世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

アイデアが選挙にできること

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Photo by Clay Banks on Unsplash

選挙の季節がやってきました

この記事の執筆日は2021年10月9日。岸田内閣が発足し、月末の31日には衆議院の解散、総選挙が行われる見込みです。このタイミングを待っていたわけではないのですが、クリエイティビティの世界的祭典カンヌライオンズの今年の受賞作(メディア部門グランプリなど多数)で、選挙にまつわる素晴らしいアイデアがあったので今回はそれをご紹介したいと思います。

今年の頭には親トランプ派が議事堂を占拠したりと、アメリカの民主主義の危うさを感じる機会も増えていますが、このように民主主義を守る動きがしっかりとあるのもまた、アメリカの底力なのかな、と思います(暮らしていてとても疲れそうな社会ではありますが…)。

以下の紹介ムービーを例によって、私の雑な和訳とともにご覧ください。

Boards of Change(変革の板)

www.youtube.com

【雑和訳】ジョージ・フロイドが警官に殺される前の音声「殺される!死んじゃうよ!息ができない…」 [2020年の大統領選挙まで5ヶ月] [*シカゴ・ニューヨークでのblack lives matter運動の様子が映し出される] ニュース映像"ダメージは広範囲で、多くの店舗の窓が粉砕されました。各店舗は今、板で補強を行なっています"

[シカゴ市が-] [大統領選挙において-] [提供したもの-] ["変革の板"]

[*変革の板により作られた投票登録・投票ブースが次々と映し出される] 街の人「皮肉なのは、この登録所の板がもともと、自分たちの声が無視されている、という怒りにより壊された店舗の窓を塞ぐための板だった、というなんだ。それが今、そういった人たちのための投票ブースになっているんだから、びっくりだよね」

[民主主義が攻撃にさらされているころ-] メディアの人「黒人の有権者に対する権利が絶え間なく攻撃されているんです」 [シカゴは黒人の有権者が大切であることを明確に示す必要があった] シカゴ市長「今こそ、black lives matterのエネルギーを建設的で、後世に残る民主的な試みへと変換させるときなのです」 ミシェル・オバマ「この国では5人にひとりの有権者が、選挙の登録すらしていないのです」

[このブースは、選挙への登録をこれまでになく簡単なものにした] [そして社会的マイノリティに属する人々を投票へと駆り立てた]  インフルエンサーと思しき人たちのコメントが入る「私は、私たちにも一票を投じる権利がある、ということを示す一例になろうと思います」「ここで投票しなきゃ!」「今こそ動くとき」「社会システム全体の変革が必要とされていて、我々にはそのための場所が用意されているのです」

[街のメディアを使い、投票所への道案内も実施] [この試みは、国全体へのインスピレーションとなった] [*各種メディアで取り上げられている様子が映し出される]

[シカゴでの選挙登録者数は史上最高を記録した][投票者数も然り] [黒人コミュニティの歴史的瞬間の一つとして] [変革の板による投票ブースはデュ・セイブルアフリカ系アメリカ人歴史博物館に展示されている]

選挙権は私たちが守るもの

いかがでしたでしょうか?アメリカに住む人々、特にマイノリティの人々の選挙への熱い思いが伝わるアイデアだと思います。

戦後の日本で育った感覚だとどうしても「選挙権はあって当然のもの、だけど別に投票しても、しなくても何も変わらない気がする…」という意識があると思います。しかし民主主義は先人たちが試行錯誤の末に、世界中でたくさんの血を流して開発した、国民、政治家、役人、メディアが”きちんと働く限り”相当良くできたシステムです。逆にいうと、現在の投票にまつわる様々な問題は各ステークホルダーがきちんと働いていないから起きているものだ、ともいえます。

それぞれのパートに大なり小なり課題はありますが、だからといって民主主義自体を破壊してしまうのではなく、今回ご紹介したようなアイデアの力をうまく使い、それぞれの持ち場を少しずつ改善していければ素晴らしいな、と思います。

