世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

広がるおもちゃの多様性〜レゴとバービー、そして「ヒジャビー」:Toys and Diversity - Lego, Barbie and "Hijarbie"

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さる1月27日、子供たちに大人気のレゴブロックが「車椅子に乗った少年」の人形が入ったブロックのセットを夏に発売することを発表しました。以下の公式ファンサイトによると、このようにハンディキャップを持つ人がレゴの人形として販売されるのは初めてだそうです。

これは、おもちゃを通じて障害を持つ子供たちに自尊心を持ってもらおうと活動している民間団体「Toy Like Me」の問いかけに答えたものだそうで、記事には「世界的おもちゃメーカーとして、(世界に1億5千万人いるといわれる)障害を持つ子供たちの存在をポジティブに商品へ反映させることが大事だと考えた」という趣旨のコメントが記されています。

On January 27, Lego posted on their fansite that they would release their first wheelchair-using minifigure this summer. They decided to take this step to comply with a request from a social online campaign group, “Toy Like Me”.

bricksfans.com

「おもちゃの人形に自分に似たキャラクターを反映させることで、子供たちが遊びながら自尊心をもてるようにしよう」という流れは世界的潮流となっているようで、バービー人形で有名なマテル社も今年は、これまでの「白い肌・八頭身&ブロンド」というワンパターンをやめ、世界の多種多様な人種、スタイルを反映した23種類のバービー人形を発売することを発表しました。

In addition to this Lego’s case, it is now becoming this year’s trend for toy manufacturers to bring diversity into their products, aiming sound growth of self-confidence in children’s mind. Have a look at the case of Barbie dolls below.

www.adweek.com

上の記事によると、この新しいバービー人形は8種類の皮膚の色、14種類の顔の作り、22種類のヘアスタイル、23種類の髪の色、そして18種類の瞳の色を使っていて、身長にも差があるようです。そして特筆すべきは、足首も曲げられるようになった、という点。つまり販売開始から56年、バービー人形はついにヒールのない靴でも履けるようになったのです!(詳しくは子供向けの以下のムービーをご覧ください)。

From a YouTube movie below, you can check amazing figures of “Barbie 2016”. They are finally allowed to "move their ankles and wear flats!"

www.youtube.com

そしてちょうど、このバービー人形のニュースに前後してインスタグラムで話題になっているのが、ナイジェリアの女性医学者ハニーファ・アダムさんが立ち上げたアカウント「@Hijarbie (ヒジャビー)」での試み。ヒジャブをファッショナブルに着こなすバービー人形の素敵な写真を次々アップしています。異教徒からは女性抑圧の象徴とも捉えられがちなヒジャブですが、彼女曰く、多くの女性にとってヒジャブは自分のアイデンティティを示すものであり、この試みを通じて、イスラムの女性に対するいくつかの間違った見方をポジティブに変えていきたい、ということです。

Talking of Barbie dolls, I strongly recommend that you also check the instagram account “hijarbie”. You will see hundreds of exotic pictures of Barbie with a hijab on her head. This “Muslim Barbie” was created by a Nigerian medical scientist, Haneefa Adam and she wants to correct “some misconceptions” about Muslim women in the world, by showing an attractive side of Hijab.

うん、確かに素敵です。

Check beautiful pictures of “Hijarbie” below.

www.buzzfeed.com

よく考えるとおもちゃはまだまっさらな子供の心に、世の中の見方を最初にインストールする、大切な存在です。堅苦しいメッセージを頭で考えないとわかってくれなくなる前に、世の中を楽しく見るためのメッセージをおもちゃにさりげなく込めるのも、長期的に見ればかなり効果的な手法だと思いました。

日本のおもちゃメーカーがこれらの動きにいつ・どう乗るのか、はたまた乗らないのか。しばらく興味深く見てみようと思います。

Playing with toys gives a lot of viewpoints about the world to children. I’d love to welcome these toy makers' efforts  to bring diversity into their product lineup.

