世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

パキスタンの「見えない子供たち」を救った通信会社の素敵な取り組み

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Photo by Syed Bilal Javaid on Unsplash

出生登録されていない6,000万人の子供たち

今、世界には11億人もの「見えない人たち」がいると言われています。これらは正式な出生登録がなされていない人たちで、その3分の1に当たる3億6,600万人が子どもたちだそうです。出生登録されていない、ということは、彼らが医療や教育、司法といった公共サービスの網から漏れ、人身売買をはじめとする搾取の格好のターゲットになってしまうことを意味します。

そしてパキスタンには6,000万人もの「見えない子供たち」がいるそうです。3億6,600万人のうちの6,000万人、というのは結構な数で、解決はほぼ不可能に感じますし、これを解決すれば、そのアイデアは世界中の見えない人たちを救いうるソリューションとなります。

今回はデジタル技術を駆使して、その解決に取り組んだパキスタンの通信会社Telenor Pakistanの取り組みをご紹介します。以下の事例紹介ムービーをご覧ください。

(ちなみにこちら、世界のクリエーティビティの祭典、カンヌライオンズのメディア部門とモバイル部門で今年、パキスタン初となるグランプリをダブル受賞した取り組みとなります。)

デジタル出生登録で「見えない子供たち」を救う

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【雑和訳】「出生証明書とは、誰もが持っているはずのものですよね?ーいいえ,違います。パキスタンにいる6,000万人以上の未登録の子供たちにとっては。そしてそれを持たないことは、彼らが一生、医療や社会保障、公共教育の提供から外れ、児童婚や児童労働に対して無防備になってしまうことを意味します。

(証明書発行の基礎となる)出生登録率の低さは、社会的、経済的要因により引き起こされます。特に、都市部から遠く離れた山村の自宅で生まれた子供たちや、避難民の子供たちにとって登録はほぼ不可能な状況です。

そこで、出生登録へのアクセスを改善するために、私たちはパキスタン第2のモバイルネットワークを持つ通信会社Telenorとコラボレーション。デジタルによる出生登録を促進するイニシアティブを開始しました。

権限を与えられた各コミュニティのリーダーやヘルスワーカー、医療スタッフたちが出生の情報を登録し、報告するシンプルなアンドロイド対応のアプリを開発。アプリでは加えて、両親のIDや住所、電話番号など、子供たちにとっていくつかの基礎となる情報の登録も行いました。

送られた出生登録のデータは権限を与えられた政府のスタッフにより確認、承認されます。そしてそれは、子供たちにとって出生証明書を受け取るための法的な道筋となるのです。」

[*西側主要メディアによる称賛の記事がいくつか入る]

「この取り組みにより、パキスタン国内の426の遠隔地の山村に住む、120万人の子供たちが社会から”見える状況”になりました。そして彼らは人権の基礎となる、最も根本的なものを手に入れたのですー未来への希望を」

官民連携の可能性を示すショーケース

いかがでしたでしょうか?確かにこの取り組みには、世界中が見聞きした瞬間に驚いてワッ!と湧き上がるような鮮やかなアイデアはありません。

ただ、これを実現する上でのTeleorの地道な努力(このソリューションを実現するまでに同社は2014年の試験運用以来、何年も試行錯誤を重ねていたそうです)と、各地のコミュニティリーダーから地方-中央政府までを見事に繋いで、絵空事ではなく実際の成果に結びつけたところに、その場限りのプロモーションではなし得ない凄みがあると感じました。

ムービーにはありませんでしたが、パキスタン政府はこの成果を受けてこの登録システムの対象エリアをさらに36地域、拡大する計画を立てているそうです(さらにはミヤンマーでも同様の取り組みが行われるそうです)。

そして何より素晴らしいのは「Telenorがパキスタンにポジティブな影響を与える会社である」と答えるパキスタンの人が、この取り組みにより12%も上昇したこと。…汗をかいたものが報われる。やはり世の中は、こうでなければいけません。

またデジタル技術がものすごいスピードで進化する中、官がそれを先取りして住民たちにソリューションを提供する、というのはなかなか難しいと思います。それを考えると、進取の精神に富む民間企業のアセットを柔軟に取り込んで地域の暮らしの質を爆上げさせたこの取り組みは、日本の官民連携のありようを考える上でも大いに参考になる事例だと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。

それではみなさん、また来週!