そして我々国民のパートの課題は、政治家たちに「ちゃんと見てるぞ」ということを示すための「投票率の向上」です。私も今度の選挙、「きちんと自分たちの仕事をしているメディア」による情報をしっかり読んで、しっかりと投票してこようと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

スペインで人口70人の町を過疎から救った、シュコダ入魂の試み

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Photo by Eder Pozo Pérez on Unsplash

5年前にアップしておくべき記事でした

今週は前回の記事*がきっかけでこれまで、本ブログで取り上げていなかったことに気づいた、前回同様「自動車のブランディングで町おこしを実現した」過去の名キャンペーンをご紹介します。これまでお伝えしてきた世界的クリエイティブの祭典カンヌフェスティバルでも高い評価を得た作品で、2015年にPR部門で金賞を受賞しているものです。

*ちなみに前回の記事はこちら

wsc.hatenablog.com

個人的には「解決した課題の明快さ」や「商品特性と地理的条件との整合」、そして「時間的にこちらの方がオリジナルであること」の3点から、先週のアイデアよりも若干、こちらの方が強いのかなぁ…と感じています。

それでは早速見てみましょう。チェコの自動車メーカー・シュコダによる取り組みの紹介ムービーを(例によって)、私の雑な和訳付きでご覧ください。

シュコダ「70 Guardians of Winter(70人の冬の守護者たち)」紹介ムービー

vimeo.com

【雑和訳】[地方の人口減少により、スペインではこれまでに3,000の町村が放棄されてきた] [現在のペースだと、これからも毎年およそ100以上の町村が放棄され続けることになる]

[ヴァルデリナレス-スペインで最も標高の高い町] "ヴァルデリナレス。80年以上前には、このスペインで最も標高が高い町に、1,470もの人々が住んでいた。しかし今では、70人しか住んでいない” おばあさん「慣れないと、ここの冬は相当厳しいわよ」

”薬局もない。スーパーもない。病院とは20キロ離れている” "2014年の冬、学校は廃校の危機を迎えていた” 教師「家族が離れれば、子どももついて行く。そうして町から活気が失われてしまうのです」

"しかし住民たちは離れることを望んでいなかった" "彼らは70人の冬の守護者たち" ”そしてこれは、シュコダの新しい4X4がどのように町を過疎から救ったかについての物語だ”

”我々は家族を持つ人たちの関心を惹きつけるための、町の人々を使ったスポットCMを制作” 町の女の子「冬に備えよ。我々は今年も備える、あなたのために」 TVの人「素晴らしい取り組みです。シュコダは町の70人と一緒になってCMを作ったんです」

シュコダはこの4X4を街に来る新しい家族のための就職口に転換” 「街に移住してくれた人には、冬の守護者たちのためのドライバーになってもらう仕事を用意します」 "町の物語はドキュメンタリーとなり、人々がヴァルデリナレスや、70人の住民について学べるようウェブサイトが作られた"

”この取り組みは話題となり、600以上の家族が応募” "そして、この家族が選ばれた" [デイビッド&ベレン夫妻] "結果、ヴァルデリナレスの冬の守護者の数は今、75人に" "そして学校はたくさんの年数、運営を続けることができるようになった"

”結果。ブランド認知は25%向上。シュコダの売り上げは前年の同じ時期に比べ、21%向上した” "ヴァルデリナレスの検索回数は83%向上" "この冬は、新たに2つの町が、新しい家族を迎えるためにこのアイデアを活用した"

[70人の冬の守護者たち]

短期のビジネス目標と暮らしをどうマージさせるかが課題

いかがでしたでしょうか?前回ご紹介した電気自動車のアイデアが「田舎の村の人々全員に3年間の期間限定で、電気自動車を支給して暮らしてもらう」というものだったのに対して、この取り組みは「シュコダの4X4を使った運転手として、新たな家族を過疎の街に迎え入れる」ということで、過疎というその地域が抱える課題に取り組んでいるところが、私はより一歩踏み込んでいるな、と思いました。

とはいえ、これは5年以上前のアイデアです。今もこの家族が村に定着しているかわかりませんし、企業の動きとしてはどうしても「車が売れれば良い」ということになりがちなので、今もこの取り組みを受け入れた町とシュコダが丁寧なコミュニケーションを取り続けているかどうかはわかりません。

