世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

温室効果ガスが出るのは工場の煙突から…だけではありません

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Photo by Olivia Anne Snyder on Unsplash

CO2など、地球の気候変動に影響を与える「温室効果ガス」についてイメージした時、頭に浮かぶのは何でしょうか?工場の煙突からもくもくと出る煙や、クルマからの排気ガス。なんなく都市や工業地帯のイメージを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?

でも実は、ご覧の写真のような、草原ですくすくと育つ牛さんたちも温室効果ガスの主要な排出源のひとつ。彼らからゲップやおならとして放たれるメタンガスはCO2よりも数十倍高い温室効果を持ち、まずはそれを削減することが、気候変動を抑えるために最も効果的な手段だともいわれています。

そこで、そんな牛さんたちを扱うグローバル・ファストフード企業の社会的責務として、バーガーキングがご覧のような興味深い取り組みを今年の夏に行いました。まずはそのプロモーションムービーをご覧ください。


Burger King | Cows Menu

上記、聴き取りにくいと思いますのでわかる範囲で歌詞を要約すると♪牛のゲップやおならは笑い事じゃない それはメタンガスを排出し、地球を温めてしまうのさ 温室効果で太陽の熱を閉じ込めてしまってね ”なんてこった、何か良い手はないの?” そこでバーガーキングは飼料に着目 メタンは消化の過程でできるので、レモングラスでその発生を抑えることにしたのさ (サビ)メタ〜アァ〜ン ガス減らそ〜う 「科学者も効果があるって言ってるよ!」牛「そうさ!」 (サビ)メタ〜アァ〜ン ガス減らそ〜う 3分の1以上も削減するのさ (サビ)メタ〜アァ〜ン ガス減らそ〜う 「オープンソースだから、みんなも取り入れてね!」(サビ)メタ〜アァ〜ン ガス減らそ〜う 牛と歌おう より良い世界のために♪…という感じでしょうか?

オープンソースなのも時代の精神に合っているし、最後の「Since we are part of the problem, we are working to be part of the solution.(我々はこの問題の一部なので、その解決に貢献しています。)」というやけに正直なキャッチコピーも、透明性を求める今の消費者には真摯さが伝わる、いい言葉だと思います。そして実際、バーガーキングはこのレモングラスで育てた牛肉を使った”サステナブル版”ワッパーをNY、マイアミ、LAの3つのエリアで販売したそうです。風味に違いがあるかどうかはわかりませんが、メタンガスの替わりにレモングラス、というのは味覚的にもポジティブですし、試してみたくなりました。

いやぁ、アイデアって本当にいいもん…と思いきや、このビデオの低評価があまりに多いので検索を進めてみると…

www.forbes.com

↑こんな記事を発見してしまいました。牛の成長過程でレモングラスの飼料が使われるのは、お肉になる手前のほんの数ヶ月間ということらしく、その事実を踏まえるとメタンガスの削減効果が「33%」というのはオーバープロミスで、カウントの方法にもよりますが上記の記事によると「最大3%」というのがより正確ではないのか、という議論が持ち上がっているそうです。バーガーキング側は継続して調査する、と答えてはいるものの「グリーンウォッシュだ」という声が上がってしまい、それがムービーの低評価につながっているのかな、と思いました。

とはいえレモングラスがメタンガスの削減に効果がある、というのは確かですし、取り組みが素晴らしいだけに、このような流れになってしまったのは残念ですが、そうした経緯も含めて、私たちがこの事例から学べることは多いと思います。

そして何より、この歌のサビが頭から離れません。

(サビ)メタ〜アァ〜ン ガス減らそ〜う!

試行錯誤を繰り返しながら、人も組織も、そして社会も進んでいきます。ソリューションは真面目に、だけどそのコミュニケーションは明るく楽しく、そしてもちろん正確に。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それではみなさん、また来週!

