歴史を繰り返せないほど進化してしまった人類の分岐点
ロシアのウクライナ侵攻により、人類の理性への信頼が揺らいでいます。合理的思考を超えて大国から軍事的侵略を受けうる、という事実を前に、周辺各国が慌てたように軍拡競争を始めました。
我々はまた、再び世界大戦へと歩み始めているのでしょうか?しかし過去の大戦と違い、我々はすでに全世界を破滅へと導く核兵器を持っています。次に歴史が繰り返した時、私たちにはもう、歴史自体が必要なくなるのかもしれません。
ということで今回は、かつて広島に次いで原爆が投下された都市、長崎の地方紙・長崎新聞が行った核兵器の恐怖を訴えるための取り組みをご紹介します。
こちらも先週に引き続き、多様な文化が共存するアジアならではの、各地の伝統や風習に根ざしたソリューションを評価するAdfest2022のLotus Roots部門を受賞したアイデアです。
「13,865の黒い点と2つの赤い点」
【雑和訳】ナレーション:今も世界には13,000発以上の核兵器が存在します。そして長崎は、かつて原爆を投下された世界中でたった2つの都市のひとつとして、その恐ろしさを伝えてきました。
第二次世界大戦から76年が経ちました。(*画面上では2021年現在、原爆を生き延びた語り部がもう33,243人しかいない事を示す)
長崎唯一の地方紙として、長崎新聞は若い人たちや長崎以外の人たちを含む、原爆の悲惨さを体験したことがない人たちに向けて、この問題の深刻さを伝えたいと考えました。
「13,865の黒い点と2つの赤い点」。このビジュアルは、言葉ではなく、13,865の黒い点で表現されました。黒い点の中には、赤い点が2つ。
黒い点は、世界に今ある原爆の数を表し、赤い2つの点は、広島と長崎で使われた2発の原子爆弾を表します。
「核兵器が存在している以上、それが使われるリスクも存在しています。」
数字を見せる代わりに、原子爆弾の数とその恐ろしさが読者にも直感的に理解できるよう示されたのです。たくさんの人々が、この広告について触れたことをシェアしました。この話題は、主要なテレビ番組でも取り上げられました。
そして日本中の人々が長崎に原爆が投下された76年前の8月9日に注目するとともに、今もなおそこにある危機について考えたのです。
さらに私たちは、この広告ビジュアルとガイドブックがダウンロードできる教育用のWebサイトも立ち上げました。
この作品は広告の枠を超えて、日本中に教材として活用されています。
文字に頼らないことの強さ
いかがでしたでしょうか?
事実を伝えるニュースにはどうしても文字や言葉が必要で、そもそも人々がそのニュースに関心なければ見聞きされずにスルーされてしまう、という弱点があります。
一方、「強い広告」にはたった一枚のグラフィックや画像のアイデアで、無関心な人々を直感的に惹きつけ、考えさせる力があります。
核兵器が私たちにもたらす結末について想いを巡らせる機会が減っていく中、こうしたビジュアル表現で人々の想像力を刺激する機会は大切ですし、そういった意味でも新聞など、プリント媒体にはまだまだ活用のチャンスがある、と感じさせてくれる取り組みでした。
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!