 

 

これなら行くかも。献血促進のため「行列」に目をつけたブラジル発のソーシャルキャンペーン:Solidarity Queue

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いやぁ、寒いですね。寒い冬は、献血する人が減る傾向にあるそうです。ということで今回はブラジルで行われた、とても効果的な献血促進キャンペーンをご紹介します。針に刺されて、時間もかかる‥ということでどうしても「気乗りのしない作業」として位置づけられてしまいがちな献血。しかしこのキャンペーンでは暮らしの中でもっとも不毛な時間に目をつけ、そこに献血の機会を持ち込むことで「ならやってみようかしら」と人々の心と体を動かしました。解説ビデオを見て「これなら自分もやるかも」と思った皆さま、このアイデアに免じて献血に出かけてみてはいかがでしょうか?

This is a smart idea from Brazil. They’ve created a new and intriguing channel for a blood donation in one of the most wasteful scenes of our life, a queue. This idea can be adapted anywhere in the world. Very effective and practical, isn’t it?

<連帯の行列:Solidarity Queue>

vimeo.com

<ビデオ和訳>

市民「献血はしないわねぇ、時間がないから。」

市民「毎日忙しいから、献血する暇がないんです。週末でもね。」

ナレーター:これらは献血をしない人たちの、典型的な言い訳。そしてこれが献血をしない理由だとしたら、サンパウロの街は、解決の糸口となりうる課題を抱えていた。人口2000万人というこのブラジル最大の都市にはレジャーが少なく、それを楽しむためには長い行列に並ばなければならなかった。

キャスター「ラ・ティン・バン城展への行列がぐるりと会場を取り囲んでいます。」「かなりの忍耐が必要だったようです。」

市民「2時間並んだわ!」

ナレーター:そこで我々が考案したのが「連帯の行列」。

ピカソ展 2時間待ちの行列>

ナレーター:行列に並ぶ無駄な待ち時間を、献血にあててみようというアイデアだ。

スタッフ「すみません。献血しませんか?」「場所はおさえてます。いかがですか?」「こちらへおこしを。」「献血されますか?どうです?」「では行きましょう。」

ナレーター:献血をしている間は、ボランティアたちが代わりに並ぶ。

シャツの文字:<ここの人は今、献血をしています。私は代わりに、その人の場所をおさえています。>

ナレーター:献血は、行列のもととなっている会場に設置された移動式ユニットの中で行われた。

関係者「素晴らしいです。行列には代わりの人が並んでくれて、その間に献血ができるんです。」

利用者「献血はだいぶ前にしたことがあったんですが、それからは時間がなかったり、スケジュールが合わなかったりでなかなかできなかったんです。これは実施する価値のある、すばらしいアイデアですね。」

利用者「(このアイデアなら)時間を無駄にすることなく、しかも誰かの命を救うことができるかもしれないんですよ。たとえどれだけ多くの人が献血を必要としていてもね。」

ナレーター:かくして我々は、行列待ちの人たちの献血促進に成功。しかし何より重要なことは「行列」という、この街でおなじみの文化的光景に、献血のチャネルを創り出したこと。

キャスター「今後も何度も展開してほしい、素晴らしいアイデアですね。」

リポーター「こんにちは。多くの人命を救うことになるかもしれない、シンプルですけど素晴らしいアイデアだと思いませんか?」

ラジオ「連帯の行列、です。行列に並んでいる時の時間を、献血に利用できるんです。」

<アーンドメディアでの露出 120万リラ>

ナレーター:「連帯の行列」により、我々は時間の有効活用ができるだけでなく、人々に生きるチャンスを与えることができるのです。

また、行列つながりでこんなアイデアもありました。和訳はつけませんが、アトラクションの長〜い待ち時間に、スマホでその行列専用のゲームを楽しんでもらう、というシンプルなアイデアです。スコアがいいと、ファストパスで早く乗れる、というのがミソですね。

And, this is another idea making better use of a queue.

