思いは相手に伝わって初めて成立する
自分がコミュニケーションの世界に就業していちばん良かったと思うことは、自分の思いを一方的に伝えるだけではほとんどの場合まったく意味がない、ということを学んだことです。
コミュニケーションはあくまでも相手があってのものです。新聞に折り込まれたスーパーのチラシなど、伝え手と読み手の期待が最初から一致しているモノであれば、伝えたいこと(この場合は値段の安さ)を伝えるだけで読み手はスーパーに来てくれますが、それは例外。
ほとんどの場合、伝え手たちは相手が全く興味のない、自分たちの伝えたいことを「きちんと聴いて」→「理解してもらい」、さらにそれに基づいて「行動してもらう」ためのコミュニケーション設計に苦悩しています。
ましてやその伝えたいことが聴いてて気分が重くなる社会的課題となると、その難易度はかなりの高さになることでしょう。
そこで今回は、アメリカ発の市民団体「ヒューメインソサエティインターナショナル」が動物実験の禁止を後押しするために制作したおよそ4分弱のショートムービーを日本語字幕付きでご紹介します。
動物実験のむごさを伝えるだけでは引かれてしまうし、曖昧なイメージだけでは問題の深刻さが伝わらない。
そんな繊細な側面を持つこの課題について、どうしたらより多くの人に興味を持ってもらい、その深刻さを理解してもらえるのか?
もし自分ならどんなコミュニケーションを取るだろうか?
そんなことを考えながらこれを見ていただけると、より参考になるのではと思います。
ちなみにこちら、カンヌライオンズ2022の非営利団体やチャリティーのためのキャンペーンのベスト作品であるGrand Prix for Goodに輝き、またフィルム部門で金賞を獲得するなど、高い評価を獲得した映像作品となります。
それではご覧ください。
「Save Ralph / ラルフを救え」
この作品の裏にある”心を動かす構造”に注目
いかがでしたでしょうか?冒頭はとてもほのぼのと、誰とでも友達になれるような、とても親しみやすいキャラクターの「ウサギのラルフ」が身の上を語り始めます。
そして時間の進行とともに徐々に、彼が取り込まれている残虐な現実がその姿を表していきます。(なのにひたすら物事の良い面を見ようと健気に語るラルフに見る側の共感は高まっていきます…)
そして実験室に場所を移した後は、より直接的な形でラルフに悲劇が襲います。
これが実によくできていて、なにせ我々見る側はすでにラルフに相当感情移入しているので、そんな彼が酷い目に遭うのを見ていられないわけです。
そして最後「いい奴なのに、(我々の日用品の開発のために)こんな目にあうなんて…」と、見る側の心が最大限に動き、動物実験に関する感情が最大化したところを狙ってこのムービーは、この団体が流したい情報をダーッと流し込みました。
✅人の心が動くように物語を設計すること。
✅人の心が動いたところでメッセージを流し込むこと。
残念ながら世の中のコミュニケーションには、受け手の気持ちや立場、状況などを一切無視して伝え手が伝えたいことをそのまま垂れ流しているものが多いのですが、広告キャンペーンしかり、映画しかり、日頃のオフィスでの会話しかり、優れたコミュニケーションはほぼ必ず、上記の2点にチェックマークがついています。
ということで今回はコミュニケーション全般における戦術的なコツを鮮やかに満たしたこの作品を紹介させていただきました。
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!