世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

貧困問題打開のため、立ち上がったインドのストリートキッドたち【カンヌ2022より】

UnsplashのTapishが撮影した写真 *写真の子どもたちは本記事の内容とは無関係です

ブランドを”ハック”し、課題解決に巻き込む新手法

さて、今年もあっという間に12月になり、赤い羽根が目印の歳末助け合い運動が始まりました。公式サイトを調べてみると、この取り組みは明治39年1906年)に始められた活動のようです。

そして昨今、日本社会の中でも貧富の格差が深刻さを増す中、この活動の存在意義は増しているはず…なのですが、この運動への募金総額は新型コロナウイルスによるパンデミックの影響などもあり、年々減少してしまっているようです。

ということで今回は「貧困と寄付」をテーマに、インドのホームレスな子どもたちを支援する市民団体「SOS Children's Villages in India」がとあるものを”ハック”することで世界的人気ブランドからの寄付金額を爆上げさせることに成功した、ユニークな取り組みをご紹介します。

ちなみにこちら、世界のクリエイティビティの祭典カンヌライオンズ2022のメディア部門やソーシャル&インフルエンサー部門でそれぞれ金賞を獲得するなど、高い評価を獲得した取り組みとなります。それではその紹介ムービーをご覧ください。

「Chatpat / チャットパット君」

youtu.be

【雑和訳】文字要素:SOS Children's Villages in Indiaは / 45,000人以上のホームレスの子どもたちをサポートしている / 予算不足は大きな課題 / 大きな予算を持っている存在は? / (様々なグローバルメディアのロゴと、それぞれの予算額が表示される) /  どうしたら、彼らから一部でも予算を受け取ることができるのか? /

Chatpat「僕の名前はChatpat。こいつらは僕の仲間」文字要素:Chatpatに会おう / 彼は、(ビッグブランドからの)マーケティング予算を追い求めたストリートの子供 /  予算獲得のため、彼はインド人なら誰でも覚えている、最も象徴的なCMを復活させたのだ/

"キャドバリーの1990年のテレビCM" / "キャドバリーの2022年のテレビCM" /

Chatpat「(チョコレートブランドの)キャドバリーさん、僕たちは素晴らしいCMをあなたたちのブランドのために作りました。今度はあなたが私たちのために何かをしてください。SOS Children's Villages in Indiaは…」 / 文字要素:SNS上の声” キャドバリーさん、この少年に寄付してやってくれ!”、”キャドバリーさん、やるべきことはわかっているよね?”等々が表示される / 

Chatpatのアカウント ”(洗剤ブランドの)タイドさん、あなたのためにCMを作りました”  / (すると、タイドのブランドのパネルが裏返って”送金済み”の表示が) / Chatpatのアカウント ”(石鹸ブランドの)Lirilさん、このCMを見てください”  / (すると、Lirilのブランドのパネルが裏返って”送金済み”の表示が) /  (その後、”ありがとう”や”我々のブランドのCMも作ってみてもらえません?”など、画面上に様々なブランドからの返信内容が表示される /

ビジネスインサイダー・インドの記事 ”10歳のChatpatくん、インターネット界を虜に” / 文字要素: ブランド・インプレッション +1506% / 企業からの寄付は61.5%上昇 / 男性「子どもたちはあなたを必要としています」 / ユニリーバの人「 Chatpatは私たちを虜にしました。誰がお返しせずにいられるでしょうか?」/

文字要素:寄付額は30万ドルを超え、なお増え続けている。 / SOS Children's Villages in IndiaのAkashさん「Chatpatは人気ブランドに呼びかけるための寄付の仕組みを私たちに提供してくれました」 / Chatpat「連絡してね!」

SNSが可能にした”善意の押し売り”

いかがでしたでしょうか?大きな予算を持つ人気ブランドのCMをハックし、そのパロディを勝手に作って広告するという”善意”の見返りとしてブランドに寄付を募るという、かなり強引なやり口です。