<楽しい行列:The Fun Queue>

www.youtube.com

アリかなしか?世界中に賛否を巻き起こした薬物乱用防止のためのバイラルキャンペーン : Stoner Sloth

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今回は、昨年末に世界中で議論を呼んだ、オーストラリア発の若者に向けた薬物乱用防止のためのムービーキャンペーンをご紹介します。マリファナ常習者という意味を持つ単語「Stoner」と、動物のナマケモノ(Sloth)をかけ合わせた「薬物にハマったナマケモノ(Stoner Sloth)」をキャラクターとして新たに制作し、彼/彼女が薬物のせいで使い物にならなくなっているムービーを展開することで、若者たちに薬物の乱用を控えさせようという試みだったのですが…。その愛らしいキャラと、とぼけた行動は狙い通りにシェアされたものの、ターゲットたちである若者たちに本来の意図とは違う「面白いジョーク」として受け入れられてしまい、キャンペーンとしての効果をまるで発揮していないと各方面から厳しい批判を受けることになってしまいました。表現のみ見ればそんなに悪くもないとも思えるのですが、お題がお題だけに、それを茶化すようなムーブメントになるのはちょっと…と思います。「とにかくバズるコンテンツを」と頼まれがちな昨今ですが、本当にとにかくバズれば何をしてもよいのか、その先に狙った効果がなければ、それはやっても意味のないことなのではないか…など、アイデアの作り手として、いろいろなことを考えさせてくれる事例です。あなたはどう思いますか?

This is a controversial campaign from Australia's New South Wales government. They created an original character named “Stoner Sloth” to show the terrible consequences which drug abuse brings to teenagers' body and mind. However, young people just made a joke of this strange creature and as a result, it went viral without conveying the real intention of the advertiser. As long as it succeeds to go viral, is everything OK? I don't think so.

<ハマったナマケモノ3本シリーズ Stoner Sloth Compilation >

www.youtube.com

<英語和訳>

先生「はい時間です。ペンをおろして。ララ?ペンをおろして、ララ。」

ララ「ウウーウーー」

クラスメイト「ハマったナマケモノだわ…」

タイトル:マリファナすると、ダメになる。#ハマったナマケモノ

 

母親「ジェイソン、塩とってもらえる?」

ジェイソン「ウウーウーー」

母親「ジェイソン、塩よ?」

姉「ハマったナマケモノなの…?」

タイトル:マリファナすると、ダメになる。#ハマったナマケモノ

 

女子「そしたらそいつね、彼女に向かってさぁ・・」

男子「それは笑える!だろ、ダニエル?」

ダニエル「ウウーウーー」

男子「ハマったナマケモノだよ…」

タイトル:マリファナすると、ダメになる。#ハマったナマケモノ

 

関連記事:ADWEEK(英語)

以下のネタ元記事からは、人々のツイッター上での反応などもご覧いただけます。キャラのTシャツまで作られてしまっています汗。

You can check some tweets about this campaign from the article below. You can even buy Sroner Sloth's T-shirt if you want... 

www.adweek.com

 

必見!課題の核心をついたオンラインムービー:オレオレ詐欺を防ぐのは、オレだ。It’s me who prevent “It’s me” fraud.

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今回は、とても感心した日本発のソーシャルキャンペーンをご紹介します。例えばマイナンバーなど、時節に合わせて繰り出される様々な手口で被害が一向に減らない「オレオレ詐欺」。それを防ぐには…?ということで、どうしてもお年寄りの無知をせめてしまいがちなこの犯罪について、その見方をガラリと変える素晴らしいスペシャルムービーです。クライアントはなんと、政府広報!こんなコンテンツが我が政府からも次々と出てきて、人々から評価されるようになればこの国の未来も明るいと思いました。さてと、親に電話しますか。

In Japan, there is a type of crime called “It’s me” fraud (“Ore-ore” fraud in Japanese). This fraud takes advantage of the lack of communication among parents and their children. The criminals pretend to be their children, and make a phone call to ask for money from “their” parents. This is an online movie by the Japanese government, aiming to diminish this crime – by targeting children of their parents.

オレオレ詐欺を防ぐのは、オレだ。 It’s me who prevent “It’s me” fraud.>

www.youtube.com

<English Translation>

Copy:My mother was swindled out of her money.

Son: Mom, I’ve warned you! I told you to watch out for a call from somebody, who pretends to be me. Why did you give him money? …Hey mom, are you still there?

Mom: Sorry... Maybe, I got too old. I just wanted to help you.

Copy:Why didn’t I call her more often.

Copy:It’s me who prevent “It’s me” fraud.

Son: Hi, mom. How are you?

Copy:Your everyday-call prevents“It's me” fraud.

Copy : The number of victims of “It’s me ” fraud keeps increasing. Call 188 when your family is in trouble.

