世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

栄光の歴史のダークサイドを巡る、大英博物館未公認ツアーへようこそ

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Photo by Hert Niks on Unsplash

完全に正しい歴史は存在するのか

一昔前、広告会社の表現担当者たちが新聞広告という枠でその腕を競う新聞広告クリエーティブコンテストで、素晴らしいキャッチフレーズが受賞したことがありました。

それは、子供のつたない手書きの文字で書かれた「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」というもの。(↓こちらです)

最優秀賞「めでたし、めでたし?」

確かにこの世の全てのめでたしめでたしの裏には、その犠牲になる存在がいます。そして何をもってめでたしとするかについては、みんなで真摯に考え、悩み、議論し続けることが過去から学ぶことで前進してきた人類としての責務なのだと思います。

今回はそんなことを深く考えさせられる、VICEワールドニュースによる意義深い取り組みをご紹介します。先日行われたアジア太平洋・アセアニア地域におけるクリエーティビティの祭典Spikes Asiaのデザイン、モバイル、PR、ラジオ&オーディオ部門の4部門でグランプリを獲得した怪物級のキャンペーンです。

まだまだ欧米中心の広告業界では気づかれにくい、このような視点が高く評価されたというのは嬉しいですし、アジアならではの視点を世界に提示したという点でも意義深い取り組みだと思います。

「フィルターを解除した歴史ツアー / The Unfiltered History Tour」

[雑和訳] ナレーション ”大英博物館は人類の歴史や芸術、文化を讃える公共施設です。ここロンドンにある、世界中で収集された8万以上の展示物を見にきてください。あなたは今、Gweagalの盾(原住民の盾)を見ています。ジェームス・クックは英国海軍の船長で…”

(*画面上の指がスマホをタップすると同時にナレーションがインド訛りの英語に変わる)”…我々は今、我々から奪われた忌々しい盾を見ています”

タイトル:「大英博物館の新しいツアー、はじまる」「…ただし大英博物館はまだ、これを知らない」「VICEワールドニュース提供、フィルターを解除した歴史ツアー(The Unfiltered History Tour)」

インド訛りの英語のナレーション”大英博物館のコレクションは‘祖先から伝えられてきたことを誇る’という、シンプルなアイデアに基づいている”  解説ナレーションA:「これらの遺物がどう取り扱われるかについては、(元来の所有者である)我々の決定に基づくべきだ。もし我々が保存できないとしても、それは我々が決めることで、大英博物館が決めることではない」

インド訛りの英語のナレーション”(英国の)人々は何をもって所有権が主張できると学んだのか?”  解説ナレーションb:「あなたたちは我々(の民族)が、人に我々の歴史や文化を伝える知性がないとおっしゃっているのですか?」

インド訛りの英語のナレーション”もし英国が展示物の返却を始めたら、博物館はほとんど空っぽのホールになってしまうだろう”  

タイトル:「論争を呼ぶ大英博物館の展示物についてのツアーを体験しよう」「…それらを奪われた国の人々によるナレーションと共に」「インスタグラムのフィルターと、没入感のあるオーディオで」

解説ナレーションC「我々は今、Gweagalの盾を見ています」解説ナレーションD「ロゼッタ・ストーンです」解説ナレーションE「モアイ像を見ています」

タイトル:「インスタグラムのviceworldnews、またはtheunfilteredhistorytour.comでツアーを始めてください」「VICEワールドニュース提供、フィルターを解除した歴史ツアー(The Unfiltered History Tour)」

21世紀、すべての博物館に必要なアイデアかも

いかがでしたでしょうか?この紹介ムービーを見た後、私はロゼッタストーンがイギリスにあることにこれまで全く違和感を感じてこなかった自分の鈍感さに驚かされました(元々鈍感なのですが、これまでとは…汗)。そしてこの取り組みに興味を感じ、ムービーの最後の方に紹介されていたキャンペーンサイトにアクセスしてみました。(↓こちらです)

theunfilteredhistorytour.com

サイトではロゼッタストーンやモアイ像の略奪について、印象的なムービーやオーディオでまとめられていましたし、大英博物館に行ってアプリを起動すれば、実際にその場で、没入感のあるオーディオで解説も聴けるようです(おかげ様で生まれて初めて、大英博物館に行ってみたくなりましたw)。

そしてこのサイトで印象的だったのが、一番下にあった「次はどの博物館のフィルターを解除したいですか?(ここにリクエストを書き入れてください)」という部分。

確かにフィルターを外して歴史を眺めた場合、残念ながら血や暴力、略奪から完全に無縁でいられる国や土地はないのだろうなぁ、と思います。そう考えてみると、このような「フィルター解除モード」のツアーが世界中のもっと多くの博物館に普及したら、マウントの取り合いに終始しがちな人類がより思慮深くなるきっかけになるのではないか、と思いました(無論、話を捻じ曲げて人々を暴力へと駆り立てる政治やプロパガンダの介入には気をつけなければいけませんが…)。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!