これが普及するとそれはそれで色々な問題が出てくるとは思うのですが、評価すべきなのはこれがオンライン上で衆人環視のもと、誰とも垣根なくコミュニケーションをとることを可能にするSNSが普及した世の中だからこそ可能になったアイデアだ、ということでしょう。

著作権などの意識も進んだ日本でこのアイデアをそのまま活用する、ということは難しいでしょうが、私たちの暮らしの中で、SNSならではの特性をまだ活用しきれていない部分はたくさんあると思いますし、寄付や募金もそうしたものの中の一つかもしれません。

そう考えた時にこの取り組みは、新しい寄付や募金の方法をはじめ、SNS時代ならではのエコシステム創出を考える上でとても良い参考事例になるのかな、と思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

少女たちの精神を蝕むセルフィーの”負の側面”【カンヌ2022より】

UnsplashのCristina Zaragozaが撮影した写真

誰もが発信者になれる時代の新しい問題

私は子供の頃、まだインターネットは身の回りにありませんでした。漫画や映画を見ては、あぁ、自分も漫画家や映画監督のように何かを発信できる大人になりたいと思い勉強し、大学に入り会社に入り…SNSやネットで自己発信を始める頃には、アラフォーになっていました。

でも、今の子供は生まれた瞬間からインターネットで繋がれた世界に生きています。スマホSNSさえあれば、誰だって発信者になれる時代。そしてそれは、何の免疫もなしに子供たちがいきなり「映え」や「盛り」に満ちた虚構の世界に放り込まれ得ることを示しています。

実際、ソーシャルメディアを使う少女たちを対象にしたアメリカでの調査によると、彼女たちが13歳になるころには、実にその80%が自分の姿をオンライン上で加工しているそうです。

周りが押し付ける美醜の価値観に振り回され、自身のありのままの姿をポジティブに見れない、というのは心身の健全な発達のためにも良くありません。

そこで長年、女性のありのままの姿を美しいものとして取り上げてきた世界的ボディケアブランドのDoveが立ち上がりました。

…ということで今回はDoveが自ブランドのプリント広告を通じて、この問題に立ち向かったキャンペーンを取り上げます。

ちなみにこちら、世界のクリエイティビティの祭典カンヌライオンズ2022のプリント&パブリッシング部門で金賞を獲得するなど、高い評価を獲得した取り組みとなります。

それではそのメッセージムービーをご覧ください。

「Reverse Selfie  / 逆回転セルフィー」

youtu.be

【雑和訳】冒頭の文字要素:Dove提供 逆回転セルフィー /

最後の文字要素:ソーシャルメディアのプレッシャーが、少女たちの自己評価を傷つけている。/ パンデミック期間のスクリーンを見る時間の増加が、事態に拍車をかけている。/ ダメージを逆回転しよう(そしてなくそう)。 今日、あなたの愛する娘とセルフィーについて話してください。その方法についてはdove.comへ。
ロゴマーク:Dove 文字要素:美の基準を変えよう。

この取り組みの伏線は2006年から張られていた

いかがでしたでしょうか?ひとりぼっちの部屋で必死になって自分を加工し、結果自分の容姿に劣等感を増やしてしまっている少女の姿が痛々しいですよね。

ちなみにこのムービー、Doveが「作られた美」に疑問を呈し、ありのままの姿を美しいもの=Real Beautyとして世の中に訴え始めるきっかけとなったこちら(↓)のムービーへのオマージュがところどころに散りばめられたものとなっています。

このムービーが世に出たのが2006年。図らずもスマホSNSの普及が、世の中の「発信」の主体やダイナミズムを大きく変えたことが対比的に分かる2本となっております。

youtu.be

【雑和訳】タグライン「これでは、美の概念が歪んでしまうのも無理はない。女の子たちのためのReal Beautyワークショップに参加しよう」

ちなみにDoveのこれまでの取り組みをまとめた過去記事も以下に貼っておきますので、興味があればぜひご一読ください。

wsc.hatenablog.com

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

動物実験に対する"No"を絶妙のバランスで描いたストップモーションアニメ【カンヌ2022より】

UnsplashのСтепан Галагаевが撮影した写真

思いは相手に伝わって初めて成立する

自分がコミュニケーションの世界に就業していちばん良かったと思うことは、自分の思いを一方的に伝えるだけではほとんどの場合まったく意味がない、ということを学んだことです。

