世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

H&Mによる、コロナ後を見据えた若者応援キャンペーン

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Photo by Tyler Farmer on Unsplash

ワクチン接種が進む中、イギリスでは新型コロナウイルスによるパンデミックが沈静化を見せているようです。ロイターのCOVID-19トラッカーによると、その新規感染者数は2021年4月24日現在、ピーク時のわずか4%。今現在ピーク時の70%を記録してしまっている日本と比べても、社会に少しずつ明るい兆しが見えてきているのかな、と見受けられます。

そんな中、世界的アパレルブランドH&Mがイギリスで若い男性に向けて始めた、パンデミックからの復旧が見えてきたタイミングだからこそ意義がある、素晴らしい取り組みを今回は紹介したいと思います。まずは以下のイメージムービーをご覧ください。

www.youtube.com

和訳:

スーパー:第一印象は1秒以内に決まる。

(以下、画面に出てくる若者たちの母親の励ましのボイスメールが流れる)

 「ジェイソン、ジェイソン。今すぐ鏡のあるところに行って、自分の姿を見てごらん。」

「今日はあなたにとって大切な日だってことは分かってるわ。きっと緊張してるわよね。」

「落ち着いて、呼吸を整えるのよ。夢を叶えるために必要なものは、あなたの中にもうあるんだから。」

「すねた顔や、しかめっつらなんかしちゃダメ。王様のように毅然と、前を向きなさい。」

「あなたを産むことが私の人生の中で叶えた、一番嬉しかった夢だということを忘れないでね。」 

「このためにずっと頑張ってきたんだし、あなた以上に準備ができてる人なんていないわ。・・わかる?あなたはすごいの。誰にもあなたをみくびらせないで。」

「さぁ、部屋に入って自分自身を見せるのよ。あなたらしくあれば、きっとうまくいくわ。」

「愛してる。」

スーパー:あなたの就職面接のために、スーツを24時間無料で貸し出します。”ONE /SECOND/SUIT(第一印象の1秒のためのスーツ)” H&M

・・・いかがでしたでしょうか?

そうです。H&Mは「ONE/SECOND/SUIT」と銘打ち、ロックダウンにより経済的なダメージを受けたイギリスの若い男性たちが、パンデミック克服後にもちゃんとした仕事に就けるよう、彼らの面接時に自社のスーツを無料で貸し出すことにしたのです。

ちなみのこの取り組みの公式ページはこちらになります。

www2.hm.com

貸し出し時間は24時間で、対象地域は英国全土。続いてアメリカでも展開予定だそうです。今のところ用意されているのはネイビーブルーのスーツ上下(サイズはXSからXXLまで)のみですが、ネクタイにシャツ、ポケットチーフがセットで送られてくるとか。時間内に返しそびれた場合は有料(50ポンド)となるようですが、そのお金は慈善団体に寄付されるそうです。

ちなみにこれに対する人々の反応は「この取り組みは環境にも良いだけでなく、(マーケティング的にも)とても賢い。これによりどれだけの若者が人生で初めての就職面接に挑み、結果として、どれだけの若者がH &Mを認知することになるのだろう」といったツイートが交わされるなど、かなり好評のようです。(詳しくは本文下の参考記事をご覧ください。)

緊急事態下の東京ではまだそこまで楽天的に考えることはできませんが、やがてやってくるであろうポストコロナ時代に備えて、企業やブランドができることがたくさんあることを教えてくれる、素晴らしい事例だと思いました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

 

参考記事:

www.foxbusiness.com

P&G、コンテンツが生み出す人種差別に立ち上がる

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Photo by Karsten Winegeart on Unsplash

昨年アメリカで盛り上がりを見せたBlack Lives Matter(BLM)ムーヴメントですが、関連するアメリカの記事を読むと「Systemic Racism(システムによる人種差別)」という単語がたくさん使われていました。馴染みのない単語だったのですが、これはそれぞれの社会の法律や、慣習にすでに”組み込まれた”人種差別のことであり、その中には、特定の人種に特定の役柄を与えてしまう映画やドラマ,コマーシャルなども含まれるそうです。

