世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

武力による文化財の破壊に対し、デジタルの力で立ち上がる【カンヌ2022受賞作より】

Photo by Max Kukurudziak on Unsplash

終戦の日を前に、人類の破壊について考える

また、8月15日がやってまいりました。

アフター5に賑わう戦前の銀座の映像を見たことがありますが、そのきらびやかな夜景にふと「もし東京に大空襲がなかったら今の銀座はどうなっているのだろう?」

「今の銀座と似ているのだけれどなんだか違う、もっと明治や大正、はたまた江戸の建物があちこちに点在した、日本文化のルーツを感じられる街になっていたのではないか…」

と思い、ちょっと見てみたいような、ちょっと残念なような、不思議な気持ちになったことを覚えています(もちろん今の銀座も十分素敵な街なのですが)。

そして77年後の世界。今も人類は変わらず、世界各地で自分たちが創ってきた大切なものを破壊し続けています。

創るは一生、壊すは一瞬。壊れたものは、もう2度と帰って来ません。

…でした。これまでは。

今回は、ロシアによる粗暴な破壊に対し、デジタルの力を手に立ち上がったウクライナの人々による、素晴らしいアイデアをご紹介します。

ちなみにこの取り組み、6月下旬に行われた世界的クリエイティビィの祭典・カンヌライオンズ2022にてデジタルクラフト部門でグランプリ、メディア部門でゴールドなどを獲得しています。続きはぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「Backup Ukraine / バックアップ・ウクライナ

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【雑和訳】文字 ”市庁、ハルキウ、ウクライナ”(実況者のそばで爆撃が行われる)/

文字 ”すべてを一瞬に吹き飛ばしてしまう爆弾から、歴史的文化遺産を守る手立てはない"/

文字 ”ハルキウ”、"チェルニヒウ"、"リヴィウ"、”キエフ”/ メディアの声「我々が目にしているのは、殲滅を画策するプーチンによる…」「ユネスコは事態を深く憂慮し特別セッションを開催、ロシアが完全に(ウクライナを)殲滅する意図があるのではと危惧しています」/

文字 "物理的には守れないものを、どのように守るのか?"/

文字 ”デジタルによる3Dでバックアップする” "バックアップ・ウクライナプロジェクト"/

文字 ”ユネスコと3Dのスタートアップ、Polycamによって始められた” "戦時中においては史上初となるプロジェクト" "ウクライナの人々が持つ2,200万台のスマホが、3Dスキャナー代わりに活用された" "全ての市民に、(復元の元となる)デジタルの元データを保管するクラウドを無期限に解放"/

文字 ”アプリを開いて” "ただ、記録ボタンを押すだけ" "あとはアップロードして" "クラウド上の安全なライブラリにセーブする"/

(世界中のメディアなどでの報道やSNSでの反応などがコラージュされる)/ CNNに取り上げられた市民「私は彫像を永遠に保存するため、スキャンすることにしました」/

文字 "ウクライナで週あたり2,400のダウンロードを記録" "文化財のスキャン数は週あたり44%の伸びを記録"/

"すこぶる歓迎すべきイノベーション- Fast Company" "メタベースへの確かなドア- CNN" "誰もが参加できる- オデッサ・ジャーナル"/ (ユネスコ以下、このプロジェクトに参画した団体名が表示)/ 

女性の声「これらのモニュメントが、私たちのアイデンティティなのです。我々はこれらと共に成長を続けていきます」/

文字 ”歴史を残す。爆弾の届かないところへ”/

ウクライナの女性「私たちはこれを誰にも奪わせません。これは私たちの文化なのです」 

戦中には誇りとなり、復興にも役立つアイデア

いかがでしたでしょうか?この取り組みを見た時に感じたことは、21世紀の戦争では、もう火薬で殺し合い、破壊し合うだけが戦いではないのかもしれないな、ということでした。

スマホを手に取り、身の回りを記録する。そんな庶民ひとりひとりの行為も、不条理な暴力に対抗し、自分たちの文化を守るための立派な活動だと思いましたし、このアイデアの素晴らしさのひとつは、そんな「戦時下での新しい社会への貢献の形」をウクライナの人々のために創出したところにあると思います。

 

…とはいえ古今東西、根本的に戦争は破壊であり、人類全体にとっての敗北です。

一方、アイデアは創造であり、人類の克服、勝利の源なのかな、と思います。

 

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

メキシコの女性たちに「与信」で自信を与えたデジタルキャンペーン【カンヌ2022受賞作より】

Photo by Daniel Lerman on Unsplash

デジタルは(時には落ちるが)役に立つ?

