世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

残念なものを見た週末に

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Photo by Cameron Smith on Unsplash

2021年の年明けは、民主主義を旗印に発展してきた超大国のリーダーが、その根幹をなす自国議会への攻撃を扇動し、実施するという残念な場面から始まりました。時代に応じて常識は変わるものだし、常に民主主義が最善だとは言い切れませんが、どんな社会であれ「立場の異なる人たちに耳を傾ける」という態度を失った瞬間、人は破壊へと突き動かされるものなのだ、ということを改めて感じる出来事でした。

そこで今回は、自分自身の心理的ダメージの治癒も兼ねて、もう一度人類への希望を感じることができる「平和的な行進」の過去事例を2つ、取り上げようと思います。

 

言葉の力を信じさせてくれる「ワシントン大行進」

そのひとつ目が1963年8月28日に、アメリカのワシントンD.C.で行われた「ワシントン大行進」。まずはそれをまとめたビデオをざっとご覧いただき、今回の事件との違いを「心で」感じていただければと思います。

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こちら、アフリカ系アメリカ人公民権運動において最も象徴的なイベントですが、全米から集まった黒人と、この運動を応援する白人たちが平和裡に行ったことでも有名です。そしてこの行進を象徴するのが、キング牧師による有名な「I have a Dream」で始まる演説です。以下、Wikipediaの和訳*から転載します。

「私は夢見ている。ある日、ジョージアの赤土の丘の上で、以前の奴隷の息子達と以前の奴隷所有者の息子達が、兄弟愛というテーブルにともに就き得ることを。私は夢見ている。ある日、不正と抑圧という熱で苦しんでいる不毛の州、ミシシッピーでさえ、自由と正義というオアシスに変わることを。私は夢見ている。私の4人の子ども達がある日、肌の色ではなく人物の内容によって判断される国に住むことを。」

このように、平和裡に行われる運動には必ず、聞く人の想像力を建設的な方向に導く言葉があります。「もし黒人と白人が力を合わせたら、何ができるだろう」そんな希望に満ちた人々の瞳の輝きが、上のムービーからも感じられるのではないでしょうか?

今回の事件で使われ続けてきた、人々から考える力を奪ってしまう怒りと嘲りに満ちた言葉と比べてみると、その違いは明らかだと思います。

 

行動の力を信じさせてくれる「塩の行進」

ふたつ目が1930年3月12日からマハトマ・ガンディーが行った「塩の行進」。当時、イギリス植民地政府によるインドの統治に不満を持つ活動家たちに「独立運動のトップに立ってほしい」と依頼されたガンディーは悩みます。これまでの経験から、そうした運動は必ず暴力に行きついてしまうことを知っていたからです。それから1ヶ月半悩んだガンディーの答えは…YesでもNoでもなく「私は海岸まで歩いていって、塩を作ろうと思う」というものでした。海岸線目指して歩くガンディーと、その仲間たちの様子が映像で残っていますのでご覧ください。

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 ご覧の通り、たくさんの人がガンディーについていっているのがわかると思います。しかしなぜ「塩」だったのでしょうか?実は当時、植民地政府はインドの人々が「塩を作る」権利を奪っていて、インドの人々は生活に不可欠な塩ですら、わざわざ植民地政府から買わなければならなかったのです。

当時、字を書ける人も、書けない人も「塩ですら自分の意思で作れない」という状況には共通して腹ただしい思いを抱いていました。いわば塩は、信じている宗教や自分の身分、政治的思惑などを超え、インドの人々が共通して立ち上がれる「お題」だったのです。そこに目をつけたガンディーは、植民地政府への抗議の手段として「一緒に歩く」という、これまた宗教や政治と関係のない、最もシンプルな行為と組み合わせることでインドの万人が「平和的に参加できる」座組みのイベントを考案し、実施したわけです。

その後の話は歴史が証明していることですが、コミュニケーション・デザイナーの端くれとして、この事例は20世紀最高かつ、最善のPRキャンペーンだったと確信しています。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?先人たちが成し遂げたこれらの偉業を見ることで、残念なものを見た皆様の気持ちが、少しでも明るくなったら幸いです。

キング牧師による言葉の力と、ガンディーの行動の力。これらを規範におたがい「よりよく生きる」ための可能性を、アイデアの力で平和的に、皆さんと切り開いていければと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!