世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

ジェンダー問題に「就活」の角度から切り込んだ日本発キャンペーン

f:id:socialcamp:20220402074304j:plain

Photo by James A. Molnar on Unsplash

性的マジョリティには気づきにくい就職活動の”壁”

東京の桜は近年、3月の終わりには散ってしまうことが多いのですが、今年はこの記事の執筆日(4月2日)現在、まだ桜は咲いているようです。

ということで昨日は花びらが舞い散る中、多くの新入社員が入社式を迎えたことと思います。(残念ながらリモートでの入社式が多かったのかな、とは思いますが…。)過酷な就職活動を乗り越えて社会人となった皆さん、おめでとうございます!

ということで今回は、性的マジョリティの人々が感じにくい、就職活動におけるLGBTQの人々の精神的な「壁」を見事に問題提起したパンテーンのキャンペーンをご紹介します。

先日行われたアジア太平洋・アセアニア地域におけるクリエイティビティの祭典Spikes Asiaのソーシャル&インフルエンサー部門でグランプリを獲得したアイデアです。

「#PrideHair この髪が私です」

www.youtube.com

「ブランドが意見する時代」の教科書的取り組み

いかがでしたでしょうか?多くの性的マジョリティにとっては「どちらの性別で就活すれば良いのだろう?」という悩みがあること自体が盲点だったと思います。

さまざまな調査によると、日本では人口の10%前後がLGBTだといわれています。「左利きの人とさほど変わりのない比率」で存在しているそうで、そう考えるとその比率の高さがイメージしやすいのではないでしょうか?

私も左利きですが、職場でも、最近ではCMでタレントがお箸を使っているシーンなどでも「あ、この人左利きなんだ」と親しみを感じることが多いです。

それを同じ比率で性的マイノリティが存在しているという数値と、日常生活での実感値とのギャップを考えると、かなり多くの人たちが公の場所で「自分の本来の性」を隠していることがわかります。

人間は、本来の自分でいることを認められたときにその個性を伸び伸びと、ポジティブに発揮します。なのにそれを発揮できず、男じゃないのに「男なんだから気合いで乗り越えろ」とか、女じゃないのに「女らしくしなやかに立ち振る舞いなさい」など、頓珍漢なことを言われて暮らしていかなければならない人々がこの社会に10%いた、という事実は性的マジョリティにとってかなりの衝撃なのではないでしょうか?

このムービー、性的マジョリティにとってはLGBTQの身近さに気づかせてくれる第一歩となりますし、LGBTQの皆さんにとっても励みになるムービーだと思います。

さらにいいな、と思うのは、これが髪の毛を扱うブランドによって制作されたムービーであることです。

髪の毛は体の一部で、とてもパーソナルなものでありながら、同時にそのスタイルで社会的な意味が変わってくる、自己と社会の橋渡しとなるパーツです。

そのパーツを扱うヘアケアブランドとして、「しなやかな洗い上がり」や、「髪、より艶やかに」といった機能的ベネフィットから離れ、あるべき自己と社会の関係について意見を発し始めたというのは、すこぶる21世紀的なマーケティング手法といえるでしょう。

実はパンテーンは日本市場において数年前から、他に先駆けてこのような「ブランドが意見する」取り組みを始めている稀有な存在です。

ideasforgood.jp

この動きが今後どう展開されていくのか?そして、この流れに乗って意見を表明しはじめる他のブランドが現れるのか?期待を込めて見てまいりたいと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

男性優位のインド議会で、女性政治家の誕生を力強く促進したアイデア

f:id:socialcamp:20220326225130j:plain

Photo by Ron Hansen on Unsplash

日本のジェンダーギャップの現実を表す議会の男女比率

過去の記事でも触れたことがありますが、女性の社会進出の遅れは世界と比べて、日本社会が最も遅れている部分のひとつ(156カ国中120位)です。

それを端的に表しているのが、議会の男女比率の偏り。以下の記事によると、昨年秋の衆議院選の結果、ただでさえ低い男女比率がさらに悪化し、全議員のうち、女性の占める割合はたったの9.7%だそうです。

news.yahoo.co.jp

政治における男女比率の歪みは日本のジェンダー・ギャップ指数を引き下げている大きな要因(156カ国中147位)となっていて、もちろん指数が判断基準のすべてではないものの、現実の社会と明らかに異なった男女比率で議論を進めなければいけない、という歪みが日本の政治家たちの仕事の妨げになっていることは間違いないでしょう。

