世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

同業者の命を守るために復活した「死んだはずのジャーナリスト」

Photo by The Climate Reality Project on Unsplash

ディープフェイク技術を見事に活用

さて、世界的クリエイティビティの祭典カンヌライオンズ2022まであと3週間。ということで昨年の受賞作をできるだけ記録に残すべく、今週もご紹介を続けてまいります。

昨年のカンヌライオンズでGrand Prix for Good(ソーシャルグッドな取り組みの中でのグランプリ)を受賞した、メキシコ発のアイデアです。

デジタルデータを活用することで、本物と見紛うリアルなアイコラ動画を作るディープフェイク技術。この技術を使って例えば、過去のスターを蘇らせる…というような取り組みは多いですが、このアイデアはその技術をメキシコ特有の社会的文脈と組み合わせることで、見事にそのインパクトを倍増させています。

ぜひ、以下の紹介ビデオをご覧ください。

「# StillSpeakingUp DeepTruth: #告発は続く/ ディープな真実」

youtu.be

【雑和訳】文字スーパー:ジャーナリスト ハビエル・バルデス 2016年10月 /ハビエル「メキシコの大部分の地域では、違法薬物のカルテルが跋扈しています。もちろん怖いですよ」

文字スーパー:2017年5月 /レポーター「作家でジャーナリストのハビエル・バルデスさんが殺害されました」「世界中あらゆる国の中で、ジャーナリストにとって一番危険な国は、暴力が日常と化しているアフガンでも、イラクでもなく、メキシコです」

文字スーパー:2020年の死者の日ーメキシコで死者が蘇るとされる1日ー /キャスター「ハビエル・バルデスさんが殺害されてから3年経ちました。そして今日、彼は蘇りました」

ハビエル・バルデスさん「アンドレアス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領、2017年の5月15日、私は殺されました。私の出版物を快く思わなかった、誰かの指示によって。…でもとにかく私はご覧の通りここにいて、あなたに話しかけています」

タイトル:# StillSpeakingUp(#告発は続く) 

文字スーパー:恐れを知らず、告発できるメキシコでただ1人のジャーナリスト…それは、死者。 

メキシコ大統領「あなたがたは良いジャーナリストであるだけでなく、とても用心深い人たちのはずです。なぜなら、度を越したら何が起こるか…わかりますよね?何が起こりうるか」 

ハビエル・バルデスさん「大統領、私は全く恐れませんよ。私を2度殺せる人なんていないのですから」

文字スーパー:私たちはディープフェイク技術をディープな真実のために活用した。そして、ジャーナリストたちを守るための政策に取り組むよう、政府に嘆願したのだ。

文字スーパー:オーガニックなメディア露出 - 3億4,900万インプレッション

メディアの人々「このキャンペーンには本当に体が震えました。革命的な出来事だと思います」「殺害されたジャーナリストは永遠に記憶されるでしょう。我々は正義を追い求め続けなければなりません」

文字スーパー:メディアからのプレッシャーにより、初めて6人の殺人者が有罪判決を受けた。

メディアの人々「これらの(殺害された)ジャーナリストたちは今も声を上げ続けています!」

ハビエル・バルデスのツイート "この捜査は市長が麻薬組織に便宜を図っていることを証明している #告発は続く"

ミロスラヴァ・ブリーチのツイート ”ナルコ・カルテルの違法活動にチワワ市長のファン・コルテスも関与 #告発は続く"

文字スーパー:”#告発は続く”、それは、ジャーナリストが死者のアイデンティティを使うことで、安全に告発ができるプラットフォーム。

ハビエル・バルデスさん「彼らが我々を黙らせようとしても、私は告発し続けます」

文字スーパー:#告発は続く ディープな真実

技術は道具、どう使うかにミソがある

いかがでしたでしょうか?ディープフェイク技術を使って死者を蘇らせる、というのはおそらく誰にでも思いつくようなアイデアなのですが、それをメキシコの人々にとって大事な「死者の日」と絡め合わせることでこのキャンペーンは俄然注目を浴び、メキシコ社会に大きなインパクトを起こすことに成功しました。

(推論ですが日本でいうと「お盆の日にあの人が帰ってきた…」という感覚に近いのかもしれません…?)

