世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

おら電気自動車乗るだ@南仏

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Photo by Emmanuel Martin on Unsplash

フランスの田舎で行われた電気自動車の”実用実験”

電気自動車と聞くと、2021年の時点で皆様はどのようなイメージを持つでしょうか?未来はみんな乗っているんだろうけれども、自分が買うにはまだ色々不便がありそう…。というような、心理的障壁がまだ根強いのかな、と思います。

発電やバッテリーの製造〜廃棄過程が改善されない限り電気自動車=絶対善ではないですし、地理的条件によっては日本のように水素という選択肢も普及されて然るべきです。

そういった事実を念頭に置きつつ…ではございますが、今回は、社会にとってより良い選択=電気自動車に対する人々の心理的障壁を見事に下げた事例としてフランス車ブランド、ルノーによる取り組みをご紹介します。

クリエイティブの世界的祭典、カンヌライオンズ2020/21のアウトドア部門(屋外広告部門)のグランプリ受賞作品でもあります。

事例紹介ムービー(雑和訳付き)

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【雑和訳】「ここ数年、自動車業界は人々に電気自動車を売るべく、大量の金額を投じて広告を展開してきました」「しかし現在、電気自動車の購入意向がある人たちはたったの7%」「93%は今もなお、都市部にでもすまない限り、電気自動車は使い勝手や社会的基盤に欠くと信じています」「つまり、彼らは電気自動車の良さを納得できる何かを欲しているのです」

「電気自動車のリーダーとして。ルノーは電気自動車が、誰にとっても選択肢となりうることを証明したいと思いました」「そこで2020年、ルノーは100%電気自動車で生活するエリアを作ったのです」「(*画面ではパリやリヨン、マルセイユを地図で示しつつ)どこでかって?」「ここです。…その名もアピー村」

”村の全員が、電気自動車にシフトするとこになるのだそうですね”、”はい。アピーで行われます”

(*画面ではパン屋やスーパー、学校までの遠い距離が示されつつ)「この村は、何をするにも遠くに離れています」「本当に遠いので、ここの暮らしでは自動車が不可欠。ですが、電気自動車で暮らすことは不可能に思えます」「そう、我々はあえて、最も遠くに離れた村を実験の場として選んだのです。なぜなら”ここで可能なら、どこででも可能なはずだから”」

「そこで我々はルノーの電気自動車”ZOE”を3年間、アピーのすべての人々の車と交換」「ご覧ください。今やこの村は公式に、地球で唯一、100%電気自動車で生活する居住エリアとなりました」「しかし、ZOEだけで暮らし始めて6ヶ月」「何が変わったのでしょうか?」「…何も変わりませんでした」

「パトリックは毎朝職場に行き、帰ってきますし」「シルビーはスーパーで買い物をしますし」「マリーは毎日、子供を学校に送ります」「ジルベルトはGPSがあってもまた迷子になっています」「アピでの毎日はまったく変わりません」

「たったひとつのこと…炭素を除いては」[2,600リッターのガソリンを節約][4トン分のCO2削減に相当]「テレビやソーシャルメディアが彼らの暮らしを追うことで、アピは有名になりました」「そしてフランスの多くの人たちに、電気自動車への転換を促したのです」[売り上げは50%上昇][ZOEがヨーロッパで一番売れている電気自動車に]

「でも、それだけではなく…ご覧ください。(村人が誇らしげに”電気自動車の村”という看板を磨いている)」「これがホントの"アッピー・エンド"です」

イノベーションと実用性のギャップを素直に認めたルノーに拍手

電気自動車というと最先端の街だったり、緑の森をクールなタレントが走るようなイメージを売る広告が多い気がしますが、消費者の立場から言うとクルマにとって大切なのはイメージよりもこの紹介ムービーの冒頭にもある通り「走行距離」や「充電のしやすさ」といった実用性です。

そこを素直に認めて、イノベーションという言葉が持つイメージからはある意味、真逆にある「都会から遠く離れた村の人々」に着目し、ここまでのコラボレーションを繰り広げたところにこのアイデアの素晴らしさがあると思います。

考えてみると、村人一人一人の車をZOEに変えさせる、という交渉も大変なことです。ここらへんは村とどう信頼関係を築いていったのかなど、機会があれば制作スタッフたちに裏話などもぜひ聞いてみたいものです。

「ここで可能なら、どこででも可能なはず」ということを可視化して売り上げを伸ばし、そして地球環境の改善に寄与した…のみならず、村おこしにも多大なる貢献を果たしたこの取り組みは、日本でもフォーマットの一つとして取り入れ、応用する価値はあると思いました。

ただし、カンヌのグランプリに値するかは文脈が必要

ここからは少しマニアックな話になりますが、個人的には一番最初にこの取り組みを見た時、これがカンヌのグランプリに値するかどうかについては、少し疑問に思いました。なぜなら過去、Skodaというチェコの自動車メーカーが住民70人の過疎の村と徹底的にコラボをして成果を上げた「70 Guardians Of Winter」という素晴らしい取り組みがカンヌを受賞していて、今回のアイデアはどうしてもそれの”電気自動車版”に感じてしまったからです。

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カンヌのグランプリにはこれまでにない、業界全体を未来へと導くようなものこそがふさわしいと思いますし、それがカンヌライオンズのカンヌライオンズたる所以だと思います。その文脈を読むとすると、今回のグランプリはアウトドア部門のものだった、ということで「アウトドア(屋外広告)の可能性をこれまでにない領域にまで広げた」というところが高く評価されたのかな、と思います。

何はともあれ、目まぐるしく価値観が変わり続けるこの世界の中で、こういう試行錯誤を堂々と続けながら、人々にとって価値ある存在であり続けようと努力するカンヌライオンズには敬意を表しますし、これまでになかったアイデアかどうかに関わらず、このアイデアを考え、高いレベルで実行したルノーの皆様には拍手以外ありません。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

PS.Skodaの取り組み、このブログですっかり取り上げた気でいましたがまだ取り上げてなかったみたいです。5〜6年前のキャンペーンですがまだ十分素晴らしいので、近いうちに取り上げようと思います!