さて、パン屋さん、自動車、生体工学と続き今回4回目を迎えた「世界最大級の技術と映像・音楽のコンベンション」SXSW2015の事例紹介ですが、今回はサウジアラビアで女性の権利拡大に尽力しているリーマ王女のキーノート(基調講演)をご紹介します。アメリカのビジネス誌ファスト・カンパニーが「世界で最もクリエーティブなビジネスパーソン」に選出したことでも知られる彼女は、極端に女性の活動が制限されているサウジ社会の中で、どのようにして差別の扉をこじ開けてきたのでしょうか?お時間のある方は、そのキーノートを丸々収めたムービーがあるのでごらんください(字幕なしの英語です)。お忙しい方は、ムービー下のまとめをお読みいただければ幸いです。
<SXSW2015:リーマ王女のキーノート>
Princess Reema: "Mission to Empower Saudi ...
<リーマ王女の偉業まとめ>
1:デパートの売り場を女性に解放
サウジアラビアの高級デパートを経営するCEOである彼女は、それまで女性が働いてはいけないとされていたデパートの売り場を女性に解放(この記事のトップの写真は、その売り場で活躍する女性たちの姿を捉えた一枚です)。女性を職場に採用した直後は、それにより職を奪われた男性のケアをしたり、不慣れな女性が職につくことで発生した売り上げの落ち込みが、彼女たちに不安感や劣等感を与えないように気を使ったりと、かなりの苦労をしたようですが、今では彼女たちは大活躍をしているそうです。
2:女性従業員の福利厚生を充実
クルマの運転が暗黙の了解で禁じられているほど、女性の活動に制限が多いサウジ社会。そこでは姑の厳しい視線を逃れて毎日出かけ、職場に行くこと自体がかなりのチャレンジだそうです。なのでリーマ王女は従業員のための交通サービスやデイケアを充実。従業員自身の口座を開かせたり、社会保障のIDを取得させるという基本的なことから、プロフェッショナルとして働いて対価を得るとはどういうことか、といったところまで、従業員のトレーニングにも力を入れているそうです。
3:女性のための能力開発アカデミーを開校
女性従業員の能力開発で得た知見を、もっと多くの女性たちに解放したいと考えたリーマ王女は「Alf Khair(アルフケア)」というアカデミーを開校。女性の雇用に前向きな企業と組んで、職業訓練とインターンを組み合わせたカリキュラムなどで女性の社会進出を促しているそうです。
4:砂漠で秘密のファッションショーを開催
家でこそこそ服を見せっこして、デパートに買いに行く、ということがつまらないと感じたリーマ王女は、「tinker tailor」というファッションサイトのサウジ進出に際して「The Edge of the World(世界の端)」と名付けた女性だけのファッションショーを砂漠の絶景ポイントで開催。テキストメッセージやSNSでファッション好きの女性だけに声をかけたところ、120人もの女性が集まり(男性の目を一切気にせず)解放的なひと時を楽しんだそうです。
5:乳がんの啓蒙活動にも貢献
女性が体の特定の部分について語ることが文化的にはばかられるサウジアラビア。特に地方に多い一夫多妻制の家族では、妻が他の妻との関係もあり、自身の体の不調を訴えにくい環境にあるため、末期での乳がんの発覚率が非常に高くなってしまっているそうです。そんな状況を改善するために2010年、リーマ王女は3952人の女性を集めてピンクリボンの人文字を作りギネスに申請。これまでにない規模の女性によるデモンストレーションとして、サウジの社会社会にその問題を認知させることに成功しました。そして彼女は今、10KSAというキャンペーンを立ち上げ、今度は1万人の人文字にチャレンジ。これをきっかけに、その時だけのイベントに留まらない、女性の健康全般に関する、もっと長続きする活動につなげていくことを目指しているそうです。
さて、とってもパワフルな彼女の取り組み、いかがでしたでしょうか。ちなみにムービーのカメラのアングルが一貫して不自然なのは、セキュリティー上顔をあまり公開したくない、という事情があるからだそうです。このような状況からも、彼女がサウジ社会の中で、いかにチャレンジングなことに取り組んでいるかがうかがい知れます。
王女という特別な身分ゆえに海外に住み、欧米で過ごしてきたからこそ見える景色をきちんと自分のコミュニティのためにフィードバックする。そんな彼女の生き様は誠実ですし、国の内外問わず、社会の変革には彼女のようなある意味「よそ者」の視点が欠かせないのだと改めて実感させてくれるリーマ王女の基調講演でした。