そのリスクを承知である意味「人々の一生を左右する」このアイデアを実施したことを企業として「勇敢だ」と称賛するのか、「蛮行だ」ととるかは意見の分かれるところでしょう。

個人的にはこのアイデアは素晴らしいと思います。ただし今の時代の尺度で見ると、企業活動という短期的なものを、人々の暮らしという区切りのないものとどうマージさせるのかの部分(例えば行政とどうコラボして、この取り組みをサステナブルにものに変えたのか、といった部分)までフォローされていれば、さらに素晴らしいアイデアになると思いました。

市町村の過疎化は日本でも長年訴えられながら、解決されてこなかった大きな課題です。このアイデアが行われた2014年とは違い、地方でもオンライン会議やeコマースを使いこなす人々はかなり増えました。今回のアイデアのフォーマットの上にこれらの社会的変化を載せれば、日本でも何かより、素晴らしいことができそうな予感がします。ぜひ、日本のあちこちでご参考いただければと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆様、また来週!

おら電気自動車乗るだ@南仏

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Photo by Emmanuel Martin on Unsplash

フランスの田舎で行われた電気自動車の”実用実験”

電気自動車と聞くと、2021年の時点で皆様はどのようなイメージを持つでしょうか?未来はみんな乗っているんだろうけれども、自分が買うにはまだ色々不便がありそう…。というような、心理的障壁がまだ根強いのかな、と思います。

発電やバッテリーの製造〜廃棄過程が改善されない限り電気自動車=絶対善ではないですし、地理的条件によっては日本のように水素という選択肢も普及されて然るべきです。

そういった事実を念頭に置きつつ…ではございますが、今回は、社会にとってより良い選択=電気自動車に対する人々の心理的障壁を見事に下げた事例としてフランス車ブランド、ルノーによる取り組みをご紹介します。

クリエイティブの世界的祭典、カンヌライオンズ2020/21のアウトドア部門(屋外広告部門)のグランプリ受賞作品でもあります。

事例紹介ムービー(雑和訳付き)

www.youtube.com

【雑和訳】「ここ数年、自動車業界は人々に電気自動車を売るべく、大量の金額を投じて広告を展開してきました」「しかし現在、電気自動車の購入意向がある人たちはたったの7%」「93%は今もなお、都市部にでもすまない限り、電気自動車は使い勝手や社会的基盤に欠くと信じています」「つまり、彼らは電気自動車の良さを納得できる何かを欲しているのです」

「電気自動車のリーダーとして。ルノーは電気自動車が、誰にとっても選択肢となりうることを証明したいと思いました」「そこで2020年、ルノーは100%電気自動車で生活するエリアを作ったのです」「(*画面ではパリやリヨン、マルセイユを地図で示しつつ)どこでかって?」「ここです。…その名もアピー村」

”村の全員が、電気自動車にシフトするとこになるのだそうですね”、”はい。アピーで行われます”

(*画面ではパン屋やスーパー、学校までの遠い距離が示されつつ)「この村は、何をするにも遠くに離れています」「本当に遠いので、ここの暮らしでは自動車が不可欠。ですが、電気自動車で暮らすことは不可能に思えます」「そう、我々はあえて、最も遠くに離れた村を実験の場として選んだのです。なぜなら”ここで可能なら、どこででも可能なはずだから”」

「そこで我々はルノーの電気自動車”ZOE”を3年間、アピーのすべての人々の車と交換」「ご覧ください。今やこの村は公式に、地球で唯一、100%電気自動車で生活する居住エリアとなりました」「しかし、ZOEだけで暮らし始めて6ヶ月」「何が変わったのでしょうか?」「…何も変わりませんでした」

「パトリックは毎朝職場に行き、帰ってきますし」「シルビーはスーパーで買い物をしますし」「マリーは毎日、子供を学校に送ります」「ジルベルトはGPSがあってもまた迷子になっています」「アピでの毎日はまったく変わりません」

