世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

スポーツの力をドナー数向上に結びつけた素晴らしい試み

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Photo by Joshua Hanson on Unsplash

今日は、このブログですでに取り上げていたと思い込んでいて、実は紹介し忘れていたアイデアについてご紹介いたします。

 

先週、仕事の調べ物でポッと出てきまして、明日閉会を迎えるオリンピックのタイミングなども考えると、ネタ的にも今回出すのがちょうどいいのかな、と思い棚からひとつまみさせていただきました。

 

ちなみに2013年のカンヌライオンズ、プロモ&アクティベーション部門のグランプリ作品です。

 

自腹で仲間とカンヌに行って、相部屋のボロアパートからカンヌ映画祭と同じゴージャスな授賞式の会場に行き、みんなでわーすげーと眺めていた頃の思い出がよみがえる、個人的にも感慨深い逸品です。

 

題名は「Immortal Fans(不死のファンたち)」です。では、ご覧ください。

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【雑和訳】スーパー文字:レシフェ・スポーツクラブスタジアム/ 女性のファン「私たちが最高のファンです。他のチームのファンとは比べ物にならないわ!レシフェが全てなんですもの!」 

スーパー文字:レシフェ・スポーツクラブは、ブラジルの中でも特に熱狂的なファンを持つ/男性のファン「一番が神、二番がレシフェ、家族がその次で、仕事は最後!」スーパー文字:彼らは、永遠にファンでありたいと願っている。そして、今ではそれが可能だ/ タイトル:Immortal Fans(不死のファンたち)/

スーパー文字:チームのサポーター向けに作られた、初めての臓器移植のドナーカード/ ファンたちは臓器提供への同意を示すドナーカードをスタジアムやFacebook、郵送で受け取ることができる/ 私たちは、統合的なキャンペーンを実施/ 実際の臓器移植を待っている人たちのリストも公開した/

角膜移植を待つアドリアーノさん「(死後、角膜を提供してもらえたら)私は、あなたの目がレシフェの試合を見つめ続けることを約束します」肺の移植を待つルイズさん「あなたの肺がレシフェのために呼吸し続けることを約束します」心臓の移植を待つマーレイドさん「あなたの心臓がレシフェのために鼓動し続けることを誓います」

スーパー文字:我々は、家族以外の人たちのために臓器のドナーとなる動機を創った/ そうすることで我々は、臓器移植を希望する人たちにとっての障壁を壊したのだ/

現地ドネーションセンターのカリーナさん「現在、臓器移植のカベとなっているのがご家族の同意です」

スーパー文字:このドナーカードには、ファンの家族たちの臓器移植に対する同意を記載。発行枚数は51,000枚を超え、その発行数は今も伸び続けている。 

ファンたちの声「これで俺はもし死んじゃってもレシフェのファン。レシフェは俺の魂だ!」「もし僕の肺が他のチームのファンに移植されても、その人はレシフェを呼吸するんだ!」レポーター「このキャンペーンは彼らのスタジアムの観客数を超える51,000枚のドナーカードを発行するなど、素晴らしい成果をあげています」

スーパー文字:ドナー数は1年で54%の増加という、これまでの歴史を更新する成果を残した/ 外科医のフェルナンドさん「このキャンペーンがドナー数の増加をもたらしたのは確かですし、心臓の臓器移植を待つ患者がゼロになった要因であることに疑いの余地はありません。」

スーパー文字:心臓と角膜の臓器移植を待つ患者たちの数はゼロに/ 司会「レシフェのキャンペーンが、多くの人々の命を救っています」スーパー文字:しかし、この施策により見る力を取り戻したアドリアーノさん以上に、素晴らしい成果はない/

アドリアーノさん「糖尿病を18年患っていて、ここ5年は透析を受けていたんです。視力が戻りました。生まれ変わった気分です。」

スーパー文字:そしてまた、新たな心臓を得たジョシナさんも/

ジョシナさんの息子「医者のロドリゴさんが電話をかけてきて、お母さんのドナーが見つかったかも、と伝えてくれたんです。お母さんを連れて来れる?と言われてもちろんハイと答えました。お母さんがまだ生きていてくれて、本当に嬉しいです」