技術の進歩のおかげでやれディープフェイクだ、VRだとブームを呼ぶような仕掛けはこの世から尽きることはありませんが、結局技術は道具に過ぎず、それにどんなメッセージや社会的文脈を組み合わせることで無関心な人々を振り向かせるのか?

まさにその部分こそが人類特有のスキル、クリエイティビティの腕の見せ所なのだ、ということを思い出させてくれる、素晴らしいソーシャルキャンペーンでした。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

女の子”らしさ”のおかしさに世界を気づかせた2010年代のベストキャンペーン

Photo by Caroline Hernandez on Unsplash

 

無意識レベルにまで染み込んだ女性への偏見の”可視化”に成功

先日、世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズが6月末に行われるのを前にブログの過去記事を眺めていたのですが、本日ご紹介するキャンペーンを今まで取り上げて来なかったことに気づき、慌ててこの記事をまとめています。

女性に関するステレオタイプの押し付けに対する社会の風当たりはここ数年、とても強くなってきていると感じますが、今回は2010年代、その世界的な潮流が形成される過程で、人々にかなりの影響を与えたキャンペーンです。

…と、ここで一旦余談になりますが、2000年代までは、カンヌも男女のステレオタイプに根ざした以下のようなキャンペーンを高く評価していました。


www.youtube.com

これは2006年のムービーです。今見ると完全にアウトですが、この時代と現在との間で、広告におけるステレオタイプの扱い方に対する前提がひっくり返るきっかけの一つとなったのが、これからご紹介する作品となります。

P&Gの生理用品ブランドAlways(日本のウィスパーに相当)によるムービーで、2015年のカンヌライオンズでPR部門のグランプリをはじめ、主要な部門でゴールドを多数獲得しました。それではご覧ください。

「#LIKEAGIRL : #女の子みたいに」

youtu.be

【雑和訳】文字スーパー:”女の子みたく動いてみて?”と言われたら、人はどう反応するのか?

監督「やぁ、エリンさん。では、私が今から指示を出すので、頭に浮かんだままにその指示に反応してみてください」「…では、女の子みたいに走ってみてください」被験者のひとり「あら、髪の毛が!」

監督「では、女の子みたいに戦ってみてください」「…では、女の子みたいに投げてみてください」

文字スーパー:私たちは実際の女の子たちに、同じ質問をしてみました。女の子「私はダコタです。10歳です」

監督「では、女の子みたいに走ってみてください」監督「では、女の子みたいに投げてみてください」監督「では、女の子みたいに戦ってみてください」

監督「私が女の子みたいに走って、と言った時どう思いましたか?」女の子「できるだけ早く走って、という意味だと思いました」

文字スーパー:いつから、「女の子みたい」に何かをすることが嘲笑の的になるのだろう?

監督「つまりあなたは今、あなたの妹を馬鹿にしたのだと思いますか?」少年「まさか!女の子を馬鹿にはしたけど、妹は馬鹿にしないよ」

監督「女の子みたい、っていい事だと思いますか?」 女の子「実際いいことかどうかはよく分からないんだけど、なんだか悪いことのように感じます。なんか、誰かをからかっているのかな、という風に聞こえます

文字スーパー:女の子の自信は、思春期の間に大きく損なわれる。…Alwaysは、この現状を変えたい。

監督「女の子が10歳から12歳の間の繊細な時期に、もし誰かがからかうために”女の子みたい”という言葉を使ったら、どんな影響を彼女たちに与えると思いますか?」

成人女性「確実に彼女たちの自己肯定力を落としてしまうと思います。確実に落ち込むと思いますよ、彼女たち自身があれこれ考え始める時期に「女の子みたいに叩くね」なんて言われたら、自分自身は強いと思っているのに「え?どういうこと?」と思いますよね。それは彼女たちが弱い、と言っているようなものです。実際はそんなことはないのに」