…ということで、今回は日本と同様、男女比率の不均衡に悩むインドの政治に対して行われた興味深いアイデアをご紹介します。

先日行われたアジア太平洋・アセアニア地域におけるクリエーティビティの祭典Spikes Asiaにて、ジェンダー問題を扱ったアイデアを評価する部門、Glass: The Award for Change部門でグランプリを獲得したアイデアです。

「The Nominate Me Selfie / ノミネート・ミー・セルフィー 」

youtu.be

[雑和訳] ナレーション ”インドは世界最大の民主主義国家だ。ただ、国会議員全体で女性が占める割合は10%にも届かず、民意の50%は顧みられることも、聞き届けられることもない。しかしなぜ、女性は議員になれないのだろうか?

女性たちにとって、低いレベルから国会議員の候補になるには、各々の政党のリーダーからノミネート(指名)される必要がある。そしてそのリーダーたちの90%以上が男性なのだ。そして彼らと話す際、私たちが決まって言われるのが「じゃあどこに(ノミネートすべき)女性がいるのだ?」ということ…”

実行団体SHAKTIのTaraさん「今こそ、彼女たちがどこにいるかを知らしめるときです!」

ナレーション ”インド唯一の政治における女性の役割拡大を求める団体SHAKTIは、インドの新聞The Times of Indiaと共に'ノミネート・メー・セルフィー(私をノミネートしてセルフィー)'をおこなった。

我々はこの取り組みを、最も男女の不均衡が激しい大きな州Biharで開始。140の草の根の団体が、45,000人の住民にこの取り組みを知らせた。それぞれの女性は履歴書の代わりにセルフィーを作成。自身の公共活動における実績や成果に加え、ノミネートする側へのアピールを添えて送付した。

我々はそれらのセルフィーを政党のリーダーたちへ送付。彼らが70年間無視してきた存在を突きつけたのだ。

この試みはムーヴメントとなり、スマホから新聞、そしてテレビへと拡散していった」 

ニュースキャスター「Biharの政治状況は混沌としていますが、今回はさらに女性の存在が注目を集めています」

ナレーション ”結果、ノミネートされた115人中、22人が女性となった。これはBiharの歴史では前代未聞のことである。そして72人の女性が公共の政策委員会のメンバーとなった。

私たちは、これまで(インドに)存在しなかった、リーダーとなりうる女性人材のパイプラインを作ったのだ。そして我々のムーヴメントはこれからも続いていく…” 

Taraさん「周りの予想を覆して、SHAKTIのボランティアたちはスマホとセルフィー用のカメラだけを持ち、州を跨いでこの取り組みを拡大させています」 

ナレーション ”私たちのセルフィーは、(国会の)半分が私たちになるまで止まりません。半分は、私たちのもの”

カギは自発的参加を促す動機付けと、ハードル下げ

いかがでしたでしょうか?男性優位の仕組みが、大多数の人々には気づかないレベルにまで組み込まれてしまっているこの社会でジェンダー問題を解決するには、どうしても当事者たちの自発的な働きかけが欠かせません。

とはいえみんな自分の暮らしで忙しいし、声を上げることで起こりうる、さまざまな面倒を考えると多くの女性たちが立ち上がるのをためらってしまうのはある程度、仕方がないことなのかな…と思います。

しかし、そんな時に出番となるのがアイデアです。どのように人々の考えを変え、動機づけるのか?そしてやる気になった人たちが行動する際に直面するハードルをどのように下げるのか?

今回のアイデアでは、セルフィーを使って軽い気持ちで参加できる「プチ立候補」という新しい選択肢を女性に与えたことで、彼女たちの政治参画のハードルを思い切り下げたところが素晴らしいな、と思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

栄光の歴史のダークサイドを巡る、大英博物館未公認ツアーへようこそ

f:id:socialcamp:20220319093226j:plain

Photo by Hert Niks on Unsplash

完全に正しい歴史は存在するのか

一昔前、広告会社の表現担当者たちが新聞広告という枠でその腕を競う新聞広告クリエーティブコンテストで、素晴らしいキャッチフレーズが受賞したことがありました。

それは、子供のつたない手書きの文字で書かれた「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」というもの。(↓こちらです)

