世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

性別による格差の問題に切り込んだ「恐れを知らない」キャンペーン

f:id:socialcamp:20210214110524p:plain

Photo by bantersnaps on Unsplash

いわゆるジェンダーギャップ(性別による格差)の問題が日本でも盛り上がりを見せております。世界各地でもここ数年、男女間の賃金格差や、組織の幹部クラスにおける男性の数的優位が大きな問題となっていました。今回はアメリカで数年前に、この世界的課題に見事に切り込んだソーシャルキャンペーンをご紹介いたします。後日談含め、色々と考えさせられる事例ですが、まずは紹介ムービーをご覧ください。

www.youtube.com

こちら、世界的投資会社ステート・ストリート・グローバル・アドバイザースが、投資対象となる企業の取締役会における女性比率向上など、女性の働く環境の改善を訴えるべく、ウォール街のアイコンである「奮い立つ雄牛」のオブジェの前に、それに立ち向かう「Fearless Girl(恐れを知らない少女)」の像を「国際女性デー」に建てた、というアイデアです。

このアイデアは、世界的にも知られたアイコンに、伝えたいメッセージを見事に具現化したオブジェ(←おそらく、一般的なテレビCMの制作費などに比べればはるかに低予算)を立ち向かわせることで世界中に大きなニュースとして知れ渡ったことから、世界中の広告賞で高く評価されました(↓こちらの記事をご参照ください)。

www.huffingtonpost.jp

人々の共通認識(雄牛のオブジェ)と社会的文脈(ジェンダーギャップへの関心)の交差点にポン、とシンプルなコンテンツ(Fearless Girl)を載せることで俳句のように人の想像力を刺激し、メッセージを広く・深く理解させたこのアイデア。本当にあらゆるものが高次元で組み合わされた、素晴らしい取り組みだと思いました。

 

そしていつもであれば、このまま

「いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。」

とこの記事を終えられるのですが…。

 

・     ・     ・

後日、この試みを行なった投資会社の親会社ステート・ストリートに、賃金などの性別による格差があることが判明してしまいました(↓こちらの記事をご参照ください)。

digiday.jp

性別による格差に加えて白人・黒人間の人種格差もアメリカの連邦監査により指摘されたこともあり、親会社の話であるとはいえ、このアイデアの素晴らしさが手放しで賞賛できないものになってしまったことは残念で仕方がありません。

しかし、その子会社であるステート・ストリート・グローバル・アドバイザースがこの取り組みで示したように、昨今の人々が企業に求め始めている「Brand Activist(ブランド活動家-社会をより良くしていこうと、個人活動家のように企業ブランドが活動すること)」としての役割に、企業が応えようとすること自体に罪はないですし、むしろ奨励されて然るべき動きだと思います。

一方で、世界中に支店や子会社を持ち、複雑なオペレーションを行なっている企業のほとんどがこうした取り組みに、グローバルレベルで一枚岩で取り組める状況ではない、というのもまた事実です。

この事例は、図らずも企業が今や、これまで血眼になって取り組んできた質や値段の競争とは全く別の「経営の質」における世界的競争にさらされている、ということを示してくれています。(そしてそれがまさに、昨今の日本の組織が苦しんでいるポイントなのかもしれません。)

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

【ポッドキャスト・アーカイブvol.7】スピード違反を劇的に減らした、衝撃的な道路標識(2014年10月16日のブログより)

本ブログの、2014年の10月16日掲載分の記事を要約してポッドキャストにしました。週に一度、たった2分のアイデア復習。

anchor.fm

上記ご聴取いただき、ご興味沸きましたらぜひ元記事もお読みください。(元記事にはもう一つ、アイデアがおまけで紹介されておりますヨ!)

元記事へのリンク:

wsc.hatenablog.com

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!

コロナ下のCMの祭典「スーパーボウル」でバドワイザーが叩き出した模範解答

f:id:socialcamp:20210206020547j:plain

Photo by Ashton Clark on Unsplash

アメリカで毎年2月上旬に行われるスーパーボウルが今週末(2月7日)に迫ってきました。これはアメリカンフットボールの全米No.1チームを決める同国屈指のスポーツイベントであると同時に、音楽ファンにとってはド派手なハーフタイムショーが見所です。(余談ですがプリンスが大雨の中、パープルレインを歌った伝説のハーフタイムショーの様子をつけておきます。殿下ファンの務めとして・・w)

