世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

黒人の子供たちを砂糖の過剰摂取から守ったアメリカのキャンペーン【カンヌ2022より】

UnsplashのMyriam Zillesが撮影した写真

カギはユニークなオリジナル・キャラクターの活用

日本はキャラクター大国だといわれることがあります。確かにご当地ゆるキャラからさまざまなブランドのマスコットまで、その種類は豊富であり、おそらくひとつのキャラクターも見ずに街を歩く、ということは日本ではほぼ不可能だといえるでしょう。

ただし同時に、キャラクターを作るだけ作って持て余してしまっている組織や自治体も多数あると思います。

街に溢れるさまざまなキャラクターたちを見るにつけ、ただ「周りが作っているから」という理由で、何でもかんでもキャラクター化してしまえば良い、というものでもなさそうです。心を込めて開発したキャラクターにきちんとその効果(=作った目的の実現)を発揮してもらうためには、やはり彼・彼女たちを支える独自で力強いメッセージやコンセプト、そしてインサイトが不可欠です。

ということで今回は、米国の黒人系市民団体Hip Hop Public Healthが子どもたちを砂糖の過剰摂取から守るために取り組んだ、ユニークなキャラクターを活用したアイデアをご紹介します。

ちなみにこちら「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022にて、非営利団体によるヘルスケア分野の取り組みでその年ベストのものに与えられるGrand Prix for Good Healthを獲得したのをはじめ、Health & Wellness部門でゴールドを受賞するなど、高い評価を獲得したキャンペーンになります。それでは以下の紹介ビデオをご覧ください。

「Lil Sugar -Master of Disguise / 変装の名人リル・シュガー

vimeo.com

【雑和訳】

画面の中の男性「砂糖の過剰摂取は今、公衆の健康危機を招いています」/ 画面の中の女性「健康な食品へのアクセスは、人種と健康に関する、公正さに関わる問題です」/ 画面の中の男性(オラジデ・ウィリアムズ博士・Hip Hop Public Health創設者・コロンビア大学神経学教授兼スタッフ長)「私たちは、これらの不公正さに光を当て、私たちの子供たちに伝える必要があります。砂糖が添加されている食品は山ほどありますが、気づいている人は少ないでしょう。何故なら企業がそれを”砂糖”と記述することをやめているからです」/

チャックD(Public Enemy)「マルトース(Maltose)!」/ ダグ・E・フレッシュ(The Human Beat Box)「デクストロース(Dextrose)!」/ ダリル・マクダニエルズ(RUN D.M.C)「マルトロデクストリン(Maltodextrin)!」/ 男性たち「これらは全部、砂糖、砂糖、全部砂糖なんだ」/

オラジデ博士「砂糖には150種類もの別名があるのです。そもそも、どうしたらこんなものと戦うことができるのでしょうか?言いましょう。我々は、これらの”隠れ砂糖”をすべて、白日の元に晒すことにしたのです」/

タイトル画面:リル(Littleの略語)・シュガー 変装の名人 /

ナレーション:ヒップポップ界のレジェンド、 ダリル・マクダニエルズと影響力を持つRUN D.M.C(による) / 文字「ミュージックビデオ」/

♪ ”そうさお前を蝕むために、お前の体に忍び込むんだ 次々と名前を変えて そう俺はスーパースターのマルトース ナッツやミルクに潜んでいるから気をつけな” /

ナレーション:ヒップホップのミュージックビデオで子供たちの関心を栄養に向けると同時に、リル・シュガーのアプリはゲーミングを使い、子供たちを砂糖の専門家にすることに成功しました。/

カメラをあらゆる食品の成分表示欄に向けるだけで、そこに潜む”変装した砂糖”のキャラクターを見つけることができ、それらを集めることで、子供たちは友達と戦ったり、ポイントを稼ぐことができるのです。いわば公衆の健康のためのポケモンGoのようなものだといえるでしょう。/

そしてリル・シュガーの絵本は子どもたちに、親子でともに学ぶ後押しとなりました。/

このキャンペーンはヒップホップの巨匠たちからの応援を受け、地域でのイベントや全国規模の学校でのカリキュラムなどを通じて、すでに何百万人もの子供たちに届いています。/

オラジデ博士「人々はいつも黒人たちの命がいかに大切かを主張しますが、これらの(食品に関する知識の)不均衡を解消しない限り、そして早すぎる死の波を押し返さない限り、デモ行進などをしても意味がないものとなってしまうことでしょう。具体的なアクションが必要で、そしてそれこそが、Hip Hop Public Healthとリル・シュガーのすべてなのです」/

ダグ・E・フレッシュ「リル・シュガー。俺たちはもう騙されないぜ」/ ダリル・マクダニエルズ「気をつけろよ。落とし前をつけてやるからな!」/ チャックD「お前こそがナンバーワンのPublic Enemy(公衆の敵)だ!」/

文字:「リル・シュガー 変装の名人」/ロゴ:Hip Hop Public Health

 

この取り組みが単なる”キャラもの”に終わらなかったワケ

いかがでしたでしょうか?最後のチャックDの一言が痺れますね。これでリル・シュガーはPublic Enemy公認のPublic Enemy(公共の敵)となりました。

そして紹介ビデオの中で触れられたミュージックビデオの全編が以下になります。ヘルスケアのコンテンツとは思えない完成度の高さで、私も楽しく最後まで見てしまいました。。。

youtu.be

【雑和訳】最後のナレーション:砂糖はさまざまに名を変えて潜んでいます。「シュガー・リル」のアプリをダウンロードして、彼らの正体を暴きましょう。

 

アプリのアイデアも面白いですよね。

ただし、このキャンペーンがこれほどまでに受け入れられた根本の理由は、ミュージックビデオの格好良さでも、アプリの仕組みの巧みさでもありません(もちろんそれらもとても大事なのですが)。

このキャンペーンの鍵は「砂糖はさまざまな名前に変装して、我々が毎日食べている食品の中に潜んでいる」という事実の強さです。

それがあるからこそ、人々はもっと知りたいと思い→ビデオやアプリを体験するし、→結果日頃の生活を改めようと考える、という順番です。

日頃、人々の興味を惹くアイデアもなくビデオやアプリをやたらと作り込んでいるキャンペーンを見かけますが、そういったものは上の順番を守っていない(=人間の心理の原理を無視している)ので成功しません。

何故ならそれは、エンジンもつけずに翼をあべこべに張って「飛ばない!」と叫んでいる飛行機のエンジニアのようなものだからです。

何億もかけたあべこべな飛行機よりも、1枚5円の折り紙で作った、空力の原理に則った紙飛行機の方が飛びます。飛行のコンテストでは勝てる可能性があるのです。

それが私がアイデアを愛している理由であり、その分析・探求をやめられない理由です。

 

…ということで、

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

PS. キャラものの名作キャンペーンとして、以下の過去記事を貼っておきます。こちらも何が人の心を掴んでいるのか、分析してみると学びになると思います。

wsc.hatenablog.com