男子との格差が消えない女子プロスポーツを支援するアイデアあれこれ

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Photo by Sicong Li on Unsplash

いきなり個人的な話で恐縮ですが今回は、スポーツにおける男女格差をテーマにした映画として「観たいなぁ」と思いつつ見逃してしまっている映画の紹介から始めさせていただきます。こちらの予告編をご覧ください。

www.youtube.com

「Battle of the Sexes (邦題:バトル・オブ・ザ・セクシーズ」という実話をベースにした物語なのですが、eiga.comの紹介ページに記載のあらすじを抜粋すると以下になります。

"1970年代に全世界がその行方を見守った世紀のテニスマッチ「Battle of the Sexes(性差を超えた戦い)」を映画化。73年、女子テニスの世界チャンピオンであるビリー・ジーン・キングは、女子の優勝賞金が男子の8分の1であるなど男女格差の激しいテニス界の現状に異議を唱え、仲間とともにテニス協会を脱退して「女子テニス協会」を立ち上げる。そんな彼女に、元男子世界チャンピオンのボビー・リッグスが男性優位主義の代表として挑戦状を叩きつける。ギャンブル癖のせいで妻から別れを告げられたボビーは、この試合に人生の一発逆転をかけていた。一度は挑戦を拒否したビリー・ジーンだったが、ある理由から試合に臨むことを決意する。"

そもそもこの実話の出来事自体が、両極端なセレブリティを対決させることで課題の可視化を測る、PRバリューにあふれた素晴らしいアイデアだなぁ、と思いますがそこからおよそ50年を経た現在、女性のプロアスリートを取り巻く環境はどう変化しているのでしょうか?

それではこちら、映画のモデルとなったビリー・ジーン・キングさんご本人のナレーションにより2019年に制作された、全米オープンテニスのプロモーションムービーをご覧ください。

www.youtube.com

世間の男女格差を解消するきっかけとして、スポーツの力を讃える内容なのですが、こちらのムービーによると「メディアなどで紹介されるスポーツに関する話題の中で、女子スポーツが占める割合はたったの4%」なのだそうです。続いてこのムービーでは「その結果、本来であれば人々の間で語られ、次の世代の女性たちをインスパイアすべきストーリーが取り上げられずにいる」→「なので皆さん、自分が素晴らしいと感じた女子スポーツアスリートを、#womanworthwatching(#女子だって充分スゴイ)のタグをつけてSNSでシェアしてください。みんなで女子がどう見られるか、だけではなく、女子がどう扱われるべきかを示しましょう」→「そしてそれを、女性アスリートのために戦い続けてきた全米オープンテニスから始めましょう」という流れで同大会へのアピールが行われていくのですが、スポーツイベントの告知コンテンツとしてプレーの迫力や醍醐味ではなく「女子スポーツの地位向上による男女格差の解消」というイベントのパーパス(目的)を前面に打ち出しているのが時代だな、と驚かされました。

調べてみると全米オープンテニスは、1973年に世界で初めて、男女間の優勝賞金の格差を廃止したグランドスラムのタイトルだそうで、そういう事実があるからこそ、このようなアプローチが取れるのだな、と感心しました。

 

また今回はもうひとつ、スポーツにおける男女格差の解消に関して興味深いバーガーキングの試みを紹介隊と思います。その前に、この試みの背景となったアイデアを紹介させて下さい。

数年前、彼らは世界的なサッカーのテレビゲーム「FIFA20」では、イングランド4部リーグの最下位チームでさえもチームとして登録されることに気づきました。そこで実際に4部リーグ最下位の弱小&貧乏球団「Stevenage FC」をスポンサードしてユニフォームにバーガーキングのロゴを大きくデザイン。ゲーム上でStevenage FCを使ってメッシやロナウドなどといった世界的スターと契約し、プレーした画像をTwitterにシェアしたらバーガーなどをプレゼント、という天才的なキャンペーンを行い大成功させました。(やや脇道にそれますがすごいアイデアなので紹介ビデオをご覧ください)

www.youtube.com

そしてその成功を受けた今年、バーガーキングは今度は「Stevenage FC」の女子チームを、Burger KingならぬBurger ”Queen”のロゴでサポートすることに決めたそうです。こちらがそのプロモーションムービーです。

www.youtube.com


最後のオチのキャッチフレーズはこうなります。「Stevenage FCでやっていくのは大変だ。」→「でも、Stevenage FCの女子チームでやっていくことが、男子よりも大変であってはいけない。」→「バーガーキングクイーンは、男子と同じ条件で、Stevenage FCの女子チームをスポンサーします。」