最優秀賞「めでたし、めでたし?」

確かにこの世の全てのめでたしめでたしの裏には、その犠牲になる存在がいます。そして何をもってめでたしとするかについては、みんなで真摯に考え、悩み、議論し続けることが過去から学ぶことで前進してきた人類としての責務なのだと思います。

今回はそんなことを深く考えさせられる、VICEワールドニュースによる意義深い取り組みをご紹介します。先日行われたアジア太平洋・アセアニア地域におけるクリエーティビティの祭典Spikes Asiaのデザイン、モバイル、PR、ラジオ&オーディオ部門の4部門でグランプリを獲得した怪物級のキャンペーンです。

まだまだ欧米中心の広告業界では気づかれにくい、このような視点が高く評価されたというのは嬉しいですし、アジアならではの視点を世界に提示したという点でも意義深い取り組みだと思います。

「フィルターを解除した歴史ツアー / The Unfiltered History Tour」

[雑和訳] ナレーション ”大英博物館は人類の歴史や芸術、文化を讃える公共施設です。ここロンドンにある、世界中で収集された8万以上の展示物を見にきてください。あなたは今、Gweagalの盾(原住民の盾)を見ています。ジェームス・クックは英国海軍の船長で…”

(*画面上の指がスマホをタップすると同時にナレーションがインド訛りの英語に変わる)”…我々は今、我々から奪われた忌々しい盾を見ています”

タイトル:「大英博物館の新しいツアー、はじまる」「…ただし大英博物館はまだ、これを知らない」「VICEワールドニュース提供、フィルターを解除した歴史ツアー(The Unfiltered History Tour)」

インド訛りの英語のナレーション”大英博物館のコレクションは‘祖先から伝えられてきたことを誇る’という、シンプルなアイデアに基づいている”  解説ナレーションA:「これらの遺物がどう取り扱われるかについては、(元来の所有者である)我々の決定に基づくべきだ。もし我々が保存できないとしても、それは我々が決めることで、大英博物館が決めることではない」

インド訛りの英語のナレーション”(英国の)人々は何をもって所有権が主張できると学んだのか?”  解説ナレーションb:「あなたたちは我々(の民族)が、人に我々の歴史や文化を伝える知性がないとおっしゃっているのですか?」

インド訛りの英語のナレーション”もし英国が展示物の返却を始めたら、博物館はほとんど空っぽのホールになってしまうだろう”  

タイトル:「論争を呼ぶ大英博物館の展示物についてのツアーを体験しよう」「…それらを奪われた国の人々によるナレーションと共に」「インスタグラムのフィルターと、没入感のあるオーディオで」

解説ナレーションC「我々は今、Gweagalの盾を見ています」解説ナレーションD「ロゼッタ・ストーンです」解説ナレーションE「モアイ像を見ています」

タイトル:「インスタグラムのviceworldnews、またはtheunfilteredhistorytour.comでツアーを始めてください」「VICEワールドニュース提供、フィルターを解除した歴史ツアー(The Unfiltered History Tour)」

21世紀、すべての博物館に必要なアイデアかも

いかがでしたでしょうか?この紹介ムービーを見た後、私はロゼッタストーンがイギリスにあることにこれまで全く違和感を感じてこなかった自分の鈍感さに驚かされました(元々鈍感なのですが、これまでとは…汗)。そしてこの取り組みに興味を感じ、ムービーの最後の方に紹介されていたキャンペーンサイトにアクセスしてみました。(↓こちらです)

theunfilteredhistorytour.com

サイトではロゼッタストーンやモアイ像の略奪について、印象的なムービーやオーディオでまとめられていましたし、大英博物館に行ってアプリを起動すれば、実際にその場で、没入感のあるオーディオで解説も聴けるようです(おかげ様で生まれて初めて、大英博物館に行ってみたくなりましたw)。

そしてこのサイトで印象的だったのが、一番下にあった「次はどの博物館のフィルターを解除したいですか?(ここにリクエストを書き入れてください)」という部分。

確かにフィルターを外して歴史を眺めた場合、残念ながら血や暴力、略奪から完全に無縁でいられる国や土地はないのだろうなぁ、と思います。そう考えてみると、このような「フィルター解除モード」のツアーが世界中のもっと多くの博物館に普及したら、マウントの取り合いに終始しがちな人類がより思慮深くなるきっかけになるのではないか、と思いました(無論、話を捻じ曲げて人々を暴力へと駆り立てる政治やプロパガンダの介入には気をつけなければいけませんが…)。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

