはや、自社内での具体的なアクションなどの裏付けや実績なく、CM上で環境や人権問題に対する美辞麗句を並べて「逃げ切る」ことは許されなくなりました。
大金をかけてスーパーボウルで美辞麗句を並べた挙句、「このブランドは嘘をついている」と炎上したら企業にとっては一大リスクです。あくまでも仮説ですがひょっとすると、今年のスーパーボウルではそこに踏み切れるほど、これらの課題を語るに足る裏付けや実績があり、そしてそれを堂々と発信する勇気がある広告主がいなかったのかもしれません。
世界的な動向を見るに、今後はそういった裏付けや実績を持つ広告主が増えることはあっても、減ることはないと思われます。
来年以降のスーパーボウルでは自社の真摯な取り組みと、その企業理念に根差した、より洞察力に磨きをかけた社会的メッセージを各企業が打ち出してくれるといいなと願っていますし、実際にそうなるのでは、と期待しています。
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!
おまけ・リアーナさんのハーフタイムショーなど
また、今回のハーフタイムショーで素晴らしいステージパフォーマンスを魅せつけたリアーナさんの動画へのリンクを→こちらにつけておきますね!
女性の活躍の可能性を広げるために、妊婦でも本人が希望すればここまでできる、ということを自分自身のパフォーマンスで証明しているのが素晴らしいと思いました(ひょっとしたら、今年のスーパーボウルで一番の社会的メッセージの発信だったかもしれません)。
そして、以下に本ブログにおける、昨年までのスーパーボウル関連記事へのリンクを貼っておきます。
いやぁ、やっぱりアイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!(2回目w)