そして、単にユニフォーム上のロゴをセルフパロディするだけでなく、このチームの本拠地にあるバーガーキングの店舗も、実際に「Burger Queen」という名前に変えてしまったそうです。ロゴを変えるだけでは「賢いね」で終わってしまうアイデアかもしれませんが、クレイジーもここまでやると意気に感じて、「頑張れバーガーキング!」と心から応援したい気持ちになってくるから人間の気持ちとは面白いものです。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

メニューにカロリーを載せる…だけではもう不十分

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Photo by Tai's Captures on Unsplash
まだ学生だった90年代、デニーズのメニューひとつひとつにカロリーが表記され始めたことにびっくりしたことを覚えています(その頃はカロリーなどは気にしていなかったので、ガッツリ食べたいのに萎えることをするなよ〜、とかなりナナメに思っていましたがw)。今回はそれが今や…というお話です。
 
<*以下、今回のJust Saladの事例についての出典元はこちらになります>
さて、上の画像をご覧ください。CO2eという見慣れない単位がありますが、これはCO2 equivalent (二酸化炭素換算)を表す単位だそうです。そして先日、全米に41店舗を持つレストランチェーンJust Saladが、自社のメニューひとつひとつに、この単位を添え始めました。つまりそれぞれのメニューを作るにあたり、食材の育成から流通、調理に至るまで1皿あたり、どれぐらいの温室効果ガスが排出されたかの可視化に乗り出したのです。
そして再び、上の画像をご覧ください。ビーフのパティ、たった4分の1個のCO2排出量が3.75kgであるのに対し、Just Salad一皿の排出量はたったの0.81kg。この事実を可視化された暁には、肉好きの自分でもたまには野菜だけのメニューをとってみようかな、と思わざるをえません。
実は消費者の胃袋に届くまでに排出されるCO2のうち、流通過程で発生するのはたったの10%に過ぎないそうで、地産地消も大切ですが、飼育過程で大量の飼料と(森林破壊を誘発するような)広大な面積を必要とする肉を中心とした食生活から、野菜中心の食生活に切り替えること自体が地球温暖化を食い止めるためには、実はかなり効果的手段なのだそうです。
 
今やいつもの食事でカロリーをコントロールするだけでなく、地球にかかる負荷をコントロールしないといけない時代になりました。
 
ちなみにアメリカのファストフードチェーン、チポトレーもアプリでそれぞれのメニューが環境にかける負荷を数値化した「Carbon Footprint」ならぬ「Real ”Food” print」という概念を取り入れ、活用しはじめました。以下、チポトレーのサイエンス・ガイことナイさんによるストレートなPRビデオをご覧ください。

www.youtube.com

「ネットの皆さんハロー。ビル・ナイです。チポトレーは「Real Food Print」という取り組みを始めました。これはあなたが選んだメニューが与える環境負荷を、クリアに図る指標です。これにより、例えばこの(チポトレーの)チキンボールのように、これまでの通常の食材と比べて、これを選ぶことでどれだけ環境負荷が抑えられるかを見ることができるのです。(他社のチキンボールではなく、チポトレーのものを選ぶことで、)どれだけCO2排出が抑えられるのか、水の使用量をセーブできるのか、そして、どれだけ土壌が改善されるのかなど。つまり、あなたは本当に責任感を持って育てられたものを選び、食べることで、より良い社会を耕すこと(Cultivate a Better World)に貢献することができるのです。さて、食べたくなった?」
 
この取り組み、ナイさんが最後に言っているように、チポトレーが昔から唱え続けている「Cultivate a Better World(より良い世界を耕そう) 」というタグライン(スローガン)にも合致していて、同時に他社が真似できなそうな食材の良さ・新鮮さも感じられる、とてもクリーンでストラテジックな動きだと思いました。
 
<*チポトレーの記事の出典元はこちらになります>
 
SFみたいな話ですが、近い将来「糖質ゼロ!」の代わりに「 CO2e50%オフ!」といった食品や飲料がたくさん出てくるかもしれません。
 
いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!
 
