世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

性的マイノリティの人たちに素敵な”サードプレイス”を提供したスタバのキャンペーン

Photo by TR on Unsplash

自分が自分でいられる場所を、もっと多くの人たちへ

気づけば来月は世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズが行われます。今年もまた、素晴らしいアイデアの数々を世界は目にすることになると思いますが、その前に今回はこのブログでまだ紹介しきれていなかった昨年のカンヌ(カンヌライオンズ2020/2021)受賞作からひとつ、ご紹介しようと思います。

スターバックスが自宅とオフィスの間で、人々に寛ぎを与える場所(サードプレイス)を提供していることは誰もが知るところですが、ではその場所を、よりインクルーシブな場所にするにはどうしたら良いのか?という切り口から考えられたブラジル発のアイデアです。

彼らの視点は店舗の常識をはるかに超えて、一人ひとりの人生に大きな影響を与える活動になりました。ぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「i am : 本当の私へ」

www.youtube.com

【雑和訳】文字スーパー:自分の体やジェンダーを変えられるとしたら、どんな気分か想像してみてください。…だけど、あなたの名前は変えられません。なぜならあなたの法的に認められた本名を変えるには高額の費用がかかり、そのプロセスを含む、さまざまな部分で官僚的な手続きや偏見が立ちはだかるからです。

コメント1「私はいつも身分証を折って持ち歩いているんです。そうすれば誰にも(自分の見た目と名前の不一致に)気づかれることがないので」コメント2「私は単純にあらゆるところから疎外されています。たくさんのことを諦めなければいけませんでした」

文字スーパー:皆様もご存知の通り、スタバではだれもが自由に、自分が使いたい名前を名乗れます。でも、私たちはこの自由を、お客さまがコーヒーを買ったときだけではなく、身分証明証を出さなければならないような、あらゆる場所に広げたいと考えました。”スターバックス提供/ i amキャンペーン” 。

(性的マイノリティの)人々の中には、(名前を変えるために)公証人事務所に行くことに不安を抱く人がいます。なので私たちは彼・彼女たちをいつも歓迎している場所に招くことにしました。

私たちは、スターバックスを公証人事務所にしたのです。私たちは訪れた人にふさわしいホスピタリティとサポートを備えた、完全無料のサポートを行いました。

結果、サンパウロの年間平均変更数の7倍の数の氏名変更届が出されました。

氏名を変えた人1「え、何が起こるのかしら?」(*名前を変えた人々が、次々と箱の中の名前変更証書を確認していく)氏名を変えた人2「この気持ちは表現できないわ。これが、私の名前よ」氏名を変えた人3「これまではいつも体はここにあるのに、魂が入ってないみたいな感じで…それが今は、心と体が一つになった気がします」氏名を変えた人4「なぜなら自分の名前は王座のようなものであり、王冠のようなものなのですから」氏名を変えた人5「これを見ると少しずつ、自分がたどり着きたい場所、所属するべき場所に近づいていっていると感じます」

文字スーパー:そしてこの取り組みは、さまざまな人々の人生に新たな始まりをもたらしました。

(*スターバックスのロゴが映し出されて終了)

自社店舗を役所に変えて、自分らしく生きたい人たちを応援

いかがでしたでしょうか?

性的マイノリティの人たちへの偏見がまだ根強く残っている今の社会では、彼・彼女たちが自分らしい名前を本名として獲得するためには幾十もの乗り越えなければならない壁があります。

でも、自分らしい名前が法的に認められない状況でスタバで時間を過ごしたとしても、その人たちは心からそのひと時を楽しむことができるのでしょうか?

そして、そんな状況が現にあるのだとしたら、それは自分たちが立ち上がり、手を差し伸べるべきではないのか?

そんな、スターバックスの中の人たちの真摯な思いが伝わる取り組みでした。

ちなみのこのアイデアを見て思い出したのが、同じく性的マイノリティの人たちの名前の問題に着目したマスターカードの以下のキャンペーンです。

wsc.hatenablog.com

また、自社の店舗を公的な用途に活用させた、という意味では、自社の店舗を選挙の投票所に変えてしまった以下の取り組みもすごかったよなぁ、と思い出しました。

wsc.hatenablog.com

どの案も斬新で、実施に漕ぎ着けるまでには関係各位との途轍もない交渉と、粘り強さが必要に違いない取り組みです。

イデアを編み出すだけでなく、それを実現させてしまったその執念に敬意を表したいと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!