スーパー文字:彼らは不死のファンたちから臓器移植を受けた人々の一部に過ぎない。

女性「私の心臓はレシフェのファンからもらったもの。そしてそれはレシフェのために鼓動し続けるの!だからね、レシフェのファンは登録して!この動きを次に繋げるためにも登録者を増やし続けていきましょう!」

ファンの横断幕が広がる:全てをレシフェのために。たとえ死んだとしても。

 

いかがでしたでしょうか?スポーツが持つ「立場を超えた”ファン”という共通項でコミュニティを作り上げる力」と、それに付随する「俺のチームへの愛はあいつよりも深い!」という「ファンの忠誠心を競いたい心理」をうまく利用したかなり賢い施策だと思いました。

 

もし自分がレシフェの熱狂的ファンだったとしたら、「自分の臓器を他のファンにシェアする」という行為は多分「チーム名やロゴの刺青を自分の体に入れる」行為のエクストリーム版のような気持ちでちょっと危険だけど、魅力的な行為として受け止めるでしょうし、ファン仲間の何人かにカードを見せつけられた日には、きっと登録してしまうだろうと思います。

 

そしてこの素晴らしい成果。8年の時を超えて改めて、取り上げて良かったと思えるキャンペーンでした。

 

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

コロナ下、隔離された老人たちに「声」と希望を与えたナイスアイデア

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Photo by Jason Rosewell on Unsplash

今週もまだまだ続きます、世界的クリエイティビティの祭典カンヌライオンズ2021&2021受賞作品からの棚からひとつかみ。今回はラジオ&オーディオ部門でゴールドライオン(金賞)を受賞したこちらの感動的なアイデアを雑な和訳を添えてご紹介します。

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【雑訳】ニュースの声:このパンデミックにより多くの老人が孤立し、訪問者と会えないでいます。文字:孤独は老人をアルツハイマーや衰弱へと導く。 老人用居住施設ブリッジ・シニア・リビングは住民たちのこの”孤独との戦い”をどのようにサポートすることができるのか?" 検索ワード:rediorecliner.com(ラジオ・リクライニングチェア.com) "DJカラオケ・カウボーイ「屋根をぶっ壊したくなかったら、音量を上げるなよ!ブッ飛んだピンクフロイドの曲をお届けします…」♪ラジオ〜リクライニングチェア〜♪  我々は、年金受給者たちによる海賊版のラジオ局です! メディアの人々「ラジオ・リクライニングチェア?」「その通り!ラジオ・リクライニングチェア」「新しいオンラインのラジオストリーミング局です!」「年金受給者たちがDJに」 文字:DJは50人以上! 文字:”DJカラオケ・カウボーイことボブ・コールマン” ”DJ法律ことマイケル・ニューサム” ”イカしたハット(帽子)のDJハッティことハッテイ・マイルス” "DJブープスキーことメアリー・リー・ジル" 流す曲は…「ファレル・ウィリアムスの”Happy”」「天国への階段」「♪ぺギー・スー…夫がこれを歌ってくれた時は心がとろけたわ…」「この曲をお医者さんや看護婦たちに捧げます」「娘のエイミーとテリーに」「最高の孫たちに」 娘「父の声を聞いた時は泣きそうになったわ。この番組は彼が社会とつながり続ける支えになったと思います」 文字:誰でもDJたちに電話でメッセージを送ることができます。リスナー「この曲を私の母親にささげたいと思います」「おばあちゃん、愛してるよ〜」ドリー・パートン「このラジオ局のDJとすべての番組に大きな声援を送りたいと思います!」文字:認知症ケア中のDJや、ホスピス中のDJも、すべてのDJが感動的なアドバイスをお届けします。「こんなウイルスに負けないで!」「毎朝、朝日は登るものです」 メディアの反響「これは心に希望を与えるワクチンと言えます」「わぁ、このアイデアは感動で泣きたくなりますね。」 文字:アーンドメディアでのインプレッションは600万ドル以上。メディアの予算は0。世界中で孤独を絆に変換。メディアの声「もうラジオ・リクライニングチェアに入社したい!」文字:ラジオ・リクライニングチェアのDJたちの物語は、米議会の図書館に永遠に収蔵されることなりました。「DJかわいいズボンです。聞いていただき、誠にありがとうございます。皆様との時間は、本当に楽しかった…」文字:rediorecliner.comでお聞きください。

いかがでしたでしょうか?

