世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

たった5年の間に進化した、パラリンピアンに対する視線【カンヌ2022より】

UnsplashのAudi Nissenが撮影した写真

特別視から隣の人へ

英国のチャンネル4は、パラリンピックの度に体に障がいを持つアスリートの姿を印象的に切り取ったコマーシャル映像で、自局のパラリンピック放送をプロモーションしています。2016年のリオオリンピックの際に制作した「We're The Super Humans」は、パラリンピアンたちを不可能を可能にしたSuper Humans(超人たち)ととらえ、その姿を以下のような、素晴らしい映像作品で伝えました。

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今見ても何度も再生したくなる良品だと思いますが、前回のブログでもお話しした通り、世界のマイノリティたちへの視線はここ数年で大きく変化を遂げています。

マジョリティではない人々の存在”も”認める、という消極的な姿勢ではなく、より積極的に人種や性別、体の機能などの差を超えてあらゆる人たちが個性を持ち寄り活躍できる、よりインクルーシブな社会を作り上げていこうするという世界的流れに立ったとき、チャンネル4は、パラリンピアンたちを「超人」という特別な枠で括ってしまったリオでの自分たちの姿勢を良しとはしませんでした。

そして2021年、東京2020でのパラリンピック放映に際し、彼らはリオの時とは全く異なるアプローチを取ったのです。

ということで今回はその作品「Super. Human.」をご紹介いたします。タイトルからして前作へのセルフオマージュが感じられる逸品です。こちら、カンヌライオンズ2022のフィルム部門でグランプリ、フィルムクラフトで金賞を獲得するなど、高い評価を獲得した映像作品となります。それではご覧ください。

「Super. Human.  / 超。人間。

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【雑和訳】

実況解説者たち「さあ、カディーナ・コックス選手の次の戦いはどうなるのでしょうか?重圧の中、2つのメダルを獲得した彼女…」「すでに彼女の瞳は東京を見すえています」「偉業の再現はあるのか?」

歌:輝くリングでボクサーになりたいのなら (やろうぜ!) 南回りの貨物列車のような勢いでパンチできるのかい? ちょっと言わせてくれ いざという時 ハチドリの羽のように動き回れるのかい? (速すぎ!) かがんだり、かわしたり フェイントや相手をハメたりできるのかい?(わー!)できないんなら、やめた方がマシ

※間奏

自分を追い込むことをしないで、テストにパスできるの? もしあなたが「持っている」なら私にはわかる 誰よりも特訓してきたから 

♪ハッピーバースデー♪(スマホを叩く娘)特訓中のパラアスリート「あれ?どうしたの!?」

歌:できないんなら、やめた方がマシ

※間奏

ジョー、あいつをリングに上げよう 何を学んだか見てみよう 息抜きさせながら追い込んでいこう コツを教えて 望みを砕こう ジョー、あいつをリングに上げよう チャンスを与えよう 自信を粉々にしてやろう そしたらきっと諦めるはずだよ、ジョー

※間奏 パラアスリートの女性「クソが!」

歌:ボクサーになりたいの? で、チャンピオンになりたいの? あなた真の姿はゴールデンボーイ 負け犬じゃない 聞いて学めば  栄冠はあなたのもの 

ニュースの司会者「今年のオリンピックは延期になりました」

歌:王冠が見えたらあなたはキング ピエロやライバルじゃない

できないんなら、やめた方がマシ できないんなら、やめた方がマシ

ジョー、あいつをリングに上げよう 何か新しいものをパンチしよう スイングしたらランチに行こう

文字:パラリンピアンになるなんて、あなたはきっと、どこかがおかしいに違いない。

歌:ジョー、翼をくれ 彼を切り裂け 鳥は鳴く

女性「行くぞ!」

※間奏 

歌: できないんなら、やめた方がマシ

文字:(*SUPER. HUMAN.のSUPER.の部分が破壊されて) HUMAN.(人間。)

文字:Tokyo2020 パラリンピックゲーム

文字:TOYOTAは英国チャンネル4のパラリンピックを誇り高くサポートします

誰かを「枠にはめる」時代はもう終わりに

いかがでしたでしょうか?リオの時代の、パラアスリートたちをまるでマーベルのキャラクターたちのように扱っていた姿勢からたった5年の間に、チャンネル4はその視点をほぼ180度転換させ、彼・彼女たちをどこにでもいる一人の人間として描きました。

障がい者なのに」頑張っているのはすごい、という考えの裏にある無意識の差別に気づき、正し、ただただ「自分と同じ人間として」彼・彼女たちの頑張りを讃える。

チャンネル4によるこの、何気ないようでいて大きな考え方の変化から学べるのは、特定の属性を持つ人々を「枠にはめる」ことの危険性です。

かくいう私も自分とは違う属性の人が何かをするのを見て、つい「○○なのに〇〇だな」と思ってしまう事があります。

しかしどんな属性で括ろうが、一人ひとりは全く違う人間です。チャンネル4が改めたように、自分も他人を何かの枠にはめて考えがちな癖を早く改めないといけないな、と深く反省させられました…。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

PS. ちなみにこちらの「Super.HUMAN.」目の不自由な方や、耳の聞こえない方用のバージョンがあります。特に前者は解説ナレーションで、出演者たちがどの種目のパラリンピアンなのかなどもわかり、目が見える人たちが聴いても理解が深まる内容になっています。インクルーシブな社会を目指すのであれば、今後はあらゆる場面でこういう配慮も必要だな、と思いました。

「Super. Human.  / 超。人間。」オーディオ解説版

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「Super. Human.  / 超。人間。」手話・字幕版

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