「たったひとつのこと…炭素を除いては」[2,600リッターのガソリンを節約][4トン分のCO2削減に相当]「テレビやソーシャルメディアが彼らの暮らしを追うことで、アピは有名になりました」「そしてフランスの多くの人たちに、電気自動車への転換を促したのです」[売り上げは50%上昇][ZOEがヨーロッパで一番売れている電気自動車に]

「でも、それだけではなく…ご覧ください。(村人が誇らしげに”電気自動車の村”という看板を磨いている)」「これがホントの"アッピー・エンド"です」

イノベーションと実用性のギャップを素直に認めたルノーに拍手

電気自動車というと最先端の街だったり、緑の森をクールなタレントが走るようなイメージを売る広告が多い気がしますが、消費者の立場から言うとクルマにとって大切なのはイメージよりもこの紹介ムービーの冒頭にもある通り「走行距離」や「充電のしやすさ」といった実用性です。

そこを素直に認めて、イノベーションという言葉が持つイメージからはある意味、真逆にある「都会から遠く離れた村の人々」に着目し、ここまでのコラボレーションを繰り広げたところにこのアイデアの素晴らしさがあると思います。

考えてみると、村人一人一人の車をZOEに変えさせる、という交渉も大変なことです。ここらへんは村とどう信頼関係を築いていったのかなど、機会があれば制作スタッフたちに裏話などもぜひ聞いてみたいものです。

「ここで可能なら、どこででも可能なはず」ということを可視化して売り上げを伸ばし、そして地球環境の改善に寄与した…のみならず、村おこしにも多大なる貢献を果たしたこの取り組みは、日本でもフォーマットの一つとして取り入れ、応用する価値はあると思いました。

ただし、カンヌのグランプリに値するかは文脈が必要

ここからは少しマニアックな話になりますが、個人的には一番最初にこの取り組みを見た時、これがカンヌのグランプリに値するかどうかについては、少し疑問に思いました。なぜなら過去、Skodaというチェコの自動車メーカーが住民70人の過疎の村と徹底的にコラボをして成果を上げた「70 Guardians Of Winter」という素晴らしい取り組みがカンヌを受賞していて、今回のアイデアはどうしてもそれの”電気自動車版”に感じてしまったからです。

www.youtube.com

カンヌのグランプリにはこれまでにない、業界全体を未来へと導くようなものこそがふさわしいと思いますし、それがカンヌライオンズのカンヌライオンズたる所以だと思います。その文脈を読むとすると、今回のグランプリはアウトドア部門のものだった、ということで「アウトドア(屋外広告)の可能性をこれまでにない領域にまで広げた」というところが高く評価されたのかな、と思います。

何はともあれ、目まぐるしく価値観が変わり続けるこの世界の中で、こういう試行錯誤を堂々と続けながら、人々にとって価値ある存在であり続けようと努力するカンヌライオンズには敬意を表しますし、これまでになかったアイデアかどうかに関わらず、このアイデアを考え、高いレベルで実行したルノーの皆様には拍手以外ありません。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

PS.Skodaの取り組み、このブログですっかり取り上げた気でいましたがまだ取り上げてなかったみたいです。5〜6年前のキャンペーンですがまだ十分素晴らしいので、近いうちに取り上げようと思います!

カンヌの知恵を盗んでください。そして社員を盗んでください。

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Photo by Elevate on Unsplash

今回のブログの記事には、伝えたいことが2つあります。「カンヌの知恵を盗んでください」ということと、「社員を盗んでください」ということの2つです。

カンヌの知恵を盗んでください

先日、今年の6月にほぼフルオンラインで開かれたクリエイティビティの世界的祭典・カンヌライオンズに日本から参加した各部門の審査員たちによるシェアリングがまとめられたコンテンツが無料で公開されました。

簡単な登録は必要ですが、このブログの読者にはかなり役立つものと思います。2021年末まで見れるそうなので、閉じられてしまう前にぜひご覧ください。

www.canneslionsjapan.com

私もこれをみて、審査員たちの熱のこもったプレゼンに、記事を書くたびにうっすらと感じていた「今年のカンヌなんて書いてももう古い、て思われちゃうかな…」と思っていた迷いがなくなりました。