自分の感覚の変化に驚かされる、8年前の”とある少女の物語”

f:id:socialcamp:20220312082147j:plain

Photo by mana5280 on Unsplash

愚行が今、繰り返されている

ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、ずっと頭の中にある映画が昔見た「それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~」。

シリア第3の大都市、ホムスで圧政に立ち向かった若者たちの姿を至近距離から撮影し続けたそれは凄まじいドキュメンタリーだったのですが、名古屋と同じ規模の街が完全に廃墟と化してしまう情景や、政府軍の攻撃から身を隠すため、破壊された民家の穴から穴をたどって移動したり、破壊された友人の実家から、家族のコーヒーカップを掘り出すシーンなど「戦争が起きたら街はこうなってしまうのだ」という衝撃的なシーンの連続でした。

それが今まさにウクライナで繰り返されているのだと思うと、シリア内戦の時点でこのような愚行を最後にできなかった我々人類の情けなさを痛感させられます。

それにちなんで今回は8年ほど前、セーブ・ザ・チルドレンがシリアからの難民の子供たちを救う機運を盛り上げるために作ったムービーをご紹介します。

「もし、シリアで起きた内戦があなたの街(ムービー内ではロンドン)で起きたら」という着想で、1人の少女の日々の一コマをライフログ風に描いています。

それではご覧ください。

Most Shocking Second a Day Video」[雑和訳] *キャッチコピー”ここで起きてないというだけで、起きてないことにはならない” #シリアの子供たちを救おう セーブ・ザ・チルドレン

イデアによる創作を、現実が超えてしまった

いかがでしたでしょうか?このムービーは公開当時も話題になり、これは無関心な人たちを動かす素晴らしい視点だ、と私も感銘を受けた記憶があるのですが…

8年後の今、連日ニュースでこのような映像に晒されている状況下で改めてこのムービーを見てみると、もはや当時のような無邪気さでは受け止められなくなっている自分に愕然としました。

 

何も感じなくなっていたのです。そう、このムービーの最後のほうの、光を失った少女の瞳のように…

 

最後に、冒頭で紹介した映画についての過去記事へのリンクを張ってまとめに代えさせていただきます。

wsc.hatenablog.com

いやぁ、戦争って本当に…はぁ。それではみなさん、また来週!

全米注目!スーパーボウル2022でのソーシャルキャンペーン その③ EV編

f:id:socialcamp:20220305222626j:plain

Photo by Al Soot on Unsplash

今週も、スーパーボウルで流れた電気自動車(EV)CM特集

ロシアのウクライナ侵攻により世界がまるで変わってしまった感のあるここ2週間ですが、今回も先週に引き続き、2月14日に行われたNFLスーパーボウル中継で全米にオンエアされたCMの中から興味深かったものをご紹介します。

しかし街が破壊されていく様子を連日各種メディアで目の当たりにしながら、ユーモアのある広告表現について記事を書く、という気分にもなかなかなれないのですが、こういう悲しい時にこそ、テレビを見ながら家族や友達と笑い合えるような、他愛もないけどかけがえのない暮らしを守ることの大切さを思い知らされます。

さて、前回はPolestarGMという、新旧2社のEV自動車についてのCMをご紹介しましたが、今回はこれらに対抗してスーパーボウルにて自社のEVをアピールした、BMWとKiaのCMをご紹介します。まずはBMWから。シュワちゃーん!!