監督「では、”女の子みたいに走るね”とか”女の子みたいに蹴るね”、”女の子みたいに叩くね”、””女の子みたいに泳ぐね”と言われている女の子たちにどんなアドバイスがありますか?」

成人女性「気にしないで、それでいいんだから。もし誰かが”女の子みたいに走るね”とか”女の子みたいに蹴るね”とか”女の子みたいに打つね”と言ってきても絶対に違うし、それはその人たちの方が問題なんだから。だってあなたがそれで点を取れたり、ボールを時間内に奪えたり、先頭にいたりする限りは、そのやり方でいいんだから。そんな人たちの声は気にしないで。むしろ、”ええ、私は女の子みたいに蹴るし、女の子みたいに泳ぐし、女の子みたいに歩くし、朝も女の子みたいに起きるの。だって女の子なんだから。それは全然恥じることじゃないし、どうであれ私はそのやり方を続けるわ”という態度を貫くべきだと思います」

監督「では今また、”女の子みたいに走ってください”と言ったら、走り方を変えますか?」 成人女性「自分らしく走ります」 監督「では、もう一度やってみますか?」 成人女性「はい」

文字スーパー:#女の子みたいに、という言葉の意味を素晴らしいものにしよう。…ALWAYS.COMに参加して、少女たちの自信を称えよう。

成人女性「なぜ”女の子みたく”走ったらレースに勝てない、なんて思うの?」

文字スーパー: ルールを考え直そう。Always

社会と共に変わるのか、社会自体を変えるのか

いかがでしたでしょうか?社会の動きを巧みにとらえて、メッセージを最適化していくのが2000年代までの広告表現だとすると、2010年以降は今回の#LIKEAGIRLに代表されるようにどんどんと、企業やブランドが自ら信じるところに立ち、人々と共に社会自体をより良く変えていくためのアクションや提言を繰り広げていくことにその主流が移って来ています。

この潮流を踏まえて昨今のカンヌライオンズ受賞作を見ると、日本企業の広告表現が苦戦を続けている理由も見えてくると思います。

*ちなみに冒頭にご紹介したAXEの販売元であるユニリーバの名誉のために言うと、同社も2016年、このような性のステレオタイプに基づく広告表現は今後見直すと公表し、最近では同じ商品による「男性の多様性とその素晴らしさ」を謳った印象的な広告を発表しております。以下に関連記事と、リニューアル後のキャンペーン(Find Your Magic)を添付しておきますね!

chiefmarketer.com

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いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

性的マイノリティの人たちに素敵な”サードプレイス”を提供したスタバのキャンペーン

Photo by TR on Unsplash

自分が自分でいられる場所を、もっと多くの人たちへ

気づけば来月は世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズが行われます。今年もまた、素晴らしいアイデアの数々を世界は目にすることになると思いますが、その前に今回はこのブログでまだ紹介しきれていなかった昨年のカンヌ(カンヌライオンズ2020/2021)受賞作からひとつ、ご紹介しようと思います。

スターバックスが自宅とオフィスの間で、人々に寛ぎを与える場所(サードプレイス)を提供していることは誰もが知るところですが、ではその場所を、よりインクルーシブな場所にするにはどうしたら良いのか?という切り口から考えられたブラジル発のアイデアです。

彼らの視点は店舗の常識をはるかに超えて、一人ひとりの人生に大きな影響を与える活動になりました。ぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「i am : 本当の私へ」

www.youtube.com

【雑和訳】文字スーパー:自分の体やジェンダーを変えられるとしたら、どんな気分か想像してみてください。…だけど、あなたの名前は変えられません。なぜならあなたの法的に認められた本名を変えるには高額の費用がかかり、そのプロセスを含む、さまざまな部分で官僚的な手続きや偏見が立ちはだかるからです。