www.youtube.com

閑話休題フットボールと音楽に加え、スーパーボウルのもう一つの楽しみとして見逃せないのがライブ中継の合間に流れるテレビ CM。アメリカ中の国民が家族そろって見る、数少ないビッグ・コンテンツとして30秒のCMを1本流すのに6億円がかかる、ともいわれているスーパーボウルですが(2020年時点。参照元のDIGIDAYの記事はこちら)、その分作り手側や広告主の気合いも相当なもので、アップルコンピュータの「1984」など、これまで数々の名作CMがスーパーボウルのテレビ中継から生み出されました。

www.youtube.com

そして、今回紹介するアメリカのビールブランド「バドワイザー」は1983年以来、スーパーボウルに毎年印象的なCMを流すスポンサーとして国中の人々に認知されてきました。ところが彼らは今年、実に37年ぶりにスーパーボウルでCMを”流さない”ことを発表したのです。でも、なぜ…!?

その答えは、代わりに彼らがおもむろにオンライン上で流しはじめた、このムービーにありました 。

www.dailymotion.com

ナレーション翻訳:”アメリカ的に生きる”とは?それは、なんでもできるということ。私たちは屋上を、山の頂上に変えることができる。境界線を、交流の場にすることもできる。孤独を親密さに変えることも、会議を楽しい時間に変えることもできる。観客がいないスタジアムは?スタジアム中に、歴史が書き加えられる瞬間を鳴り響かせよう。私たちは長ーい待ち時間だって、こんな踊りや、こんな踊り、そして…よくわからないけど、こんなものに変えることができる。さぁ、一緒に我々の強さを、希望へと変えていきましょう。

その後の字幕翻訳:我々はこの37年で初めて、スーパーボウルでCMを流しません。代わりに我々はその広告費を、新型コロナウイルス用ワクチンへの理解を広めるために活用しています。広告協会と、新型コロナウイルスに立ち向かう団体たちと力を合わせることで。来年のスーパーボウルでお会いしましょう。

…いかがでしたでしょうか?SNSにあらゆる情報が溢れかえる2020年代。人々の視線はもはやCMの飾り立てられた世界を越えて、その背景にある企業の真摯さを見つめています。そして人々は、企業にうわべだけのメッセージを伝えるのではなく、社会のために実際にアクションを起こしてほしいと望んでいます。今回のバドワイザーのアクションは、そんな人々のニーズにピッタリとマッチした、素晴らしい心配りだと思いました。最後の「来年またスーパーボウルで会いましょう」というコメントも、人々が持つ”良い部分”への信頼に根ざした、素敵な一言でいいですよね。

でも本当に、来年こそは何の悩みもなしにスーパーボウルのCMを楽しめるような世界が戻ってきているといいな、と思います。いや、みんなで力を合わせて、そうしてまいりましょう!

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

今回の記事の参照元

www.businessinsider.jp

【ポッドキャスト・アーカイブvol.6】孤独なお年寄りを幸せにした、WIN-WINなキャンペーン (2014年9月15日のブログより)

 

anchor.fm

本ブログの、2014年の9月15日掲載分の記事を要約してポッドキャストにしました。週に一度、たった2分のアイデア復習。

上記ご聴取いただき、ご興味沸きましたらぜひ元記事もお読みください。

 

元記事へのリンク:

wsc.hatenablog.com

 いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!

本気かポーズか?世界的アダルトサイトが仕掛けた「サステナブルな暮らし」啓蒙キャンペーン

f:id:socialcamp:20210131001747j:plain

Photo by krakenimages on Unsplash

世界各国の首脳が本腰を入れ始めたからでしょうか、昨年あたりから様々な企業が「サステナビリティ(sustainability/ 持続可能性)」、またはSDGs(Sustainable Development Goal/ 持続可能な開発目標)についての取り組みを競うようにアピールし始めています。今まで自分たちが依拠していたビジネスモデルを革新し、本気でサステナブルなビジネスを推進しようという企業から、単にPRの手段としてこれまでやってきたことを「サステナブルだ」と主張する企業までその幅は様々ですが、今回は世界有数のアダルト動画サイト「Pornhub」が始めた、人気のセクシー女優たちがサステナビリティを啓蒙するキャンペーンをご紹介します。

YouTubeにそのプロモーション動画がシェアされていたので見たのですが、ちゃんと服を着たセクシー女優がキッチンや、車の上、シャワー室の中などで少し色っぽく「私たちは車に乗り過ぎているし、環境に負荷の高い物ばかりを食べている、水も使い過ぎているし、ゴミだって捨て過ぎている。そんな暮らしはセクシーじゃない」とストレートに語りかけ、セックスとサステナビリティを掛け合わせた「セックステナビリティ」という概念をアピールする内容でした。