コミュニケーションはあくまでも相手があってのものです。新聞に折り込まれたスーパーのチラシなど、伝え手と読み手の期待が最初から一致しているモノであれば、伝えたいこと(この場合は値段の安さ)を伝えるだけで読み手はスーパーに来てくれますが、それは例外。

ほとんどの場合、伝え手たちは相手が全く興味のない、自分たちの伝えたいことを「きちんと聴いて」→「理解してもらい」、さらにそれに基づいて「行動してもらう」ためのコミュニケーション設計に苦悩しています。

ましてやその伝えたいことが聴いてて気分が重くなる社会的課題となると、その難易度はかなりの高さになることでしょう。

そこで今回は、アメリカ発の市民団体「ヒューメインソサエティインターナショナル」が動物実験の禁止を後押しするために制作したおよそ4分弱のショートムービーを日本語字幕付きでご紹介します。

動物実験のむごさを伝えるだけでは引かれてしまうし、曖昧なイメージだけでは問題の深刻さが伝わらない。

そんな繊細な側面を持つこの課題について、どうしたらより多くの人に興味を持ってもらい、その深刻さを理解してもらえるのか?

もし自分ならどんなコミュニケーションを取るだろうか?

そんなことを考えながらこれを見ていただけると、より参考になるのではと思います。

ちなみにこちら、カンヌライオンズ2022の非営利団体やチャリティーのためのキャンペーンのベスト作品であるGrand Prix for Goodに輝き、またフィルム部門で金賞を獲得するなど、高い評価を獲得した映像作品となります。

それではご覧ください。

「Save Ralph  / ラルフを救え」

youtu.be

この作品の裏にある”心を動かす構造”に注目

いかがでしたでしょうか?冒頭はとてもほのぼのと、誰とでも友達になれるような、とても親しみやすいキャラクターの「ウサギのラルフ」が身の上を語り始めます。

そして時間の進行とともに徐々に、彼が取り込まれている残虐な現実がその姿を表していきます。(なのにひたすら物事の良い面を見ようと健気に語るラルフに見る側の共感は高まっていきます…)

そして実験室に場所を移した後は、より直接的な形でラルフに悲劇が襲います。

これが実によくできていて、なにせ我々見る側はすでにラルフに相当感情移入しているので、そんな彼が酷い目に遭うのを見ていられないわけです。

そして最後「いい奴なのに、(我々の日用品の開発のために)こんな目にあうなんて…」と、見る側の心が最大限に動き、動物実験に関する感情が最大化したところを狙ってこのムービーは、この団体が流したい情報をダーッと流し込みました。

✅人の心が動くように物語を設計すること。

✅人の心が動いたところでメッセージを流し込むこと。

残念ながら世の中のコミュニケーションには、受け手の気持ちや立場、状況などを一切無視して伝え手が伝えたいことをそのまま垂れ流しているものが多いのですが、広告キャンペーンしかり、映画しかり、日頃のオフィスでの会話しかり、優れたコミュニケーションはほぼ必ず、上記の2点にチェックマークがついています。

ということで今回はコミュニケーション全般における戦術的なコツを鮮やかに満たしたこの作品を紹介させていただきました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

