世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

銃による悲劇を止めるために 〜 北米からのキャンペーン2連発

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みなさまこんにちは。夜もだいぶ長くなってきましたが、いかがおすごしでしょうか?さて本日は、卓越したアイデアとして世界中で高い評価を受けている、アメリカ発の「銃規制」を促進するソーシャルキャンペーンをふたつ、ご紹介します。最初のひとつは全米にチェーン展開しているスーパーマーケット「クローガー」の奇妙なルールに主婦たちが噛みついたキャンペーンで、もうひとつは、護身用に銃を持つという行為がいかに誤りであるかを「銃を買おうとしている人たち」に向けて直接、衝撃的に伝えたキャンペーンです。両方とも同時期に行われた同じテーマのキャンペーンなので、ふたつ並べて見つめる事で、読者の皆さまのアイデア出しのヒントになるかもしれない、と思い並べてみました。ひとつは課題に起因する「衝撃的な事象」を見つけて攻撃する事で、もうひとつは課題に関する「衝撃的な体験」を作り上げる事でそれぞれの角度から、アメリカのみならず世界中の耳目を集める事に成功しています。それでは以下のビデオをご覧ください。

<スーパーに銃はいらない/Groceries Not Guns>

vimeo.com

<ビデオ和訳>

母親代表「母親としての立場から見ても、従業員や警備員の視点から見ても、どんな人がいるかわからない状況の中、銃を持った人々が自由に入店できる状況は危険だと考えてます」

ナレーション:アメリカの法律は、人々が弾丸を装填した銃を持って入店することを許可している。

レポーター「(スーパーマーケットチェーンの)クローガーは、州法が認めていることもあり、銃を携行しての入店を断ることはないと主張しています」

ナレーション:そこで我々は、彼らに打撃となるPRキャンペーンを実施することにした。

アンカーたち「母親たちのグループが、」「母親たちが、」「母親たちが、」「アメリカの銃規制のために立ち上がりました」「銃を持っての入店を認める全米最大手のスーパーマーケットチェーン、クローガーに噛み付いたのです」

アンカー(※プリント広告を映し出しながら)「ライフルを持った人の横にクローガーの規則を破っている客を並ばせ『この中のどちらかが入店を歓迎されません。どちらが規則破りでしょう』というキャッチコピーをつけています。これは…理解に苦しみます。アイスを食べているからって自分の子供が追い出されて、その脇をライフルを持った人がのうのうと入店していくだなんて…狂気じみています!」

ナレーション:次に我々は、クローガーとのやりとりをオンラインで公開した。

カスタマーサービス「もしもし、顧客第一のクローガーストアです!」

カスタマーサービス「プードルですか?我々はペットの入店は認めていません」

女性「つまり、引き取られたプードルを抱えての入店は法的に認められず、殺傷能力を持つライフルを持っての入店は法的に認められる、ということですよね?」

電話の声「えーと…」

ナレーション:これは360,000もの抗議の署名を集めるなど、着実な効果をもたらした。我々はさらに、その歩みを進めた。

アンカー「気になるキャンペーンが、国内最大のスーパーマーケットチェーンを追い詰めています」

(※テレビCMを映し出しながら)

店員「なんでスケボーしているんだ。誰かがケガしたらこまるだろ?」

店員「水鉄砲を持っての入店はできません」

<クローガーでは、所持しての入店を断られるモノがたくさんある>

<でもライフルはそれに含まれていない>

ナレーション:そして私たちはついに、銃を持っての入場が許されていない「唯一の」クローガーを見つけた…クローガーの本社ビルだ。そこで我々は、彼らの本社ビルの壁に質問を投射することにした。

アンカー「クローガーは難しい選択を迫られています」

ナレーション:これらの一連の取り組みは、メディアに大きく取り上げられたのはもちろん、普通のアメリカの人々からも大きな反応が寄せられた。(同じような規則を持つ)他社も方針を変更し、調査結果は、アメリカの銃規制についての前向きな世論を示した。