少し話は変わりますが、実は私が勤めている会社も1年以上リモートワークを続けておりまして、その過程で気になってきているのは、オンラインで発信しないやできない人が取り残され、どんどん孤立していってしまうことです。

「誰も自分のことを見ていない」という気持ちは自己否定や無力感に直結するのかな、と思います。そういう意味でも、老人たちにこうした発信の機会を作ってあげることは素晴らしいことだと思いますし、翻って自分自身も老若男女問わず、周りに孤立しそうな人たちを見かけたらこういったアイデアで発信の機会をシェアするよう心がけたいな、と強く思いました。

(また参考までに、同じく老人に発信の機会を与えることで彼らに生きる自信を与えた素晴らしい英会話教室のアイデアを↓こちらにリンクしておきます。)

wsc.hatenablog.com

いやぁ、アイデアって本当にイイもんですね。それではみなさん、また来週!

マインクラフト、人々の「知る権利」を守る

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Photo by Pan Yunbo on Unsplash

早くも1ヶ月前の話になってしまったクリエイティビティの祭典カンヌライオンズですが、これからもしばらくは週1のペースでその代表的な受賞作のご紹介を続けていこうと思います。さて今回ご紹介するのは、同賞のPR部門とデジタルクラフト部門で見事金賞を獲得した壮観な取り組みです。

言論の自由の擁護を目的としたジャーナリストたちによる非政府組織、国境なき記者団。彼らがあらゆる国の人々の「知る権利」を守るために行ったこととは…

 

世界中のどこからでもアクセスできる大人気オンラインゲーム「マインクラフト」の中に、政府により封殺された言論を自由に読むことができる図書館を作ることでした!

ということで、詳しくはこちらの解説ムービーをご覧ください。

www.youtube.com

【雑和訳】マインクラフトーそれは、何百万もの人々が楽しんでいる、ブロックで自由に世界を作れるゲーム。報道の自由が抑圧されている国々にも、制限のない自由を。「検閲、妨害、査察、そして極端に制限の強い法律。」「中東の報道の自由はここ数年、最悪のレベルとなってしまっています。」国境なき記者団提供、”検閲のない図書館”。さまざまな政府により検閲された記事が、ここでは検閲されていない本として所蔵される。ここに入れない人はいない。たとえ、弾圧の厳しい国に住む人々であっても。「ユリア・ベレゾブスカイアです。grani.ruというサイトを運営していますが、ロシア政府にブロックされています。」ー"見込みのない戦い" 著者 grani.ru 「ニュエン・ヴァン・ダイです。ベトナムのニュースブロガーなのですが、禁錮15年の判決を受けました。」ー”ベトナム共産主義体制の反革命的性質” 著者 ニュエン・ヴァン・ダイ「ハティス・センギスです。(サウジアラビア総領事館内で暗殺されたと見られるジャーナリスト、)ジャマル・カショギのフィアンセです。」ー”中東に最も必要なのは表現の自由” 著者 ジャマル・カショギ ジャーナリストたちのための、安全な場所。次の世代と繋がるために。「言論の自由は大切です。なぜなら若い世代に、世界を取り巻く政治の実態を知らせる必要があるからです。」ジェームス・デラニー(マイクラのブロッククリエイター)「検閲のない図書館は、マインクラフトを使った大胆な試みです。このゲームや、それが生み出したコミュニティの素晴らしさを具現化しています。」検閲を克服するための、オープンな場所に作られたオープンな図書館。「この壮麗な図書館を見たとき、これこそまさにやるべきことなのだと悟りました。」「世界中の人々に、この自由な情報にアクセスして欲しいと思います。」「検閲と戦う唯一現実的な方法は、検閲されたものをシェアし、広めることなのだと思います。」この戦いにサポートを。この動画にシェアを。#TRUTHFINDSAWAY (#真実は道を見つける) uncensoredlibrary.com

いかがでしたでしょうか。カンヌライオンズでPR部門を取っただけのことはある、みんなに広めたくなる衝撃的な試みですよね?