つい募金したくなる「人間心理」のスキを突いた見事なアイデア

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Photo by Katt Yukawa on Unsplash

人は黄金を作ることはできないが、カネを生み出すことはできる

今、夢中になっている本があります。「Alchemy:The Magic of Original Thinking in a World of Mind-Numbing Conformity(邦題:欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング)」という本なのですが、必ずしも論理的ではない人間心理を操ることで、大きなビジネスチャンスを作り上げてきた事例(=ゴールドではなく、カネを"錬金"した事例)が満載で、毎日数ページずつですがゆっくり楽しみながら原著を読んでいます。

市場調査でコーラよりも圧倒的に不味いと出た炭酸飲料を、あえて高く売りつけることで世界的に業界2番手のシェアを確立したレッドブルの事例から、戦争の費用を捻出するために、鉛のアクセサリーを「国家貢献の証」として社交界で流行らすことで貴婦人から宝石類の寄付を集めたプロシア国の事例まで、目から鱗の事実が盛り沢山なのですが、今回は将来、この本に続編が出たら事例として掲載されそうなアイデアをご紹介します。

オーストラリアの遺伝子医療(ゲノミクス)の研究所が、難病の克服に努める彼らへの募金を呼びかけるために行ったキャペーンです。それでは以下の事例紹介ビデオをご覧ください。

Disease Dilemmas(病気のジレンマ)

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【雑和訳】「私はブライアンです。7年前、パーキンソン病と診察されました」「私はキャサリンです。2018年の7月に膵臓がんだと診察されました」[タイトル:あなたはどちらに募金をしますか?]

司会者「いろんな募金先がある中で、あなたならどちらの医療費に募金をしますか?」[タイトル:Disease Dilemmas(病気のジレンマ) byガーヴァン医療調査研究所] ”この問いは、ガーヴァン医療調査研究所による新しいキャンペーンの根幹を成すものです”

「いい1日って、今日も真面目に頑張るぞ、と目覚められる日じゃないかなって思います。そんなふうに朝起きれたら、その日は私は昏睡状態に陥らずに済んだ、ということですから」「一番辛かったのは、子供たちに自分ががん患者だと伝えることでした。あれは辛かった…」

「私はキャンディスです。私は1型糖尿病です」「私はアンドレアです。骨粗鬆症に苦しんでいます」「私のように、3〜4、6ほどの病気があなたや、あなたの家族を見舞うかもしれません。あなたは全てを救いたいと思うはずです」

「そこが、ガーヴァンのゲノミクスの出番なのです」「ガーヴァンは私に多くの望みを与えてくれました。彼らは常に、患者たちに遺伝子工学を駆使して選択肢を与えようとしてくれるのです」「私はずっと、ガーヴァン研究所への感謝を忘れることはないと思います。彼らのリサーチが文字通り、私の命を救ったのです」

「遺伝子に関する病気で苦しみながら親たちが亡くなっていくのは辛いことです」[(このキャンペーンは)8,700万インプレッションを獲得][ウェブサイトへのトラフィックは61%向上][キャンペーン期間中、合わせて1,900万ドルが寄付された]「でもそこで、他の選択肢があるという希望が持てるよう、積極的に活動してくれる人がいるということは本当にありがたいことです」
[タイトル:あなたはどちらに募金をしますか?]