そもそもが自分の勉強のために始めたブログです。もちろん最新のネタもピックして参りますが、受賞作のクリエイティビティの質はやはり一級品ですので、一つ一つ丁寧に、これからもカンヌの今年の受賞作を紹介し続けていこうと思います。

そして社員を盗んでください

そしてもうひとつの伝えたいこと。上にご紹介した審査員たちによるシェアリングでも取り上げられていて特に素晴らしいな、と思ったキャンペーンを今回はご紹介させていただきます。

スタッフの80%が何らかのハンディキャップを持つ人たちで構成されているイギリスの石鹸メーカー、Becoが障がい者の雇用を広めるために行った挑戦的で、でも人間の暖かさが溢れているキャンペーンです。

ではこちらの、紹介ビデオをご覧ください。タイトルはズバリ「#StealOurStaff(#我々の社員を盗んでください)」です。

www.youtube.com

【雑訳】”一般人口の80%には職があるのに、職についている障がい者は48%しかいない”[障がい者が職につける確率は、50%少ない(世界経済フォーラム調べ)]”企業の90%は人材の多様性に重きを置いていると言っているにもかかわらず、障がい者を考慮している企業は4%だ”[イギリスでは、110万人の障害者が職探しに苦労している(イギリス国家統計局調べ)]

[Becoはその点、一味違う石鹸メーカー]「私は障がいじゃなくて、人間としての能力が評価されるべきだと思います」[Becoでは、スタッフの80%が障がい者(そしてスタッフの100%が素晴らしい)]「これは手話じゃなくて、こうすることで作業が捗るんです」[我々は、もっと多くの企業が我々のように雇用すべきだと考える]「他の雇用主もBecoのようにできると思います」「そして、彼らにチャンスを与えるのです」

[そこで我々は、他の雇用主たちを誘った…]"我々を盗…。"「あら、私のセリフ取らないで!”#我々社員を盗んでください”」[我々は、自社の石鹸のパッケージに彼らの履歴書をつけ][500以上の店舗に並べた]「それが皆様が、イギリス中のBecoの商品で我々の履歴を目にした理由なんです」”そして3つの工場のスタッフが、自身の履歴を記したソープボトルを手に取った”「お前はハンサムだよ、マイケル」「おお、ありがとう自分」

[そして][ターゲットは][至る所に]【親愛なるリチャード・ブランソンさんへ】【カールスバーグ社の皆さん。あなたたちは世界一優秀なスタッフを雇えますよ。多分ね。】【我々のスタッフを盗んでください。Just do it.】【ジレットさん、上司が求める最高のスタッフ、いかがですか?】【ステファンに会ってみよう】【私はステファンを盗みたい】

[我々は無視されていた存在を][見逃せないものに変えた]「あなた、私に似てますがそこ(ボトルのラベル)で何をしてるんですか?」「あなたを有名にしてるんです」「ハハハ…」「あなたにも良くて、みんなにも良いことなんです」*各種メディアからのコメントが抜粋される

[売上は96%向上][Web上のトラフィックは1600%の向上を見せた][そして、40を超えるブランドから接触があった]「必要なのはチャンスで、それで人生がまるで変わってくる、ということもあると思います」「もっと多くの会社がBecoのようなことを試み、採用を進めてくれるといいと思います」[Beco #社員を盗んでください]

「ブランド体験」の教科書的事例

いかがでしたでしょうか?私はこのビデオの中にある、「我々は無視されていた存在を、見逃せないものに変えた(”We made the invisible hard to miss.”)」という一節が大好きです。

息が詰まりそうなほど大量の情報を消費しながら生きている人たちが(自分含め)大半の中、どうやったら人々に認知し、立ち上がってもらえるのか。ここを考え抜き、実行することが障害者の雇用だけでなく、全ての社会課題の解決のために不可欠な「思考の基盤」なのだと思います。

そしてもうひとつ。あなたがこれから立ち寄るスーパーマーケットでもしも突然、いつもの石鹸を売る棚の一角が履歴書のパッケージになっていたらどう思うでしょうか?

