今年のスーパーボウルで流れた電気自動車(EV)のCMたち
今回は先週に引き続き、NFLのスーパーボウル中継で全米にオンエアされたCMの中から興味深かったものをご紹介します。
今年のスーパーボウル広告のトレンドとして顕著だったのが、自動車会社が炭素排出量ネットゼロ時代に向けて本格的に売り込みを始めた電気自動車(Electric Vehicle, 略してEV)の広告の台頭でした。
ということで、EVのシェア獲得競争に乗り出した自動車メーカーたちがしのぎを削ったスーパーボウル広告の数々を、今回と次回の2回に分けてご紹介します。
それではまず、ボルボ…というか中国の吉利グループ傘下のスウェーデンのEVメーカー、ポールスターのCMをご覧ください。
Polestar「No Compromises (妥協、なし)」
[雑和訳] *画面上に文字が入る「すごいナレーション、なし」「すごいキャッチコピー、なし」「排出ガスのごまかし、なし」「汚れた秘密、なし」「隠れた課題、なし」「空約束、なし」「近道、なし」「火星征服、なし」
「あれやこれやの言い訳、なし」
「安住すること、なし」「グリーンウォッシュ、なし」「ナンセンス、なし」「(寄せ集めのの)委員会、なし」「合意、なし」「妥協、なし」「なし」→「No.2」「Polestar 2」「100%電力」
新参者ゆえの「アンチ現状」なメッセージで存在をアピール
既存の自動車メーカーと比べて車種もEVしか持たず、知名度も圧倒的に劣る新参EVブランドとして、ポールスターが採用したのが「大風呂敷」は一切ひろげず、我々こそが”本当の”EVメーカーなのだ、ということを正攻法で伝えるアプローチでした。
有名人も使わず、スーパーボウルという大舞台であえてニッチに「わかる人はわかってくれ」という態度で差別化を図ったわけです。
そして、これとは全く対照的で面白かったのが、アメリカを代表する自動車ブランド、GM(ゼネラルモーターズ)によるこのCMです。
[雑和訳] *GM本社にて Dr.イーブル「諸君、我々はGMの乗っ取りを完了した」 No.2「Dr.イーブル、GMのUltiumプラットフォームが生み出すパワーで、我々が活動できるようになりましたぞ」 スコット「排気ガスともおさらば、というわけだ」
Dr.イーブル「すまん、じゃあ私はもうDr.イーブル(悪)じゃなくて、Dr.グッドってことなの?ごめん、メモ取ってなくてさ」 スコット「気候変動が世界では今、一番の脅威なんっす」 No.2「Dr.イーブル、あなたは今、世界の脅威のNo.2になってしまいました」 Dr.イーブル「No.2なんてやだよ。No.2君」
スコット「この星を救わなきゃ!」 Dr.イーブル「勘弁してくれ〜、の涙」 スコット「私の息子のためにも」 Dr.イーブル「君の…息子?彼をベイビー・ミーと名付けよう!」 スコット「いや、彼の名前はカイルっす」(スコットを消そうとするDr.イーブル)
フラウ「ダメ〜!最初に世界を救わなきゃ!それから征服すればいいでしょ!」 Dr.イーブル「じゃあ君がうまいことやって…あれ、わかった、つまり最初に世界を救って、それから征服すればいいわけだな!」 スコット「それ、彼女が言ったそのままっす」
Dr.イーブル「スコット、君はわかっていない」 スコット「何がですか?」 Dr.イーブル「お前には絶対わからないよ〜」 スコット「ガキみたいなやつだな!俺のことも消せないくせに!」 フラウ「おやめ!まずはカーボンフットプリントを減らすの」
Dr.イーブル「よくわからないけど、行こう!全部電気化するんだ!」 フラウ「乗り込め〜」 Dr.イーブル「スコット、お前はダメだ!…いつか君が私の後を継ぐんだよ、ベイビー・ミー…」
*画面にロゴが入る”EVerybody in. GM”
メジャー自動車メーカーとして、EVを楽しく(?)アピール
GMはポールスターとは真逆のスタンスで、頭でっかちにならず、EVを楽しく伝えるべく90年代後半のコメディ映画「オースティン・パワーズ」の悪役たちを採用。彼らのドタバタなやりとりの中でEVを選ぶことの社会的意義と、GMの”Ultiumプラットフォーム”を軸とした取り組みを伝えました。
EVという最先端の商材にあえて20年前のキャラクターをぶつけた意図が興味深くはありますが、メジャーブランドのスタンスとしてはこれも正攻法だと思います。
スマホやEVなど新しい市場が創造されるときは、いろんな企業による、いろんなマーケティング活動や広告上のクリエーティブ表現を見ることができる、ウォッチャーとしても楽しい時です。
ということで来週もセレブや動物がわんさか出てくる、スーパーボウルの中のEV広告特集を続けます。さて、次回は今回よりも面白いものが果たして現れるのか…?
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!