コメント1「私はいつも身分証を折って持ち歩いているんです。そうすれば誰にも(自分の見た目と名前の不一致に)気づかれることがないので」コメント2「私は単純にあらゆるところから疎外されています。たくさんのことを諦めなければいけませんでした」

文字スーパー:皆様もご存知の通り、スタバではだれもが自由に、自分が使いたい名前を名乗れます。でも、私たちはこの自由を、お客さまがコーヒーを買ったときだけではなく、身分証明証を出さなければならないような、あらゆる場所に広げたいと考えました。”スターバックス提供/ i amキャンペーン” 。

(性的マイノリティの)人々の中には、(名前を変えるために)公証人事務所に行くことに不安を抱く人がいます。なので私たちは彼・彼女たちをいつも歓迎している場所に招くことにしました。

私たちは、スターバックスを公証人事務所にしたのです。私たちは訪れた人にふさわしいホスピタリティとサポートを備えた、完全無料のサポートを行いました。

結果、サンパウロの年間平均変更数の7倍の数の氏名変更届が出されました。

氏名を変えた人1「え、何が起こるのかしら?」(*名前を変えた人々が、次々と箱の中の名前変更証書を確認していく)氏名を変えた人2「この気持ちは表現できないわ。これが、私の名前よ」氏名を変えた人3「これまではいつも体はここにあるのに、魂が入ってないみたいな感じで…それが今は、心と体が一つになった気がします」氏名を変えた人4「なぜなら自分の名前は王座のようなものであり、王冠のようなものなのですから」氏名を変えた人5「これを見ると少しずつ、自分がたどり着きたい場所、所属するべき場所に近づいていっていると感じます」

文字スーパー:そしてこの取り組みは、さまざまな人々の人生に新たな始まりをもたらしました。

(*スターバックスのロゴが映し出されて終了)

自社店舗を役所に変えて、自分らしく生きたい人たちを応援

いかがでしたでしょうか?

性的マイノリティの人たちへの偏見がまだ根強く残っている今の社会では、彼・彼女たちが自分らしい名前を本名として獲得するためには幾十もの乗り越えなければならない壁があります。

でも、自分らしい名前が法的に認められない状況でスタバで時間を過ごしたとしても、その人たちは心からそのひと時を楽しむことができるのでしょうか?

そして、そんな状況が現にあるのだとしたら、それは自分たちが立ち上がり、手を差し伸べるべきではないのか?

そんな、スターバックスの中の人たちの真摯な思いが伝わる取り組みでした。

ちなみのこのアイデアを見て思い出したのが、同じく性的マイノリティの人たちの名前の問題に着目したマスターカードの以下のキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

また、自社の店舗を公的な用途に活用させた、という意味では、自社の店舗を選挙の投票所に変えてしまった以下の取り組みもすごかったよなぁ、と思い出しました。

wsc.hatenablog.com

どの案も斬新で、実施に漕ぎ着けるまでには関係各位との途轍もない交渉と、粘り強さが必要に違いない取り組みです。

イデアを編み出すだけでなく、それを実現させてしまったその執念に敬意を表したいと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

アリかナシか?マレーシアで賛否を巻き起こした生理用品ブランドのチャレンジ

Photo by Amy Shamblen on Unsplash

去年のカンヌで話題になった、Bodyformがまたやった

皆さん、去年6月に行われた「世界的クリエイティビティの祭典」カンヌライオンズを席巻した”子宮の物語”で話題になったBodyformという生理用品ブランドはご存知でしょうか?

wsc.hatenablog.com

こちら、生理や女性器に関するタブーに挑み、それらを破壊していくことで女性の活躍を応援することで知られる世界的ブランドなのですが、マレーシアではLibresseという名前で展開しています。