そして、上のムービーではあまり紹介されていなかったこの図書館の内部については、以下のムービーでご堪能いただけます。言論を抑圧している国ごとにデザインされたホールが美しい、建物としてもかなり素晴らしいものとなっております。この試みがPR部門だけでなく、デジタルクラフト部門という、デジタルを使った技巧の素晴らしさを評価するカテゴリーでも金賞を受賞した理由がよ〜くわかる、日本のユーチューバーによる紹介をお楽しみください。

www.youtube.com

言論の自由の本質を理解せず、「インテリにいちいち面倒くさいことを言わせるな!」とその封じ込めを応援する人々もいますが、チェック機能を欠いた権威は必ず腐敗し、汚職や不正を横行させ、結局は我々の暮らしの劣化となり返ってきます。

そしてその不満を、(意のままに操れるメディアを通じた)プロパガンダで他国や社会的マイノリティへの不満にすり替えればあら不思議、あっという間に国は破滅へと向かうのです。

それに歯止めをかけるのは人間の知性。つまり、アイデアなのです…。ということで、

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

プラスチックごみによる海洋汚染、深海へ

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Photo by Uriel Soberanes on Unsplash

最近、このブログでも頻繁に取り上げている「プラスチックごみによる海洋汚染」。このままのペースで人々が投棄を続けていると、2050年には海にいる魚の量を、海に漂うプラスチックの量が上回ってしまうそうです。「そんなことがあったはならない!」と、すでにさまざまな市民団体や企業があの手この手で世界に訴え続けています(←本文のおしりにまとめてリンクを張っておきます)が、解決には人類全体の意識の底上げが不可欠で、まだまだ先は長いと言わざるをえません。

個人レベルで言えば例えば、SDGsを考える会議で「一人一人のアクションが大事」とか言いながら平気で使い捨てのプラスチックボトルの水が出てきたりします…。(これを読んでハッ、としたみなさんはぜひこの週末から、例えばマイボトルを使い始めるなど、自分なりのアクションを始めてくださいね!)

それはともかく、今年6月に開かれた世界のアイデアの祭典、カンヌライオンズでもこの問題についてまた一つ、WWF世界自然保護基金)による印象的な取り組みが高い評価を受けていました(ブランド体験&アクティベーション部門金賞)。まずはぜひ、その紹介ビデオをご覧ください。

【EURYTHENES PLASTICUS (ユーリシヌス・プラスティクス)

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【雑訳】 深海に飛び込むと、誰も見たことのないものを発見することがある。幸運なことに、新種の生物を発見すれば、その名付け親になることができる。その名前は独自性があり、適切で、記憶に残ることが求められる。どのみちその名は、歴史に残ることになる。(文字)EURYTHENES PLASTICUS (ユーリシヌス・”プラスティク”ス)(文字)2020年3月5日、アラン・ジェイミーソン博士率いる科学的チームとのコラボレーションで発見した新種について、我々はその体内で発見されたプラスチック片にちなんだ名前をつけた。「科学者たちは深海7キロメートルで新種を発見しました。しかしその新種は、我々に警告を促すものだったのです」プラスチックごみによる海洋汚染の影響は、想像よりも遥か深海に及んでいた。この事実を世に知らしめるため、WWFドイツ支部は発見した新種の名前の中に「ユーリシヌス・”プラスティク”ス」とプラスチックにちなんだ要素を入れることでメッセージに変え、地球上に住む生物の公式な分類名として登録。この行為により、この発見は歴史的な出来事となった。わずか数時間のうちにこの話題は世界中の知るところとなり、メディア予算を一切使わずして40以上の国でプラスチックごみの影響の深刻さについての議論に火をつけた。この取り組みは議論だけでなく、人々のクリエイティビティにも火をつけた。名前の発表に続いて、我々はさまざまな分野でこの取り組みに関連した施策を実行。この問題に対する、法的拘束力を持つ国際的合意を求める国連への嘆願書を作り、人々に署名を促した。これらは全て、1年半に及ぶ科学的チームとのコラボレーションの成果である。新種は発見されたのち、プラスチックによる汚染を分析され、その後に命名された。この取り組みを可能にした広告と化学の融合は、ドイツのみならず、スミソニアン博物館に教育・教訓的価値があるものとして永久展示されるなど、世界のミュージアムとのパートナーシップを通じてより一般的なものとなった。アラン・ジェイミーソン博士「(この取り組みを通じて)我々はこの星の海が、未開拓のエリアから新種を発見したとしても、すでにプラスチックにより汚染されているような状況に陥っていることに意見表明をしているのです。」

