肩すかしだった今年のスーパーボウルの代わりに、心に響く逸品を
前回お伝えしたスーパーボウル広告に引き続き、今回もスーパーボウル広告を…と考えていたのですが、今年はちょっとした言葉遊びや、セレブリティの起用に頼ったものが多く、見た瞬間に心がハッとする洞察(インサイト)や、それを見事に表現に落とし込んだ広告があまり見当たらず、諦めました。
ということで今回はその肩すかし感を埋め合わせるべく、クリエーティビティの祭典カンヌライオンズ2022のフィルムクラフト部門で、グランプリと金賞3つを獲得した、素晴らしいフィルム作品をご紹介いたします。
ドイツのディスカウント系スーパーチェーン、Pennyが新型コロナウイルスによるパンデミック期を乗り越えた若者たちに向けて制作したものになります。では、以下からご覧ください。
「The Wish / 母の願い」
【雑和訳】
息子「よく寝れなかったの?」/ 母親「うん」/ 息子「で、クリスマスの願いは何?」/ 母親「…あなたにずっと家にいてほしくないわね」「夜に家を抜け出して…」/ 息子「今すぐ行くからね」/ 母親「あなたがどこにいるのかわからなくなって…」/「お父さんに連れて帰ってきてもらわないといけなくて…あなたが飲み過ぎてしまったから」/ 息子「ごめん」/ 父親「気にするな」/ 母親「学校をサボって…それよりも大切なことがあるように思えてね」/ 「で、私のいうことを一切聞かないの」/ 「こっそりパーティも開いて欲しいわね…。で、ついに好きな子ができたって言うの」/ 息子「好きだよ」/ 恋人「私もよ」/ 母親「なのに振られてね」/ 「で、あなたは出ていくの」/ (これまでの色々なシーンが回想される)/ 母親「…あなたに青春を取り戻してもらうのが、私の願いよ」/ (歌のボーカルが入る)/ 文字要素:パンデミックの間、たくさんの経験ができなかった若者たちのために。私たちは、青春の数々を取り戻してもらうべく、5,000の忘れられない経験を(特典として)提供したいと思います。/ penny.de/yourtime
掘り出したインサイトの、コンテンツへの見事な”翻訳”
いかがでしたでしょうか?広告会社のトラディショナルなキャンペーン立案プロセスでは、ストラテジック・プランナーが社会の動向から見出したインサイトをもとに、広告クリエイターたちが、ターゲットとなる人々の心に直接響き、彼・彼女たちの行動のきっかけとなるコンテンツを創るのですが、実はインサイトとコンテンツの両方を高いレベルで安定して揃えることができる広告会社やチームは一握りです。
その点、このフィルム作品は「若者にとってパンデミックは、青春の機会損失だった」という、大人が見落としてしまいがちなインサイトに真正面からぶつかったのがまず見事ですし、それを「子供に出ていって欲しがる母親」という、常識とは正反対の語り口と、青春時代の甘苦さを思い起こさせる、巧みな映像表現で見事なコンテンツへと昇華させました。
これはトラディショナルな広告表現として、ストラテジーと表現が高いレベルで実現された、教科書的な逸品だといえるでしょう。
このレベルの広告が来年のスーパーボウルではもっと出てくれば、と期待しますし、今年のスーパーボウルの妙な”静けさ”は、来年以降の大豊作の前触れなのかもしれない、と前向きにとらえておきたいと思います。
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!