<PR Office - Government of Japan> 

関連記事:政府広報オンライン(official site)

www.gov-online.go.jp

なるほど!理解されにくい難病の症状を可視化したソ−シャルキャンペーン:THIS BIKE HAS MS

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あけましておめでとうございます。久しぶりの更新ですが、今回はオーストラリアでつい先日発表された、多発性硬化症の患者を支援するためのキャンペーンをご紹介します。多発性硬化症とは中枢神経に起こる病変により、体にしびれや歩行障害、視力の低下などといったさまざまな障害が不規則に起こる難病。外見にも変化が起きず、他人がなかなか理解してくれないその辛さをわかってもらうために、ほとんどの人が乗ったことのある「自転車」にその症状を移植してしまいました。

Happy new year! As the first article in 2016, I feature the social campaign from Australia, which makes people understand the severe symptoms of multiple sclerosis, which are hard to imagine for general public. Please watch the casefilm of this clever campaign.

<多発性硬化自転車 This bike has MS>

www.youtube.com

<ビデオ和訳 *話者不明のところは#にしています>

ナレーター:これはとんでもない乗り物だ。ギアは不規則に変速し、車体のバランスはめちゃくちゃ。そしてブレーキも麻痺している。“このバイクは、多発性硬化症(multiple sclerosis以下MS)に苦しんでいる。”

神経学者「MSは脳と脊髄の情報をつかさどる部分に中枢神経を通じて影響を与える病気です。」

理学療法士「人により症状が異なるものです。」

#「実際にかかってみないと、この病気がどんなものかを伝えることは難しいと思います。」

患者の母親「一見、病気にかかっているようには見えないので、患者であることを理解してもらうことが難しいのです。」

ナレーター:MSと言う病気の理解を促進するために、パラリンピアンであるキャロル・クック(1998年にMSを発症)が、神経学者、理学療法士と自転車のメカニック、患者たちからなるチームを率いて自転車を作った。」

メカニックA「MSにかかった時に暮らしの中で起こる困難を再現するため、自転車を作り直さなければいけませんでした。まず最初に、フレームを歪ませることから始めました。」

メカニックB「めまいを起こすような変速ギアをつけて、乗ってて疲れてしまう、バランスの悪い自転車を作りました。ホイールも歪んでますし…。」

メカニックA「まっすぐ走らせるためには、常に集中していないといけません。特に重い部品を使ってたりするので、とてもしんどいです。」

メカニックA「すこし走らせると、自転車乗りが普段は使うことがない筋肉を使う羽目になります。」

メカニックB「リアのギアから歯車を欠けさせて、乗り手の意思に沿わない作りにしました。サドルもプラスチックのBMX用のものなので、快適なものではありません。」

患者の母親「単に物をつかむだけにしても、手の感覚を失ってしまうので通常よりも努力をしなければなりません。」

メカニックA「ハンドルのバーテープにも心地の悪い細い物を使い、中にベアリングの玉を入れ込みました。」

#「とてもではないけれども、長距離は乗りたくないバイクです。乗り心地がとにかく、ひどい。」

理学療法士「(この試みを通じて)医学の専門家と普通の人々がこの病気について、理解を深めることができたと思います。」

#「症状について理解が深まることで、この病気への医学的関心が促進されればと思います。」

#「MSという病気は隠れていて、人々はまだ理解できていないのです。」

<MS自転車 –MS メルボルンサイクル(Melbourne Cycle) 

 

関連記事:ADWEEK(英語)

www.adweek.com

謎のサンタが警察とコラボ。これぞアメリカ!な心温まるソーシャルキャンペーン

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社会のルール違反を取り締まるという役回りゆえ、どうしても嫌われ役に回りがちな警官たち。特に運転中、ケアレスミスで警官に車窓を叩かれた瞬間のあの「あぁ、やっちまった〜」という感情は苦いものです。

今回は、そんな感情に覚えのある人なら驚きもより大きくなる、アメリカのとある資産家が警察のイメージアップのために行った、クリスマスシーズンならではの粋な取り組みをご紹介いたします。以下のCBSニュースをごらんください。

<Unique traffic stops in Kansas City, Missouri bring drivers to tears. / ドライバーが涙した、カンザスのユニークな交通取締り> 

www.youtube.com

<ビデオ和訳>

アンカー「本日の『オン・ザ・ロード』では交通取締の警官と、人々のユニークな交流をご紹介します。スティーブ・ハートマンのレポートです」

レポーター「今月上旬、ミズーリ州のカンザスシティではジャクソン郡の警官たちが交通取締りをしていました。獲物を見つけると、背後を走行。しかしその取締り方法は、他では見られないものでした」