おそらく他の石鹸のブランドとは明らかに異なるブランドとして認知するでしょうし、それを手に取り、買うことによって彼らを支援しているような、いい気分になることでしょう。

値段の安さだけでは決して作れない”心のドラマ”がそこにはありますし、それこそがまさに「ブランド」体験なのです。

…ということで単なる社会的課題の解決だけでなく、それをしっかりと自社ブランドの確立と売上向上にも結び付けたところが、このキャンペーンが世界的に高い評価をうけた理由のひとつだと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

温暖化、森林破壊…壊れゆく地球の変化をグーグルアースで見てみよう

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Photo by NASA on Unsplash

引き続き今年のクリエイティビティの世界的祭典、カンヌライオンズの受賞作品特集を続けてまいります。今回はデザイン部門で金賞を受賞したGoogleによる試みをひとつ。

今回はあまり説明の必要がなく、世界各地の1980年代から現在に至るこの星の環境変化を「変わりゆく森林」、「温暖化する地球」などのテーマ別にGoogle Earthを使って、タイムラプスで見れるというプロジェクトの紹介になります。

まずは美しくも末恐ろしい、この取り組みの紹介ビデオをご覧ください。

www.youtube.com

【超雑訳】”宇宙には、真空を回転する美しい球体がある。そこには命があり、我々がいる。それはたくましく、不変のもののようにも見える。しかし今、我々はそうではないことに気づきつつある。時の経過や、暮らしや、呼吸とともに。…時とともに、我々はかつてないスピードで地球を変化させている。我々は我々の生き方や、選択がこの星に与えている影響を目の当たりにしている。そして、その結果も。宇宙には今どう扱うかで、我々の未来が決まる場所がある。目の前で世界が変わりゆく中、あなたは何を思い、何をするのか?”[グーグルアースのタイムラプスで、変わりゆく世界を巡ってみよう。goo.gle/timelapse]

いかがでしたでしょうか?では早速、こちら→(https://goo.gle/timelapse)から「変わりゆく世界」を目撃し、この美しい星を守るため、自分がどうすれば良いのかを考えるきっかけとしてください。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

乳がん予防を、イスラム社会でタブーに触れずに広めたアイデア

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Photo by Mihai Surdu on Unsplash

すっかり秋めいてまいりました。6月末にほぼ完全オンラインでおこなわれたクリエイティビティの世界的祭典カンヌ・ライオンズからたった2ヶ月半の間にオリンピック・パラリンピックが行われ、身の回りでもワクチン接種が進み、日本の首相も(再び)変わることが内定するなど、世界は変わり続けます。

ですが、こちらのブログはブレずに今回もカンヌライオンズの受賞作品を紹介し続けたいと思います。今回はPR部門でグランプリを獲得したレバノンでの取り組みです。

レバノンでは、乳がんの初期段階での発見が難しいそうです。その背景には、女性たちが自身の体について語ることに対してタブー視をする文化的・社会的な風潮があります。

結果として、どのように(乳がんの初期発見には欠かせない)セルフチェックをするのかを女性たちが知りたくても、語ることも、学ぶこともできません。

どうすれば、タブーとされる体について語ることなしに、レバノンの女性たちに乳がんのセルフチェックを啓蒙し、初期段階での発見を促すことができるのか?

