大手企業たちによる、素晴らしいパートナーシップ
皆さん、SDGsの最後の一つ(SDGs17)に「パートナーシップで目的を達成しよう」というものがあるのをご存知でしたか?
今の社会課題は、一握りの大金持ちからの施しや、一つの企業の頑張りで解決できるものではなくなってしまいました。気候変動も、プラごみ問題も、政治家から企業やNPO、そして我々一人一人がそれぞれの価値を持ち寄り、パートナーとして力を合わせることで初めて解決の可能性が見えてくる壮大な課題です。
逆に言えば、パートナーシップにはそれだけの可能性があるのだ、とも言えるのではないでしょうか?
ということで今回は、ロールスロイスやNPOとパートナーシップで課題に取り組むことで、難病に悩む人たちの心を救った、Dellとintelによる素晴らしいアイデアをご紹介します。
体の自由が徐々に失われ、いつ声を失うかわからない難病「運動ニューロン疾患(Motor Neuron Disease / MND)」を抱える人々は、まだ症状が軽いうちに自分の声のデータをアップロード(ボイスバンキング)して、自分の声に近い人工音声を生成する選択肢がありますが、その生成過程があまりに面倒で時間がかかるもののため、その選択肢を逃してしまう人々が多数いたそうです。
そんな状況を変えるために、上述の大企業たちはパートナーシップを通じ、どんなアイデアを編み出したのか?以下の紹介ムービーを、和訳を参考しつつご覧ください。
(ちなみにこちら、「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022、ファーマ部門でのグランプリをはじめ、エクスペリエンス&アクティベーション部門やラジオ&オーディオ部門でゴールドを獲得するなど、高い評価を獲得した取り組みとなります。)
「I Will Always Be Me / 私はずっと私」
【雑和訳】
スチュアート・モス - Rolls-Royce、IT イノベーション責任者「私の父は2013年に運動ニューロン疾患と診断されました。クリスマスまでに彼は歩けなくなり、イースターまでには話せなくなりました。運動ニューロン疾患を持つほとんどの人は、話す能力を失います。独房にいるようなものです。 あなたは自分の体に閉じ込められてしまいます」
リチャード・ケイブ - 言語療法士、MND協会「運動ニューロン疾患(MND)を患うほぼ全員が声を失います。 難しいのは、それがいつになるのか、誰もわからないことです。 ボイスバンキングは、誰かの自然な声の合成近似を作成する方法です。 通信デバイスにロードして入力します」
スチュアート・モス「運動ニューロン疾患にかかっていることがわかったとき、おそらく最もしたくないことは、自分の声を(自分の人工音声を作るために)バンキングすることです」
リチャード・ケーブ「それは平均で3か月かかります。 最低でも 1600 フレーズを録音する必要があります」
スチュアート・モス「『牛が月を飛び越えた』とか、『赤い大型トラック、黄色い大型トラック』とか、そういう意味のないフレーズを読まなければなりません。今まで誰も、そのつらさについて十分に考えてきませんでした」
ニック・ゴルダップ - ケア改善担当ディレクター、MND 協会「2019年、私はスチュアート・モスから電話を受けました。 そして、私たちはもし、彼の業務上のパートナーであるテクノロジーの巨大企業たちとボイスバンキングのプロセスを変革できたらどんなに素晴らしいだろう、と話し合ったのです」
スチュアート・モス「最高のイノベーションは通常、チームワークから生まれます。 そこで私たちはこの課題についてのシンクタンクを立ち上げました」
リズ・マシューズ - Dell Technologies、グローバル ブランド担当上級副社長「私たちは、このプロジェクトに飛びつきました。 テクノロジーの活用で、私たちは人々の生活をどのように変えることができるのでしょうか?」
ラマ・ナッチマン - intelフェロー、intel コーポレーション、ヒューマン & AI システム リサーチ ラボ ディレクター「私たちは人間の経験全体について考える必要があります。 実際のところ、どのようにすれば(この仕組みが)もっととっつきやすくなるのでしょうか?」
リチャード・ケーブ「ボイスバンキングは変化しています。 問題は、テクノロジーについて心配することなく、人々が自分の声をバンキングする方法をどのように見つけることができるか、ということです」
スチュアート・モス「私たちが全体的にやりたかったことは、全体のプロセスをもっと速くすることでした。 そして、Dellとintelが行ったことはさらにその上のレベルでした」
リズ・マシューズ「私たちは、MNDに苦しむ人々が、ボイスバンキングと同時に彼らの物語を周りの人たちにシェアする人ができる本を創る、というアイデアに辿り着きました」