先日、リモートワークには欠かせない人も多いだろうMicrosoftのTeamsが世界的に落ちました。たしか半日余りで復旧したと記憶しているのですが、その日はデジタルがこの世界にもたらしたことの功罪を色々と考えたことを覚えています。

けれど結局、ナイフや火薬と同様、デジタルを功とするのも、罪とするのもすべては我々の意志次第。ということで今回は、デジタル技術の活用でメキシコ社会における女性の社会進出に大いなる”功”をもたらした素晴らしいアイデアをご紹介いたします。

ちなみにこの取り組み、6月下旬に行われた世界的クリエイティビィの祭典・カンヌライオンズ2022にて「クリエイティブ・データ部門」と女性の地位向上に貢献したアイデアを讃える「グラス部門」の2部門でグランプリを獲得しています。続きはぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「Data Tienda / データのお店」

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【雑和訳】ナレーション「メキシコにいる、何百万人もの低所得者層の女性たちにとって、何かを学んだり、ビジネスを始めることは困難です。なぜなら、彼女たちは与信による金融取引から遠ざけられているからです」

「彼女たちの83%が、彼女たちの支払い実績を立証する銀行支払いの履歴*(*つまり与信に足る、銀行口座上の取引履歴)を持っていません」/ 文字要素「メキシコ女性の83%が与信に足る金融履歴を持たない -エル エコノミスタ」/ 

ナレーション「結果、彼女たちのローンの申請は却下されてしまいます。/ ロザルバさん「ローンを申請したのに、認めてもらえませんでした。銀行との取引実績がなかったので」/文字要素「3,500万人のメキシコ女性が、同国の金融システムから欠落している -フォーブス」/ 

ナレーション「しかし逆説的なことに、彼女たちのほとんどは、日々の暮らしの中で近所の店にツケ払いをしています。つまり、メキシコ中の何千ものそうしたお店の取引帳簿には、これまでの金融情報センターでは見落とされてきた、(彼女たちなりの)与信による取引履歴がある、といえるのです」

「そこで、金融におけるメキシコ女性のインクルージョンを追求するウィー・キャピタルは、Data Tienda(データのお店)という、メキシコ女性と銀行をつなぐ金融情報センターを立ち上げました。これにより、何百万人ものメキシコ女性が(近所のお店など)小規模な店舗との取引情報をもとに、自らが与信に足ることを銀行に証明できるようになりました」

「サービスの利用も簡単。女性たちは、datatienda.mxに最低5つの、信頼のおけるお店の情報を登録するだけ」「あとはData TiendaがWhatsAppのbot経由で自動的にお店から質的・量的データを収集」「与信の基となる信用スコアを、既存の情報システムよりもより詳細に分析・算出してくれるのです」/

リカルドさん「これは普通の金融情報センターと変わりません。ただ、対象が銀行取引のない女性だ、ということです」「Data Tiendaを通じて、銀行は女性たちの支払い履歴を確認できます。結果、低いリスクマージンで彼女たちに与信ができるようになるのです」/

文字要素「女性の23%が銀行から、マイクロクレジットを受けた -フォーブス」 / ナレーション「結果、これを利用した女性の23%がこれまでに銀行から、自分のビジネスのためにマイクロクレジットを受けることができました。そしてわずか数ヶ月の間に、1万300件の与信につながる履歴が、およそ5万店にのぼるメキシコ中の店主からの情報とともに集計されました」/

メディアの声「何千もの女性が銀行からマイクロクレジットを受けました。Data Tiendaのおかげで」「金融におけるメキシコ女性のインクルージョンを促すために」「人生を変える、支払い履歴の話です」/

ナタリーさん「ローンを2回断られていたのですが、今回は銀行が貸してくれました」/ パトリシアさん「銀行の融資でミシンを買いました」/

ナレーション:私たちは今日も、(金融業界からは見過ごされてきた)女性たちの支払い履歴を回復させています。…彼女たちの人生の物語を変えるために。Data Tienda

デジタル目線で見れば、埋もれた課題はもっとあるはず

いかがでしたでしょうか?このアイデアの素晴らしい点は、人々がアナログ時代から連綿と「それで当然」と無意識ながら甘んじて受け入れてきた状況をデジタルの目線でフラットに見ることで「これ変じゃん」→「こうすればいいじゃん」とあっさり解決してしまったところにあります。

皆さんの周りにもまだまだ、デジタル技術を活用すれば簡単に解決できるのにアナログ時代からの延長でなんとなく受け入れてきた”あまり良くない事柄”はたくさんあると思います。