いかがでしたでしょうか?まずは深海の生物にまでプラスチックによる影響が及んでいる、という事実に着目したこと自体がインパクトフルですし、そこに発見した新種の名前に課題そのもの(=プラスチック)を入れ込んでしまうという「ひとひねり」を加えることで、この取り組みのニュースバリューが何百倍もターボチャージされていると思います。紹介ビデオの中でも言っておりますが、まさに科学と広告(的コミュニケーション技法)の見事な融合だな、と思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

 

*特別付録:夏休みの補習〜プラスチックゴミ問題・過去事例7選

wsc.hatenablog.com 

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フィンランド発・夏の世界的スポーツイベントを見事に活用した温暖化警告キャンペーン

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Photo by Mika Korhonen on Unsplash

今回も6月のカンヌ国際クリエーティブ祭で高い評価を受けたアイデアをご紹介します(スポーツ部門 グランプリ受賞!)。フィンランドの北部ラップランド地方にある小さな都市Sallaはかつて、最低気温マイナス45.3度を記録したこともある、地球上でも有数の極寒の地でした。しかし今は地球温暖化の影響を受け、2032年には平均気温が15度に上昇すると予測されています。そうなると雪だけでなく、現地の伝統文化や観光の収入源も溶けてしまう…。そう危惧したSallaは、地球温暖化を食い止めるべく町ぐるみで、現地の観光局House of Laplandとコラボレーション。とんでもないアイデアを実行してしまうのです。

なんとそれは・・・

2032年夏季オリンピックの開催地候補として名乗りを上げることでした。詳しくは以下の事例紹介ムービーをご覧ください。

www.youtube.com

【雑和訳】人間の活動は2021年の1月時点ですでに、1,495億トンの氷河を溶かしてきた。Salla-北極圏の街。最低気温-マイナス45.3度。しかし気温は上昇を続け、2032年には平均気温が15度に達すると見込まれている。オリンピックには最適の気温だ…夏季のほうのオリンピックに。「Salla 2032 -夏季五輪開催候補地」我々は世界でも有数のこの極寒都市を、2032年夏季オリンピック開催地として立候補した。実際の出馬に必要な資料も全て用意。サラ市市長による公式メッセージビデオ「フィンランドで最も寒い都市Sallaへようこそ。我々はここでみなさまをお迎えしたいと思っています。」公式ポスター/グッズ/ウェブサイト/マスコット。フィンランドのSallaから、スイスのローザンヌへ。公式プレゼン資料。公式記者会見。サラ市長「これは単なる試みではなく、我々のメッセージだ。もしSallaを救うことができたら、それは地球を救うことになる。みなさまにも是非、この動きに賛同していただきたい。」<*世界中のニュースやSNSのポストで取り上げられている様子>Sallaの人々「Sallaを救い、世界を救おう!」-世界118カ国、1,237の番組で取り上げられる。-ソーシャルメディアでの温暖化に関する会話量は879%向上 -3週間で最もツイートされた街に「Sallaを救い、世界を救おう!」House of Lapland Salla