オバマ大統領「このように母親たちと連帯しましょう。声をあげて、ともに安心な社会を作り上げていこうではありませんか」

<立ち上がる母親たちの会〜アメリカの銃規制のために〜>

 そして、もうひとつのキャンペーンがこちら。

<銃販売店/The Gunshop>

www.youtube.com

<ビデオ和訳>

<アメリカ国民の60%以上が銃を持つことで暮らしはより安全になると考えている>

<しかし事実は、殺人や自殺、不慮の事故による死亡を増やしているのだ>

<そこで我々は、初めて銃を購入しようとする人々に再考を促すため、意表をつく取り組みを行った>

<ニューヨークに銃の販売店を開いたのだ>

<本物に見せるために、隅々までリアルに再現>

<しかしよく見ると、それぞれの銃にはそれぞれが引き起こした悲劇が浮かび上がってくる>

<すべての銃には、それらが引き起こした殺人の記録がタグで記された>

“これは5歳児でも使える扱いやすさのために、2015年1月19日、親の寝室でこれを見つけた5歳児により、生後9ヶ月の弟が殺されてしまった”

“教えようとしていた際…”

“日時:2012年12年14日、使用者:アダム・ランザ、死者:26名、負傷者:2名”

<また弾薬の箱には、その弾丸が引き起こした不慮の死についてが記された>

“2歳児が偶発的に殺してしまった”

<狙撃の的となるポスターには、射程範囲に起因する事故の歴史が記された>

“撃ち方を教えていた教官を殺してしまった”

<フライヤーには、中古の銃による悲劇が記されていた>

“使用者:ジェームズ・ヒュバティ、死者:21名、負傷者:19名”

<隠しカメラは、銃を買いに来た人たちの姿を捉えた>

店員「これは一番人気の22口径6インチのリボルバーで、親の寝室でこれを見つけた5歳児が、生後9ヶ月の弟を射殺したものです」

客の男性「この銃で5歳児が、弟を射殺しました。…これで殺したの?これ?これを子供が使って殺したの?うわぁ、最悪…」

<この店があまりにリアルだったので、銃の推進派は警察に捜査を依頼>

アンカー「全米ライフル協会はこの店舗の違法性を探るため、警察に捜査を依頼しました」

コメンテーター「こんなことをする人は逮捕されてしかるべきでは…」

<最初の1週間で、1200万を超えるビュー数を獲得>

アンカー「この取り組みで法律が変わるようなことはないと思いますが、少なくとも銃を買おうとする人々のマインドに、考える機会を与えたことは間違いないでしょう」

<すべての銃には歴史がある。繰り返させないようにしよう>

<銃による暴力を食い止める州連盟>

皆さま、いかがでしたでしょうか?「銃の問題は日本にはほとんどないから関係ない」と思いがちですが、どの文化にも他国から見ると「なんでそんな事になってるの?」と思える、特有の課題があるものです。他国の文化の課題と、それらへの対処方法について知る事は、自国の文化が抱える問題を解決するためのヒントになるかもしれない。そう思うと、ご覧いただいたふたつの事例も見方が変わってくるのではないでしょうか?

These are the two campaigns which have been highly evaluated in various international advertising festivals. They are both about gun control and it’s quite surprising for Japanese like me, who are not allowed to have any kind of guns or rifles in public. Every culture has its own problems and it’s good to know how people living there are trying to deal with them, to understand how to deal with our own problems.

逃げ場なし!映画館の暗闇の中、観客にDVの現実を突きつけるタイのソーシャルキャンペーン

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シルバーウィークもあっという間に最終日ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?今回は先週更新できなかった分、間隔を短めに更新してみようと思います。お題はDV。先日シンガポールで行われたアジア地域限定の国際クリエーティブ賞「スパイクス・アジア」のメディア部門でも銀賞を受賞した、タイ発の見ごたえあるキャンペーンです。タイならではの(?)ドギツイ演出にクラクラしますが、映画館というメディアならではの「音響」に目をつけ、その意味をずらすことで、逃げ場のない暗闇に座る人々にメッセージを突きつけることに成功しています。ビデオの作り込みにはまだ雑なところはありますが、特筆すべきはそのキャッチコピー。アイデアと見事にダブルミーニングになっています。それでは以下をご覧ください。

<反虐待サウンドチェック(The Anti-Abuse Soundcheck)>

www.youtube.com

<ビデオ和訳>

“2014年12月 バンコクの‘メジャー・シネプレックス’にて”

“映画館でのサウンドチェックは通常、上映前に行われる”

“我々はこのサウンドチェックを、より意義深いものにした”