 
おまけ:古い広告業界の人間として、「Cultivate a Better World」のスローガンの下チポトレーがここ10年で生み出してきた素晴らしい動画広告を3本、シェアさせていただきます。どちらも自社のパーパスをしっかりと、素晴らしいクラフトで表現しています。

www.youtube.com

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 いつかは日本のブランドで、このように力強いパーパスを持つ企業とタッグを組むことで、日本企業のマーケティングへのリスペクトを世界水準に引き上げられたら、と思います。

メンタルヘルス向上のために、イギリスのTV番組が行った究極のデモンストレーション

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Photo by Antenna on Unsplash

2000年台の半ばから、地球上の情報量は一人の人間が処理できる量を大幅にこえ、人々は現実と、自分好みの情報だけで作ったオンライン世界との間で葛藤するようになりました(Brexitやトランプ政権の樹立は、その副産物だともいえます)。人々は家族同士でリビングで話し合う代わりに、それぞれのスマホ画面を見つめ、それぞれの世界で、それぞれのキラキラした面だけをアップし、シェアすることに疲れ果てています。

それが原因のひとつでもあるのでしょう。イギリスでは過去15年間で、抑うつ状態を抱える子供の数が48%も増加してしまったそうです。

その問題を解決すべく、イギリスのテレビ局ITVが、同局の看板リアリティ・オーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」の収録会場で行った素晴らしいデモンストレーションがこちら*です。(*ムービー下に司会者のトークを粗々で和訳しておきます。)

www.youtube.com

司会A「ではここでテレビの前の視聴者も含めて皆様、注目してください。とても大事なことを言います。」司会B「メンタルヘルス向上に取り組む新しいITVのキャンペーンを紹介します。イギリスでは過去15年間で、不安やプレッシャーなどで抑うつ状態を抱える子供の数が48%も増加してしまいました。ただし、お互いのことを話したり、聞いてあげたりといったシンプルなことが、この問題の解決には効果的だとされています。」司会A「最近はテレビに加え、スマホの普及などで難しくなってしまっていますが、メンタルヘルス向上のためには愛する人と一緒にいてあげて、話し合うことが大切なのだ、ということはぜひ、覚えておいていただきたいと思います。」司会B「そこで我々は、これまでにやったことのない”ブリテン・ゲット・トーキング(イギリスにもっと、話し合いを)”というアクションで、イギリスの皆様が話し合うことをサポートしたいと思います。これから、我々は皆様が愛する人たちと寄り添い、話し合う時間を持つためにこのショーを中断します。子供を捕まえたりダンナさんを起こしたり、色々準備していただき、話す準備をしてください。我々も番組の裏方さんを1分間休ませますので。では、始めましょう、3、2、1…」

いかがでしょうか?このテレビ局は、イギリス中の家庭のコミュニケーションを促すためにあえて番組を”サボる”ことで、彼らに話し合いの時間を提供したのです。この取り組み、これまでテレビが家族から会話を奪ってきたことを認めているようで、実はテレビが「スマホなどとは違い、家族を一箇所に集め、会話のきっかけを作り出すメディア」であり、国中の幅広い層の人々にメッセージを伝えることができる”マス”メディアとしてまだまだ価値があることを証明しています。(スマホでのテレビ視聴も飛躍的に増えているのでまぁ、そんな単純な話でもないのですが…)

サボっている間の裏方さんの雰囲気も、なんとなくイギリスならではのユニークさがただよっていていいですよね。

そして中断時間が終わった後の、審査員や観客がスタンディング・オベーションしたくなる気持ちも、文化の差やロジックを超えてなんとなく理解できてしまうから不思議です。社会のためにテレビ局が飯のタネである番組を中断する、という勇気。そして味わったことのない体験をする、という感動。このふたつが合わさった時、人々の心は激しく揺り動かされ、圧倒的なモメンタムを生み出すことができます。(多分ベートーヴェンが「運命」を聴衆の前で初めて披露した後も、こんな感じでだったんではないでしょうか?)