そこである「食べ物」の作り方に目をつけ、課題の解決に結びつけたアイデアがこちらになります。以下の紹介ビデオをご覧ください。

www.youtube.com

【超雑和訳】[レバノンでは、女性が体について語ることについてタブー視する風潮があるため、乳がん患者はしばしば、末期にならないと判明しない状況にある]「我々の社会では、タブーだとか、気に触ることとみなされてしまいます」「まだ公に話すべき話題とはなっていません」「セルフチェックをどうするのか、誰も話してくれないのでわからないんです」[このタブーを打ち破るために][我々は、我々の食伝統を活用することにした][そして、女性たちにセルフチェックの方法を伝授するのだ][…パンづくりを通じて ][AUBMC、Spinneyスーパーマーケット、レバノン乳がん協会提供]["パンづくりチェック"]「こんにちは、アリです」「みなさんが毎月パンを焼いてくれることを願ってお届けしています」「今回は、最も体に良いレシピをご紹介します」[このレシピは、人気の伝統料理のパン焼き職人、ウム・アリさんと産婦人科医が開発][パンづくりと、乳がんのセルフチェックの手の動きの類似性に着目し、乳がんのセルフチェックの方法を、生地をこねながらデモンストレーションしたのだ][胸について見せることも、語ることもせずに][こうすることで、このチュートリアルはソーシャル・メディアで公にシェアすることが容易になった][(*スマホ内の字幕)今月はパンを焼きましたか?][大手テレビ局では、このレシピの真の意図が乳がんのチェックであることを発表][「今月、パン焼いた?」はこれまで語られてこなかった乳がんの話題を指す言葉として、女性たちの間の隠語となった ][世界中の料理人インフルエンサーもセルフチェックのためのオリジナルレシピを開発](自分なりのレシピを公開するUAE/トルコ/ドイツ/UKの料理人インフルエンサーの様子が映る)[このコンテンツは、伝統的コミュニティに住む女性たちがタブーを克服するきっかけとなった][レシピのQRコードは、Spinneyブランドの小麦粉のパッケージに印刷され流通][パンの包み紙にも印刷され、市場でも実演された][もちろん、Sipnneyの店舗でも][この取り組みは、レバノンの大統領や国際的なメディアから賞賛を受けた(*いくつかのメディアのコメント入る)][このレシピは1億1200万人にリーチ][86%のアラブ地域の女性たちが、このレシピはセルフチェックを思い出させてくれるだろうと答えた][タブーを伝統と融合させることで、”パンづくりチェック”は乳がんについて語り合うための言葉となった] [ ただ、まだ一つだけ確認すべきことがある]["あなたは今月、パンを焼きましたか?"]

いかがでしたでしょうか?このアイデア乳がんという体についての問題なのに、肝心の体について物が言えないという、いわば完全な「無理ゲー」状況を一発で鮮やかに解決した、というところがカンヌライオンズのグランプリ受賞作たる所以なのかな、と思います。

そしてまたこのアイデアの根底にある「理不尽な現状に頑なに争うのではなく、むしろその潮目を合気道のように活用し、社会を無理なく、自然により良い方向へとひっくり返していく」という考え方は、分断したまま各々が言いたいことをソーシャルメディアに投げつけて憂さを晴らしているだけの、いわば「全員が少しずつ負けている」状況よりは建設的なのかもしれないな、と思いました。

 

ちなみにこのアイデアに関連して一言:「パンの生地に着目した」という点で、だいぶ前のアイデアではありますが、南アフリカハンバーガーチェーンWIMPYが目の不自由な人たちへのメッセージを、ハンバーガーのバンズについたゴマを点字にして伝えたこちらのアイデアを思い出しました。いつか取り上げたい!と思ったまま10年放置していたようなので、罪滅ぼしにまずは以下に紹介ビデオを置いておきます。音楽の使い方など、ボケーと見るだけでも気持ちが明るくなる映像なので、お時間あればこちらもぜひご覧ください。(機会があればいつかまた、こちらも雑和訳込みで解剖してみたいと思います。)

www.youtube.com

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。

それではみなさん、また来週!

ヴィヴァルディの「四季」を現在の気候に置きかえてみた

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Photo by Samuel Sianipar on Unsplash

今年の夏「も」日本列島は異常気象に悩まされました。長引く雨は西日本に大きな損害を与え、国外でもドイツやトルコで洪水が起こるなど、温暖化する気候が我々の暮らしを脅かしていることがいよいよ明らかになってきました。

この状況を緩和するため、現在SDGsをはじめとする様々な取り組みが世界的になされてきておりますが、何せ問題が大きく、一人一人の心掛けから政府や企業の思惑が複雑に絡み合っているため、日々の暮らしの中では「できるなら考えずにいたい」と、具体的アクションを訴える声に耳を塞いでしまうことも多いのではないでしょうか?