女性「助けて!…もう文句は言わないから!」

女性「そのお金は持ってかないで!子どもの学費よ!」

女性「お願い、持ってかないで…」

キャッチコピー:<あなたにチェックしてほしいサウンドがあります>

女性「お父さん、叩かないで…」

<毎時間、少なくとも3人の母子が家庭内暴力の被害者になっています>

<こんなサウンドを聞いたら、1300番にお電話を。家庭内暴力の根絶にご協力ください>

<サウンドチェック by 女性財団 & メジャー・シネプレックス

“我々は被害者の叫び声をサウンドチェックに使うことで、暴力が我々の周りに日常的にあることを伝えた”

“これらは実生活で、観客たちにチェックしてほしいサウンドでもあった。”

観客A「見えなくても、暴力はひどいもので、起こるべきでないものだと感じました」

観客B「事実、暴力は身の回りにあるものです」

観客C「家庭の問題ではなく、社会問題だと思いました」

観客D「もし同じような叫び声を聞いたら、無視せずに電話しようと思います」

<このキャンペーンはバイラルし、SNSやPR露出でおよそ3.8百万バーツ分の効果をもたらした>

<上映から1ヶ月で、ホットラインへの1日あたりの電話数は4件から20件へと増加>

バンコクでの成功を受けて、この試みは他の主要都市でも行われることになった>

<つまり、これにより人々の目を家庭内暴力に振り向かせただけでなく、耳を引きつけることにも成功したのだ>

“もしもし、近所で叫び声が聞こえたんですが…”

<反虐待サウンドチェック by 女性財団 & メジャー・シネプレックス

さて皆さま、いかがでしたでしょうか?DVの演出がかなり大袈裟ですが、これが映画館のサウンドチェックも兼ねていることを考えると理にかなっているのかな、と思います。そして特に嬉しいのはこのアイデアが、私が今所属している電通グループのタイにあるエージェンシー、電通プラスのアイデアである、ということ。こんな風に、東南アジアからもどんどん素晴らしいアイデアが出てくるようになると世界はもっと面白くなる!と思いました。

同じアジアの仲間にアイデアの質や総量で負けないように、このブログを通じて起業や世直しに立ち上がる日本の人たちのお役にたてればと思います。

では、明日からの戦いの日々、引き続き頑張ってまいりましょう!

This anti-abuse campaign is from Dentsu Plus, Bangkok. This won a silver award in Spikes Asia 2015. As the award evaluated, the media they chose is relevant and the tagline perfectly matches the environment. Though the case film should be improved a little bit, I feel proud of this achievement, as a member of Dentsu Aegis Network.

毒をもって毒を制す!一休ばりの頓知でネオナチを驚愕させたドイツのソーシャルキャンペーン

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皆さんご無沙汰しております。仕事の方で山場がありまして、更新が遅れてしまいました…コホン。シルバーウィークのど真ん中、今回は今シーズンの世界の広告賞を大いに賑わせたソーシャルキャンペーンをご紹介しようと思います。お題は「ネオナチ」。少数派ながら拡大を続ける彼らのデモ行進に悩まされているドイツの人々が、NGO団体と組んで行った驚愕のソーシャルキャンペーンとは…。アイデアも抜群ですが、以下の映像もかなりよくまとめられています。(特に行進中、戸惑うネオナチたちの表情は必見です。)

ナチス・アゲンスト・ナチス

www.youtube.com

<ビデオ和訳>

ナレーション:「エグジット・ドイチェランド(Exit Deutschland・ドイツの出口)」はネオナチ思想から逃れたいと思っている人たちをサポートする団体。信じられないかもしれないが、ネオナチは今も成長を続けている。毎年、ウンズィーデルのような小さな町を巻き込み、存在を誇示するためにデモ行進を続け、住民たちを震え上がらせている。

しかし2014年、エグジット・ドイチェランドは地元の住民たちと力を合わせ、驚くべき手段をとった。

史上初となるボランティアでないチャリティウォーク「ナチスに反対するナチス」を実施したのだ。この初の試みによりに、我々はネオナチの行進を、ナチズムへの打撃となるチャリティウォークに変えてしまった。これは彼らのボランティア精神に基づくものではなく、彼らが歩く1メートルごとに10ユーロが市民や地元企業からエグジット・ドイチェランドへと寄付される仕組みである。

これによりネオナチはlose-lose、どうあがいても損になるだけの状況に追い込まれた。

途中で行進を止めて帰っても、すでに寄付してしまったお金は返ってこない。さぁ、どんどん寄付するんだ。歩け!