たった5年の間に進化した、パラリンピアンに対する視線【カンヌ2022より】

UnsplashのAudi Nissenが撮影した写真

特別視から隣の人へ

英国のチャンネル4は、パラリンピックの度に体に障がいを持つアスリートの姿を印象的に切り取ったコマーシャル映像で、自局のパラリンピック放送をプロモーションしています。2016年のリオオリンピックの際に制作した「We're The Super Humans」は、パラリンピアンたちを不可能を可能にしたSuper Humans(超人たち)ととらえ、その姿を以下のような、素晴らしい映像作品で伝えました。

youtu.be

今見ても何度も再生したくなる良品だと思いますが、前回のブログでもお話しした通り、世界のマイノリティたちへの視線はここ数年で大きく変化を遂げています。

マジョリティではない人々の存在”も”認める、という消極的な姿勢ではなく、より積極的に人種や性別、体の機能などの差を超えてあらゆる人たちが個性を持ち寄り活躍できる、よりインクルーシブな社会を作り上げていこうするという世界的流れに立ったとき、チャンネル4は、パラリンピアンたちを「超人」という特別な枠で括ってしまったリオでの自分たちの姿勢を良しとはしませんでした。

そして2021年、東京2020でのパラリンピック放映に際し、彼らはリオの時とは全く異なるアプローチを取ったのです。

ということで今回はその作品「Super. Human.」をご紹介いたします。タイトルからして前作へのセルフオマージュが感じられる逸品です。こちら、カンヌライオンズ2022のフィルム部門でグランプリ、フィルムクラフトで金賞を獲得するなど、高い評価を獲得した映像作品となります。それではご覧ください。

「Super. Human.  / 超。人間。

youtu.be

【雑和訳】

実況解説者たち「さあ、カディーナ・コックス選手の次の戦いはどうなるのでしょうか?重圧の中、2つのメダルを獲得した彼女…」「すでに彼女の瞳は東京を見すえています」「偉業の再現はあるのか?」

歌:輝くリングでボクサーになりたいのなら (やろうぜ!) 南回りの貨物列車のような勢いでパンチできるのかい? ちょっと言わせてくれ いざという時 ハチドリの羽のように動き回れるのかい? (速すぎ!) かがんだり、かわしたり フェイントや相手をハメたりできるのかい?(わー!)できないんなら、やめた方がマシ

※間奏

自分を追い込むことをしないで、テストにパスできるの? もしあなたが「持っている」なら私にはわかる 誰よりも特訓してきたから 

♪ハッピーバースデー♪(スマホを叩く娘)特訓中のパラアスリート「あれ?どうしたの!?」

歌:できないんなら、やめた方がマシ

※間奏

ジョー、あいつをリングに上げよう 何を学んだか見てみよう 息抜きさせながら追い込んでいこう コツを教えて 望みを砕こう ジョー、あいつをリングに上げよう チャンスを与えよう 自信を粉々にしてやろう そしたらきっと諦めるはずだよ、ジョー

※間奏 パラアスリートの女性「クソが!」

歌:ボクサーになりたいの? で、チャンピオンになりたいの? あなた真の姿はゴールデンボーイ 負け犬じゃない 聞いて学めば  栄冠はあなたのもの 

ニュースの司会者「今年のオリンピックは延期になりました」

歌:王冠が見えたらあなたはキング ピエロやライバルじゃない

できないんなら、やめた方がマシ できないんなら、やめた方がマシ

ジョー、あいつをリングに上げよう 何か新しいものをパンチしよう スイングしたらランチに行こう

文字:パラリンピアンになるなんて、あなたはきっと、どこかがおかしいに違いない。

歌:ジョー、翼をくれ 彼を切り裂け 鳥は鳴く

女性「行くぞ!」

※間奏 

歌: できないんなら、やめた方がマシ

文字:(*SUPER. HUMAN.のSUPER.の部分が破壊されて) HUMAN.(人間。)

文字:Tokyo2020 パラリンピックゲーム

文字:TOYOTAは英国チャンネル4のパラリンピックを誇り高くサポートします

誰かを「枠にはめる」時代はもう終わりに

いかがでしたでしょうか?リオの時代の、パラアスリートたちをまるでマーベルのキャラクターたちのように扱っていた姿勢からたった5年の間に、チャンネル4はその視点をほぼ180度転換させ、彼・彼女たちをどこにでもいる一人の人間として描きました。