BMW「Zeus & Hera (ゼウスとヘラ)」

[雑和訳] *画面上に文字が入る"オリンポス山" ゼウス「我が神々よ。暗黒の空は告げた」ヘラ「ゼウスと私が隠居すべきと」ポセイドン「しかし、何処へご隠居を?」*ゼウスが雷を立てて場面転換、画面上に文字が入る”パームスプリングス、カリフォルニア" 近所の人「ゼウス、おい、ゼウス!これをチャージして…」SE:ジジジジ!(ゼウスの手から雷) 近所の人「わー!…ありがと」ヘラ「(電子レンジに手こずるゼウスを手伝いながら)あなた、そんな難しいことじゃないわ。出かけてくるから、Peggieを散歩に連れて行くの忘れないでね!」ゴルフ場の人「おーい、ゼウス。(電力を)ちょっと足して」SE:ジジジジ!(ゼウスの手から雷) ゼウス「もううんざりだ、こんな場所!」ヘラ「ちょっと考えなきゃね。」ヘラ「(照明などの調子が悪いのを受けて)あなた、直せそう?」ゼウス「フンッ!」SE:ジジジジ!(手からの雷で街をショートさせてしまう)ゼウス「Peggie、散歩に行こうか?」ヘラ「(BMWの大きな車と共に現れて)あなたなら、これで私を連れてってくれると思って」ゼウス「完全に電力の?」ヘラ「その通り!」ナレーション:BMWのiX、電力の究極の形がここに。*ゼウス、ヘラと歌いながら信号を雷で青に変える ナレーション:BMW、究極の電力ドライブマシーン。

KIA 「Robo Dog (犬のロボット)」

youtu.be

[雑和訳] *キャッチコピー”フル充電でイキイキと” ”完全電力のKia EV6” ナレーション: KIA、インスパイアする動き

主人公の役割のコントラストが面白い

いかがでしたでしょうか?BMWは電力の象徴として主人公にゼウスを持ってきて、それをシュワちゃんに演じてもらうことで小難しくなりがちなEVというテーマを楽しく描き切りました。一方Kiaは、可愛いペット型電動ロボットを主人公に、彼がKiaのEVによる充電で助けられる、というストーリーをハートウォーミングに描いています。

真面目にEVメーカーとしてのスタンスを表明したPolestarと、懐かしめのスターを活用してエンタメの中でEVを訴求したGMBMW、そして、昔からCMでは鉄板といわれている「動物モノ」を21世紀風にアレンジしてEVをハートウォーミング描いたKia。あなたは、どのアプローチが一番好きでしょうか?

くれぐれも見せかけだけのグリーンウォッシュには騙されないよう注意しなければいけませんが、どちらにせよこういう形でこの分野の競争が(マーケティングも含んで)進み、我々がより環境負荷の少ない暮らしに近づけるのであれば素晴らしいと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

全米注目!スーパーボウル2022でのソーシャルキャンペーン その② EV編

f:id:socialcamp:20220226140437j:plain

Photo by Luis Santoyo on Unsplash

今年のスーパーボウルで流れた電気自動車(EV)のCMたち

今回は先週に引き続き、NFLスーパーボウル中継で全米にオンエアされたCMの中から興味深かったものをご紹介します。

今年のスーパーボウル広告のトレンドとして顕著だったのが、自動車会社が炭素排出量ネットゼロ時代に向けて本格的に売り込みを始めた電気自動車(Electric Vehicle, 略してEV)の広告の台頭でした。

ということで、EVのシェア獲得競争に乗り出した自動車メーカーたちがしのぎを削ったスーパーボウル広告の数々を、今回と次回の2回に分けてご紹介します。

それではまず、ボルボ…というか中国の吉利グループ傘下のスウェーデンのEVメーカー、ポールスターのCMをご覧ください。

Polestar「No Compromises (妥協、なし)」

www.youtube.com

[雑和訳] *画面上に文字が入る「すごいナレーション、なし」「すごいキャッチコピー、なし」「排出ガスのごまかし、なし」「汚れた秘密、なし」「隠れた課題、なし」「空約束、なし」「近道、なし」「火星征服、なし」

「あれやこれやの言い訳、なし」

「安住すること、なし」「グリーンウォッシュ、なし」「ナンセンス、なし」「(寄せ集めのの)委員会、なし」「合意、なし」「妥協、なし」「なし」→「No.2」「Polestar 2」「100%電力」

新参者ゆえの「アンチ現状」なメッセージで存在をアピール

既存の自動車メーカーと比べて車種もEVしか持たず、知名度も圧倒的に劣る新参EVブランドとして、ポールスターが採用したのが「大風呂敷」は一切ひろげず、我々こそが”本当の”EVメーカーなのだ、ということを正攻法で伝えるアプローチでした。