[でも、一度に両方を救える募金先があるのです]

[(それは)ガーヴァン医療調査研究所]

無視できない「問い」の前に、人の心は惹きつけられる

いかがでしたでしょうか?通常、街を歩いているときに看板やポスターなどで「難病の人を救ってください」というメッセージを振りかけられても、人々は「ああ、またこの手の募金か」と即座に判断して、興味を遮断してしまうことでしょう。

なぜなら私たちはこれまでの経験で、そういった募金があまりに多すぎて、対処してもキリがないことを学んでしまっているからです。そこでこのキャンペーンを考えた人は「遺伝子工学で広範囲の難病の治療に貢献している」というこの研究所の特徴に着目して、押し付け型のメッセージの代わりに、「難病Aと難病B、どちらの患者を救いますか?」という難題を、屋外広告にありがちな笑顔からはかけ離れた、深刻な患者たちの表情とともに人々に投げかけました。

幾千とある「この手の募金」とはかけ離れた突然の問いかけに街ゆく人々の興味は遮断できません。「え、なになに?」と興味を惹かれ、同時に「えーと…でも、膵臓がんの患者と乳がんの患者、そもそも病気の種類で人の生き死にを区別して良いのか…。なんなんだこの広告は?」と思ったところで「両方救える募金の方法があるんです」とガーヴァン研究所への寄付が訴えかけられる。

その瞬間、すでにあなたはこのキャンペーンの考案者のトラップにハマっているのです。すぐに募金まで行き着くかどうかはその人次第ですが、あなたは少なくとも、ガーヴァン研究所がどういう組織であるかまでは学んでいることでしょう。

情報の洪水の中、人々を振り向かせるのは「人間の芯」をついたメッセージ

インターネットの発達でただでさえ情報量が爆発してしまったこの社会で、人々の脳の仕事は「いかに有益な情報を獲得するか」から「いかに無駄な情報を遮断するか」に変わってきてしまっています。

ここ10年で人々の脳に分厚く築き上げられた「遮断の壁」を越えるには、ターゲットとなる人々の誰もが納得するメッセージを見つけ、そこを突かなければなりません。その意味で「もしも究極の状況におかれた場合、誰を生かし、誰を殺すのか?」という、誰もが何回かは考えたことがあり、できれば避けたいと感じている問いを起点にキャンペーンを作り上げた点は本当に見事だな、と感心しました。

いやぁ、アイデアって本当にイイもんですね。

それではみなさま、また来週!

 

<参考資料>

「欲望の錬金術 伝説の広告人が明かす不合理のマーケティング」リンク先

www.amazon.co.jp

地中海から難民は消えていない

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Photo by Tanjir Ahmed Chowdhury on Unsplash

自由を求め、今も漂い続ける難民たち

地中海の美しい海岸線に打ち上げられた、小さな子供の亡骸…。ショッキングな写真が世界中に広まった2010年代の中頃、世界の耳目は中東・アフリカ地域の紛争国からヨーロッパへと移動する難民に注がれていました。

しかし今はどうでしょう。彼・彼女たちに関する報道も、ネットの人たちの間の論争もなくなり、あたかもISISの退潮とともに難民たちも消え去り、地中海に平和が戻ったような錯覚を覚えます。

しかし事実は全く異なり、国境なき医師団によると、2021年5月13日の段階で「今年に入って地中海中央部を横断しイタリアに到着した人の数は約1万3000人に上ったが、少なくとも555人が死亡または行方不明となっている」そうです。

prtimes.jp

しかも 難民のヨーロッパへの流入を減らすために、今ではなんとEUが、同地域の主要な紛争国の一つであるリビア沿岸警備隊を支援。彼らの手で捕らえられた難民たちは人権が抑圧された収容所で、厳しい暮らしを予備なくされているそうです。

地中海で難民を救う民間団体SeaーWatch.org

人権についてのEUのダブルスタンダートの是非はさておき、こんな状況の中頑張っているのが民間の団体「Sea-watch.org」。彼らは人々の募金により、地中海に船や飛行機を派遣。難民たちの救助・支援活動を続けています。