間もなく夏休みシーズンです。休みの合間に、そんな事柄に思いを巡らせて「自分だったら…」と、クリエイティビティの翼を羽ばたかせてみるのも一興かもしれません。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

ゲームならではの没入感で、地球温暖化を実感させたブラジル発のキャンペーン【カンヌ2022受賞作より】

Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

2週間、更新をお休みしてしまいました

最近何かと身辺が慌ただしく、気づけば更新に2週間穴をあけてしまいました。誰にお願いされているわけでもないので後ろめたく思う必要はないのですが、それでも「週一でブログを更新する」ルーチンを崩すというのはちょっぴり罪悪感のあるものです。(一方、ルーチンはたまーに崩す時の喜びのためにあったりもするわけですが。。)今週からはまた、更新を毎週積み上げてまいりますのでよろしくお願いいたします。

さて、6月下旬に行われた世界のクリエイティビィの祭典・カンヌライオンズ2022の主だった受賞作品を翻訳、分析していく第3弾として、今回は自分の好きな分野でもあるゲームを活用したアイデアをご紹介いたします。

ちなみにこちら、カンヌライオンズ2022にてエンターテインメント部門でゴールドなどを獲得しております。続きはぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「Los Santos +3C / 気温が3℃上昇したロス・サントス」

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【雑和訳】画面上の文字:ロス・サントス/ ロサンゼルスのリアルなレプリカ(の街)/ ヴァーチャルの世界で、最も関心を集める街/ そんな街が、史上初めて/ 現実世界の災難に見舞われた/ 気候変動という災難に/

グリーンピース提供/ 「Los Santos +3度」/ リアルな科学的予測をベースに/ 私たちは若いゲーマーたちに/ 彼らの未来の一端を体感させた/ 世界的人気を誇るゲームのひとつ、グランド・セフト・オート5の世界を再創造することで/

私たちはこれまでで最も”没入できる”気候変動のシミュレーターを作り上げたのだ/

特別に作ったミッション(署名集め・シェルターへの水の運搬・ 気候変動による難民の救助)/ 没入感あふれるラジオ放送/ ラジオレポーター「飲み水をめぐる争いで2名が死亡したロス・サントス岬に急行しております!」/ 街の看板”あなたは気候難民ですか?私たちが支援します。緊急シェルターまでお電話ください 1-800-REFUGEE”/ 未来の状況を示す街頭広告/ ゲーム内での署名活動/

私たちの取り組みをアピールするため、50人の代表的ネット・ストリーマーたちがこの世界を体験/ 多様なストリーマーたちの反応を次々と示す「あれ?川はどこに行っちゃった?」「わー。この有様を見てください」「信じられない!」「危ない!…水際ギリギリよ!」/

結果、ブラジルのトップストリーマー50人が、合計450時間に達する気候変動に関する配信をおこなった/ このゲームのプレイ時間は、計測不能(なほど多いはず)だ/ 嘆願書への署名は340%向上/ 募金は40%上昇した/ アーンド・メディアによるカバレッジは3000万/

[現実世界の気候変動による結末をヴァーチャルに描写-AdAge]/  [メタバースにおける、気候変動が引き起こす災害についてのメッセージ-CNN]/ [ヴァーチャル世界の住民がひどい出来事の結果に苦悩する-yahoo!sports]/ 陰謀論者による垂れ幕「気候は変動していない。これは「事実」だ!」/

”未来を遊べ。ただし、未来をおもちゃにしてはいけない”/  グリーンピース

ゲームならではの没入感にはまだ開拓の余地が

いかがでしたでしょうか?ゲーム機の画像表示性能が上がるにつれ、そのソフトウェアが描く世界は現実と近づいてまいります。そして、その中で遊ぶうちに、(そのゲームが魅力的であれば)私たちは画面の中のキャラクターをあたかも自分自身のように操作し、喜怒哀楽を共有します。

そんな”第二の自分”が住む世界が突然、大災害に見舞われたらいかがでしょうか?おそらくその感覚的インパクトは、テレビの国際映像で見るものとは段違いに強烈なものになることかと思います。

また、この取り組みが特に評価された背景には、ターゲットとしたZ世代に強い気づきとアクションを促した点があります。ビデオには紹介されていませんでしたがストリーマーたちによる、(合計450時間の)動画が視聴された時間の合計はおよそ800万分、そしてこのゲームをプレイ中、温暖化対策の強化を求める嘆願書への署名を求められた人の実に1/3が署名に同意したそうです。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