今回はそんな人間の心理に対し、気候変動のおぞましさを「有名な音楽」で可視化ならぬ”可聴化”することで表現、世界に大きなインパクトを与えた取り組みをご紹介します。

使われた曲はヴァイヴァルディの「四季」。1700年台初頭に作られたこの傑作の構成楽曲である「春」「夏」「秋」「冬」を、それぞれ現在の気候に合わせて編曲したらこうなる…ということで、21世紀版のなんとも気持ちの悪い四季をまとめ上げてしまいました。カンヌライオンズ2020/21のクリエーティブ・データ部門の金賞受賞作品です。それでは解説ビデオをご覧ください。

www.youtube.com

【雑和訳】”1723年、ヴィヴァルディは「四季」を作曲した” / ”以来、彼が描いた世界はドラスティックに変化した” / 「過去の10年は最も暖かい10年だったことが認められました」「世界的規模の破滅が見えてきたのです」/ [気候変動は、今他地球上の生命にとって最大の脅威となった][しかし、脅威のあまりの大きさからか、人々はこの問題に対して耳をふさぐ傾向がある][NDR エルフィローモニック・オーケストラがお届けする][ヴィヴァルディの”四季”改め”季節のために” -作曲:気候データ][NDR エルフィローモニック・オーケストラは、この問題に対して音楽の力で人々の耳をこじ開けようと試みた][ソフトウェア開発者と作曲家のチームを編成。(ヴィヴァルディの)”四季”の(楽譜)を現在の気候に合わせて再構成したのだ][特別に開発されたアルゴリズムで過去300年間にわたる気候変動データを使い、ヴィヴァルディの傑作を編曲][現代版の”冬”は51小節短くなり、”夏”の構成要素が”春”の構成を侵食した][鳥のさえずりをイメージしたヴァイオリンの音は、鳥類の減少に合わせて15%抑えられた][”夏”に時折挿入される雷鳴を表現したヴァイオリンのパートは、全ての季節を侵食][結果は眉をひそめるものに][(現代版の四季は)ちょうど今の自然界のように、バランスを欠いたものとなった][数ヶ月にわたる作業の後、この”四季”はハンブルグのエルフィローモニック・オーケストラにより世界に向けてプレミア上演され、その模様はfacebookライブ配信された][この試みはすぐに反響を呼んだ。そして、何百万人の人々に聴かれることとなった](色んな反応や結果が入る)[我々は気候変動を可聴化した。そして人々はついに、それに耳を傾けるようになったのだ][このスコアは、世界中のオーケストラが自由に演奏することを許可しています][この曲は今、国連開発プログラムのパートナーコンテンツとなっています][forseasonsbydata.comで実際に聴いてみてください]

いかがでしたでしょうか?誰もが知る、季節に関する心地よいオーディオコンテンツを、データの力で編曲することで気候の変動を「耳でわかる」不快な体験として提供したアイデアなのですが、聞いた瞬間に「一本取られた!」と膝を打つ、とてもクリアで強いアイデアですよね。

解説ビデオの途中で出てくるグラフィカルな説明のアニメーションも(このアイデアの本質と関係ないのですが汗)綺麗で何度も見たくなりました。

そして最後、演奏後のオーケストラの背景に出てくるキャッチフレーズ”We've heard all about climate change. Now, it's time to listen.”、これ、意訳すると「気候変動がどういうものかを今、皆様は”耳にしました”。(ひどいもんですよね?)さぁ、これからは気候変動の課題にもっと”耳を傾ける”時ですよ!」という意味になると思います。

うまいフレーズだと思いましたし、おまけに”hear”と”listen”のニュアンスの違いも学べる、英語の勉強的にもおいしい一言だと思いました。

せっかくなので、この気持ちの悪〜い、現在版の四季の全曲を収めたムービーを以下に置いておきます。「なんか、気持ち悪い」、そして「なんか怖い」というのが、今の気候変動に対する気持ちとかなりシンクロします。よくできてるなぁ…。

www.youtube.com

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。

それではみなさん、また来週!