世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

フランスで国会議員の悩みに応えた、NPO団体によるナイスアイデア【カンヌ2023より】

UnsplashのJoakim Honkasaloが撮影した写真

国会議員=敵対するもの、という思い込みからの見事な脱却

アラフィフになってみて思うことは、敵を作ることは損でしかない、ということです。一旦敵になってしまうと、相手の悪い面しか見えなくなります。でも世の中、悪い面だけの人はそんなにいません。相手が本当の悪党でもない限り、結局自分の見る世界が歪み、正確な判断ができなくなり、損をするのは自分なのです。

リンカーンも言っていますが「敵と友人になれたら、それは敵を滅ぼしたことと同じなのでは?(Do I not destroy my enemies when I make them my friends?)」ということです。合わない人を「あいつは敵だ!」と決めつける前に「あいつがあなたにとって嫌な奴なのは、あいつなりの理由があるのでは?」と考え、その理由を見つけ、それがなくなるよう知恵を巡らす。場合によっては積極的に、そいつが抱える問題の解消のために一肌脱ぐ。(そしてあわよくば友達になってしまう…。)そんな地道で丁寧なコミュニケーションの繰り返しが、結局はより良い人生へと自分を導く王道なのかな、と思います。

今回はそんな考えを思い起こさせてくれた、フランスの環境系NPO団体による国会議員に向けたソーシャルキャンペーンを紹介させていただきます。

彼らは気候変動に対するフランスの動きの遅さに腹を立て、国会議員たちを糾弾すべき「敵」としてしまう前に、国会がそうなってしまっている理由に目をつけ、その解消に立ち上がりました。

ちなみにこの取り組み、「世界的クリエイティビティの祭典」カンヌライオンズ2023の複数部門(ダイレクト部門、プリント&パブリッシング部門、SDGs部門)で金賞を獲得するなど、非常に高く評価されたアイデアになります。

それでは早速、以下の紹介ムービーをご覧ください。

「Pret a Voter(Ready to Vote)/ 投票促進キット」

youtu.be

【雑和訳】ニュースキャスター「フランスの裁判所は、気候変動に対する無策の責任がフランス政府にあると裁定しました」/ レポーター「活動家たちと法律の専門家たちが非常事態を訴えるのには理由があります」/ 活動家「政府の気候変動に対する無策は、私たち全員にとっての死刑宣告なのです!」/

B.ピカルド氏(探検家・環境に関する国連大使)「気候変動に関する新しい法律を(国会が)採決するためには、時間がかかりすぎます」/文字要素:ソーラーインパルス財団がお届けします / なぜ、新しい法律を待たなければいけないのでしょうか?自分たちでも作ることができるのに / ナレーション:Pret a Vorer(プレ・タ・ボーテ)、すぐに投票できる、新法の草案を載せた本 /

環境系NPO団体であるソーラーインパルス財団は、気候変動に対する50のエコなイノベーションに着目 / 弁護士や法学者のサポートを受け、それぞれを(国会で)すぐに投票・採択できるよう、50の法律草案を作り上げました / そして、それを”Pret a Vorer(プレ・タ・ボーテ)、Ready to Vote(投票促進キット)”として一冊の本にまとめたのです /

577冊が印刷され、フランスの国会に送られました / これらは577人の国会議員一人一人に配布され、彼らに記載のどの法律の草案でも良いので投票にかけるよう、お願いしました /  B.ピカルド氏「この取り組みの目的は、通常4〜5年かかってしまう(新法可決の)過程を、議員たちが2〜3ヶ月でできるよう手助けすることです」/

ナレーション:このキャンペーンは、一般人々の関心を集めました / ( B.ピカルド氏がさまざまな場でPret a Vorer(プレ・タ・ボーテ)について映る場面が映し出される)/ 気球の上のB.ピカルド氏「私は国のリーダーに向けて、”今すでにあるソリューションに目を向けてください”と訴えたいのです」/ アンカー「この本には素晴らしい数の法案が載っています。そしてあなたは、それを国会の面々に提供したのです」/

ナレーション:3つの法案が選ばれ、投票が行われました / 報道官「国会議員たちは、再生可能なエネルギーを促進すべく、法案について投票を行います」/ ナレーション:そしてついに… / 国会議長「国会は、この法案の草案を採択しました」/ ナレーション:3つの法案が採択 / ひとつは地熱発電 / ひとつは浮動式ソーラーパネル / そしてもうひとつはサステナブルな農業を通じた発電 /

今、9つの法案が審議の過程にあり / EU版のPret a Vorer(プレ・タ・ボーテ)も準備中です / (様々なメディアの賛辞の声が入る)/ ナレーション:Pret a Vorer(プレ・タ・ボーテ)。気候変動と戦うための戦いを、加速させるための本

役割が押し付けてくる「枠」から自由になってみる

いかがでしたでしょうか?

このアイデアの素敵なところは、冒頭に触れた通り、「政治家=悪いやつら」という思い込みに囚われることなく、「政治家の中にはサステナビリティを推進したい人もそれなりにいるが、彼らも法案成立に時間がかかりすぎて困っているのだ」という事実を冷静に見て、誠実に彼らへのソリューションを作り、提案した点にあります。

(結果3つの法案がすでに採択された、という事実が、政治家もそんなにワルばかりではないことの証明でしょう。)

社会のデジタル化により情報と交流のミックスが地球レベルで加速し「俺たちはみんな〇〇だ」、「あいつらはみんなXXだ」、というようなレッテルがイノベーションを妨げる足枷でしかなくなっています。

今回の取り組みを行ったNPO団体のように、時には自分自身や、自分が所属するコミュニティが押し付けてくる「枠」から自由になって考えてみることが、課題解決につながるビッグアイデアにつながることも今の時代はたくさんあるのだと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!