いかがでしたでしょうか?世界中の人々に夏の祭典として刷り込まれているオリンピックはいわば世界的「夏の季語」です。そこに真逆のイメージを持つ極寒の地をぶつけることでニュースバリューを極大化させ、自分たちのメッセージを世界中に伝えた手法は見事だと思います。また、将来的には観光客の誘引にもつながる”街の知名度向上”につながっているところも見逃せないと思います。

イデアの構造的には海洋のプラスチックゴミ問題を話題化するために、海洋に漂うプラごみを「国にしよう!」と国連に訴えかけたTrash Isles(カンヌライオンズ2018 PR部門グランプリ)と同じジャンルに区分けできると思いますが、どちらにせよ両方ともカンヌでグランプリに輝くだけの取り組みだな、と思いました。

*Trash Isleについては、以下の過去記事で紹介しておりますのでご参考にどうぞ。

wsc.hatenablog.com

また、Salla2032の公式サイトへのリンクも張っておきます。個人的にはマスコットがベタでかなりツボってますw。

www.savesalla.com

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

世界に衝撃を与えた、生理用品ブランドによる”子宮の物語”

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Photo by Deon Black on Unsplash

世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index)」をご存知でしょうか?世界156カ国における「性別による格差」の少なさを示す指数なのですが、日本社会は毎年、G7の中でダントツの最低ランクを維持し続けています。

今年は120位…。去年よりも1ランクアップしたそうですが、2015年は101位だったことを考えると、世界が大きくジャンダーギャップの解消に向けて動く中、インパクトある動きもなく、ずるずるとランクを下げている傾向が伺えます。

そんな中、6月末に行われた今年のカンヌ国際クリエーティブ祭でも”ベスト・オブ・ザ・ベスト”に相当するチタニウムを受賞するなど、高く評価された生理用品ブランドBodyformによるムービーを今回はご紹介したいと思います。

女性の社会進出をもっと促すには、機会を与える(=多様性を促す)だけではもはや不十分で、彼女たちの日常的な苦しみをきちんと世の中に理解させる(=よりインクルーシブな社会環境を作る)ことが不可欠である、という意図の下、制作されたキャンペーンムービーです。それではご覧ください。

www.youtube.com

【雑和訳】喜び・痛み・愛、嫌悪。それは全くシンプルではない(It's never simple)。私たちの”#子宮のストーリー”を広めよう。(*Bodyformのロゴ入る)子宮のストーリーをシェアしていただいた皆様、ありがとうございました。恐れずに行こう。

生々しい表現が連続するこのムービー。性別問わず正直、ご覧になって違和感を感じられた方もいると思います。ですが、その違和感がジェンダー・ギャップ指数世界120位の国で培われたものである、ということを理解しておくと、自分たちの住む社会についてもより客観的な視点が培われるのかな、と思います。

また、このムービーの内容自体がよく理解できなかった男性の方も多いと思います。その場合は、こちらの本(↓)をお読みになると女性の体の基本的なメカニズムとそれにまつわる悩みを、女性の友達から聞く感覚で理解できると思います。このムービーのタグライン「It's never simple.(それは全くシンプルではない)」が身にしみてわかる内容です。

www.nhk-book.co.jp

社会を完成されたものとして守るのではなく、不完全なものと理解し、積極的に変えていくことでより良い場所へとアップデートしていく、という世界の基本的なダイナミクスを感じとる上でも良い事例だと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

大ピンチを、大チャンスに。英国ビッグイシューのLinkedinを活用した見事なアイデア

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Photo by Thomas Kelley on Unsplash

2年ぶりにカンヌ国際クリエイティブ祭が開催されました!これは毎年6月に南仏カンヌで開催される、世界中の企業が最新のマーケティング事例を競う賞レースなのですが、オンラインによる開催ではあったものの、今回は素晴らしいソーシャル・キャンペーンの実践事例がてんこ盛りでした。今から毎週、これらを皆様に紹介できるのかと思うと喜びでいっぱいです。