確かに若い頃観た映画などの影響で、黒人=スラムにいるギャングスター、アジア人=謎の拳法の使い手、白人=若いエグゼクティブ、のようなイメージが自分の中に植え付けられているのは否めません。また話をジェンダーに広げれば、オフィス用の商品CMでOLの制服を着ておじさん上司に囁きかけるタレントなどもこれに当たるかもしれませんし、さらに余談をすれば私が子供の頃(80年代)に感じていた、ハリウッドのホラー映画に出てくる黒人は、最初の方に殺されてしまうことが異常に多いなぁ、という現象も、Systemic Racismの一端だ、といえるかもしれません。

BLMの背景にあるSystemic Racism。コンテンツ制作業界にも確実に存在するその差別形態の解消のために、先日P &GがテレビCMなどのコンテンツをたくさん作る、世界的な広告主の責任として新しいプロジェクト「Widen the Screen(スクリーンを広げよう)」を立ち上げました。以下がその宣言を行ったムービーです。

ナレーションを務めるのは、映画「グリーンブック」でも黒人ピアニスト役を見事に演じたマハーシャラ・アリさん。ぜひご覧ください。

www.youtube.com

<雑和訳>

(これらの情景を見て)もしあなたが”次に何が起こるんだろう?”と思っているとしたら、なぜそう思うのかを考えてみてください。これらは、今まで黒人に対して行われてきた描写です。そして、それは我々の彼らへの理解を狭めてきました。しかし、(事実には)もっと見るべき側面があります。これが、黒人の暮らしの全体像です。スクリーンを広げよう。我々の視野を広げるために。P&G

2分の間に見る側の心もあちこちに動かされ、(自分自身への反省も込めて)色々考えさせられる、非常によくできたムービーだと思います。そして以下のメイキング・ムービーも、役者さんやスタッフの声を通じて彼らの日常や、コンテンツ業界に存在する差別についての理解が深まる(このキャンペーンの趣旨からいうと”視野が広がる”)内容となっております。

www.youtube.com

www.youtube.com

www.youtube.com

P&Gではこのキャンペーンをきっかけに、今後黒人のクリエイターたちがより公正に(コマーシャル含む)コンテンツ業界で活躍できるよう、そして業界の中の人種を多様化することで、コンテンツからSystemic Racismがなくなっていくよう、様々な取り組みを本格化させていくそうです。(取り組みの詳細は英語になってしまいますが、以下の引用元をご覧いただければと思います。)

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

 

この記事の引用元:

sustainablebrands.com

より良い未来のために、LEGOがコロナ下のポーランドで行った教育的取り組み

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Photo by Xavi Cabrera on Unsplash

今回は新型コロナウイルスの流行により対面での交流が著しく制限されている中、ブランドは世の中のために何ができるのか、ということの一例としてこの事例をご紹介したいと思います。

ポーランドでは、いまだに電力のおよそ8割を石炭による火力発電に頼っていて、The Economist曰く、「ヨーロッパで一番大気汚染のひどい国」だそうです。なのにグリーンエネルギーの普及を訴える若い世代に対しても、政府は「グリーンエネルギーを学校で教育する必要はない」と答えるなど、積極的に動こうとしません。

そこで当地のレゴはコロナ下、在宅で学ぶポーランドの子供たちに向けて、レゴブロックを使ったとてもユニークなオンラインレッスン「Green Instruction(グリーンなトリセツ)」を公開しました。