イスラム教徒が多く、女性が暮らしていく上で制約を感じることも西洋と比べ多いとされるマレーシア。ここでも彼らは、東南アジア地域の伝統的衣装「ケバヤ」の柄を活用した勇敢な取り組みを行いました。

多様な文化が共存するアジアならではの、各地の伝統や風習に根ざしたソリューションを評価するAdfest2022のLotus Roots部門と、アジア太平洋地域のクリエイティビティの祭典、スパイクスアジアのヘルスケア部門グランプリを相次いで受賞した、今年のアジアを代表するアイデアです。

ぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「VULBA KEBAYA: 女性器のケバヤ」

youtu.be

【雑和訳】「国中で話題になった花だ」(Jinnyboy/ マレーシアのYouTubeクリエイター)「人々を勇気づけてくれる美しくて、ゴージャスな花です」(Sivananthi Thanenthiran/ Arrowおよび国連のエグゼクティブ・ディレクター)

ナレーション:マレーシア社会では女性器について根深い偏見があります。(背景に“マレーシア女性の50%が自身の女性器について決して話さないと答えた”、“3人に1人が自分の女性器の形に引け目を感じている”、“56%が生理について話すなら、いじめられた方がマシだと答えた”などの情報が入る。)

その結果、現実の世界にさまざまな問題を引き起こしています。(背景に“マレーシアは女性器切除を終わらせるべき”、“17歳の高校生がマレーシアのレイプ・カルチャーを暴露”などのニュース記事の見出しが入る。)

私たちはタブーを破壊するために、女性たちに自分たちの性器についてもっと話してもらう必要があると考えました。自分自身の体について自主的に語ることなしに、人生に自立をもたらすことはできないからです。

*このキャンペーンのタイトルが入る→ “Libresse提供 VULVA KEBAYA(女性器のケバヤ)”

私たちはマレーシアの女性たちにかつて、自身が持つ性についてインスパイアを与えた現地のファッション様式“NYONYA KEBAYA”に着目(1920年台のNyonyaケバヤの画像が入る)。地方に住む女性の職人たちとともに、その花の刺繍の中心部に女性器をあしらった新しい様式を創り出しました。(Chrysanthemum、Peony)私たちはインフルエンサーを活用することで、そのファッションをアピール。

インフルエンサー「なぜ私たちは自分の女性器の形に引け目を感じないといけないんですか?」「あなたの女性器はあなたの一部です。個性的でもいいじゃないですか。」

ナレーション:さらに私たちは、そのデザインを(Libresseの)商品パッケージにも反映させました。中には苛立つ人たちもいました。(さまざまな批判の声が入る「信仰深い女性たちが痛烈に批判しています」「女性器の利用は侮辱では?」

ナレーション:そしてこの試みは国中の話題となったのです。

(さまざまな援護の声が入る「品位を損なっているわけでは全くない」、「これは、あなたの女性器がいかに美しいかを讃えているのです」)

この取り組みは、マレーシア国内で最も話題となったキャンペーンとなりました。

論争を巻き起こし…、女性器をテーマにした人々の創作意欲を刺激しました。

このキャンペーンは国中をインスパイアし、古臭いタブーを崩すための大きなきっかけとなったのです。

“Libresse提供 VULVA KEBAYA(女性器のKEBAYA)”

炎上をも計算に入れたブランディングはアリなのか

いかがでしたでしょうか?