勇気と感動を呼ぶアイデア。これを考え、実行できる人が大なり小なり世の中を変えてきたし、これからもきっと、変え続けるのでしょう。

さて、2019年にこの感動的なデモンストレーションで始まったITVの「ブリテン・ゲット・トーキング」キャンペーンですが、新型コロナウイルスの脅威に晒された2020年の現在、その重要性はイギリス社会の中でさらに高まっているようです。

以下に公式サイトへのリンクを張っておきますので、興味がある方はぜひ覗いてみてください。

www.itv.com

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週! 

10代の映像作家がビリー・アイリッシュと組んで作った「いじめ撲滅ムービー」

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Photo by Dee @ Copper and Wild on Unsplash

私欲のためにマウントを取ろうとする人が、チェック機能を欠く組織にいる限り、老若男女問わずいじめは構造的に無くなりません。そして、24時間繋がり続けることができるSNSの登場が、スマホとともに成長してきた若い世代におけるいじめ問題を複雑にしています。

SNSはいじめる側からすれば、周りに知られることなく24時間”いつでも気軽に”相手をいじめ続けることができる道具です。そして、それはどんどん被害者の生活を破壊し、ついには死に追い込んでしまうこともあります。

そんな若い世代のいじめの今をリアルに描写したこのムービーは、15歳の映像作家と、17歳(いずれも当時)の人気シンガー、ビリー・アイリッシュによるコラボということもあり、大きな話題を呼びました。言葉がわからなくても理解できる、見事な内容です。ぜひご覧ください。 

www.youtube.com

 「あなたの言葉、誰かを傷つけていませんか?」で終わるこのムービー、実は実際にこのようないじめを苦に自殺してしまったドリーさんという少女をモチーフにしており、ドリーさんのご両親が立ち上げた「ドリーの夢」という、サイバー空間でのいじめをなくすための団体により作られたムービーだそうです。

「このムービーを見ることでいじめられている人には”声を上げることで、いじめは止められる”ことをわかってほしいし、気づかぬうちに家庭の中にまで入り込み、子供を追い込んでしまうこうしたいじめの存在を、親たちにも気づいてほしい。」とドリーさんの母親、ケイトさんは訴えています。自分たちが気づかずに最愛の娘を亡くしてしまった親御さんの無念が、胸に迫ります。

*「ドリーの夢」の公式サイトはこちらになります。

dollysdream.org.au

このムービーは「SNSによる言葉の暴力」を、小さな石に変えて可視化することで、いじめる側といじめられる側の心理を見る人たちに、リアルにイメージさせることに成功しています。それに加えて、10代の若き才能を活用することでメディアに対するニュースバリューもしっかり上げ、単にいい作品だけに終わらせない「世の中に広めるための努力」もしっかり行なっているところが抜かりないな、と思いました。

いじめにとっての養分は、社会や周りの無関心です。それをなくすための努力、気づいたら見過ごさず指摘するなど、子ども、若者相手に限らずちょっとしたところから私も続けられればと思います。

いやぁ、アイデアって本当にいいもんですね。それでは皆さん、また来週!

誰も我々を止められない - You can't stop us.

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Photo by Habib Dadkhah on Unsplash

夏の終わりに、以下のムービーをご紹介したのはご記憶でしょうか?

wsc.hatenablog.com

 新型コロナウイルスの感染拡大が疑心暗鬼を生み、同時にジョージ・フロイドさんの受難からBLM運動が盛り上がりを見せる中、「どんなバックグラウンドで生まれ育とうとも、スポーツを共に愛する、我々の気持ちは止められない」という気持ちを最後のキャッチフレーズ「You can't stop sport.You can't stop us.」で見事に表した、素晴らしいナイキのメッセージ・ムービーでした。

 そして今回はその続編、とでもいえますでしょうか。様々な社会的制約の中、文字通り「スポーツを愛する気持ちを止められない」ムスリムの女性アスリートたちをテーマにしたナイキのムービーをご紹介いたします。

www.youtube.com

前回のように、メッセージを高らかに歌い上げるようなものではないのですが、どこにでもいそうな「娘に水泳を教える母親」の情景から様々な水上競技へとイメージが広がり、冒頭に収斂していく流れは、我々が普段あまり関心を持つことのない、ムスリムの女性たちが直面している問題を自分ゴト化して受け止めるには妥当な流れだなぁ、と思いました。