有名人も使わず、スーパーボウルという大舞台であえてニッチに「わかる人はわかってくれ」という態度で差別化を図ったわけです。

そして、これとは全く対照的で面白かったのが、アメリカを代表する自動車ブランド、GM(ゼネラルモーターズ)によるこのCMです。

GM 「Dr .EV-il  (Dr.イーブイル)

www.youtube.com

[雑和訳] *GM本社にて Dr.イーブル「諸君、我々はGMの乗っ取りを完了した」 No.2「Dr.イーブル、GMのUltiumプラットフォームが生み出すパワーで、我々が活動できるようになりましたぞ」 スコット「排気ガスともおさらば、というわけだ」 

Dr.イーブル「すまん、じゃあ私はもうDr.イーブル(悪)じゃなくて、Dr.グッドってことなの?ごめん、メモ取ってなくてさ」 スコット「気候変動が世界では今、一番の脅威なんっす」 No.2「Dr.イーブル、あなたは今、世界の脅威のNo.2になってしまいました」 Dr.イーブル「No.2なんてやだよ。No.2君」 

スコット「この星を救わなきゃ!」 Dr.イーブル「勘弁してくれ〜、の涙」 スコット「私の息子のためにも」 Dr.イーブル「君の…息子?彼をベイビー・ミーと名付けよう!」 スコット「いや、彼の名前はカイルっす」(スコットを消そうとするDr.イーブル)

フラウ「ダメ〜!最初に世界を救わなきゃ!それから征服すればいいでしょ!」 Dr.イーブル「じゃあ君がうまいことやって…あれ、わかった、つまり最初に世界を救って、それから征服すればいいわけだな!」 スコット「それ、彼女が言ったそのままっす」 

Dr.イーブル「スコット、君はわかっていない」 スコット「何がですか?」 Dr.イーブル「お前には絶対わからないよ〜」 スコット「ガキみたいなやつだな!俺のことも消せないくせに!」 フラウ「おやめ!まずはカーボンフットプリントを減らすの」 

Dr.イーブル「よくわからないけど、行こう!全部電気化するんだ!」 フラウ「乗り込め〜」 Dr.イーブル「スコット、お前はダメだ!…いつか君が私の後を継ぐんだよ、ベイビー・ミー…」

*画面にロゴが入る”EVerybody in. GM

メジャー自動車メーカーとして、EVを楽しく(?)アピール

GMはポールスターとは真逆のスタンスで、頭でっかちにならず、EVを楽しく伝えるべく90年代後半のコメディ映画「オースティン・パワーズ」の悪役たちを採用。彼らのドタバタなやりとりの中でEVを選ぶことの社会的意義と、GMの”Ultiumプラットフォーム”を軸とした取り組みを伝えました。

EVという最先端の商材にあえて20年前のキャラクターをぶつけた意図が興味深くはありますが、メジャーブランドのスタンスとしてはこれも正攻法だと思います。

スマホやEVなど新しい市場が創造されるときは、いろんな企業による、いろんなマーケティング活動や広告上のクリエーティブ表現を見ることができる、ウォッチャーとしても楽しい時です。

ということで来週もセレブや動物がわんさか出てくる、スーパーボウルの中のEV広告特集を続けます。さて、次回は今回よりも面白いものが果たして現れるのか…?

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

全米注目!スーパーボウル2022でのソーシャルキャンペーン その①

f:id:socialcamp:20220220172311j:plain

Photo by Thomas Serer on Unsplash

30秒の広告1本流すのにかかる費用は約7億5,000万円

現地の日付で2月13日、NFLスーパーボウルが開催されました。全米の家族がTVの前でカウチポテトをしながらアメフトの中継に固唾を飲む「国民的行事」ですが、試合や豪華なハーフタイムショーに加えて、全米の家族が楽しみにしているのが試合の合間に流れるテレビCM。

アメリカのテレビ業界でも毎年、最も高騰する広告枠として注目の枠で、今年は30秒のCM1本流すのに650万ドル(日本円でおよそ7億5,000万円)から、という値段がついたそうです。

そしてスーパーボウルは毎年、普段は広告に出ないハリウッドスターが登場するなど、気合の入った広告表現に各社がしのぎを削る場でもあります。

このブログでは今週から何回か、この広告枠で展開された「ソーシャルグッドなメッセージ」を含んだテレビCMを特集しようと思います。まずは最初、サステナビリティ関連の取り組みに力を入れているSalesforceのCMをご紹介いたします。ハリウッドスターの一人、マシュー・マコノヒーさんが登場しております。それではご覧ください。