今回はそのトップバッターとしてふさわしい、英国ビッグイシューのアイデアをご紹介します。日本でも都市部を中心に販売されている雑誌ビッグイシュー。恵まれない境遇の人たちに売り子として職の機会を与えつつ、街の人にインスパイアリングな記事をお届けするというビジネスモデルそのものが素晴らしいこの雑誌ですが、パンデミックの影響により街から人が減り、創業以来の危機に瀕していました。このピンチを解決するだけでなく、なんと恵まれない境遇の人たちの未来へのチャンスをも広げてしまった、そんなポジティブな姿勢が大好きな取り組みです。是非、以下の紹介ムービーをご覧ください!www.youtube.com

【雑和訳】ビッグイシューのララさん「ビッグイシューは恵まれない境遇の人たちに物乞いではなく、街で売り子になってもらうことで復帰のきっかけを提供している英国の雑誌です。我々は社会の彼・彼女たちに対する視線をよりポジティブなものにしたいと願っています。…しかし、全てが変わってしまいました」アンカーパーソン「ビッグイシューは存続の危機に立っています」 売り子のポールさん「いつも買ってくれたお客さんが恋しいです。彼らはプロのビジネスパーソンたちで…でも、全てがダメになってしまいました。街から人が消えてしまったのですから」 ララさん「売り上げは毎週8万部から、0になってしまいました。明らかに大きな変革が必要でした」 スーパー”プロファイルを向上させる〜ビッグイシューリンクトイン” スーパー”社会の貧困に苦しむ人たちへの認識を変える…ソーシャルメディアを活用して” ララさん「我々はオンライン上で、売り子と買い手の関係を再構築することにしました。リンクトインを選んだのは、そこに以前の買い手であるビジネスパーソンたちの70%のアカウントがあると分かったからです。ロケーションデータなどにより以前、売り子がビッグイシューを売っていた場所の付近で働いていたビジネスパーソンたちをピックアップし、デジタル上で売り子と買い手の関係性を復活させました。かつて実際の街角で毎日、声をかけていたように、売り子がオンライン上で買い手とコミュニケーションが取れるようなネットワークを築いたのです」 スーパー”リンクトイン・トレーニングプログラム 第1週、2週、3週…” リンクトインのトレーナー「リンクトインのトレーニングプログラムにようこそ。これから、リンクトインのベストな活用方法についてご紹介してまいります」 ララさん「ソーシャルメディアは人々の関係に民主化をもたらします。人々の他者への評価は、何をシェアするかによって変化するのです。なので売り子たちも、単純に路上で声をかけるのとは異なり、リンクトインビッグイシューの記事に関する内容などをシェアするようになりました。売り子は個人用のeコマース用リンクを持っているので、買い手とメッセージを交換している時、いつでも彼・彼女たちをそこに誘導することができます」 スーパー”デジタル購読は325%の向上” "雑誌の売り上げは400%向上" ララさん「この取り組みは我々のビジネスを完全にシフトしました。以前は街角で50人に声をかけて1冊売れる、という成約率でしたが、今ではリンクトイン上で、10人に声をかければ1冊は売れるようになりました。けれど一番根本的な変化は、人々の売り子たちへの認識が変わったことだと思います。彼らもリンクトインに相応しいプロフェッショナルたちなのだ、という風に」 ポールさん「以前は街角の一部分にしか私の声は届きませんでした。けれど今では、私の声を世界中に届けることができるのです」 スーパー”プロファイルを向上させる〜ビッグイシューリンクトイン

いかがでしょうか?単純に雑誌が売れなくなった状況を改善しただけでなく、これからの時代を生き抜くのに必須であるデジタルの活用術(しかも職を得るのに最も相応しいSNSであるリンクトインの!)をトレーニングや実践を通じて身につけてもらうことで、恵まれない境遇の人たちの未来の可能性を広げる「教育的効果」をも併せ持っていることが、この取り組みをより光り輝くものにしています。実に神々しい。。。やべ、涙が出てきた。

(ちなみにカンヌでこの取り組みは、クリエイティブeコマース部門のグランプリに輝いたそうです。ビッグイシューと売り子の皆さん、おめでとうございます!)

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!