警官「こんにちは。あなたたちを追っていたのですが」

市民A「どういうこと?」

市民B「サイテー‥」

レポーター「この取締りが違うのは、その背景にいる男」

赤い帽子の男「おはよう」

レポーター「赤い帽子をかぶったこの男の素性は、『秘密のサンタ』としか明かされていません」

赤い帽子の男「今日は特別なミッションに取り組んでもらう。取締りで、究極の優しさを振りまいてもらいたい」

レポーター「毎年、匿名のこの裕福なビジネスマンは総額10万ドル(およそ1,200万円)を100ドル札にして、通りすがりの人々に与えています」

赤い帽子の男「しかし、」

レポーター「しかし今年は、彼が自分で配る代わりに、警察官たちに代理をお願いしたのです。かくして100ドル札で武装した警官たちは、サンタからの任務を遂行しました。ターゲットはおもにこれらを喜んでくれそうな、でこぼこで、年季の入った車のドライバーたち」

警官「メリークリスマス!」

市民C「なんなの?」

警官「これどうぞ」

市民C「え…ホントに!?うわー!」

レポーター「ほとんどの人たちは、歓喜に沸きました」

市民D「ありがとう!」

レポーター「そして、涙しました」

市民E「キャーー!」

レポーター「それらの反応は、彼らがいかに現金を必要としているかを示していました。取締りは、停車中の車にも…」

警官「すみません。」

市民F「(通話中で)ちょっと待って。すぐ出るつもりだから…」

警官「秘密のサンタが、これを受け取ってほしいと」

レポーター「3人の子持ちのジェシカ・ラドリゲスは警官に、あなたのおかげでクリスマスを乗り越えられると言いました」

市民F「子供に何もしれやれないと悩んでいたのよ…」

警官「いいクリスマスが送れるといいね」

レポーター「実はこのようなひと時が、このミッションの目的でした。今年は秘密のサンタに、秘密のミッションがあったのです」

レポーター「この取り組みを今回、警官たちにお願いした理由は?」

赤い帽子の男「喜びだよ。警官たちは報われず、かなり傷ついているからね」

レポーター「今年はいろいろな過ちを糾弾された警察ですが、ほとんどの善良な警官たちは、メディアに取り上げられることもありません。そこで秘密のサンタが、このような機会を警官たちにプレゼントしたのです。…警官と人々の関係性を変えるような。…ホームレスを実際に救うような。…みんなに感謝され、武力で両手を上げさせるのではなく、両手を上げて感謝されるような、素晴らしい機会を。たくさん抱きしめ合い、体に装着したカメラはへしゃげましたが、その価値はありました。人々はまた、信頼を取り戻しました。そして警官たちも…日々の苦労が報われたのです。以上、スティーブ・ハートマンがミズーリカンザスシティからお届けしました。」

アンカー「おー、わぁ‥。以上、本日のニュースをCBSからお届けしました。」

いかがでしたでしょうか?一部の警官の人種差別的な行いなどにより、イメージの悪化に苦しんでいたアメリカの警察。その改善のために、市民たちにサプライズかつ人間味あふれるきっかけを与える、というのはまさに意義のある取り組みだと感心しました。

このアイデアの素晴らしさを要約すると、以下の3点になります。

1:暮らしの中で避けたい瞬間のひとつに目をつけ、それを素晴らしい瞬間に塗り替えてしまったこと

2:クリスマスというフォーマットを活用し、警官と市民たちの交流を促すことで、警察に対して根付いてしまった不信感を解消させたこと

3:実際に寄付された金額以上の喜びと絆を、コミュニティ全体にもたらしたこと

並の人であれば寄付するだけで満足してしまうところですが、どうせ寄付するならもっといい方法で、というのはなかなかできるものではありません。この「善意を欲張る」という心意気は、アイデアを考えるものとしてぜひ見習いたいと思います。

そして最後に、「秘密の」と自称しておきながら、ビデオをよく見ると実はちょくちょく現場に顔を出している、お茶目な出たがりサンタさんに、拍手!

This is a great news of the holiday season from Kansas City, Missouri. This idea teaches us the value of money becomes “priceless” when people mix it with a great idea. Just amazing.  