障がい者なのに」頑張っているのはすごい、という考えの裏にある無意識の差別に気づき、正し、ただただ「自分と同じ人間として」彼・彼女たちの頑張りを讃える。

チャンネル4によるこの、何気ないようでいて大きな考え方の変化から学べるのは、特定の属性を持つ人々を「枠にはめる」ことの危険性です。

かくいう私も自分とは違う属性の人が何かをするのを見て、つい「○○なのに〇〇だな」と思ってしまう事があります。

しかしどんな属性で括ろうが、一人ひとりは全く違う人間です。チャンネル4が改めたように、自分も他人を何かの枠にはめて考えがちな癖を早く改めないといけないな、と深く反省させられました…。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

PS. ちなみにこちらの「Super.HUMAN.」目の不自由な方や、耳の聞こえない方用のバージョンがあります。特に前者は解説ナレーションで、出演者たちがどの種目のパラリンピアンなのかなどもわかり、目が見える人たちが聴いても理解が深まる内容になっています。インクルーシブな社会を目指すのであれば、今後はあらゆる場面でこういう配慮も必要だな、と思いました。

「Super. Human.  / 超。人間。」オーディオ解説版

youtu.be

「Super. Human.  / 超。人間。」手話・字幕版

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IKEAに見る、消費財に対する世間の意識変化【カンヌ2022より】

UnsplashのRuoyu Liが撮影した写真

アラフィフ・カンヌウォッチャーから見た時代の変化

私は1998年に”世界的クリエイティビティの祭典”カンヌライオンズに惹かれて広告業界に入り、以来ずっとその受賞作をウォッチしてきました。2000年前後はセクシズム全開だったり、異国文化を馬鹿にしたような広告キャンペーンがグランプリや金賞を獲得することが普通にあり、DE&Iの概念が浸透しつつある今から見れば相当な荒れ場でした…。

それから20年後、人々の「物を消費する」ことに対する意識もDE&Iと同様、サステナビリティの普及に合わせてかなりの変化を遂げています。

ということで今回は2000年代から2022年にかけての、消費財に対する世界の人々の意識の変化が明快に感じられるカンヌライオンズ2022の受賞作をご紹介しようと思います。広告主はIKEA。カンヌライオンズ2022のプリント&パブリッシング部門で金賞を獲得した取り組みとなります。まずはこちらの紹介ムービーをご覧ください。

IKEA Trash Collection / イケア・廃棄物コレクション

youtu.be

【雑和訳】文字:BILLY、2021年5月1日、Bjerkeで発見 -14ユーロ / MALM、2021年4月28日、Roykenで発見 -12ユーロ / FRANKLIN、2021年4月28日、Toyenで発見 -10ユーロ / IKEA PS、2021年4月24日、Fredrikstadで発見 -29ユーロ / HEMNES、2021年4月28日、Hovseterで発見 -49ユーロ / ASKVOLL、2021年4月28日、Oppsalで発見 -17ユーロ / VISDALEN、2021年5月1日、Bjerkeで発見 -19ユーロ / VASTERON、2021年4月28日、Hvalstrandで発見 -4ユーロ / BILLY、2021年4月28日、Oppsalで発見 -14ユーロ / ”廃棄物コレクション2021” / 私たちが見つけたIKEAの家具に必要だったのは洗浄と、いくつかのスペアパーツだけでした。/ IKEA.no(IKEAノルウェーのウェブサイト)で私たちのコレクションと、廃棄物を減らす方法についてご覧ください。 / ロゴ:IKEA - ようこそ2030年 

IKEAが果たした、消費に対する大きなスタンスの変化

いかがでしたでしょうか?こちらの取り組み、カンヌライオンズではこれらの家具を印象的に扱ったプリント広告のキャンペーンが高い評価を受けたのですが、実際この取り組みによりノルウェーの人々はムービー中に登場したような再生品をIKEAで安く買うことができただけでなく、自分の家で使ってきたIKEA商品をIKEAに売り返したり、またはそれらを少しでも長く使えるよう、無料でスペアパーツを入手するサービスまで受けることができたそうです。