この試みはネオナチによる行進を、カラフルで楽しく、実ある全く別のものに変えてしまった。

行進コースには応援の書き込みがなされ(ここまでで5000ユーロ達成、ありがとう!)、壁には応援の横断幕が貼られ、途中ではバナナの差し入れまでが行われた。

最終的にはネオナチから脱退するための寄付額は1万ユーロを達成。同時にデジタルでもキャンペーンが展開されていて、人々はウンズィーデルでの行進をオンラインでリアルタイムに見ることができた。この皮肉な仕組みのキャンペーンは人々の耳目を集め、ソーシャルメディアでも大きな話題を巻き起こした。

レポーターたち「ネオナチの行進は…」「ネオナチに対し、エグジット・ドイチェランドは…」「ナチス」「ナチス」「行進を全く別のものに変えてしまいました」

この革命的な寄付方法は他の街でも効果的に応用され、エグジット・ドイチェランドに記録的な寄付額をもたらした。これは皮肉に聞こえるかもしれないが、ネオナチのおかげで、ナチズムに熱中する人が世界中から減っていくことになるのである。

<エグジット・ドイチェランド>

以上、いかがでしたしょうか?自分はこのブログでアイデアの本質を言い表すために北風と太陽の例えをよく出しますが、この企画は「ウサ晴らし」というしょうもない北風を、強引に太陽に翻訳してしまったものすごいアイデアだと思いました。はめられたネオナチ側の人たちも困惑しながら、なんだか脳が面白がっているような表情を見せているのが印象的です。

いろんなものが解釈次第の世の中ですが、企画者としてはこういう「実は誰も傷つかない」解釈で世の中を面白くしていくアイデアを提供することが大事だと思いました。

This is an award-winning idea from Germany in 2014. I love the structure of this idea because it is like Japanese martial arts like judo and aikido, that take advantage of the opponent’s own movements to win. Quite creative, isn’t it?

 

亡命者の未来に希望を。‪韓国発の心温まるケータイアプリ

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皆さん今日は。東京はすっかり秋めいてまいりましたがいかがお過ごしでしょうか?今回は、先月にわかに緊迫した朝鮮半島の隣国・韓国発の心温まるアプリのアイデアをご紹介いたします。朝鮮戦争の後、分断されたままの南北。そこには意外なコミュニケーションバリアが発生していたようです。まずは以下をご覧ください。

<韓国語—北朝鮮語 翻訳機>

www.youtube.com

<ビデオ和訳>

ナレーション:2万7千人の北朝鮮からの亡命者が韓国に住んでいる。

「カン・クンソンです。北朝鮮から来ました。韓国に来て6ヶ月になります」

「キム・イエミンです。ソウルで生まれました」

ナレーション:この名称は?

カンくん「氷菓子」キムさん「アイスクリーム」

カンくん「色の橋」キムさん「虹」

カンくん「獅子辛子」キムさん「ピーマン」

カンくん「…?」キムさん「マクドナルド!」 

ナレーション:分断からの70年により、韓国語は南北で独自の進化を遂げていた。カンくん、よくわからない言葉に印をつけてみて。…韓国の教科書に使われている単語で、亡命者がわかる単語は半分以下。この教育格差はそのまま、雇用や賃金の差に繋がってしまう。

グーグルの翻訳機能でさえ、この違いは認識できない。そこで私たちは、独自の翻訳デバイスを作ることにした。

<韓国語—北朝鮮語 翻訳機>

よく分からない韓国の単語をスキャンするだけで、北朝鮮の単語に翻訳してくれる。複数の単語を処理することもできる。このアプリのサポートによって、北朝鮮からの亡命者がより適切な教育が受けられることが期待される。私たちは教育だけでなく、暮らし全体についても早く馴染めるよう、この取り組みを続けるつもりだ。韓国の人たちはこのニュースに驚いたが、同時にこのアプリがもたらす効果に心を動かされた。