その内容をまとめたケースフィルムが、こちら↓

vimeo.com

このレッスンの内容は、以下の通り。

・飛行機を組み立てるためのレゴで、電車を作る。

・炭鉱の世界を組み立てるためのレゴで、風力発電用の風車を作る。

・自動車を組み立てるためのレゴで、自転車とキックボードを作る。

などなど。

つまり「環境負荷の高いもの」を組み立てるために販売された過去のレゴブロックで「環境負荷の低いもの」を組み立てる体験を通じて「今の世界をよりサステナブルな世界へと”組み立てなおす”」ための方法を学ぶ、というレッスンで、それぞれの組み立て方のトリセツの表紙には「電車は飛行機に比べ95%少ないCO2しか排出しない」、「電動キックボードは自動車に比べ39%少ないCO2しか排出しない」などの知識が明記されました。

この取り組みはたった2週間で200万を超えるインプレッションを記録するなど、ポーランド中で大きな話題を呼んだだけでなく、グリーンなトリセツをダウンロード可能にすることで、国中の教師たちが自発的に子供たちへのレッスンを行えるようにしたとか。

多くの家庭にあるレゴブロックを活用した、レゴならではの楽しい環境啓蒙活動。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。

それではみなさん、また来週!

国が突然、ネットを遮断したらどうします?

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Photo by Michael Dziedzic on Unsplash

突然のありえなすぎる”if(もしも)”をタイトルで投げかけてしまいましたが、実はこれ、2年前のインドで実際に起きた出来事なんです。詳しくはTechCrunchによるこちらの記事をご覧いただければと思うのですが、2019年8月5日、インド政府はイスラム教徒が多く住むカシミール地方の通信網を突然シャットアウト。以降、最高裁の判断により憲法違反と認められるまでの158日間、途中携帯での通信が再開されるなど、部分的な再開はあったものの、当地に住む人々はほぼ完全に「知る権利」を奪われてしまいました。

そこで立ち上がったのがエッジーな世界的デジタルメディア「VICE」。彼らはシャットアウトから142日後の12月24日、SMS(ショートメール)サービスへのアクセスが再開されたまさにその日に、ネット上のニュースをSMSでも読めるようにピクセルなどで”翻訳”。データ量を極端に減らした「8ビット・ジャーナリスト」として、カシミールの人々が知りたい情報を提供し始めたのです。

その概要を紹介するムービーが以下となります。最初は事故か何かかな?と思っていた通信網の遮断が50日・100日と長引くにつれて、焦燥感が増していくカシミールの一市民の気持ちが追体験できるような、巧みな構成になっています。「もし、自分の国でも同じことが起きたらどうなってしまうんだろう?」そんなことを考えながらご覧いただくと、この取り組みの意義がより一層、理解できると思います。

www.youtube.com

ネットの規制が解除されるまでの短い間(およそ2週間)の取り組みでしたが、このサービスにアクセスしたカシミールの人々はなんと120万人にのぼり、実に住民の86%がこのSMSによる記事を閲覧したそうです。

自分が絶対的に優位な立場にいる時、聖人君子でいられる人は残念ながらそんなに多くありません(むしろそれに近い人でも、大部分が腐敗していくのが世の常です)。近・現代史を見ても国民が知る権利を奪われてしまうことは権力側に絶対優位をもたらし、その暴走につながるケースがとても多いように見受けられます。

恥ずかしながら、このアイデアに出会うまで私もインドでこのような事態が起きていたことを全く知らずにいました。カシミールに住む人たちの安寧を祈りつつ、他山の石として、このアイデアをしっかりと記憶に刻んでおこうと思います。

あえてのローテクで権力に争い、人々に「知る権利」の小さな炎を灯し続けたこのアイデアに敬意を評したいと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

 

<過去記事より:ローテク通信(機器)を活用し、人々に喜びをもたらしたアイデア集> 

wsc.hatenablog.com

↓2つ目のアイデア「Infection Alert System(感染警告システム)」をご覧ください。
wsc.hatenablog.com

wsc.hatenablog.com

【ポッドキャスト・アーカイブvol.13】過激!政治家に道路の舗装を直訴したロシアのソーシャルキャンペーン(2015年1月1日のブログより)

anchor.fm

本ブログの、2015年の1月1日掲載分の記事を要約してポッドキャストにしました。週に一度、たった2分ちょっとのアイデア復習。

上記ご聴取いただき、ご興味沸きましたらぜひ元記事もお読みください。 

元記事へのリンク: 

wsc.hatenablog.com

 いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!