すべてが規格外!世界食糧計画(WFP)が実施した「とんでも素晴らしい」ソーシャルキャンペーン

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広告の世界では数年前、街などで突然パフォーマンスをするフラッシュモブや、ありえない場所に広告を置く「ゲリラ広告」なるものが一世を風靡しました。(一般でも、集団でマイケルを踊るなどのムーブメントが盛り上がったのは記憶に新しいところです。)

今回はそれの進化版というか、ありえない!をなんども重ねることで物凄いことになってしまったソーシャルキャンペーンをご紹介します。

 

<805 Million Names (8億500万の名前)>

www.youtube.com

<ビデオ和訳>

タイトル:2015年2月14日 パリ・サンジェルマン vs カーン

ナレーション:2月14日、パリ・サンジェルマンパルク・デ・プランスでカーンと対戦した。ほとんどの選手にとって、これは数ある試合の中のひとつ。しかしこの試合は、ズラタン・イブラヒモビッチ選手にとっては最も大事な試合のひとつだった。彼の服の下には、50もの新しい名前のタトゥーが刻まれていた。…それらは彼が会ったことのない、でも近くに感じていたい、今も飢えに苦しむ8億500万人もの人々を代表する名前だった。飢えは人々の健康を脅かす、世界最大の要因であるにもかかわらず、新聞の一面を飾ることはほとんどなかった 

イブラヒモビッチは、飢えに対してできることはわずかだが、世界中のあらゆるメディアの一面を飾る術は知っていた。

国連の世界食糧計画とともに作り上げたこのイベントでは、イブラヒモビッチに向けられた注目を、飢えに苦しむ人たちへの注目に変えることにしたのだ。

私たちのアイデアの成否は、イブラヒモビッチのプレイヤーとしての能力に大いにかかっていた。その日の試合に彼がゴールしなければ、キャンペーン全体がお蔵入りという状況だったのだが、その心配はすぐに吹き飛んだ。

アナウンサー「ゴールを決めました!」

イブラヒモビッチ「人々は僕の名前を聞くたびに、(飢えに苦しむ)人々の名前を思い出し、僕の姿を見るたびに、飢えに苦しむ彼らの存在をまぶたに思い描くのです。」

ナレーション:この瞬間、私たちのメッセージは世界のニュースになった。

アナウンサー:「8億500万人というビデオが公開されました。これは50人の子供たちを…」

ナレーション:このキャンペーンは非公開のポロボノで行われ、イブラヒモビッチもノーギャラで参加。大きな予算をメディアにつぎ込む代わりに、私たちは興味関心を喚起するため、イブラヒモビッチの名声を利用したのだ。メインのメディアじは、彼の体。キャンペーンのネタばらしは彼のソーシャルメディア上で行われた。

彼の有名な友人たちにより、この話題はさらなるリーチを獲得。

タイトル:トータルリーチ 8億7,700万人

<WFP 世界食糧計画>

 

さて皆さま、このキャンペーンを自分で考え、実行することをイメージできるでしょうか?このアイデアは、3つの「規格外(=ありえない!)」から成り立っています。

1:試合直前の選手の体に手を入れるという規格外

2:シュートを決める前提でキャンペーンを組み立てる規格外

3:イエローカード覚悟で実行する規格外

1は選手自身にとっては準備のルーチンを崩すことになるので難しいですし、2については、シュートを決めなければ全てがおじゃん、という計画が、クライアント的には受け入れがたいところです。また、3に至ってはチームが激怒するし、日本であればチームのサポーターが許さないのではないでしょうか?

…ということでこのどう考えても不可能なこのアイデアを、これら3者を納得させて(しかもほぼプロボノで!)実行してしまった、という背景には制作者たちの並外れた熱い情熱と、それが呼び込んだかなりの運があったのではないでしょうか。

ちなみにこの企画の成立に運を使い果たしたのか、試合自体は引き分けだったようです。

www.goal.com

でも、このリンクのように、きちんと日本でもニュースになっていますね。

ということで、このブログが標榜しているひとひねりの非常識どころではない、物凄い非常識でメッセージを伝えてしまった「規格外に素晴らしい」キャンペーンをご紹介いたしました。 

In this article, I featured WFP’s “805 million names” campaign because it consists of 3 miracles. How did they persuade Zlatan? How did they persuade WFP? And, How did they persuade PSG? This campaign tell us the importance of passion to execute the great idea, no matter how it seems impossible.