上記紹介ビデオでも「この取り組みの是非をめぐり、マレーシア国中で論争が起きた」と紹介されていますが、2021年9月16日の建国記念日(マレーシア・デイ)に合わせて開始されたこのキャンペーンは、実はその4日後の9月20日、同地イスラム教系団体からの「女性への冒涜である」というクレームを受けてあっさりその取り組みを中止しています↓

malaysia.news.yahoo.com

ブランドの購入者である人々に反感を買うリスクまで見込んだ上で、一企業の商品がブランド活動家のような取り組みをすることについてや、活動を華々しく立ち上げたものの、異論を受けてあっさりとそれを中止してしまうことについてはさまざまな捉え方があると思います。

本ブログの趣旨上、それらの意見の是非を問うことはここではしませんが、イスラム教を国教とするマレーシアでも、ジェンダーに関してこのような取り組みが既に行われている、ということは知っておいて損はないと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

タイの肥料メーカーが農村に起こした「プチ革命」

Photo by Eduardo Prim on Unsplash

 

シンプルだけど役に立つ”広告”をひとつ

昨今はシリアスな課題が多めだったので、今回はひとつ、シンプルだけれどタイの農村でみんなに喜ばれたアイデアをご紹介します。これからの太陽が眩しい季節、日本でも応用できるアイデアかもしれません。…ということで今日は前置きもシンプルに。

こちらも先週〜先々週のアイデアと同じく、多様な文化が共存するアジアならではの、各地の伝統や風習に根ざしたソリューションを評価するAdfest2022のLotus Roots部門を受賞したアイデアです。

「Shelter Signboard: 太陽から身を守る看板」

vimeo.com

【雑和訳】タイトル:タイは米の輸出量が世界で最も多い国の一つで、国中に400万人を超える稲作農家がいます。キャスター「タイは3つのことで知られています。夏と、本当に暑い夏。そして本当にクソ暑い夏です」女性の声「昨日の最高気温は44.6度までいってしまいました」タイトル:農家は、週に80時間も熱射に晒されて働かなければなりません。毎年、水田では熱射病で最高38人もの方がなくなっています。(いくつかのメディアの、このアイデアに対する賞賛が表示される)”TRAモンクット肥料会社提供:太陽から身を守る看板 ー 農家の命を守る、シンプルな解決策”。…シンプルすぎる?(農家「私たちも欲しい」など必要性を感じさせる声が幾つか入る)そんなにシンプルではありません。反射性のあるプリントが太陽光線を跳ね返すことで、農家の体に届く熱を3度から4度、減少させるのです。(学者が同じ内容を繰り返す。)我々はこの看板を国中の農家に配布しました…彼らを守るだけでなく、彼らへの応援メッセージを添えて。”懸命に働いてくれてありがとう!”、”あなたたちのおかげで、私たちが飢えずに済んでいます”、”お米を食べる一口一口が、私たちの誇りです”。農家「TRA モンクットは農家たちへの武器を与えてくれました。壊れにくく、私たちの全身を太陽から守ってくれるのです」キャスター「熱波に対抗する、素晴らしい方法だと思います」(メディア費用ゼロで、1000万バーツ以上の効果を発揮。2万枚以上の看板が配布された)我々の看板がきっかけとなり、各地の農家の人々が、オリジナルバージョンの看板を創作しました。そして、このアイデアはこの年の代表的な「命を救うハック」となったのです。農家「この看板は我々を太陽と雨から守ってくれます」そして政府までもが、我々のイノベーションをサポートしました。キャスター「Loei地方の知事が訪問し、農家が彼の背中に看板をつけました」”TRAモンクット肥料会社提供:太陽から身を守る看板 ” ー農家の背中を支えるのは、私たち。

枯れた技術の水平思考

いかがでしたでしょうか?

普段からイノベーティブなアイデアマーケティングキャンペーンを見慣れていると、今回のアイデアはシンプルすぎて懐かしい…ぐらいの感覚に陥りますが、逆にいうと世界は広く、逆に我々の方が頭でっかちになりすぎているのかもしれない、というリスクについても自覚しておく必要があるのかな、と思います。

どんなに技術が進んでも、暑すぎれば人は死に、ご飯を食べなければ人は死にます。今の世界、デジタル世界に振り切ることが必要な場面は増える一方ですが、そんな時にも今回のアイデアのような「超アナログな引き出し」を持っておくと、逆にイノベーションの呼び水になるのかな、と考えます。