仕組みとしてはPornhub内の特設チャンネルにある、様々なセクシー女優がサステナビリティについての情報を伝えるキャンペーン動画を見るたびに10セントが気候変動に関する取り組みに寄付される、というすこぶるシンプルなもので、プロモーション動画自体も正直、そんなに過激な内容でもないな、と思ったのですが今朝確認したら年齢制限ががかかっていました。(上記の内容以上でも以下でもないムービーですが、YouTubeへのリンクを張っておきますのでご興味がある方はこちらをご覧ください↓)

www.youtube.com

しかしながら実はこのPornhubというサイト、未成年の動画など、不適切な動画の存在を糾弾されて先月、大量の動画を削除したばかりでした↓

news.yahoo.co.jp

冒頭に申し上げた「よりサステナブルな世界を実現するための国際的目標」SDGsには17のゴールがあり、そのゴールの中には今回、このサイトが推し進めている「気候変動に具体的な対策を(ゴール13)」の他に「ジェンダー平等を実現しよう(ゴール5)」があります。

以下は私の私見になりますが、彼らは性、つまりジェンダーそのものを商品として取り扱う産業にいます。(その是非はここでは置いておくとして、)さらにはすでに上記のような問題を起こしてしまっている、ということを考えた場合、まずは気候変動よりも「ジェンダー平等」の促進・実現のために例えば「視聴できるビデオの基準を厳格化する」、「視聴によるドネーションを、貧困国における女性の経済的自立に充てる」などのアクションをとることがより適切だし、人々の理解も得やすいのではないか、と疑問に思いました。

現状のように、彼らが原因の一部となっている社会的課題(性的搾取)と、彼らのサステナビリティ・アピールの方向性(気候変動の抑制)がずれたままだと「イメージ悪化を誤魔化すための単純なPR目的では?」と思われても仕方がないと思います。

そして実は、このように「本業の改革をともわない」サステナビリティ・アピールは皆さんのお仕事がどの業界に属していようと、”SDGsウォッシュ(見せかけのSDGs活動)”として炎上のきっかけになりうる、ということを覚えておいていただくと、企業にも、地球にもウィン-ウィンなサステナブル・アクションの実現にまた一歩、近づくことができると思います。

いやぁ、アイデアって本当にイイもんですね。それでは皆さん、また来週!

【ポッドキャスト・アーカイブvol.5】心臓マッサージの正しい方法をイギリス中に一気に広めたキャンペーン (2014年8月25日のブログより)

本ブログの、2014年の8月25日掲載分の記事を要約してポッドキャストにしました。週に一度、たった2〜3分のアイデア復習。

anchor.fm

上記ご聴取いただき、ご興味沸きましたらぜひ元記事もお読みください。

元記事へのリンク:

wsc.hatenablog.com

 いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!

皮膚のがんを見つけるのに最適な職業は…

f:id:socialcamp:20210124010639j:plain

Photo by Lucija Ros on Unsplash

私たちが不要不急の外出を自粛し始めてからもう少しではや1年。今年の夏こそ太陽を浴びながらビーチで過ごしたい…と願う人たちもきっと多いことと思われます。しかしながら、日差しをたっぷり浴びたら浴びたで、皮膚がんなどのリスクが上がることも事実。

ということで今回はスキンケアブランドのSol de Janeiroがブラジルで行った、皮膚がんの発見を促すためのユニークな施策をご紹介します。本人も気づいていない皮膚の異常を発見するには、皮膚をよく見る人にお願いするのが一番!ということ彼らは、こんな職業の人たちにその役目をお願いしちゃいました。以下の紹介ムービーをご覧ください。

vimeo.com

そうです。彼らは皮膚がんの発見のためにサンパウロリオデジャネイロで、200人以上の刺青師に皮膚がんを見つけるためのレクチャーを開催。それ以外の都市にすむ250人以上の刺青師にもオンラインレクチャーを受けてもらうことで、彼らがお客さんの肌に墨を入れていく時、同時に皮膚のチェックもするよう啓蒙。結果的に様々な人の皮膚の異常を発見し、病院での受診を促すことができたそうです。最後の刺青師と、彼らのおかげで命が救われた(と思しき)人たちとの笑顔の2ショットも心温まりますね。

医療行為を素人にやらせている、ともとれるこの試みを日本でそのまま取り入れるのはリスクが高いと思いますが、「意外な存在に意外な役割を与えてみる」という考え方は、これまでにないソリューションを生み出す上で参考になると思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!