★今週のおまけ★

過去に取り上げた、TVゲームを活用したアイデアに関する記事を以下に載せておきます。

wsc.hatenablog.com

 

wsc.hatenablog.com

 

wsc.hatenablog.com

 

wsc.hatenablog.com

 

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アメリカ発・銃規制反対派をチートした驚きのアイデア【カンヌ2022受賞作より】

Photo by Maria Lysenko on Unsplash

日本人には難しいアメリカ人と銃の関係

さて、今回はアメリカの銃規制を訴えるためのキャンペーンをご紹介します。日本に住んでいると、なぜアメリカの人々が銃を保持する権利にこだわるのかは分かりにくいと思います。

アメリカ市民が銃を保持する権利はアメリカ合衆国憲法修正第2条に記されており、それは今から時を遡ること1791年、後にアメリカ第4代大統領となる「憲法の父」、ジェームズ・マディソンにより推進されたものでした。そこには

「規律の取れた民兵団は自由な国家の安全にとって必要なので、国民が武器を保有し携帯する権利は侵してはならない」

という内容が記されているのですが、当時の状況を考えると、アメリカは建国からまだ20年足らず。まだ国としてどうなるか未知数な段階で、原住民族を淘汰しての西部開拓や奴隷制の保持が(誠に遺憾ながら)今と違って「是」とされていた時代的背景を考えると、このような条項が憲法に組み入れられた背景が汲み取れると思います。

しかしそれからおよそ250年後。一時は民主主義の旗手としてパクス・アメリカーナ謳歌するほどの覇権国家となった昨今のアメリカの姿のみしか知らない日本の私たちからすると、それほどの国力や安定度を誇りながら、未だに個人が銃を保持する権利に固執する姿は奇怪に映るのもまた事実です。

建国の礎となった銃を持つ権利にどこまで固執するのか?また、その権利のために増え続ける一般市民の犠牲はこのまま無視され続けてよいのか?これについては1992年ごろ、自分も大学の授業で小論文を書いた記憶がありますが、30年後の2022年も何も変わることなくアメリカを揺らし続けています。

前置きが長くなりましたが、今回はそんなアメリカで銃による暴力の犠牲となった人々の叫びが聞こえてきそうなキャンペーンをご紹介します。銃規制に強力に反対し、盤石のロビー活動を行ってきたNRA(全米ライフル協会)の元会長が、かの「憲法の父」から名を得た「ジェームズ・マディソン高校」の卒業式でのスピーチに招待されたところから、この取り組みは始まるのですが…。

ちなみにこちら、カンヌライオンズ2022にてその年を代表するアイデアに贈られるチタニウムを受賞した他、フィルム部門やPR部門、ソーシャル&インフルエンサー部門でゴールドを獲得した取り組みになります。続きはぜひ、以下の解説ムービーをご覧ください。

「The Lost Class:失われたクラス(学級)

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【雑和訳】画面上の文字:2021年度のクラス/ 2021年度に高校を卒業予定だった3,044名のクラス/ このクラスは、卒業が叶わなかったクラスです/  なぜなら、彼らの命は銃により失われてしまったから/ 彼らは...「失われたクラス」なのです/

人命よりも銃を大切にする国で命を失った彼らのために/ (「NRAは議論の席につくべきでは」「いいえ。決してそんなことはしません」など、銃規制反対派のニュース映像が畳み掛けられる)/ 私たちは、この問題に対して立ち上がらなければなりませんでした/ そして私たちは、銃規制を妨害するロビイストたちに対して立ち上がりました/

テレビの司会者「それではラスベガスで行われた、信じ難い出来事をご覧ください」/

デビット・キーン「まず最初に、皆様の卒業をお祝いするためにここにお招きいただいたことに感謝をお伝えしたいと思います」/ 2021年6月4日。我々は銃の保持を推進するデビッド・キーン氏を招待。彼に卒業生に向けてのスピーチを依頼した/

ニュース司会者の声「デビット・キーン氏はNRAの元会長で、現在も銃を推進するグループの役員を務めています。彼はジェームズ・マディソン高校の卒業式でスピーチをおこなっているつもりですが、実はそんな高校は存在しないのです」/

デビット・キーン「…夢を追い、実現してください」/

テレビ司会者「(銃推進派である)NRAの役員が、3,000を超える空席に向けて夢を叶えろ、と話すのはトラウマチックな光景ですよね。」/

別のレポーター「上空から見る3,000個の空席は本当にショッキングで、心が寒くなる光景でした」/

メディアのコメント抜粋「NRAはかつて、広告で銃に対して寛容な世論を醸成してきたが、今や投薬治療が必要なようだ -Fast Company」「3,044人の生徒が座るべきだった椅子が空席のまま会場を埋め尽くした様子は恐ろしい -The Guardian」/ 「陰鬱で、心に響く取り組み -Rolling Stone誌」/