以下はそんな思考の流れから思い出した、任天堂横井軍平さんによる「枯れた技術の水平思考」という考え方です。(昔、会社の研修でとある素敵な方から教わりました。ありがとうございます!)この記事のおまけとしてリンクを張り、今回の記事をお開きにしたいと思います。

dic.pixiv.net

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

いま再び核の恐怖に警鐘を鳴らす、長崎新聞のキャンペーン

Photo by Tayawee Supan on Unsplash

歴史を繰り返せないほど進化してしまった人類の分岐点

ロシアのウクライナ侵攻により、人類の理性への信頼が揺らいでいます。合理的思考を超えて大国から軍事的侵略を受けうる、という事実を前に、周辺各国が慌てたように軍拡競争を始めました。

我々はまた、再び世界大戦へと歩み始めているのでしょうか?しかし過去の大戦と違い、我々はすでに全世界を破滅へと導く核兵器を持っています。次に歴史が繰り返した時、私たちにはもう、歴史自体が必要なくなるのかもしれません。

ということで今回は、かつて広島に次いで原爆が投下された都市、長崎の地方紙・長崎新聞が行った核兵器の恐怖を訴えるための取り組みをご紹介します。

こちらも先週に引き続き、多様な文化が共存するアジアならではの、各地の伝統や風習に根ざしたソリューションを評価するAdfest2022のLotus Roots部門を受賞したアイデアです。

「13,865の黒い点と2つの赤い点」

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【雑和訳】ナレーション:今も世界には13,000発以上の核兵器が存在します。そして長崎は、かつて原爆を投下された世界中でたった2つの都市のひとつとして、その恐ろしさを伝えてきました。

第二次世界大戦から76年が経ちました。(*画面上では2021年現在、原爆を生き延びた語り部がもう33,243人しかいない事を示す)

長崎唯一の地方紙として、長崎新聞若い人たちや長崎以外の人たちを含む、原爆の悲惨さを体験したことがない人たちに向けて、この問題の深刻さを伝えたいと考えました。

「13,865の黒い点と2つの赤い点」。このビジュアルは、言葉ではなく、13,865の黒い点で表現されました。黒い点の中には、赤い点が2つ。

黒い点は、世界に今ある原爆の数を表し、赤い2つの点は、広島と長崎で使われた2発の原子爆弾を表します。

核兵器が存在している以上、それが使われるリスクも存在しています。」

数字を見せる代わりに、原子爆弾の数とその恐ろしさが読者にも直感的に理解できるよう示されたのです。たくさんの人々が、この広告について触れたことをシェアしました。この話題は、主要なテレビ番組でも取り上げられました。

そして日本中の人々が長崎に原爆が投下された76年前の8月9日に注目するとともに、今もなおそこにある危機について考えたのです。

さらに私たちは、この広告ビジュアルとガイドブックがダウンロードできる教育用のWebサイトも立ち上げました。

この作品は広告の枠を超えて、日本中に教材として活用されています。

文字に頼らないことの強さ

いかがでしたでしょうか?

事実を伝えるニュースにはどうしても文字や言葉が必要で、そもそも人々がそのニュースに関心なければ見聞きされずにスルーされてしまう、という弱点があります。

一方、「強い広告」にはたった一枚のグラフィックや画像のアイデアで、無関心な人々を直感的に惹きつけ、考えさせる力があります。

核兵器が私たちにもたらす結末について想いを巡らせる機会が減っていく中、こうしたビジュアル表現で人々の想像力を刺激する機会は大切ですし、そういった意味でも新聞など、プリント媒体にはまだまだ活用のチャンスがある、と感じさせてくれる取り組みでした。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

社会に組み込まれた女性蔑視に気づき、立ち上がったフィリピン発のソーシャルキャンペーン

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Photo by Yannes Kiefer on Unsplash

 