識者「将来の統一に向けて、若い北朝鮮の人々も質の高い教育を得る必要があります」

ナレーション:統一がいつなされるのかはわからない。ただ、このアプリを通じてバリアのないコミュニケーションを実現させることで、その日は少しだけ早くなるのかもしれない。

さて皆さま、いかがでしたでしょうか?私も20年ほど前、交換留学生として韓国に留学していたのですが、南北でこのような言語のギャップが生じていたとは驚きでした。このアプリはとにかく着眼点が素晴らしい!と思いましたが、北朝鮮からは今現在も毎年1000〜2000名程度の亡命者が韓国での暮らしを始めているようです(ウィキ参照)。彼らがストレスなく新しいスタートが切れるように、このアプリを学生だけでなく、亡命者全体に普及させる取り組みがあってもいいかな、と思いました。

世界で話題になるアイデアはこのように、社会に隠れている課題にうまく光を当てているものが多いと思います。あなたの暮らしの周りに、そんな課題はないでしょうか?自分がスーパーのレジや駅で感じた違和感や、こうすればいいのにという憤り。そんなものが、世界を変えるアイデアにつながるとしたら愉快ですよね。鬱陶しい秋雨の日々が続きますが、たまにそんな視点で暮らしてみるのも楽しいかもしれません。それでは皆さま、また来週!

This is an idea of App from South Korea, to improve the quality of defectors’ lives from North Korea. I like this idea and, I feel this campaign will be better if this association takes some actual action to promote this app towards all defectors from north in their society. Why should they keep this great idea only among young students? Anyway, I was surprised that there were so many linguistic differences between south and north now and I love this campaign’s viewpoint.  

オンラインで世界にアピール!世界の女性ソーシャル活動家たち

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みなさんこんにちは。カンヌの特集を終えて心機一転。今回はオンラインを巧みに操りソーシャルキャンペーンを展開している、ふたりの女性活動家をご紹介いたします。

まずはインドのSofia Ashraf(ソフィア・アシュラフ)さん。彼女は地方都市コダイカナルで起きている、水銀による健康被害を国民的関心事にしようと立ち上がりました。

彼女がとった手段は「ラップ」。ラップ歌手でもある彼女がニッキー・ミナージュのヒット曲「アナコンダ」に合わせてコダイカナルの現状を訴えたミュージックビデオを制作したところ、300万以上のビュー数を稼いで文字通り、コダイカナルでの出来事を国民的関心事に盛り上げることに成功しました。

<コダイカナルは屈しない>

www.youtube.com

<歌詞和訳(冒頭のみ)>

コダイカナルは屈しない コダイカナルは屈しない

改善されるまで、コダイカナルは諦めない

これはコダイカナルについての話

彼らがやってきて厄災をもたらした

土地を汚染することで

つまりこういうこと 彼らは温度計の工場を建てた

そこで働く人たちは水銀を扱ってた

そして彼らは廃棄物を 離れた場所にある植え込みに捨てていた

それがつまり、汚染物質だったというわけ

(以下省略)

ちなみにこれが元ネタとなったアナコンダのミュージックビデオ。

www.youtube.com

比べてもわかる通り、パロディの方は本当に手作り感覚のミュージックビデオで、ソフィアさんもこれほどの反響を呼ぶとは考えてもいなかったようです。

興味深いのは彼女がかつて、日本にも支社がある世界的広告代理店、オグルビィ・アンド・メイザーで働いていたということ。「広告代理店で働くことで、メッセージを届けるために、大衆文化をどう利用すべきなのかを学びました。ニッキー・ミナージュのアナコンダを使うことで、彼女のファンは気にいるでしょうし、アンチの人にも無視できないものになると思ったんです」とは彼女の弁。

詳しくはこの記事のネタ元でもある、英国紙ザ・ガーディアンのオンラインをご覧ください。

www.theguardian.com

そしてもう一人、この記事を読んでいるうちにふと思い出したのがアメリカのエリン・ブロコビッチさん。彼女の活躍はジュリア・ロバーツ主演で映画になったのをご記憶の方も多いでしょう(もう15年も前の映画なんですね…汗)。

エリン・ブロコビッチ - 作品 - Yahoo!映画

巨大企業を相手に、史上最大級の集団訴訟を成功させた彼女の今を探ろうと検索してみたところ、こんなサイトを立ち上げて消費者を守る運動を続けておりました。

www.brockovich.com

サイトのヘッドラインは「22年。そして今も格闘中。」かつてミスコン荒らしだったという美貌もそのままに、困ったらエリンに言って!とばかりに全米を駆け回っているようです。