デビット・キーン「今も銃規制を進めようとする人々がいるが、あなたたちの多くは立ち上がり、それを防いでくれるだろうと思う」/

そしてこのスピーチが、変革を求める声を歴史的なインパクトで推し進めた/ 「銃購入者全員のバックグラウンド・チェックを行う法案への署名: 40,433名/ 結果、1ドルも費やすことなく、14億をこえるインプレッションを獲得することに成功/  銃購入者のバックグラウンド・チェックについての議論は66%増加/

しかし何より重要だったのは、銃の暴力についての議論を盛り上げたこと/ …他の悲劇を起こす必要なしに/

デビット・キーン「ありがとう」/ CHANGE THE REF

社会規範のギリギリをついたドッキリ企画

いかがでしたでしょうか?これを最初に見た時、なぜこのNRAの元会長は誰もいない会場で平然と話しているのか不思議に思ったのですが、調べてみると彼には「リハーサル」と称して話してもらっていたそうです。

権威を引っ掛けて落とすという、社会規範のギリギリをついたアイデアだけあってそのインパクはえげつないものがありますが、果たして引っかけられた側にはどのように騙された事実が明かされたのか(または明かされなかったのか?)、そして騙し録りしたビデオをここまで活用して訴えられたりはしないのか、などなど興味は尽きません。

私も基本的には正々堂々と議論は尽くされるべきだとは思いますが、NRAサイドがさまざまな権益でどっぷり「守られている」状況下ではこの様なけたぐりも世の中を前進させるためには必要なのだろうな、と思いました。

ちなみに以下に、この取り組みに関連したビデオを置いておきます。上記ビデオにも登場したNRA元会長のデビッド・キーン氏のスピーチにフォーカスした解説ムービーと、同じ枠組みで行われた「銃が多いほど、暴力は減る」と訴える謎の専門家ジョン・ロット氏のスピーチにフォーカスした解説ムービー、そして3本目は、この取り組みを実施した、かつて銃撃事件でお子さんを失った主催者夫婦にフォーカスした解説ムービーです。(3本とも精度にやや難ありですが、日本語字幕も出せる仕様になっております。)

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www.youtube.com

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特に2本目の専門家ジョン・ロット氏の意見など、常識で普通に論破できそうなトンデモ論旨でも、ロビー活動による権威づけや情報操作である程度「まともな意見」に演出できてしまうという事実に心が凍り、また、胸が痛みます。

でも、この議論のみをとってアメリカ社会が他より劣っているとも、優れているともいうつもりはありません。アメリカの銃に関する議論と同じく、それぞれの社会にはそれぞれの文脈があり、その「流れ」を見ないと理解できない部分がどうしても出てきます。そしてそれは、日本社会におけるさまざまな議論でも同じことがいえるでしょう。

少々脱線しましたが、このストライクゾーンギリギリのアイデアを実施に持ち込んだ人々の勇気と胆力に敬意を表したいと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

★今週のおまけ★

過去に取り上げた「銃規制」のアイデアに関する記事を以下に載せておきます。

wsc.hatenablog.com

【カンヌ2022受賞作分析 第1弾!】「ポイ捨て」を善行にすり替えた見事なアイデア

Photo by John Cameron on Unsplash

今年のカンヌから、毎週ひとつずつアイデアをご紹介

さぁ、年に一度の世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズ2022が6月下旬に終わりました。それに関連する業務で時間が取れず、ブログの更新もしばらくストップしていたのですが、今年もやはり、カンヌではたくさんの素晴らしいアイデアが世界中から集まったクリエイターの賞賛を集めたようです。

このブログでは今週から毎週1つずつ、そのアイデアの数々を地道に解剖・解説してまいります。ぜひお楽しみください。

※今年のカンヌライオンズの全体像が知りたい方は、このブログでは触れませんので他を当たることをお勧めします。たとえばこんな記事がおすすめです↓

www.advertimes.com

最初にご紹介するのはインドのムンバイで行われた、「人間界の消費のルール」を見事に活用した”技アリ一本!”な取り組みです。まずは以下の解説ムービーをご覧ください。

「The Killer Pack:イチコロ・パッケージ」

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【雑和訳】ナレーション:2021年、WHOはインド国内では年間およそ4億のデング熱発症例があるとの推計を示しました。これは過去50年間で、発症数が30倍以上増加したことを意味します。