結果、IKEAに使用済みの商品を売り返す人の数は倍以上となり、この廃棄物コレクションは総商品数3,000点を超える大きなコレクションとなったそうです。スペアパーツのオーダー数も週あたり20%以上を記録し、これらの取り組みはサステナブルな企業としてのIKEAのイメージを大いに引き上げたそうです。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。

 

 

・・・と、いつものようにこのブログを締める前に、ここでIKEAアメリカで2002年にオンエアし、当時のカンヌライオンズでグランプリを取るなど、かなり高い評価を得たこのテレビCMを見てみましょう。

youtu.be

【雑和訳】通りすがりのおじさん「このランプ、かわいそうだと思った?それはあんたの頭がおかしいからだよ。だって新しい方がずっといいに決まってんじゃん」/ ロゴ:IKEA -退屈じゃない

いかがでしたでしょうか?ご覧になった皆様は、今年の受賞作とはあまりに違うそのメッセージにきっと驚かれたと思います。ただし私は、サステナビリティという概念が普及する前の時代(=大量生産・大量消費賞賛時代末期)のこの広告が、今の尺度で闇雲に叩かれるべき物でもないと思います。

当時、IKEAアメリカではまだメジャーになりきれていませんでした。同地での知名度確保およびライバルとの差別化のため、IKEAがこのようなインパクトのある広告を必要としていたことと、そしてその要求に対し、広告マンたちが見事なクラフトで形にした、という部分は評価されてしかるべきところだと思います。

ただ、もし今の時代に家具ブランドがこのような広告を出したとしたら、それは弁解の余地なく、かなりのダメージを自社や社会に与えてしまうことになるでしょう。

人々の企業やブランドに対する視線はサッカーのオフサイドラインのように、絶えず動き続けています。知らぬ間にオフサイドラインを越えてしまう、そんな悲劇を防ぐためにマーケターやクリエイターたちは、市井の人々の認知・態度の移り変わりを絶えずウォッチし、学び続ける必要があると思います。

そういう意味でIKEAは、時代に合わせて自らの立場をしっかり修正し、対応しています。今回紹介した取り組みももちろん素晴らしい!ですが、私としては、それらを含んだ企業全体としての「時代への対応力」に敬意を評したいと思います。

↓ちなみにこのランプのCMも、2018年に発表された続編でしっかり「罪ほろぼし」がされています。(おじいさんは、前作と同じ人なのかな?)

vimeo.com

【雑和訳】文字:RYET、LED電球、1.29ドル / 通りすがりのおじさん「このランプを見て、ハッピーに感じたよね?それは正常だと思うよ。再利用する方がずっといいんだから」/ ロゴ:IKEA -美しい可能性

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

民主主義を守るためにレバノンの新聞社が実施した、鮮やかなアイデア【カンヌ2022より】

UnsplashのRoman Kraftが撮影した写真

デジタル時代だからこそ出てきた新聞の”価値”

全てがデジタル化していく中、新聞にはリアルな紙を使っている、というユニークさを持っています。

私も野菜を保存するときや、濡れた靴を乾かしたい時など、読み終えた新聞紙をありがたく活用させていただいておりますが、今回は権威に対するチェック&バランス機能の砦としての新聞の価値と、リアルな「紙」や「インク」を使っている、という物質的な新聞の価値の双方を見事に活用することで自国の民主主義を救った、レバノンの新聞社による素晴らしいアイデアをご紹介します。

この取り組み、カンヌライオンズ2022のプリント&パブリッシング部門でグランプリ、ダイレクト部門で金賞を受賞するなど高い評価を得たアイデアです。詳しくはぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「The Elections Edition / Annahar新聞・選挙特集号

www.youtube.com

【雑和訳】ナレーション: レバノンは腐敗しています。/ TVのアンカーマン「一般のレバノン市民が置かれた状況の酷さは生活の至る所に顕著に表れています」/

ナレーション:石油もなし。ネットもなし。電気もなし。食料も、薬も。しかし2022年に迫った選挙は、事態の沈静化を望む市民たちの微かな希望でした。しかし現政権は権力の維持を望み、選挙の延期を行うための言い訳を唱え続けてきました。その言い訳とは、選挙を行うための紙やインクが不足している、というもの。/