そこで今回は、人々の関心の低下が募金額の低下に直結する中、なんとかこの問題への関心を取り戻してもらおうと、彼らが実施した取り組みをご紹介したいと思います。

世界のクリエイティビティの祭典、カンヌライオンズのアウトドア部門で金賞を受賞したアイデアです。それでは例によって、雑な和訳とともに紹介ビデオをご覧ください。

LIFEBOAT-The Experiment (実験:救命ボート)

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【雑和訳】[難民はいらない]ポーランドの司会者:”ダメダメダメ。私たちへ絶対受け付けません” その他司会者”地中海の難民””事態はコントロール不能になっています”「あらゆるヨーロッパの人々が難民について語ってきました。ただし、間違った理由で」

”絶対に来ないでほしい””イタリアがアフリカを受け入れることはない”「政治やメディアは、それぞれの野望を果たすためにこの状況を利用しました。しかしそうすることで、もっとも大切なことを忘れてしまったのです」

国連難民高等弁務官"これは難民の数の問題ではないのです。人命の問題なのです。"「この問題に関する人々の議論に人間性を取り戻すべく、Sea Watchは人々の視点を大胆に変える取り組みを行ないました」「LIFEBOAT-The Experiment (実験:救命ボート)」

「実際に地中海を渡った難民たちの証言をもとに、難民たちが脱出の途上、地中海で体験したあらゆる状況を再現するシミュレーターを設営」難民”屋根もなく…””食べ物もなく…””めちゃくちゃに揺れて…”

「我々はヨーロッパ社会を構成する人々の代表として、40名のあらゆる年齢やジェンダー、職業の参加者を招聘。彼らに、難民が地中海で体験したことの一端を体験してもらいました」「5時間に亘り、彼らは恐怖や飢え、ストレスと不安を体験。その後、この難民危機の実際の一面を視聴してもらいました」

参加者A”(シミュレーターなので)安全なのは分かっていたけど、中には泣き出す人もいました。パニックになる人もいましたね”参加者B”とても怖かったです。いつでもボートから飛び降りることはできたのですが…”

「統合的なPRキャンペーンが、この取り組みの周知を後押し。さらに同名のドキュメンタリー・ショートフィルムがアカデミー賞のノミネート監督であるスカイ・フィッツジェラルド監督によって制作された」スカイ・フィッツジェラルド監督"もしこの経験が、たった一人の難民問題に対する物の見方を変えただけだとしても、それは十分、意義深い成功だと考えています”

「結果、この試みに関する1,000以上の記事が作られ、5億近い人々にリーチした。そしてそれは、難民問題に関する論争に欠けていたものを取り戻したのです」”人間性””人間性””人間性””人間性” メルケル首相"海上救助は人間性に基づくものです。以上" [Sea-Watch.org]

いかがでしたでしょうか?しかしこの2分間のムービーだけでは、この実験の実際がわからないかもしれません。興味を持たれた方は、以下のムービーをご覧いただくとこの実験の過酷さをよりリアルに感じられることと思います。

実験の様子をより詳しくまとめたムービーはこちら

www.youtube.com

今、多くの企業が気候変動に夢中になって我も我もとネットゼロを叫んでいます。とても大事なことではありますが、一方で忘れられがちなのはSDGsの思想の根幹をなす「誰も取り残さない」という部分です。

いくら気温上昇をうまく抑えたとしても、どこかの誰かの苦しみを放置して平然としていられる、人間性の欠けた世界のままではとてもではないが世界が良くなったとはいえない。そんな戒めを与えてくれる取り組みだと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

共感への入口を作る:アニメーションの力作2点

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Photo by Phil Shaw on Unsplash