「ノーマル」を禁止用語にした、ユニリーバの英断

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Photo by Omar Lopez on Unsplash

本ブログでも前にご紹介したサステナブル・リビング・プランなど、人類のより良い未来のために先進的な取り組みを続けてきたユニリーバが先日「ポジティブビューティ・ビジョン」を発表しました。その中で彼らは自分たちの石鹸やシャンプー、スキンケア製品の広告やパッケージに関して「ノーマル(普通、標準)」という言葉の使用を止める、と宣言しています。

そのココロについては、ピンとこないところがある方もたくさんいらっしゃると思います。

そこでまずは、ユニリーバがその意図をまとめたビジョンムービーを和訳文つきでご紹介したいと思います。今の社会で「ノーマル(NORMAL)」とされているものに次々と「NO」を突きつけていく、美しくも勇敢な内容をご覧ください。

www.youtube.com

<ムービー翻訳>

普通、女の子は男の子より弱い。(NO)

普通、男性は男らしくあるべきだと言われる。(NO)

黒人の少女が髪のせいで停学になるのも普通。(NO)

子供たちが防げる病気で死んでしまうのも普通。(NO)

安全性を確認するために動物実験を行うことも。(NO)

プラスチックで海を汚染したり、森の木を切り倒すことも。(NO)

美しさにも「普通はこういうものだ」という思い込みがある。(NO)

…でもそれって、ノーマル?

我々は、違うと言います。(NO)

我々は、これらのことを「普通」だと捉えてしまう世界を受け入れません。

なので、我々は自分たちの商品や広告から、「ノーマル」という言葉を取り除きます。

もっとインクルーシブ(包括的)な美のビジョンを作り上げていくために。

だけど、それだけでは十分ではありません。

我々は「より無害であること」を目指すだけでなく、「より良いこと」をなすべく、取り組みを進めていきます。

我々は健康や衛生、ウェルビーイングを推し進めることで10億人の人生を豊かにします。

身体への自信を育み、包括的であることを讃え、人種や性による差別と戦います。

そして、我々の商品を作るために使われるものよりも多くのものを守り、再生していきます。

それは150万平方ヘクタールの大地や森、海を守ることを意味します。

普通という名の束縛にNOを。

そしてポジティブビューティにYESと言おう。

#YesToPositiveBeauty

 

基本的にはこのムービーに当ビジョンのほぼ全てが凝縮されていますが、この取り組みの背景にある消費者調査の結果なども包み隠さず、ユニリーバのホームページには記載されてますのでお時間がある方は是非、以下のリンクをご覧ください。

www.unilever.co.jp

なお、上記の記事によると、「広告の見栄えを良くするためのモデルの画像の修正」なども禁止するそうです。こうした細かなところからも”やるからにはとことん”という姿勢の本気度が見て伺えます。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

 

<参考記事:本ブログの過去のユニリーバに関する記事>

wsc.hatenablog.com

wsc.hatenablog.com

【ポッドキャスト・アーカイブvol.12】重い教科書が子供の心身にかける負担を、あえての角度から解決したフィリピン発のナイスアイデア(2015年3月6日のブログより)

anchor.fm

本ブログの、2015年の3月6日掲載分の記事を要約してポッドキャストにしました。週に一度、たった2分のアイデア復習。

上記ご聴取いただき、ご興味沸きましたらぜひ元記事もお読みください。

 

元記事へのリンク:

wsc.hatenablog.com

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね!