世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

マジョリティの視線から抜け落ちた属性に光を当てる【カンヌ2022より】

UnsplashのNsey Benajahが撮影した写真

顧みられてこなかった非白人の「皮膚の健康」

例えばあなたがアジア系の日本人で、日本で湿疹に悩んでいるとします。Googleで「湿疹」と打ち込み画像検索をした場合、ほとんどの場合はあなたにとって参考になる画像が出てくることと思います。

でもそれが特権かもしれない、という可能性をあなたは考えたことはあるでしょうか?

検索結果が参考になるのは、あなたの肌の色が、検索結果に出てくる画像の肌の色と近いからです。ではもしあなたが日本に住む、黒人だった場合はどうなるでしょうか。

検索しても出てくるのは、日本社会のマジョリティを占めるアジア系の肌の画像ばかり。自分の肌の状態との比較対象が難しく、病気の発見が遅れてしまうばかりか、自分に近い肌の色の画像が検索結果に全く出てこない…という状況は、まるで自分のアイデンティティが社会から無視されているような気分になってしまうことでしょう。

…と、今回はこんな前置きをすることでより理解が進む、UnileverのスキンケアブランドVaseline(ヴァセリン)がアメリカで行った取り組みをご紹介します。

ちなみにこちら「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022のSDGs部門で金賞を獲得したキャンペーンとなります。それでは以下の紹介ビデオをご覧ください。

「SEE MY SKIN / 私の肌を診て」

youtu.be

【雑和訳】

Aissatouさん「オンラインの検索では、肌の色が濃い女性たちの悩みに関する情報を得るのがとても難しいんです。特に私のような肌の場合は…」/

文字要素:画像検索の結果、有色の肌の状態に関する画像が出てくる割合は6%に満たない /

Ellyさん「私は答えを求めて検索しているだけなんですが…」/ Richelleさん「自分の肌の状況と同じようなものが全然見つかられなくて」/

文字要素:茶色や褐色の肌の状態に関する検索結果がない、ということは、それらの肌を持つ人たちの存在が見落とされている・まともに扱われていない・診察されていない、ということだ  /

そこでVaselineは"SEE MY SKIN"を開設 / これは、ケアされるに値する肌の色が濃い女性たちと繋がり、その皮膚の状態を検索できるようデザインされた、唯一のデータベース /  

ユーザーの声「自分自身の肌を見ているようで、同じ状況なのは私だけではないし、自分もこの世界の一部なんだ、私たちの存在も大切なんだと励まされます」/ 「私たちは顧みられるに値するのだと思いました」/

文字要素:(検索ワードのように、次の文字が映し出される)湿疹・慢性乾燥肌・乾癬 /

タイトル:SEE MY SKIN -Vaselineとhuedが提供 

日頃、当たり前すぎて気づかない差別にいかに気づくか

いかがでしたでしょうか?「SEE MY SKIN」は今も稼働しているウェブサイトなので、ぜひ以下のURLを覗いてみてください。(英語のサイトですが、最近は各ブラウザーの翻訳機能もかなり進化しているので、前に比べれば手軽に読めるようになりました。嬉しい…)

vaseline.huedco.com

サイトのトップページ、一番上の虫眼鏡アイコンの横に英語で皮膚病の英単語(eczema(湿疹)など)を打ち込めば、他の黒人〜ヒスパニック系の人々がアップロードした関連画像を見ることができます。

そしてこの取り組みは、自らが有色人種である女性皮膚科医たちによりその正確性を担保しているようで、サイトの中には彼女たちによる診察の予約が取れる機能や、皮膚科医のかかり方、などの情報もしっかりと格納されていました。

ちなみにこちらのキャンペーンを舞台裏で支えたPR会社Edelmanによると、この取り組みにより皮膚科医でみてもらおうとする人々が1,430%の増加を見せたそうです。(以下のリンクから詳細をご覧いただけます)

www.edelman.com

これも、検索結果の不備により診察のタイミングを逃すことで、皮膚疾患による黒人〜ヒスパニック系の死亡率が25%高まっている、という結果と照らし合わせると素晴らしい成果だと言えるでしょう。

多種多様な人種で人口が構成されているアメリカでは、こういった今まで”当たり前すぎて誰にも気づかれてこなかった”マジョリティの特権を解体して、よりインクルーシブな社会を作っていこうという動きが加速しています。

日本でも、数多くの”社会的な当たり前”がたくさんあると思います。そしてその多くが誰も明確な悪意を持たず、むしろ社会を円滑に回すために、という善意さえも含み連綿と続いてきたものです。しかしこれだけのスピードで技術が進歩する中、社会のこれまでの当たり前が、人々の幸せとミスマッチを起こしているのが昨今の世の中だと思います。

今こそ社会が、そして自分自身が当たり前すぎて気づいていない”当たり前”が誰かを傷つけていないか、見直してみるにはいいタイミングだと思います。

そしてそこにはきっと、とてつもない質と量のアイデアの種が埋まっているに違いありません。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!