世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、時に和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたい人たちのヒントになれば幸いです。

今、アメリカで物議を醸している”オールスタームービー”

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Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

アメリカの新型コロナウイルス対策におけるマスク着用の基準は実に複雑なものでした。当初は「効果がない」としながらもその後「一定の効果がある」に転じ、昨今では「2枚着用が効果的」という話まで出てきています。その過程でマスク着用を陰謀論と結びつけ、一切の着用を拒否する人たちまで現れ、アメリカ社会のマスクに対する考えはもはや医学なのか、政治なのか分からないカオス状態に見えます。

「付けてかかりにくくなるなら、つければいいじゃん。」と日本人の多くは実にロジカルに考え、実行しているわけですが。。

その中で登場した、CDC(Center for Disease Control and Prevention / アメリカ疾病予防管理センター)がAD COUNCIL(日本のACに相当)やワーナーメディアとコラボレーションして制作した以下のムービーが物議を醸しています。まずはそのムービーをご覧ください。

www.youtube.com

ワーナーメディア傘下の映画会社ワーナー・ブラザーズの映画に出てくるヒーロー、ヒロインがマスクをつけて登場し「感染速度を遅らせるために、マスクをつけましょう」というメッセージを「Mask Up America」を合言葉に啓蒙するムービーとなっています。

これだけたくさんの版権ものをまとめて使うことの大変さをわかるオトナとしては、「よくやったなぁ」と思うのですが、調べてみると意外なことにYouTubeには圧倒的な”低評価”とともにかなり辛辣なコメントが並んでいます。

いくつかをひろうと・・・

「赤いピルを飲んだネオ(映画「マトリックス」の主人公)」はこんなプロパガンダには協力しないはず」

「このプロパガンダに使われた税金でいくらワーナーが得したんだろう。政府とハリウッド逝ってよし」

「まだコメント欄閉じてないのか。でもそろそろだね。批判をコントロールできないし。なんて金の無駄遣いだ」

「”ステイホームで感染拡大を防ごう”というべきでは?Flashがおばあちゃんを殺したいとは思わない」

「マスクは2枚着用すべき。クールな人はみんなそうしている」

「誰かがこれで儲けてるんだよね。はは。」

「”私は同調しないよ” byキャプテン・アメリカ

というもの。

この炎上の背景には、「これだけの有名キャラクターがマスクをつけたらインパクトがあるはず」というアイデアを、受け手側の文脈を無視して押し付けてしまったことが背景にあると思われます。

もともとマスクに対する猜疑心が強く、さらには新型コロナウイルスによる死や悲しみが日本よりもうんと身近にあるアメリカ社会。この状況でマスク着用を訴えかけるには、このムービーの作りは大味すぎたと思います。

さらにネオやワンダーウーマンなど、それぞれのキャラに対する「このキャラならこう考えるはず」というファン層の思いを無視して、単純にありもののフッテージにマスクを合成して満足してしまったことで、このムービーに感情移入し、味方してくれる人々も現れにくくなっていると思います。(私自身も、”あの”ジョーカーが素直にマスクをつけていることへの違和感が拭えませんでした。)

もちろん「いろんな人気キャラクターが力を合わせて、人々のために特別なことをしてくれる」というアイデアは大いにアリですし、このブログでも過去に紹介しております↓

wsc.hatenablog.com

これらの素晴らしいアイデアと、今回のムービーの差は「受け手がどう思うか」という部分に関するイマジネーションの有無だと思われます。

すでに社会的コンセンサスがあるものとは違い、現在進行形で世論が固まりきっていない物事を扱う際は特に、立場や意見の相違を超えて大多数が人間として共感できる「インサイト」を見つけ、それを射抜くアイデアを実施しない限り、望んだ結果を実現することは難しいと思います。

とはいえムービー単体としてはそれなりによくできていると思うのですが、各コメントの辛辣さには驚かされました。逆にいうとこのシビアさが、アメリカのエンタメやマーケティング業界が質を保てている秘訣なのかもしれません。 

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!