文字要素:I Will Always Be Me -あなたの声を届ける本
リズ・マシューズ「最先端のボイスバンキング テクノロジーを活用するプロジェクトに、ニューヨーク タイムズのベストセラー作家と受賞歴のあるイラストレーターが参加したらどんなに素晴らしいかを想像してみてください」
ニコラス・スティーブンソン - I Will Always Be Meのイラストレーター「(MNDに苦しむ人々の)外面で起きていることと、それとは別に内面で起こっていることを、どのように表現すれば良いのでしょうか?」
ジル・トウィス- I Will Always Be Meの作家
「自分が経験していることを説明する言葉をが見つからない人たちは、(この本を通じて)家族に”すべてが変化していきますが、私はずっと私であり続けます”と伝えることができます」
アリス・スミス - SpeakUniqueのCEO「この本に書かれている内容には、(ボイスバンキングのために)カバーする必要があるすべての異なる音と、すべての異なる音のコンビネーションが含まれています。 声を合成するために必要なものはすべて、物語のテキストに含まれているのです」
MNDの人たちの朗読:”すべてが変化しています” , ”たくさんの医者に診てもらい、たくさんの電話をかけてきました”
ニック・ゴルダップ 「この本は、愛する人に向けて本当は言いたいことを言えずにいた(MNDの)人たちに、それを言うきっかけを与えます」
MNDの人たちの朗読:”以前と同じように動かなくなった”
ニック・ゴルダップ「人々は自分の声を登録しているのだ、という実感も持たずにボイスバンキングを行うことができます。現時点では、他にはこのようなものは存在しません」
MNDの人たちの朗読:”すべてが変化しています。 しかし、私はずっと私です。 ずっと大好きだよ”
ラマ・ナックマン「このプロジェクトの素晴らしい点は、(これまでとは違い、ストーリーの朗読という)人々にとって非常に自然なことをしてもらい、その過程でその声を十分にキャプチャして、それを再現できるようにしていることです」
アリス・スミス「この本を読む過程を通じ、人々はさまざまな感情を引き出されます。 デリケートな部分やユーモア、そしていくつかの質問を読んでもらうことで、合成音声による自分の声が、より自然に、感情豊かに再現されることになります」
再生された人工音声:「私はI Will Always Be Meを読んでボイスバンキングをしました」
リチャード・ケーブ「このプロジェクトは、ボイスバンキングがアイデンティティに関わるものであることを認識しています」
ラマ・ナックマン「どの開発組織もある程度の革新性を持っているものです。ただし私たちは(これまでよりも)ずっと 短時間で、ずっと多くの成果を上げることができるのです」
スチュアート・モス「ボイスバンキングが間もなく体験できる…などと私たちがこうした場で発言するようになるなんて、誰が思ったでしょうか? しかも今、あなたは最も近くて最愛の人に対してそれを行うことができるのです」
リチャード・ケーブ「何のためにテクノロジーを使うのか? と言われたら、このためだ、ということでしょう」
ニック・ゴルダップ「私たちがこのようなものにたどり着くなんて、私にとっては夢の範囲を超えています」
スチュアート・モス「私たちが始めたことを活かすことができれば、世界は変わる可能性があります」
文字要素:I will always be me -あなたの声を届ける本 〜デル テクノロジーズとインテル
素晴らしい取り組みが生み出した、素晴らしい結果
いかがでしたでしょうか?ちなみにこの本を朗読するのに必要な時間は30分ほど。自分の人工音声を作るのにそれまで3ヶ月かかっていたことを思えば、この試みの素晴らしさがさらに際立つと思います(逆に言えば、それまでいかに患者たちのニーズが無視されてきたかの裏返しでもあるのですが)。
この4分半のムービーの中には本当にさまざまな組織からの、さまざまな人たちが登場し、それぞれの想いを語っていましたよね。(和訳中はどのコメントを誰が話しているのか、それを見分けるだけでも大変でした…)
そしてこの、素晴らしい人々による、素晴らしい取り組みは以下の素晴らしい結果を呼び込みました。
・ローンチ後、2ヶ月も経たぬ間にこの取り組みは英国で最も人気のあるボイスバンキング方法に
・この取り組み前、ボイスバンキングをする英国のMND患者は12%しかいなかったが、最近MNDだと診断された患者の実に72%がこの本を使い、ボイスバンキングを行なっている
この取り組み、企業や組織の枠を超えたパートナーシップを通じて私たちが世界に対してできることを教えてくれる、実に模範的な事例だと思いました。
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!