Salesforce 「The New Frontier (新たなフロンティア)」

www.youtube.com

[雑和訳] ナレーション「宇宙。それは人類の偉業を示す場所。そして新たなフロンティア…」「…て、ホントに?」「逃げ出してる場合じゃないでしょ。もっとしっかりと取り組む時だよ。もっと木を植えたり…いいね!もっと信頼しあったり。もっといろんな人に、(公平に)チャンスを与えたりね。他の奴らは火星のメタバースなんかに夢中になっているけど、僕らはここに留まって、傷んだ場所を治していこう。そう、今こそ先駆者になる時。だって、新しいフロンティアって、専門的な知識がないと行けないような場所じゃないんだ。今いるこの場所こそがフロンティアなんだから*画面にロゴが入る”Salesforce #TeamEarth”

大金持ちが宇宙やメタバースに挑む姿を逆手に

いかがでしたでしょうか?去年はジェフ・ベソスさんやリチャード・ブランソンさんが宇宙に行ったり、ザッカーバーグさんがメタバースへの移行を宣言するなど、さまざまな「大金持ち」たちが新しい世界(新たなるフロンティア)へのチャレンジを行った年でした。その賛否をここで語るつもりはありませんが、その流れをうまく捉えて、自社の”絵空事ではない”サステナビリティ促進活動をアピールしたCMだと思います。

*「でもSalesforceは地球の環境を守るために実際は何をしているの?」と思った人はこのCMの最後に出てくる#Team Earthのサイトをご覧くださいませ。↓リンクを張っておきます。

www.salesforce.com

Google 「Lizzo in Real Tone (あるがままの色のLizzo)

続いてのCMはGoogleから。これまでのスマホの画像技術は、肌の色が濃い目の人をないがしろにしてきたのでは…という気づきにしっかりと対応した自社技術をアピールしています。「炎上したから」や「周りに言われたから」やるのではなく、組織にあらかじめ多様性を持たせることでこれまで無視されてきたマイノリティの不満に自ら気づき、プロアクティブに対応できる企業やブランドであることの大切さを痛感させられるCMです。

www.youtube.com

[雑和訳] 文字要素:”歴史的に、カメラの技術は濃い目の肌のトーンを正しく写してこなかった” ナレーション「濃い目の肌のトーンを持つ人は、いつもライティングに苦労をしてきました」証言者A「学校のアルバムとかでは子供の頃からいつも、自分はひどい写りの写真しか残ってないんです」証言者B「いつも暗すぎたり、影っぽく写ったり」文字要素:”でもそれはもう、過去の話” (アーティストLizzoの楽曲が挿入される)文字要素:”登場。Google Pixel 6に搭載のReal Tone" (多様性あふれる人々の、ありのままの美しい姿が挿入される)文字要素:”すべての人は、あるがままの姿で受け止められるにふさわしいから” *画面にロゴが入る”Google Pixel 6 #SeenOnPixel”

社会を完成したものと見るか、未完成なものと見るか

このブログでは8年前から海外の優れたソーシャルグッド事例を紹介していますが、この8年間はずっと「なぜ日本だと今回紹介したようなプロアクティブなメッセージや活動が民間から出にくいのだろう…」と自問する時間になっています。

そこで最近、自分の頭の中にぼんやりと浮かび上がってきているのが、日本の我々の社会に対する考え方と、海外の人たちの社会に対する考え方の違いです。

私も含め、日本のほとんどの人は、この社会が既に完成されているもので、これに手を加えていくことに「崩していく」という感覚があるのかな、と思います。

一方、海外の多くの人々にとっては社会は常に「未完成」で、みんなの意見を出し合うことで「前進させていく」という感覚があるのではなかろうか…なんてことを感じております。

そんな社会に対する根本的な考え方の違いが、(日本の我々から見ると時にはメチャクチャな軌跡を描きながらも)新しい価値を世界にもたらす世界的企業やブランドの推進力になっているのかもしれません。

まだ自分の頭の中で整理できてないので、3〜4年後にまたこの文章を読むのが楽しみです。

来週もスーパーボウルを続けます。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!