今年のカンヌから、毎週ひとつずつアイデアをご紹介
さぁ、年に一度の世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズ2022が6月下旬に終わりました。それに関連する業務で時間が取れず、ブログの更新もしばらくストップしていたのですが、今年もやはり、カンヌではたくさんの素晴らしいアイデアが世界中から集まったクリエイターの賞賛を集めたようです。
このブログでは今週から毎週1つずつ、そのアイデアの数々を地道に解剖・解説してまいります。ぜひお楽しみください。
※今年のカンヌライオンズの全体像が知りたい方は、このブログでは触れませんので他を当たることをお勧めします。たとえばこんな記事がおすすめです↓
最初にご紹介するのはインドのムンバイで行われた、「人間界の消費のルール」を見事に活用した”技アリ一本!”な取り組みです。まずは以下の解説ムービーをご覧ください。
「The Killer Pack:イチコロ・パッケージ」
【雑和訳】ナレーション:2021年、WHOはインド国内では年間およそ4億のデング熱発症例があるとの推計を示しました。これは過去50年間で、発症数が30倍以上増加したことを意味します。
インドの人々は家の中では蚊取り線香を使いますが、問題の本質は家の外にあります。インドのゴミ集積場は蚊にとっての繁殖地なのです。なぜなら蚊にとって、1センチメートルの大きさの水滴があれば産卵に適した場所だからです。
インドのゴミの状況を変えることはできないものの、私たちは、そこで蚊の産卵を防ぐことはできます。紹介しましょう、「The Killer Pack(イチコロ・パッケージ)」。捨てられると、家の外の蚊の幼虫を殺すパッケージ。
毒性のない線香が蚊による家の中の悪循環を断ち切る一方、5%の活性化された土壌細菌を組み入れた、100%生分解性のパッケージが蚊の幼虫を撃退します。
このパッケージはゴミの山やゴミ箱、庭の澱んだ池や嵐の後のドブ川など、水中や湿った環境下に捨てられると分解されるのです。
この仕組みはWHOやDCD、icmrやEPAに承認され、推薦されました。しかもこれは鳥や犬、その他の生き物に全く害を与えないのです。
このパッケージは(デング熱のように)蚊に起因する疾病が増加しているインドの各地域で販売されました。/
疾病研究所の昆虫学者「人々が蚊取り線香を買えば買うほど、そのパッケージが蚊の繁殖地に捨てられるわけです。つまり、これは自動的に効果を発揮する仕組みだといえます」/
「The Killer Pack(イチコロ・パッケージ)」- (常識をひっくり返して) 家の中でも外でも蚊を撃退します。
怠惰な我々の本性を射抜いた見事なインサイト
いかがでしたでしょうか?実はこのブログで昔、似たようなアイデアを紹介したことがあり、最初に見た時はこの(↓)アイデアの焼き直しなのかな?、と思いました。
上記の記事で紹介したのはパプアニューギニアのビール会社による取り組みで、自社ビールの包装用ダンボールに蚊を殺す薬剤を吹き付けて、飲むときにそのダンボールを焚き火にくべれば蚊取り線香になる、というものでした。
これはこれで素晴らしいのですが、やはりビールを飲む行為と、焚き火をする、という行為に少し距離があるのかな、と掲載当時にも思いました。
その点、今回のアイデアは全ての消費者が現時点では避けて通れない「(買ったものの)パッケージを捨てる」という行為に着目した点が秀逸です。
人間は元々が怠惰なもので、環境への憂慮や、世間の目がなければ商品のパッケージはなるべく何も考えずにポイ捨てしてしまいたいものです。しかし環境意識の高まりの下、「捨てる」という行為への後ろめたさは高まるばかり。
そんなときにどうでしょう?もしポイ捨てという怠惰な行為が後ろめたくないばかりか、”蚊を殺す”という「善行」にすり替えられるパッケージがあるとしたら?
それはスーパーの棚の横に価格も、効能も同じようなライバルメーカーの蚊取り線香が並んだとき、大きな差別化ポイントとなるに違いありません。
ちなみにこちら、カンヌライオンズ2022のヘルス&ウェルネス部門でブランプリを獲得した取り組みでした。
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!