二人に共通するのは、きっかけは外部からのものであるものの、最終的には自らの意思と好奇心でイシューに向かって立ち上がっている、という点。その純粋な姿勢がなんらかのカリスマなり、チャームとなって周りを巻き込んでいくんだな、と思いました。

今回の記事の話につきましては、週末の勉強会でもお話しする予定ですのでいらっしゃる方はご期待ください。

peatix.com

 気づけばリンク貼りまくりな回になってしまいましたが、皆様ぽちぽちやりながら楽しんでくださいませ。

それでは今週も、元気に「立ち上がって」いきましょう!

[An English Summary]

In this article, I featured two female social activists,  Sofia Ashraf and Erin Blockovich. Sophia is an Indian rapper and she succeeded in appealing mercury pollution induced by a global brand's factory in India, through uploading a parody music video of "Anaconda" by Nicki Minaj to YouTube. It's interesting that she learned "how to use popular culture to reach a wider audiende" when she was working for Ogilvy & Mather, the globally well-known advertising agency. And Erin Blockovich, you may know her by the movie starring Julia Roberts in 2000, still works very vigorously by using her own website. Both of them have some charisma or charm by chasing their own curiosity and good faith. 

最終回!カンヌ国際クリエーティブ祭 ライオンズヘルス審査レポート:女性のスポーツ参画をサポートした国連イチ押しのキャンペーン

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【写真キャプション】ライオンズヘルスの「グランプリ・フォー・グッド」発表とともに開かれた記者会見で話す、国連財団のアーロンさん。総人口73億人のためのアイデアを、と何度も熱く語っていました。

さて、夏も終わりに近づきましたし、6月から続いてきたカンヌ国際クリエーティブ祭のヘルスケア部門・ライオンズヘルスの特集も今回を最後にひと区切りつけようと思います(審査の過程でこれはいい、と感じた作品もまだいくつかありますが、それはまた近いうちに…)。

ということで今回はカンヌから帰ってきた後にも自分の心に残り続け、帰国後の報告会でも話すほどに「これ自分、めちゃくちゃ好きだ・・」という思いが強くなるばかりのイギリス発のキャンペーンをご紹介します。

NGOや政府系の広告主は規定により通常のグランプリを獲れないのですが、そういった団体の応募作の中から選ばれる特別賞「ライオンズヘルス グランプリ・フォー・グッド(協力:国連財団)」を獲得したスポーツ・イングランド(旧 英国体育委員会)の「This Girl Can(この娘は、できる。)」です。評価されたのは全体のキャンペーンなのですが、まずはその中でも特に素晴らしい、ミュージックビデオ風のテレビCMをご紹介します。それではCount Down!

<この娘は、できる。>

vimeo.com


www.youtube.com

ビデオ翻訳>

女性1:「いくわよ!」

♩音楽スタート!

“肉たわむ。故に我あり。”

“豚のように汗かき。女狐のようにセクシー。”

“タマを蹴るわよ。覚悟しなさい。”

“そのとおり。私はイケてる。”

女性2:「もうダメ」

<この娘は、できる。>

さて皆さま、いかがでしたでしょうか。自分が持ち上げすぎたこともありますが、「?」と思った方も多いのではないでしょうか。それでは引き続き、このCMを含めたキャンペーンの全容をまとめたビデオをご覧ください。

<「この娘は、できる。」キャンペーン解説ビデオ>

vimeo.com

<ビデオ和訳>

女性キャスター「14歳から40歳の女性の中で、75%もの人が運動をもっとしたいと答えているのにもかかわらず、男性に比べて、運動を定期的にしている女性は200万人も少ないそうです。いったい何が彼女たちを思いとどまらせているのでしょう。」

ナレーター:えぇと、理由は山ほどあります。

タイトル:「男っぽい」「汗」「赤ら顔」「運動音痴」「ノーメイクが嫌」etc…

ナレーター:これらすべてに共通するのが「容姿で判断される恐怖」。しかし理想化された体や、広告の中のアスリートイメージは女性を励ますどころか、女性の恐怖を助長するばかり。ていうか、こんなスーパーボディの人どこにいるのよ?スポーツ・イングランドが性的差別を解消し、女性たちを励まし、容姿で判断される恐怖に一発喰らわせるためには、そして、女性たちに運動の喜びを広げていくためにはどうすれば良いのだろうか?

