世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

メンタルヘルス向上のために、イギリスのTV番組が行った究極のデモンストレーション

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Photo by Antenna on Unsplash

2000年台の半ばから、地球上の情報量は一人の人間が処理できる量を大幅にこえ、人々は現実と、自分好みの情報だけで作ったオンライン世界との間で葛藤するようになりました(Brexitやトランプ政権の樹立は、その副産物だともいえます)。人々は家族同士でリビングで話し合う代わりに、それぞれのスマホ画面を見つめ、それぞれの世界で、それぞれのキラキラした面だけをアップし、シェアすることに疲れ果てています。

それが原因のひとつでもあるのでしょう。イギリスでは過去15年間で、抑うつ状態を抱える子供の数が48%も増加してしまったそうです。

その問題を解決すべく、イギリスのテレビ局ITVが、同局の看板リアリティ・オーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」の収録会場で行った素晴らしいデモンストレーションがこちら*です。(*ムービー下に司会者のトークを粗々で和訳しておきます。)

www.youtube.com

司会A「ではここでテレビの前の視聴者も含めて皆様、注目してください。とても大事なことを言います。」司会B「メンタルヘルス向上に取り組む新しいITVのキャンペーンを紹介します。イギリスでは過去15年間で、不安やプレッシャーなどで抑うつ状態を抱える子供の数が48%も増加してしまいました。ただし、お互いのことを話したり、聞いてあげたりといったシンプルなことが、この問題の解決には効果的だとされています。」司会A「最近はテレビに加え、スマホの普及などで難しくなってしまっていますが、メンタルヘルス向上のためには愛する人と一緒にいてあげて、話し合うことが大切なのだ、ということはぜひ、覚えておいていただきたいと思います。」司会B「そこで我々は、これまでにやったことのない”ブリテン・ゲット・トーキング(イギリスにもっと、話し合いを)”というアクションで、イギリスの皆様が話し合うことをサポートしたいと思います。これから、我々は皆様が愛する人たちと寄り添い、話し合う時間を持つためにこのショーを中断します。子供を捕まえたりダンナさんを起こしたり、色々準備していただき、話す準備をしてください。我々も番組の裏方さんを1分間休ませますので。では、始めましょう、3、2、1…」

いかがでしょうか?このテレビ局は、イギリス中の家庭のコミュニケーションを促すためにあえて番組を”サボる”ことで、彼らに話し合いの時間を提供したのです。この取り組み、これまでテレビが家族から会話を奪ってきたことを認めているようで、実はテレビが「スマホなどとは違い、家族を一箇所に集め、会話のきっかけを作り出すメディア」であり、国中の幅広い層の人々にメッセージを伝えることができる”マス”メディアとしてまだまだ価値があることを証明しています。(スマホでのテレビ視聴も飛躍的に増えているのでまぁ、そんな単純な話でもないのですが…)

サボっている間の裏方さんの雰囲気も、なんとなくイギリスならではのユニークさがただよっていていいですよね。

そして中断時間が終わった後の、審査員や観客がスタンディング・オベーションしたくなる気持ちも、文化の差やロジックを超えてなんとなく理解できてしまうから不思議です。社会のためにテレビ局が飯のタネである番組を中断する、という勇気。そして味わったことのない体験をする、という感動。このふたつが合わさった時、人々の心は激しく揺り動かされ、圧倒的なモメンタムを生み出すことができます。(多分ベートーヴェンが「運命」を聴衆の前で初めて披露した後も、こんな感じでだったんではないでしょうか?)

勇気と感動を呼ぶアイデア。これを考え、実行できる人が大なり小なり世の中を変えてきたし、これからもきっと、変え続けるのでしょう。

さて、2019年にこの感動的なデモンストレーションで始まったITVの「ブリテン・ゲット・トーキング」キャンペーンですが、新型コロナウイルスの脅威に晒された2020年の現在、その重要性はイギリス社会の中でさらに高まっているようです。

以下に公式サイトへのリンクを張っておきますので、興味がある方はぜひ覗いてみてください。

www.itv.com

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!