インドの人々は家の中では蚊取り線香を使いますが、問題の本質は家の外にあります。インドのゴミ集積場は蚊にとっての繁殖地なのです。なぜなら蚊にとって、1センチメートルの大きさの水滴があれば産卵に適した場所だからです。

インドのゴミの状況を変えることはできないものの、私たちは、そこで蚊の産卵を防ぐことはできます。紹介しましょう、「The Killer Pack(イチコロ・パッケージ)」。捨てられると、家の外の蚊の幼虫を殺すパッケージ。

毒性のない線香が蚊による家の中の悪循環を断ち切る一方、5%の活性化された土壌細菌を組み入れた、100%生分解性のパッケージが蚊の幼虫を撃退します。

このパッケージはゴミの山やゴミ箱、庭の澱んだ池や嵐の後のドブ川など、水中や湿った環境下に捨てられると分解されるのです。

この仕組みはWHOやDCD、icmrやEPAに承認され、推薦されました。しかもこれは鳥や犬、その他の生き物に全く害を与えないのです。

このパッケージは(デング熱のように)蚊に起因する疾病が増加しているインドの各地域で販売されました。/

疾病研究所の昆虫学者「人々が蚊取り線香を買えば買うほど、そのパッケージが蚊の繁殖地に捨てられるわけです。つまり、これは自動的に効果を発揮する仕組みだといえます」/

「The Killer Pack(イチコロ・パッケージ)」- (常識をひっくり返して) 家の中でも外でも蚊を撃退します。

怠惰な我々の本性を射抜いた見事なインサイト

いかがでしたでしょうか?実はこのブログで昔、似たようなアイデアを紹介したことがあり、最初に見た時はこの(↓)アイデアの焼き直しなのかな?、と思いました。

wsc.hatenablog.com

上記の記事で紹介したのはパプアニューギニアのビール会社による取り組みで、自社ビールの包装用ダンボールに蚊を殺す薬剤を吹き付けて、飲むときにそのダンボールを焚き火にくべれば蚊取り線香になる、というものでした。

これはこれで素晴らしいのですが、やはりビールを飲む行為と、焚き火をする、という行為に少し距離があるのかな、と掲載当時にも思いました。

その点、今回のアイデアは全ての消費者が現時点では避けて通れない「(買ったものの)パッケージを捨てる」という行為に着目した点が秀逸です。

人間は元々が怠惰なもので、環境への憂慮や、世間の目がなければ商品のパッケージはなるべく何も考えずにポイ捨てしてしまいたいものです。しかし環境意識の高まりの下、「捨てる」という行為への後ろめたさは高まるばかり。

そんなときにどうでしょう?もしポイ捨てという怠惰な行為が後ろめたくないばかりか、”蚊を殺す”という「善行」にすり替えられるパッケージがあるとしたら?

それはスーパーの棚の横に価格も、効能も同じようなライバルメーカーの蚊取り線香が並んだとき、大きな差別化ポイントとなるに違いありません。

ちなみにこちら、カンヌライオンズ2022のヘルス&ウェルネス部門でブランプリを獲得した取り組みでした。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

スウェーデン発・SDGs達成のために「共通の尺度」を作る果敢な試み

Photo by Pedro Henrique Santos on Unsplash

2030年まであと、たったの7年半

いよいよ、世界的クリエイティビティの祭典カンヌライオンズ2022まであと1週間。ということでこのブログで去年の受賞作をこれまでずーっと取り上げてきたのですが、ラストに紹介するのはこちらのアイデアになります。

カンヌライオンズ2020/2021のその名もズバリ「SDGs部門」のグランプリ受賞作、スウェーデンのテクノロジー企業Doconomyによる「2030 Calculator(2030年計算機)」という取り組みです。

SDGsの目標達成年は2030年。なんとあと7年半しかありません。7年半といえば、私がこのブログを始めてから来月で8年目になりますから、それよりもやや短い時間しか我々にはもう残されていない、ということになります。

本当に「あっという間」の時間でしかない残りの7年半で、私たちは何ができるのか?客観的に考えてみても、もはやつべこべいう前に、トライ&エラーの繰り返しで正解を手繰り寄せる「パワープレーモード」にこれから入っていくしかないのかな…と思います。

