実は「冷たい水」で洗濯する日本は少数派だった?
今を遡ること29年前(!)の8月。韓国の延世大学にて留学を始めた私は、住み始めた学生寮の地下にあるランドリーに洗濯をしに行きました。そこで驚いたのが洗濯機のデフォルト設定が「温水洗い」だったこと。日本の洗濯機では水温の調整ダイヤル自体を見たことがなかったので、どう設定を変更するかもわからず、電気代がもったいないのでは…と思いつつ洗濯したことを覚えています。
そして実は、冷たい水のままで洗濯機を回す日本は先進国では少数派らしく、アメリカでも、ヨーロッパでも韓国と同様、お湯で洗濯機を回すことが普通のようです。
今回はその慣習によって発生してしまうCO2の排出を抑えるために、アメリカの洗剤ブランドTideが冷たい水でも高い洗浄力を発揮する商品を開発。それを普及させるために行ったキャンペーンをご紹介します。
ちなみにこちら「世界のクリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2022のSDGs部門で金賞(Gold)を受賞するなど、高い評価を獲得したキャンペーンになります。それでは以下の紹介ビデオをご覧ください。
「#TurnToCold / #冷水で洗おう」
【雑和訳】
ナレーション:どうしたら洗剤ブランドが自動車40万台分の排出量に相当する、10億キログラムのCO2排出を(水温調整用の)ダイヤルを捻るだけでアメリカから削減することができるのでしょうか?/
実は冷たい水(cold water)を使うことで(温水での洗濯に比べ)洗濯時のエネルギー消費量は90%も削減できるのです。そこでTideは製造方法をアップグレードし、冷たい水でも他のあらゆる洗剤よりしっかり洗濯ができるようにしました。/
あとは、人々に温水での洗濯をやめるよう納得させるだけ。そこで私たちは「冷たい(cold)」を象徴する2人を起用。/
(画面上にラッパー&俳優の"アイス"Tとプロレス団体WWEのレジェンド、ストーン・”コールド”・スティーブ・オースティンが登場し、受話器を取る)/ タイトル画面:COLD CALLERS(冷たい電話主) 〜アイスTとストーン・コールド /
ナレーション:放送では、彼らがポップカルチャーを担うあらゆる人たちに向けてメッセージを伝達 /
アニー・マーフィー「アニーだよ」Mr.T「Mr.Tだ」ゴードン・ラムゼイ「もしもし」ヴァニラ・アイス「ヴァニラ・アイス・アイスベイベーだよ」/
アイスT「冷たい水でTideを使ってみないかい?」/ ヴァニラ・アイス「なんで?」/ アイスT「環境に良くて」/ ストーン・コールド「節約にもなるんだ」/
アニー・マーフィー「ハイハイあー、環境ね、木とか灌木を救うやつね。いくら節約になるの?」/ アイスT「1年で電気代100ドルぐらい…」/ ゴードン・ラムゼイ「すごい!冷たい水に変えよう!」/
ナレーション:音楽、エンタメ、スポーツ、あらゆる業界が一つのメッセージ「#TurnToCold」のもとに団結。/ Mr.T「Tideで冷たい水に切り替えないなんて可哀想な奴らだぜ」/ ストーン・コールド ♪ストーン・コールドが言ってるんだ!/
ナレーション:そして、私たちはこのキャンペーンを考えうる限り最も大きなステージ、NFLに拡大。/ ストーン・コールド「アメフトって洗濯物、めっちゃ多いよね」/ アイスT「キミらめっちゃ汚れてるやん」/
ナレーション:その通り。なので私たちは、NFLの15チームに彼らの汚いユニフォームを、冷たい水で洗うようお願いしました。何百万人ものNFLファンに、Tideは冷たい水でも良く洗えることを証明するために。/ (NFLの中の人たちが次々と、Tideを使った冷たい水での洗濯を進める) /
ナレーション:結果は?…アメリカの人々は応えてくれました。/ Tideの売上は39%上昇。 / アーンド・メディアでのインプレッションは20億ドル相当を記録。 /
しかし、最も大切なことは、13億もの洗濯物が冷たい水で行われ、未来の世代のためにエネルギーが節約されたことです。/ 子供「冷たい水で洗おうね〜」/
ナレーション:Tideで#TurnToCold(#冷たい水で洗おう)
キャンペーンを一つにまとめたハッシュタグが見事
いかがでしたでしょうか?実はこのアイデア、構造をよく見るとセレブたちを使ったメッセージの拡散部分と、NFLのユニフォームを使った実証部分の2つに分かれているんですよね。しかし、セレブの活用だけだと「冷たい水でも汚れがちゃんと落ちるのか?」という疑念を拭えないし、NFLの汚れたユニフォームを使った実証だけでもアメフトファン以外への拡散力に欠ける。
その両方をわかりやすく明快な「#TurnTocold」というハッシュタグで見事に一つにまとめたことで、両者の強みが生きる大きなキャンペーンに組み上げることができたのかな、と思います。
最近ではいろんなデジタルメディアが活用できるからと、あれもこれもといろんなメッセージや事情を詰め込んで、全体的に狙いがよくわからなってしまっているキャンペーンなどもあるのかな、と思います。
そんな状況に陥りそうなときは、この事例を研究することで何か参考になることがあるのかもしれないな、と思いました。
そしてNFLといえば、Tideは毎年2月に開かれるNFLスーパーボウルの全米テレビ中継でも毎回、印象的なコマーシャルを放映しています。
今年も間もなく2月。今年はどのような名作CMがTideから飛び出すのか、(または飛びださないのか!?)を、注意深く見ていければと思います。
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!
PS.ということで最後にTideのスーパーボウルCMの名作を置いておきます。コマーシャルの中の人たちの洋服がみんな綺麗なことに注目し「洋服が綺麗なスーパーボウルのCMを見たら、それは全部Tideの広告だ!!」とハイジャックしてしまった広告です。今見ても素晴らしいですが、もう5年前のCMなのか…汗