4月8日に発表になったアドフェスト受賞作からご紹介

毎週更新を目標に運営しているこのブログですが、先週は第3回目のコロナワクチン接種の副反応により頭が働かず、更新しそびれてしまいました。く、悔しい…。

一度ルーチンが切れ、しかも仕事も忙しいとブログの更新も怠りがちになる(経験者談)ものなのですが、今回は運よく、4月8日に発表になったアジア太平洋地域の広告キャンペーンを対象にしたアワード、アドフェスト(Adfest)の受賞作から興味深いネタをたくさん仕入れることができ、モチベーションを無事に保つことができそうです。

ということで今回はその受賞作の中から、フィリピンの人々が戦後、アメリカ軍が残していったジープと貨物自動車を組み合わせることで生み出した乗合タクシージープニー(Jeepney)」にまつわる伝統的な”女性蔑視”に気づき、正そうとした取り組みをご紹介します。

多様な文化が共存するアジアならではの、各地の伝統や風習に根ざしたソリューションを評価するAdfestのLotus Roots部門を受賞したアイデアです。

「Right the Ride/ 乗り物を正そう」

www.youtube.com

【雑和訳】ナレーション:フィリピンのジープニーは、単なる交通機関というだけでなく、ユニークな文化的象徴で、まごうことなきフィリピンの道路の王様です。しかし、その煌びやかな色彩に、これまで何十年も語られてこなかった問題が潜んでいます。

女性蔑視と性差別。ジープニーの外装は性による差別的描写に溢れています。その内装はさらにひどいものです。女性にとって侮蔑的なサイネージが滑稽かつユーモアなものして飾られているのです。(*画面では、「お姉さん、ただでやらせてくれ」「独り身で酔えば、妊婦で起きる」などの内装のメッセージが例示される)

ジープニーは、侮辱で溢れているのです。女性蔑視は現在社会に存在すべきではありません。特に(ジープニーのように)、文化的に愛されているシンボルにおいては。

今こそ、それを正すべき時です。(*画面では、ジープニーの扇情的な外装のイラストや内装のメッセージが、女性をリスペクトしたものに次々と塗り替えられていく)

このキャンペーンは、社会に待ち望まれていた論争を引き起こしました。ニュースの一面を飾り、フィリピン最大の交通公共機関から交通組合、女性団体に至るさまざまな団体から継続的なサポートを得ました。

(*フィリピンの人権団体コミッショナー「我々はジープニーを変革し、安全な場所のための法案を後押しします」)(*国連系人権団体のアドバイザー「まさにジープニーのような場所で、人権が尊重されることは社会にとって意義のあることです」)(*公共交通協同組合会長「どのジェンダーに属するかに関わらず、人々が安全であることを保証したいと思います」)

この挑戦は始まったばかりですが、ジープニーと人々の心を、正しい方向に導き続けることでしょう。

これっておかしくない?に気づき、立ち上がることの大切さ

いかがでしたでしょうか?この事例を見て「これは海外での話だから、自分たちには関係ないよ」で済ませてしまうのか、自分の社会に同じような問題がないか、思いを巡らせてみるかで結果は大きく異なってくると思います。

どの社会にも、それぞれの文脈で当たり前とされているものがあります。しかし「それぞれが同じような人になるよう教育し、彼らに同じことを効率的にやらせる」ことが効果的で、社会的に善になり得た時代はすでに終わっています。

多様性が社会や企業の推進力となる中で、前の時代に設定された「同質性を強いるもの」がまだまだ、世界中のあらゆる場所で、あらゆる形で残っています。

日々の繰り返しの中で感じた「これっておかしくない?」とか「これ、自分が当事者だったら最悪だと思う」ということにきちんと向き合い、声を上げて正していくことの大切さをこの素晴らしい取り組みは教えてくれます。

(そして私はフィリピンにまだ行ったことがないのですが、3回目のワクチン接種も済んだことですし、チャンスがあれば是非このジープニーに乗ってみたいな、と思いました。)

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!