様々な社会的制約と闘いながら、自分たちの活動範囲を徐々に広げていこうするムスリム社会の女性たちと、そんな彼女たちのために様々なヒジャブ付きのスポーツウェアを開発・展開しているナイキ。

*「Victory Swim Collection」という名でナイキが実際に販売しているムスリム女性向けのスイムウェアは以下のサイトからご覧いただけます。”Find yourself in water(水の中で自分自身を見つけよう)”というメッセージもいいですね。そして違和感を越え、これらのウェアがおしゃれにすら感じてしまうのもナイキのロゴのチカラでしょうか?

www.nikeswim.com

スポーツ体験を軸にもっとインクルーシブな社会を実現したい、というナイキの願いと実際の企業活動がひとつになって、このムービーは多くの人たちの心を動かすものとなっています。

いやぁ、アイデアって本当に良いもんですね。それでは皆さん、また来週!

11月はMovemberなので、あの人も髭を剃りました。

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Photo by Josh Sorenson on Unsplash

「11月はNovemberだろ?」とお思いでしょう。確かに、英語のテストでMovemberと書いたらバツになります。ただし、覚えておいて決して損のない単語です。

MovemberのMoは”Moustache(くちひげ)”から来ています。そして、ピンクリボン乳がん啓発のアイコンであるように、くちひげは前立腺がんや精巣腫瘍といった、男性特有の疾病啓発のシンボルとされているそうです。

そして、これら男性特有の疾病についての認知向上、支援の拡大を目的に2003年、オーストラリアで始まり、世界に広がったのが「Movember」運動。直感的に訳すと「じゅうひげ月運動」とでもいうのでしょうか(汗)、参加した男性は10月31日にひげを剃り、11月に伸ばし続けることでこれらの疾病の啓蒙と、患者へのサポートを示す、というムーヴメントだそうです。(詳しくはこの記事の出典元のこちらこちらをお読みください。)

そして今年の11月は、このムーヴメントになんとこの男性が参加しました。

www.youtube.com

そうです、フランスのKFCでは今年の11月1日から、カーネルおじさんがひげを剃った状態でロゴに登場しました。そして彼は11月の間ずっと、他のMovember運動に協力している男性たちと同様にひげを剃った状態でロゴとして登場し続けるそうです。

人々が日頃から慣れ親しんでいるものは、脳が無意識に記憶しているものです。もしあなたの街のKFCのカーネルさんから、突然ひげが消えたらきっと「あれ?」と思いますよね?ある人は写真にとってSNSにあげるでしょうし、街の話題になることでしょう。そうすると当然「なんで?」という疑問が湧いてくる。

そこでMovember運動の話をすると、人々に「なるほどねぇ〜」ときっと共感してもらえる。共感さえしてもらえれば心理的ガードは下がりますから、街頭で一方的にチラシを配るよりも全然、この運動に協力してもらいやすくなるだろう…という、人間の行動のクセをうまくついたアイデアだと思います。

そしてこのKFCの取り組みと同様、人々が日頃から慣れ親しんでいるものから「何かを削る」ことでがんの克服を支援するユニークな試みが日本にもありましたので併せてご紹介させてください。

www.youtube.com

「delete C(Cを削る)」というムーヴメントですが、こちらは「C.C Lemon」や「キャプテン(Captain)翼」など、人々が日頃から慣れ親しんでいる商品やコンテンツから、Cancer(がん)の頭文字であるCを削って世に出すことで注目を集め、それらの商品の売上の一部をがんの研究にあてる、という仕組みだそうです。

詳しくはこちらのキャンペーンサイトをご覧ください。

www.delete-c.com

この2つの事例に共通するアイデアの切り口(人々が慣れ親しんだものに手を加えることで耳目を集める)は、他の様々な社会的課題の認知拡大・行動喚起にも応用できそうなフレームワークだと思います。皆様がキャンペーンアイデアを考える時のヒントとして、覚えておいていただければ幸いです。

いやぁ、アイデアって本当にイイもんですね。それでは皆様、また来週!