身の回りに隠れた問題をあぶり出すアニメーション

ハロウィンが終わった途端にいろんなお店で早くもクリスマスソングが流れ出しておりますが、まだまだ続きますクリエイティビティの祭典・カンヌライオンズ2020/21受賞作品のご紹介シリーズ。今回は私が6年前に審査員を務めたこともある(懐かしい!)同賞のウェルス&ウエルネス部門で金賞を受賞したアニメーションを使った2作品をご紹介いたします。

まず最初は、白人社会にマイノリティとして生きるアフリカ系女性の葛藤を描いた作品「SKIN DEEP」です。高校時代、水泳大会で白人の相手から言われた心ない一言によるトラウマから、その克服までを描いたストーリーです。このムービー、総尺8分13秒のうち頭の30秒が活動家のコメント、そしてお尻の何と5分がスタッフリストなのでそんなに長くはありません(笑)。

SKIN DEEP(素肌の奥、深く)

vimeo.com

水泳大会で打ち負かした相手から「くたばれ、もじゃもじゃ女」と言われて、それをコーチに訴えても「そんなことは言うような子には思えないけど」という一言で救われず、闇堕ちしていく女の子。彼女を、これまでに受けた様々な差別や偏見が襲います。

もがき苦しむ中、彼女よりももっと厳しい差別を受けてきただろう世代の母親の声が救います。「私もずっと、あなたと同じような状況で生きてきたのよ。これからもこういうことはずっと続くのよ。でも挫けないで。あなたのそばにはいつも私とお父さんがついてるわ。」

そこに、高校時代の水泳のコーチが今の世界線に移って語りかけます。「そんな言葉に負けないで。次の戦いに集中するのよ。」そして、今や25歳になった彼女の目に自信が再び宿るのでした。

最後のメッセージは「この話は、実話にインスパイアされたムービーです。人種に由来するトラウマ的ストレスは本当に起きている話なのです。傷ついた人々の心は、リアルなのです。」というような意味です。

Two Monsters in My Story(2匹の怪物の物語)

続いては、フランスの活動団体がアニメで訴えた、家庭で起きている「児童への性虐待」と、それに対する社会的制度の矛盾を炙り出したアニメーションです。

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子供が語ります。「僕の家には、2匹のモンスターがいる。1匹はクローゼットの中。もう1匹はすぐそばにいる、よく知っている顔をしている(←お父さんのこと)。」そして夜、その子を襲いにくるお父さんという名のモンスター。

男の子は、クローゼットの中のモンスターに助けに出てきてくれることを願いますが、出てきてくれません。恐怖で何も言えない少年。虐待の被害に遭った後、勇気を出して少年はクローゼットを開け、中のモンスターに語りかけます。「何で助けてくれなかったの?」すると中のモンスターは子供に話しかけるのです。「君はお父さんに”嫌だ”と言いましたか?」

そこに衝撃的なメッセージが流れます。「フランスの法律では、子供の性的虐待の被害者は、自分が同意しなかったことを証明する必要がある。」

つまり、クローゼットの中のモンスターは、フランスの「法制度」を暗喩していたわけです。このように被害者の心理を汲み取らない状況を放置している法曹界は、虐待を繰り返す犯罪者と同罪だ、ということを訴えている、かなり辛辣な内容であることがわかります。

アニメには、無関心の鎧を潜り抜ける力がある

2作品とも、アフリカ系の人々や子どもたちなど、マイノリティが抱える辛い状況をアニメーションならではの表現で人々に伝え、「わかるわかる、それは辛いだろうなぁ」と共感させたところで最後に訴えたいメッセージを言葉で突き刺すという、見事な構成となっています。

宮崎アニメを観ていてもいつも思いますが、質の高いアニメには、実写ではなかなか実現できない、概念と実存が入り混じった「頭の中で描いたもの」を表現し、人の心を動かすことができるという、とてつもない特長があります。そして質の高いアニメの底にはいつも、強いメッセージがあります。

強いメッセージがあるのにうまく伝えられない時の表現手法としてのアニメーションに、アニメーション大国を誇る日本の我々も、もっと注目していいのかもしれませんね。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

国が認めた、世界初の”募金用コイン”

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Photo by Steve Johnson on Unsplash

募金活動の改善を、根本から促すコペルニクス級アイデア

11月に差し掛かろうとしております。年末というと昭和生まれの私は歳末助け合い運動を思い出しますが、コロナを克服した後にはまた街角で、募金箱を持って活動に勤しむ人々が増えてくるのかな、と思います。

そこで今回は、日本でも活用すればきっと、募金活動の大きな助けになるのではないか?というアイデアをご紹介します。

今年の6月に行われたクリエイティビティの世界的祭典、カンヌライオンズのダイレクト部門とアウトドア部門で金賞を受賞したアイデアです。それでは、ご覧ください。

募金用1ドルコイン(Donation Dollar)

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【雑和訳】「デジタルの進化は、通貨の価値を永遠に変えてしまいました。不幸にも、人々があまり硬貨(コイン)を持ち歩かなくなったというのが、想定もしていなかった結果の一つといえるでしょう。

オーストラリアでは多くのチャリティが、多くの障がいを持つ人たちと同様、コインによる募金を頼りにしています。社会の一員として、我々はコインがどのように活用されるべきかについて、再考する必要がありました。紹介しましょう、”募金用1ドルコイン(Donation Dollar)-世界初の消費ではなく、募金のためにデザインされた合法的通貨”。

王立オーストラリア造幣局で作られたこのコインは、オーストラリアの人口一人当たりに1枚、合計2500万枚鋳造され、流通する限り何度も何度も、国民に募金への呼びかけを行うリマインダーとしての役割を果たします。コインの寿命は30年。コインが行き渡るにつれて、そのインパクトが明らかになりました。

2020年の国際チャリティ・デーに流通を開始。このコインは、我々には助けを必要としている人を助ける力があるのだ、ということを日常的に知らせてくれます。結果、このコインは5万以上のオーストラリアのチャリティ団体やセレブリティ、そして国中の人々に支持されました」

”このコインは、助けを必要としている人をサポートすることの必要性を思い出させてくれます”、”このコインを手に入れたら、犬の募金箱に入れない手はありません。この1ドルが違いを生むのです”「人々の寛大な心を、未来の世代のために刺激しました」”*様々なニュースアンカーたちのコメントが入る

[オーストラリアの人口の89.9%にリーチ/ 99.9%がポジティブに反応/ 最初の2ヶ月で53.3%が募金][このコインの1枚が1ヶ月に1度募金されるだけで、年間3億ドルの募金がチャリティ団体に追加で入ることになる。コインの寿命が尽きる頃には、その総額は90億ドルになる-オーストラリア財務省

「募金用1ドルコイン(Donation Dollar)-変化をもたらすための、小さなコイン」

募金側では解決できない問題を「お金」の概念を変えて克服

いかがでしたでしょうか?このブログでもこれまで、(下にリンクを貼っておきますが)様々な団体が、募金やチャリティの金額を上げるために繰り出してきた、様々なアイデアをご紹介してきました。

募金箱の改善や募金の仕組みの工夫、デジタルの活用など、本当に目鱗のソリューションばかりなのですが、今回のような「お金の側」、つまり、いわば”胴元側”に手を加える、というアイデアはおそらく今までにないアイデアかと思われます。

このビデオの冒頭でも語られていた通り、デジタルの浸透により20世紀の常識がどんどん過去のものとなっています。未来の人々が振り返って見たときに、今という時代は、またとんでもなくラディカルな時代なのかもしれません。

これまでの思い込みや縦割りに臆することなく、組織と組織が壁を破壊し、手を取りコラボレーションすることで私たちの可能性は無限大に拡がるのだ、ということをこのアイデアは力強く示してくれています。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

【巻末付録】募金に関するアイデア

wsc.hatenablog.com

wsc.hatenablog.com

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アンデスの子供と母親たちを栄養失調から救う「デザインの力」

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Photo by Blaine McKinney on Unsplash

 

リラックスムードの週末に、ほっこりとするアイデア

2021年10月22日現在、東京では新型コロナウイルスの新規感染者数も大きな減少をみせ、街をゆく人々の姿もそこはかとなくリラックスしているように見えます(そもそも1年以上、リモート勤務を続けてきた自分が街ゆく人々を見ていること自体が事態の沈静化を物語っています)。

次の波がいつ来るのか、来ないのか?やれることはやりつつ、結局全ては天に委ねるしかないのですが、社会の小休止ムードに合わせて、今回は世界のクリエイティビティの祭典、カンヌライオンズの今年の受賞作からほっこりするアイデアをお届けしたいと思います(ヘルス&ウェルネス部門/ダイレクト部門金賞受賞)。

先週に引き続き「デザインの力」が際立つアイデアなのですが、前回とは対照的に今回は”超”アナログな取り組みです。アンデスの色彩と音楽、オーガニックな風景にのせてまるで秋の高い青空の下、峠のてっぺんで深呼吸するような気持ちでご覧ください。

Mother Blanket / 母親たちのための毛布

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【雑和訳】[南米では、3人に2人の子供が栄養失調に苦しんでいる(2020年 WHOの報告より)]「エクアドルアンデス地方では、30万人以上の子供たちが慢性的な栄養失調と戦っています。孤立した集落に住む彼らにとって、定期的な検診を受けることは難しく、ときには文化的な違いや、現代の薬への不信がその困難に輪をかけることもあります」

「このような健康上の問題は多くの場合、親も気付かぬままに進行し、不治の病や、ときには死に至ることさえあります」小児科医のマリアさん”ここでは、子供が発育不良を起こしています。母親たちは子供がふっくらしていればしているほど健康だと思い込みがちですが、そうではないのです。子供の肉体的成長に関する正しい基準は、体重ではなく、身長なのです”

[Mother Blanket ]「母親たちのための毛布」「母親と子供たちを繋ぐ文化的象徴である現地の毛布"sikinchi"に着目した私たちは、この毛布を小児科の検診に活用できるものに変えました」「女性の毛布編み士と力を合わせて、我々はWHOによるガイダンスに基づく子供の2歳までの適切な身長変化を、視覚と現地の言葉で理解できる毛布のデザインを開発」

「これらの毛布は各地のコミュニティセンターで母親たちに提供されました」「そこでは同時に、子供たちの肉体的な健康をモニターするためのトレーニングが行われました」「それにより、母親たちはどんなに離れた場所に住んでいても、自分で我が子の健康を継続的にチェックすることができるようになり、成長に異常を感じた時はメディカルセンターで受診をさせるべきかどうか、自分自身で判断できるようになったのです」

[これにより、1万5千件以上の慢性的栄養失調が判明][トレーニングを受けた母親たちの70%が我が子の3歳児検診を受診]国連のイヴァンさん”国連では、栄養失調の解消を大事な使命だと考えています。そして我々の文化をこのように活用することは、とても素晴らしいアイデアだと思います”

「今日では、アンデスの母親たちは何世紀も続いた伝統(sikinchiのこと)とともに、とても自然な形で子供たちの成長を正しく把握することができるようになりました」[Mother Blanket ][Vivir & CCPDA ]

デザインと機能性が、土着のカルチャーと見事に融合

いかがでしたでしょうか?1枚1枚の毛布のデザインについては以下のリンク(↓)からご覧いただけますが、現地の作物や動物など、住民に馴染みのあるアイコンと、子供を計測するためのメモリが自分も思わず欲しくなるようなクオリティで、見事にデザインされています。

www.oneclub.org

大切なことはデジタル、アナログではなく「役立つ」こと

社会課題の解決、というとすぐにスマホなどのデジタルデバイスを使ったソリューションを考えようとしてしまいがちですが、デジタルはやはり手段にすぎませんし、今回の毛布のような「リアルな物品」には、持っていることで満たされる土着文化への誇りや愛着など、スマホアプリでは呼び起こしにくい人間の深い感情を惹起できる強みがあります。