今回はの取り組みは、そんなパワープレーを華麗に実施した事例として知っておくと良いのかな、と思います。それでは以下の紹介ムービーをご覧ください。

「2030 Calculator:2030年計算機」

www.youtube.com

【雑和訳】ナレーション:私たちは炭素の排出量を2030年までに今の半分に抑えなければなりません。そして、個人の炭素排出量の60%はそれぞれの消費活動に紐づいています。

/ 画面上の文字「我々は子供たちに引き継ぐことのできない方法で生活水準を引き上げてしまった」by ジョー・ロム(物理学者・気候の専門家)/

ナレーション:私たちは消費がこの星に与える影響を理解しなければなりません。そして、環境に与えるインパクトの低い商品を選ぶことは、私たち一人ひとりが日々の暮らしの中でとりうる、最も重要なアクションのひとつです。

しかしそのためには、さまざまなブランドに炭素排出量を示すラベル表示を促す必要があります。

しかし、自らの商品が排出する炭素の量を計算することは各ブランドにとって困難で、コストのかかるものです。

そして中小規模のブランドの多くが自社商品が与える環境への負荷について透明性を確保したいと考えているのに、そのためのリソースが足りない、というのは深刻な問題です。

 Doconomyはスウェーデンにある、地球環境へのインパクトを考えるテックカンパニーで、消費活動によって発生する消費者の炭素排出量を減らすためのデジタルサービスを提供しています。

その基本方針のもと、Doconomyは「2030年計算機」を発表しました。これは、どんな商品にも対応してその炭素排出量を計算するツールで、これによりブランドは計算のための時間を数週間から数分にまで短縮することができ、さらにそのための予算も数千ドルからゼロにまで削減できます。

2030年計算機はオープンプラットフォームで、これを使うブランドは自社の排出に関するデータを提供することで、競合他社が同じデータや方法論を活用することを可能にします。

/ 画面上の文字「2030年計算機によって、Doconomyは誰もが参加できる環境運動の場を作った」by グレッグ・バッチビンダー(Emeco CEO兼オーナー)/

なぜなら気候変動という大きな問題の前では、どのブランドも競合他社と壁を作っている場合ではないからです。

/ 画面上の文字「2030年計算機は、自社の商品が環境に与えているインパクトを開示しなければならない企業にとって最適な透明性を与えてくれる試みだ」by オールバーズ/

結果、より多くの企業が「つくる責任、つかう責任」が問われる時代の流れをさらに促すべく、自分たちの商品の炭素排出量をこの計算機で算出するようになりました。

気になるテックカンパニーDoconomy

いかがでしたでしょうか?実は「2030年計算機」を作ったこのDoconomyという会社、このブログで紹介するのは今回が二回目になります。

wsc.hatenablog.com

↑これがが第一回目の記事になります(記事のタイトルが今見ると恥ずかしくて困ってしまうのですが、それはさておき…)。この記事ではDoconomyが開発し、当時もかなりの話題を呼んでいた「買ったものの炭素排出量がわかるクレジットカード」を紹介しています。

これらの取り組みを通じて一貫して、カーボンフットプリントという概念の啓蒙と普及に努めるDoconomyですが、時は待ってくれません。

2030年というSDGsのタイムリミットに向けて彼らは今後、さらにどのようなサービスとアイデアでこの難題に取り組んでいくのでしょうか?Doconomyの今後には引き続き、目を光らせていきたいな、と思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

コロナ下の中南米にて、たくさんの商店主を救ったビール会社による試み

Photo by Kai Pilger on Unsplash

沈黙の2年間を振り返ってみる

いよいよ、世界的クリエイティビティの祭典カンヌライオンズ2022まであと2週間。ということでこのブログでは今週と来週のあと2回、昨年の受賞作のご紹介を続けてまいります。

今回ご紹介するのは昨年のカンヌライオンズ2020/2021でクリエイティブeコマース部門のグランプリを獲得した、南米コロンビア発〜中南米9カ国へと広がったアイデアです。

この2年間、世界中のほとんどの人たちは新型コロナウイルスによってひっそりと暮らすことを余儀なくされてきました。その過程ではさまざまな試行錯誤がありましたが、パンデミックから1年のうちに有効なワクチンを開発して世界中に供給させ、2年半の間に日常を取り戻しつつある人類の叡智には、本当に目を見張るものがあると思います。

そしてその叡智は、何もワクチンを開発する科学者たちだけのものではありません。何の専門知識もない私たちだって、日々の暮らしで身の回りの困っている人々の状況を思いやり、彼らのためにソリューションを考え、実行することで人類の叡智の1ページに名を連ねることができるのです。