政治家「(選挙には)ペン、文房具、そしてインクも必要です。それらは何処から供給されるのですか?」/

ナレーション:そこで民主主義を守るべく、人々のための新聞Annaharは、人々が待ち望んでいた2022年選挙のための特集号を「印刷せずに」発行しました。…代わりにAnnaharは、特集号のための紙とインクを、投票用紙を印刷するために寄附したのです。/

アンカーマン「Annaharは私たちの投票が歴史に刻まれるよう、新聞を印刷しませんでした。新聞は発行されず、代わりにこの日の新聞に使われるはずだった紙とインクは、2022年の選挙に必要な物資として活用されるそうです」/アンカーウーマン「今回の選挙はなんとしても実施されなければなりません」/

ナレーション:2月2日、レバノンのすべての新聞販売スタンドでは、(Annaharの)新聞紙がない空のスペースに、私たちの狙いを伝えるメッセージと、オンライン版新聞へのリンクが示されました。トラックは、その日の発行に使われる分の紙とインクを、政府の提携プリント業者に運搬。この(オンラインでしか)存在しない特集号はバイラルに拡散しました。私たちは、選挙の実施を確実なものとするためのムーヴメントに火をつけることに成功したのです。/

(*いくつかのSNS上のコメントや、メディアの反響の引用記事が入る)/

ナレーション:プライベートなニュースメディアやリサイクル会社もこのムーヴメントをサポート。/ 廃棄物管理団体のメンバー・Marieさん「我々は、自分たちが持つあらゆるリソースを通じてこのムーヴメントを支援します。この選挙は予定通りに行われなければいけません」/

ナレーション:そして選挙の候補者までもがこのムーヴメントに名乗りを上げました。Annaharは、真の変化を期待するレバノンの人々の間に希望を復活させたのです。プリントしない新聞により、私たちは紙やインクを節約しただけではありません。私たちは民主主義を救ったのです。/

ナレーション:結果レバノンの選挙は予定通り行われることになりました。そして、政府も投票用紙に必要な紙やインクの不足を言わなくなりました。/

文字:選挙特集号は、選挙を生かすための身代わりとなったのである/

名ロゴ:Annahar

メディアの使命を果たさない、という使命の果たし方が見事

いかがでしたでしょうか?最近のカンヌライオンズではソリューションのスケールがより重視され、このアイデアのような「とんち」がピリリと効いたアイデアを見ることが少なくなってきている気がするのですが、今回この新聞社が取り組んだ「民主主義を守る」という大使命を果たすためにあえて、新聞社の使命である新聞を発行「しない」というとんち回しは素晴らしいな、と思いました。

さらにこのアイデアが素晴らしいのは、上の翻訳ではあえて飛ばしましたがこの号のデジタル版が、(デジタル版として)最も読まれた号となったこと、Twitterのトレンドに登ったこと、1200万ドル分のアーンドメディア露出を果たしたこと、などを通じて、これまで紙の新聞に触れたことのない若い人たちにも大きなプロモーション効果を果たしたと推測されるところです。

そして勿論、リサイクル団体などとコラボをすることで、選挙のために必要な紙とインクを実際に集めきった、という点も、大いに評価されるべきところだと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

プラスチック容器を使い捨てさせないための、インド発のユニークな取り組み【カンヌ2022より】

UnsplashのJonathan Chngが撮影した写真

寝ても覚めてもプラスチック

先週は3年ぶりのF1日本グランプリ観戦のために記事の更新をお休みさせていただきました。晴天の土曜日から、雨に濡れた日曜日の決勝レースまで。観戦自体は素晴らしい体験だったのですが、サーキットにいる間はお腹が空いてはプラ容器に入ったお弁当を食べ、喉が渇いてはペットボトルの飲料を飲み、雨が降ればポリエチレンのポンチョを被る…ということで、自分の生活がいかにプラスチックに依存しているかについてしみじみ考えさせられる機会でもありました。