今の時代のソリューション考案者として一番強いのは、コピーライティングやデザイン、コーディングなどの一つの”芯”をしっかりと持ちつつ、全盛期のリアル版柔ちゃんの柔道のように、どんな体制、状況からでも常に「役立つ」、技あり一本なアイデアが出せるよう、デジタルからアナログまで、全てを状況に応じて使い分けられる知識と能力を持つことなのかな、と思います。

学びをあきらめたら試合終了

常に新しいものが生まれ続け、変わり続ける今の時代は「学びをあきらめたら試合終了」の時代でもあります。かなり厳しい時代ではありますが、本当にささやかながら、このブログがそんなみなさんの”学び”のお役に立てればと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

プラゴミを減らす新素材の魅力を最大化した「デザインの力」

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Photo by tanvi sharma on Unsplash

新素材+デザイン=革命

夏からずっと続けております世界的クリエイティビティの祭典、カンヌライオンズの受賞作のご紹介ですが、今回はデザイン部門でグランプリを受賞したアイデアをお届けします。

正直、これまで主に紹介してきた「広告」や「プロモーション」の効果を増すためのアイデアではなく、素材そのもののアイデアなので、取り上げるのになんとなく違和感を感じてこれまで避けてきたのですが、これからご覧いただく紹介ビデオを見て、この試みが受賞した理由を納得しました。

素材そのものは、どんなに機能が優れていても存在するだけでは注目されにくいですし、その結果、世に広まらなければ意味がありません。

それを人々に受け入れやすい「デザイン」で世に問うことで広めていく。そんな、デザインの力を感じさせる逸品です。これをデザイン部門のグランプリにするとはやはり、さすがはカンヌです。

NOTPLA(Not plasticをもじった素材名)

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【雑和訳】[毎年、800万トンのプラスチックゴミが海へと流出している][海は解決策を提供できるのか?][海藻][これはplastic][これはnot plastic][*not plasticの文字が素材名”NOTPLA”のロゴに変わる][パッケージという概念を消す][飲み物は食べる時代に][ジュースに][カクテルに][ソースに][分解に750年かかるプラスチックに対し][6週間で自然に消える生分解性][NOTPLAとJUST EATのコラボレーション][NOTPLAとLucozadeスポーツドリンクのコラボ][ロンドンマラソンにて、NOTPLAに入った10万パックのLucozadeをランナーたちに][その前年は65万本のプラスチックボトルが使われていた][NOTPLAとトロピカーナのコラボレーション][NOTPLAとザ・グレンリベットのコラボレーション][3億のソーシャルインプレッションを記録][パッケージを消滅させた]

全てが高いレベルでデザイン

いかがでしたでしょうか?ビデオでも紹介されていましたが、おそらく素材を開発した技術屋さん的には「どんな形や大きさでもOK!」と言いたくなるだろうところを、親指と人さし指でつまめる、あえてシンプルな四角形で統一(いろんな色のものが並ぶとちょっとお寿司っぽくもあります)。

ビデオの中では、その四角をアイコン化することで、プラスチックボトルなどのシルエットと比較がしやすい存在にしています。

そしてさりげなく取り上げられているウェブサイトやスマホサイトのデザインも統一性が取れています。そして何より、ビデオ自体がとても良いです。

私はデザインの専門家でもなんでもないですが、そんな私でも「なんか良さそう」「試してみたい」「使ってみたい」と思わせるオーラを、素材自体のポテンシャルとデザインの相乗効果が最大化させています。

いやぁ、アイデアって本当に本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!