今回はそんなことを感じさせてくれる、世界的ビール会社アンハイザー・ブッシュ・インベブによるとってもシンプル、かつ素敵なアイデアです。

2年前の今頃、そして1年前の今頃。ご自身がどんな暮らしをしていたか、周りの人々とどのように力を合わせて苦境を乗り越えていったか、などなどを思い出しながらぜひ、以下の紹介ムービーをご覧ください。

「Tienda Cerca:ご近所ショッピング」

www.youtube.com

【雑和訳】ニュースキャスター「今年、COVID-19のパンデミックはたくさんの産業に大きな打撃を与えています」/ ナレーション:2020年、世界中で何百万ものビジネス活動が停止を余儀なくされました。そしてコロンビアでは、通りの角にあるような、小さな商店の経営が何百万もの家族の主な収入源となっています。

ABInBev(ビール会社アンハイザー・ブッシュ・インベブラテンアメリカの小売における最も大切なパートナーである彼らは、(コロナにより)深刻なダメージを被っていたのです。/ 文字スーパー:これらの商店は、コロンビアの小売市場の52%を占める /

店主A「お店を閉めるのはこの12年間で初めてです」/ 文字スーパー: 隔離期間中、これらの商店の23%が休業に追い込まれた / 店主B「こんなこと、誰も予測してなかったよ。もはやなすすべなく、店を閉めるしかないんだ」店主B「一体どうしたらいいんだい?」/

ナレーション:彼らが単独ではビジネスを続けられなくなってしまった時、私たちは彼らを繋ぎ、最もパワフルなオンラインストアを創りました。ABInBev提供、Tienda Cerca(ご近所ショッピング)。

国内で最も巨大で、究極にローカル化されたeコマースストアとして、私たちはあらゆる街角の、あらゆるブロック、あらゆるご近所の商店をデジタル化。/ 文字スーパー: サービス開始の第1週で、6万店以上の商店が登録 /

ナレーション:私たちはこれらの情報を、購入者の位置がわかるTienda Cerca.coにリンク。1クリックでWhatsAppを通じて、人々が各地の商店に直接オーダーできる仕組みを確立しました。

わずか60日の間に、私たちのウェブサイトは1,000万回以上の訪問回数を記録。登録した商店の内、実に70%が売上の上昇を示しました。(120万USドルに相当)/

司会者「メキシコへの愛と連帯の名の下、そしてメキシコのために…」/ ナレーション:9カ国(コロンビア、エルサルバドルパナマ、ペルー、メキシコ、エクアドルホンジュラスパラグアイドミニカ共和国)がこの取り組みを採用、合わせて40万以上の商店と、それを生業としている100万以上の家族を繋ぎました。/

店主A「こんな仕組みを授けてくれて、神に感謝です。本当に助かりました」/ 店主B「みんな家で物を受け取りたがるから、これは本当にありがたかったし、おかげでビジネスも回しつづけることができました」/ 消費者「このサービスで子供の学費も払ってますよ」/

文字スーパー:国の希望はテクノロジーにあるのではない。そのテクノロジーを、必要としている人々が使えるようにすることにあるのだ。ABInBev提供、Tienda Cerca(ご近所ショッピング)。

最後にキラーワード、出ました

いかがでしたでしょうか?少し本論からずれてしまいますがこの紹介ムービー、訳していくうちにカンヌライオンズなど、世界のアワードで評価を上げるための要素が本当に良くまとめられているな、と思いました。ナレーションを補強する文字スーパーがいちいち、審査員が評価を上げたくなる情報を入れ込んでいたり・・。

そして最後の「国の希望はテクノロジーにあるのではない。そのテクノロジーを、必要としている人々が使えるようにすることにあるのだ。」という一言。

アワードでどのアイデアにグランプリを授賞するかは、実はそれを選ぶ審査委員長や、審査員たちにとっても、その能力が問われる重要なポイントです。

そう考えた時、まさにこの最後の一言は、審査員がこの作品をグランプリに推す理由を代弁してくれているキラーワードだと思いました。

…などと、今回はちょっと業界風なことを語ってしまい大変恐縮ですが、自分たちが取り組んだことに対するこうした「魅せ方」のうまさも、世の中を巻き込んでいくソーシャルキャンペーンには大切な要素だと思います。

謙遜を美徳とする日本文化を基盤に持つ我々にはどうしても慣れが必要な部分ですが、謙遜すべき場と、魅せるべき場に合わせて自分のコミュニケーションを柔軟に使い分けられたら、日本文化を基盤に持つ人たちの強みや個性は、もっと世界のために活かせるんじゃないかな、と思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!