世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

生険加入率の低いNZ国民が目覚めた!びっくりコラボレーション【カンヌ2023より】

UnsplashのAarón Blanco Tejedorが撮影した写真

カンヌライオンズ2023の受賞作紹介、はじめます

ヤー!パワー!今年も世界のクリエイティビティの祭典、カンヌライオンズ2023が閉幕しました。まだグランプリ受賞作をざっと甘噛みしている状態ですが、やっぱり良いですね〜。これらの偉業の背景にある、人類の叡智を感じるだけで毛穴がワーッと開き、テンションが上がってきます。

今回から毎週ひとつずつ、金賞以上の受賞作を勉強していこうと考えております。ご興味ある皆様、私の趣味にご伴走いただければと思います。

今回紹介するのはニュージーランドの保険会社Partners Lifeが、同国の生命保険加入率を上げようと行った、テレビドラマとの革新的なコラボレーション・キャンペーンになります。

カンヌライオンズ2023のヘルス&ウェルネス部門で見事グランプリに輝いたアイデアです。それでは早速、その事例紹介ムービーをご覧ください。

「The Last Performance / 最後の出番」

youtu.be

【雑和訳】文字要素:生命保険となると、ニュージーランドは最も加入率が低い国のひとつだ / この国の保険に対する態度に挑戦すべく / 生命保険会社のPartners Lifeは / 同国で最も人気の殺人ミステリードラマとタイアップを行った /

Partners Life X ブロークンウッド・ミステリーズ / 番組では毎回、誰かが死ぬ / 死者は、安置所のシーンで出番が終わる / なので、毎回のエピソードが終わり、エンドロールが始まる前に / 私たちは死者を蘇らせた /

彼らの… / Last Permormance(最後の出番)のために /

彼らは驚きと共に思いを吐露 / 男性の遺体「わ、マジかよ」/ 女性の遺体A「こんな目に遭うとは思わなかったわ!」/

文字要素:そして、生命保険に入っておくことの大切さを強調した / 女性の遺体B 「彼はなぜ、生命保険に入れさせてくれなかったのかしら」/ 女性の遺体A「誰にでも起こりうるのよ。こんな場所で一生を終えるなんてことが。脈も、服も、生命保険もなく…」/

文字要素:彼らは自分の死と人生を振り返った / 義理の娘に、飲み物にケタミンを仕込まれたこの義母のように… / 女性の遺体A「えぇ、確かにこれは予想外よ。普通、私はお金をもらわなきゃ寝ないんだけどね…。娘がジン・トニックを持ってきてくれたのは確かなんだけど、それがジン・トランキライザーだったってわけよ」/

文字要素: そして毎エピソード、彼らはニュージーランドの人たちに人生は予想がつかないので、早めに計画を立てておくことを思い起こさせた / 真ん中の画面のメッセージ文字要素:人生を正しい方向に導くために、早めに計画を始めよう。ーPartners Life ~人生を正しく~ /

文字要素:このメッセージは、ドラマの1シーズン全体を通じて本編とシームレスな形で放送された / 本編と同じ俳優、同じ監督、同じスタッフ、同じセットで /

そして、視聴者たちに忘れがたいインプレッションを与えた / (色々な絶賛の声が入る) /

Partners LifeのWebサイトへのアクセスはキャンペーン中、135%の上昇 / 同社フィナンシャル・アドバイザーへの直接の問い合わせは75%向上した / Last Permormance(最後の出番)

評価された、盲点をついたアイデアと「枠を超えた」精神

いかがでしたでしょうか?

今まで色々なアイデアを見てきた自分からすると、言われてみれば「誰でも思いつく」ことなのに、なぜか今まで誰も実行していない、というアイデアが世の中で一番強いように思えます。

そしてこのアイデア。

難病、事故、殺人など、言われてみればジャンルを問わず、展開をドラマチックにするためにテレビドラマでは本当にたくさん、人が死にます(だからドラマと呼ばれるのですが)。その死んだ人たちがもしも、生命保険に入ってなかったら…

まさにこの視点、誰でも思いつきそうなことだけれども、それをきちんと思いつき、実行したのが強いし、素晴らしいと思います。

さらにその実行手法も素晴らしい。

通常、広告会社は思考のクセで、番組の合間の「広告枠」の中でどうメッセージを伝えるかを考えがちです。そこをさらに一歩踏み込み、本編のドラマとエンドロールの間に直接飛び込ませた勇気は特筆ものだと思います。(通常、作品の中にまで広告が入り込んでくることをドラマの制作チームは望みませんから、さぞかし交渉も大変だったのでは?と推察されます)。

ドラマの本編が終わった!と思った後に別の場面が続き、「あれ、ドラマがまだ続いているのか?」と思ったらドラマの中で死にたてホヤホヤのキャラクターが出てきて口を開いたら、何を言うかはとても興味を惹くはずです。

そして、何を言うかと思ったら、ドラマとは関係のない「生命保険入っておけば…」という、誠に現金なメッセージ。その皮肉な展開はきっと、ニュージーランド中の視聴者をニヤリとさせつつ、さもありなんと共感させたことでしょう。

結果、紹介ムービーにもある通り、Partners Life社の生命保険への問い合わせ数も大幅に上昇したようです。

見る人の意表をつき、楽しませ、そしてポジティブな行動へと導く。自分がアイデアを愛する理由のすべてがよくまとまった、まさにグランプリにふさわしい内容だと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!