いわゆるジェンダーギャップ(性別による格差)の問題が日本でも盛り上がりを見せております。世界各地でもここ数年、男女間の賃金格差や、組織の幹部クラスにおける男性の数的優位が大きな問題となっていました。今回はアメリカで数年前に、この世界的課題に見事に切り込んだソーシャルキャンペーンをご紹介いたします。後日談含め、色々と考えさせられる事例ですが、まずは紹介ムービーをご覧ください。
こちら、世界的投資会社ステート・ストリート・グローバル・アドバイザースが、投資対象となる企業の取締役会における女性比率向上など、女性の働く環境の改善を訴えるべく、ウォール街のアイコンである「奮い立つ雄牛」のオブジェの前に、それに立ち向かう「Fearless Girl(恐れを知らない少女)」の像を「国際女性デー」に建てた、というアイデアです。
このアイデアは、世界的にも知られたアイコンに、伝えたいメッセージを見事に具現化したオブジェ(←おそらく、一般的なテレビCMの制作費などに比べればはるかに低予算)を立ち向かわせることで世界中に大きなニュースとして知れ渡ったことから、世界中の広告賞で高く評価されました(↓こちらの記事をご参照ください)。
人々の共通認識(雄牛のオブジェ)と社会的文脈(ジェンダーギャップへの関心)の交差点にポン、とシンプルなコンテンツ(Fearless Girl)を載せることで俳句のように人の想像力を刺激し、メッセージを広く・深く理解させたこのアイデア。本当にあらゆるものが高次元で組み合わされた、素晴らしい取り組みだと思いました。
そしていつもであれば、このまま
「いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。」
とこの記事を終えられるのですが…。
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後日、この試みを行なった投資会社の親会社ステート・ストリートに、賃金などの性別による格差があることが判明してしまいました(↓こちらの記事をご参照ください)。
性別による格差に加えて白人・黒人間の人種格差もアメリカの連邦監査により指摘されたこともあり、親会社の話であるとはいえ、このアイデアの素晴らしさが手放しで賞賛できないものになってしまったことは残念で仕方がありません。
しかし、その子会社であるステート・ストリート・グローバル・アドバイザースがこの取り組みで示したように、昨今の人々が企業に求め始めている「Brand Activist(ブランド活動家-社会をより良くしていこうと、個人活動家のように企業ブランドが活動すること)」としての役割に、企業が応えようとすること自体に罪はないですし、むしろ奨励されて然るべき動きだと思います。
一方で、世界中に支店や子会社を持ち、複雑なオペレーションを行なっている企業のほとんどがこうした取り組みに、グローバルレベルで一枚岩で取り組める状況ではない、というのもまた事実です。
この事例は、図らずも企業が今や、これまで血眼になって取り組んできた質や値段の競争とは全く別の「経営の質」における世界的競争にさらされている、ということを示してくれています。(そしてそれがまさに、昨今の日本の組織が苦しんでいるポイントなのかもしれません。)
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!