無意識レベルにまで染み込んだ女性への偏見の”可視化”に成功
先日、世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズが6月末に行われるのを前にブログの過去記事を眺めていたのですが、本日ご紹介するキャンペーンを今まで取り上げて来なかったことに気づき、慌ててこの記事をまとめています。
女性に関するステレオタイプの押し付けに対する社会の風当たりはここ数年、とても強くなってきていると感じますが、今回は2010年代、その世界的な潮流が形成される過程で、人々にかなりの影響を与えたキャンペーンです。
…と、ここで一旦余談になりますが、2000年代までは、カンヌも男女のステレオタイプに根ざした以下のようなキャンペーンを高く評価していました。
これは2006年のムービーです。今見ると完全にアウトですが、この時代と現在との間で、広告におけるステレオタイプの扱い方に対する前提がひっくり返るきっかけの一つとなったのが、これからご紹介する作品となります。
P&Gの生理用品ブランドAlways(日本のウィスパーに相当)によるムービーで、2015年のカンヌライオンズでPR部門のグランプリをはじめ、主要な部門でゴールドを多数獲得しました。それではご覧ください。
「#LIKEAGIRL : #女の子みたいに」
【雑和訳】文字スーパー:”女の子みたく動いてみて?”と言われたら、人はどう反応するのか?
監督「やぁ、エリンさん。では、私が今から指示を出すので、頭に浮かんだままにその指示に反応してみてください」「…では、女の子みたいに走ってみてください」被験者のひとり「あら、髪の毛が!」
監督「では、女の子みたいに戦ってみてください」「…では、女の子みたいに投げてみてください」
文字スーパー:私たちは実際の女の子たちに、同じ質問をしてみました。女の子「私はダコタです。10歳です」
監督「では、女の子みたいに走ってみてください」監督「では、女の子みたいに投げてみてください」監督「では、女の子みたいに戦ってみてください」
監督「私が女の子みたいに走って、と言った時どう思いましたか?」女の子「できるだけ早く走って、という意味だと思いました」
文字スーパー:いつから、「女の子みたい」に何かをすることが嘲笑の的になるのだろう?
監督「つまりあなたは今、あなたの妹を馬鹿にしたのだと思いますか?」少年「まさか!女の子を馬鹿にはしたけど、妹は馬鹿にしないよ」
監督「女の子みたい、っていい事だと思いますか?」 女の子「実際いいことかどうかはよく分からないんだけど、なんだか悪いことのように感じます。なんか、誰かをからかっているのかな、という風に聞こえます」
文字スーパー:女の子の自信は、思春期の間に大きく損なわれる。…Alwaysは、この現状を変えたい。
監督「女の子が10歳から12歳の間の繊細な時期に、もし誰かがからかうために”女の子みたい”という言葉を使ったら、どんな影響を彼女たちに与えると思いますか?」
成人女性「確実に彼女たちの自己肯定力を落としてしまうと思います。確実に落ち込むと思いますよ、彼女たち自身があれこれ考え始める時期に「女の子みたいに叩くね」なんて言われたら、自分自身は強いと思っているのに「え?どういうこと?」と思いますよね。それは彼女たちが弱い、と言っているようなものです。実際はそんなことはないのに」
監督「では、”女の子みたいに走るね”とか”女の子みたいに蹴るね”、”女の子みたいに叩くね”、””女の子みたいに泳ぐね”と言われている女の子たちにどんなアドバイスがありますか?」
成人女性「気にしないで、それでいいんだから。もし誰かが”女の子みたいに走るね”とか”女の子みたいに蹴るね”とか”女の子みたいに打つね”と言ってきても絶対に違うし、それはその人たちの方が問題なんだから。だってあなたがそれで点を取れたり、ボールを時間内に奪えたり、先頭にいたりする限りは、そのやり方でいいんだから。そんな人たちの声は気にしないで。むしろ、”ええ、私は女の子みたいに蹴るし、女の子みたいに泳ぐし、女の子みたいに歩くし、朝も女の子みたいに起きるの。だって女の子なんだから。それは全然恥じることじゃないし、どうであれ私はそのやり方を続けるわ”という態度を貫くべきだと思います」
監督「では今また、”女の子みたいに走ってください”と言ったら、走り方を変えますか?」 成人女性「自分らしく走ります」 監督「では、もう一度やってみますか?」 成人女性「はい」
文字スーパー:#女の子みたいに、という言葉の意味を素晴らしいものにしよう。…ALWAYS.COMに参加して、少女たちの自信を称えよう。
成人女性「なぜ”女の子みたく”走ったらレースに勝てない、なんて思うの?」
文字スーパー: ルールを考え直そう。Always
社会と共に変わるのか、社会自体を変えるのか
いかがでしたでしょうか?社会の動きを巧みにとらえて、メッセージを最適化していくのが2000年代までの広告表現だとすると、2010年以降は今回の#LIKEAGIRLに代表されるようにどんどんと、企業やブランドが自ら信じるところに立ち、人々と共に社会自体をより良く変えていくためのアクションや提言を繰り広げていくことにその主流が移って来ています。
この潮流を踏まえて昨今のカンヌライオンズ受賞作を見ると、日本企業の広告表現が苦戦を続けている理由も見えてくると思います。
*ちなみに冒頭にご紹介したAXEの販売元であるユニリーバの名誉のために言うと、同社も2016年、このような性のステレオタイプに基づく広告表現は今後見直すと公表し、最近では同じ商品による「男性の多様性とその素晴らしさ」を謳った印象的な広告を発表しております。以下に関連記事と、リニューアル後のキャンペーン(Find Your Magic)を添付しておきますね!
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!