女性1:「いくわよ!」

♩音楽スタート!(CMスタート)

ナレーター:大きなスポーツブランドが決して採用しないような、一般女性をキャステイングして。「皮下脂肪」や「たるみ」、「うめき声や汗」など、運動の時に恥ずかしく感じるものを祝福して。屋外看板はそんな女性たちの輝けるひと時を切り取った。SNSには、それぞれの女性たちが、克服した恐怖についての実際の話を埋め込んで…。結果、キャンペーンは全世界へと広がった。

各国のキャスターたち:「これは天才的なキャンペーンです。」「女性を勇気づけますね。」「これは<この娘は、できる。>という試みで…」「この娘ができるなら、みんなできる、ということなんです。」「ついに、私たちを勇気づけるものが出てきてくれたわ。」

<※結果の数字やツイッター文言省略>

しかし一番大切なことは、これに勇気づけられた世界中の女性たちが「判断される恐怖」を克服し、「私にも、できる。」と考えはじめてくれたこと。

女性ユーチューバー「この広告は本当に楽しくて、素晴らしく元気が良いので朝起きると『さあ行こう』という気分になります。」

スポーツクラブの女性たち「この娘は、できる〜!」

女性2:「…もうダメ」

<この娘は、できる。>

 さて改めて皆さま、いかがでしたでしょうか?ビデオの繰り返しになりますが、スポーツ・イングランドが素晴らしいのは、普通の女性たちがなかなかスポーツに乗り出せない理由が「太っているのに走るのか?」とか「おばちゃんなんだから無理すんなよ」といった、容姿や見た目により判断されることへの恐怖であると発見したこと。そして女性たちが恥ずかしいと思い込んでいる脂肪やたるみ、汗やうめき声を素晴らしい映像と音楽、キャッチコピーで「誇るべき個性」として堂々と描くことで、「容姿なんてものよりも、スポーツしようと思い、実践するそのスピリットが美しいものなんじゃないの?」と、世界中の人々のモノの見方に新しい角度を与えたことです。

またキャンペーンのウェブサイトやSNSチャネルの使い方なども、シンプルでとてもわかりやすく、業界の人たちにとって模範となる仕上がりになっていると思います(以下のリンクご参照のこと)。

www.thisgirlcan.co.uk 

ちなみにスポーツ・イングランドは政府系の関連団体で、「文化・メディア・スポーツ省」というところの管轄下にあるそうです。まずは国としてこの3つのカテゴリーをひとつの省にまとめているところが時代をよく捉えていますし、このようなクリエーティブを可能にした遠因でもあるのかな・・と思います。また、2012年のロンドンオリンピックパラリンピックの招致・準備および実施のための行政支援を行ったのもこの省だったそうです。 

他人と異なる容姿を揶揄して笑いをとったりなど、とりあえず本人がどうにもできないことを「いじって」ネタにすることがまだ多い日本のコンテンツメーカーにとっても、その創造力の欠如に警鐘を鳴らす素晴らしいキャンペーンであるだけでなく、その背景にある国とスポーツの関係性についてすらも色々と考えさせることが多いキャンペーンでした。

       ・         ・          ・

何はともあれ、ライオンズヘルス。世界中から集まった素晴らしい14人の審査員たちと、素晴らしいアイデアについて話し合った南仏での4日間は自分にとっても発見と成長ばかりの、大きなターニングポイントになりました。

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【写真キャプション】ライオンズヘルスのフェアで熱心な、尊敬すべき審査員たちと。審査3日目、1420本の応募作から180本の入選作を選ぶために朝9時から夜中の11時まで、激論を交わした後の1枚。

過ごした日々が遠くになっていくのは悲しいですが、その時に見聞きしたキラキラした物事は心の宝石箱にしまって、みんなに惜しみなくシェアしながら、未来に向かって歩き出そうと思います。