どうすれば私たちは、このプラスチック依存から脱却することができるのでしょうか…?ということで今回は、P&Gと並ぶ世界的ホームケア商品のブランド、ユニリーバがインドで始めた素敵な「プラスチック容器の再利用」についての取り組みをご紹介します。

この取り組み、カンヌライオンズ2022のサステナブル・コマース部門で金賞、SDGs部門で銀賞を受賞するなどの評価を得たアイデアです。詳しくはぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「Smart Fill / スマートな充填

youtu.be

【雑和訳】ナレーション: パッケージは、ブランドの顔。でもインドでは、それは同時にプラスチック汚染の顔でもあります。/ 文字:”世界最大のプラスチック消費地のひとつ -UNEP” /

キャスターA「プラスチックは道路にも、海にも、山にも」/ キャスターB「何千トンものプラスチックが…」/ ユニリーバCEO アラン・ヨープ「不都合な真実として、そのゴミのいくつかには我々の社名がついており、その事実を看過するわけにはいきません」/

ナレーション:ユニリーバの液体商品はインドの家庭の90%に浸透しています。私たちにはサステナブルなビジネスへの転換が求められていました。/ そこで私たちは私たちの最も価値あるブランド資産である、商品パッケージを犠牲にすることにしました。私たちの取り組みを紹介しましょう、Smart Fill(スマートな充填)です。/

これは売り場で体験できる経験で、私たちユニリーバの液体商品を、他社ブランドの旧式ボトルや炭酸飲料のボトル、さらにはライバル社のパッケージに至るまで、様々な使い捨てプラスチック容器に充填して購入することを可能にするものです。/

これは、インド人共通の慣習である「容器の応用」にインスパイアされた新しいビジネスモデルです。/ 「私たちは液体商品の充填ステーションを主要な小売店を通じ、インド中に展開。/

購入者は充填したい商品を選び、必要な量を入力し、スマートな充填を行い、バーコードで買った分だけの料金を支払うだけ。/ それぞれの商品はディスカウント価格で提供され、人々は容器代を浮かせるだけでなく、少ない量でも買うことができ、 結果試しに購入する人たちも増加しました。/

世界最大の人口を持つ国のひとつとして、この取り組みが世界に与える影響は注目を浴び、賞賛されました。/ 文字:”サステナブルなパッケージの未来形 -ET Retail.com” / 文字:”ユニリーバはリフィル革命を始めている -BusinessLine” / 文字:アーンドメディアによるPR効果 1.5MM  / レポーター「人々に使用済みプラスチックを再利用し、それにホームケア商品を充填する機会を与える、業界初の試みです」/ 文字:リピート購入率 85% / 文字:10万を超える家庭にリーチ

ユニリーバCEO アラン・ヨープ「ユニリーバでは、自社商品におけるプラスチック・パッケージの使用を再考察しています。私たちは、プラスチックの使用についてドラスティックに取り組んでいる、といっても良いでしょう」/

ナレーション:これは 液体商品のパッケージ生産量を段階的に減らしつつ、買い物客たちや地球のためによりスマートで、よりサステナブルなソリューションを与える、新しい商取引モデルなのです。

社名ロゴ:Unilever

ソリューションの分母を増やす

いかがでしたでしょうか?廃棄プラスチックの問題については生分解性のプラスチック代替素材の開発から、今回ご紹介した小売の現場での取り組みまで、本当に多種多様なソリューションが今現在、世界中で試行錯誤されている状況だと思います。

この世の中、どんなアイデアが大きなソリューションにつながるか分かりません。そう考えると今回のこのアイデアのように、誰でも考えつきそうなアイデアでもまずは本気でトライしてみる。そしてそこからの学びを、次のアイデアに活かす。

そんな風に「ソリューションの分母」を全世界で増やして、人類全体で学びの輪をぐるぐる回していくことがやがて人類に僥倖をもたらすのでは、と考えております。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!