次回からも引き続き、ひとつまみの非常識で世界を変える、素晴らしいキャンペーンをご紹介してまいります。お暇な時にぜひまた、お立ち寄りくださいませ。

ブランドも消費者もWIN-WIN!カンヌ国際クリエーティブ祭 ライオンズヘルス審査レポート vol.8

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【写真キャプション】カンヌの授賞式で見事、ライオンのトロフィーを受け取ったチームの一コマ(今回紹介の作品スタッフとは異なります)。ゴールドライオン(金賞)以上でないと登壇できない他部門とは違い、LIONS HEALTHはシルバーライオン(銀賞)でも登壇できるので、何としても舞台に立って受賞したい人には狙い目かも。

皆さまこんにちは。東京では暑い中にも、徐々に過ごしやすい瞬間なども感じられるようになりましたがいかがお過ごしでしょうか?

開催からまだ2ヶ月しかたっていないにもかかわらず、すでにはるか遠い昔のようにも感じられますが、今回も私が審査員を務めたカンヌ国際クリエーティブフェスティバル「LIONS HEALTH」のヘルスケア&ウェルネス部門で出会った素晴らしい作品をご紹介します。

ヘルスケアというとどうしても、NPO団体などが主催するソーシャルグッドな取り組みが目立ってくるものですが、今回はユニリーバという多国籍企業が取り組んだ、人々に役立ち、かつ商品の「売り上げ向上」につながった、ビジネスモデルとしても優れたアイデアをご紹介します。まずは以下の解説ビデオをご覧ください。

<衛生ハンドル>

www.youtube.com

<ビデオ和訳>

テレビの司会者「暮らしに食料品などの買い出しは欠かせませんが、食べ物以上のものを家に持ち帰ってしまっているかもしれません」

アナウンサー「特にスーパーのカートのハンドルには、100万匹以上のばい菌が潜んでいるかもしれないのです」

アナウンサー「サルモネラ大腸菌ブドウ球菌は消化器官に深刻なダメージを与え、時には死をもたらすことさえあるのです」

“そこで衛生的な習慣を推進する(石鹸や除菌用商品のブランド)「ライフブイ」は、これらの危険から身を守る方法を開発した”

<ライフブイ「衛生ハンドル」>

“ハンドルにライフブイの消毒液を塗布し、99.9%除菌する革新的デバイス”

ライフブイのマーケティングマネージャー「ライフブイは菌や感染から人々を守ります。カートに毎日、何人が触るのかを想像してみてください。ライフブイを一往復させるだけで清潔に消毒することができるのです」

“100万以上の菌がついたハンドルを一瞬で99.9%除菌”

ライフブイのマーケティングマネージャー「中東最大のカルフールのフラッグシップ店と提携しています」

利用者A「とても簡単で清潔なソリューションです」

利用者B「カートは清潔とはいえませんから。カートを返した後、手も消毒されていると考えると安心します」

“毎日10000人の買い物客を守り、ライフブイの売り上げは53%上昇”

ライフブイのマーケティングマネージャー「いろんな場所に応用できると考えています。病院や電車、バスなどといった場所で」

“治療より予防の方が優れていることを実証”

ユニリーバ「ライフブイ」

以上、いかがでしたでしょうか?審査の現場でもこれはすこぶる評価が高く、「スーパーの入り口でこんな商品体験ができたら、売り場でも絶対に手に取りたくなるよね!」とか、「ライバルブランドの担当者がこれをやられた時の気持ちを考えると、めちゃくちゃ悔しいはずだと思う!」とか、いい大人たちが目をキラキラさせながら興奮して話していました。僕も何か言っておきたいと思い「これを応用したら、いろんな場所でみんなが一拭きするだけでライフブイの消費量が革命的に上がるかもしれない。そんなビジネスモデルにも発展しうる素晴らしいアイデアだ!」とキラキラしてみました。

これは消費者にとっても嬉しく、売り場にもよく、そしてもちろんブランドにも良いという、絵に描いたような「3方よし」の企画です。我が国も夏場はジメジメして、食中毒などが起きやすい季節なので、来年はぜひ、同じような取り組みを日本でもやって欲しいと思いました。 

追伸:9月4日(金)に以下リンク先の勉強会で話すことになりました。あの「グリーンズ」の小野さんとのコラボトークの予定です。主催者のご厚意で読者様に座席を確保してもらったので、ご興味があればぜひ登録してご参加ください。なんてったって「無料」です!!

peatix.com