世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

毒をもって毒を制す。炎上を操り、見事図書館を守り抜いたソーシャルキャンペーン:Book Burning Party- Troy Library

f:id:socialcamp:20160418082037j:plain

誰もが(比較的)対等に意見をぶつけ合うことができる現代のデジタル社会。でもそれは同時に、ドナルド・トランプさんの事例を見れば分かる通り、知的な議論が極端だったり、粗暴だったりする論者たちによって妨げられ、論旨をすり替えられやすい社会でもあります。

では、声の大きなものによって論旨がすり替えられ、議論が本質的でなくなってしまった場合、私たちはどう立ち向かうべきでしょう。

ネットで巻き起こる論調には、ネットの話法で立ち向かうことが一番、ということで今回はアメリカミシガン州のトロイ市にて行われた「炎上覚悟」のソーシャルキャンペーンをご紹介します。

日本ではここまで露骨にやると逆炎上も起きそうですが、基本的なキャンペーンの構造は参考になると思いますよ。

An award-winning campaign which used social media in a very, very clever way to save a local public library in Michigan, USA. Facing a challenge from the “Tea Party” people who tried to close down the library, this library audaciously fought fire with fire. This case tells us a lot about how to survive in this digital age.  

<本燃やしパーティ-トロイ図書館:Book Burning Party- Troy Library>

vimeo.com

<ビデオ和訳>

ナレーション:かつて、図書館があった。そこは美しく賑やかで、賞を獲得するような素晴らしい場所だった。しかし不幸なことに、時代は厳しかった。ミシガン州のトロイ市には、その図書館を維持するだけの資金がなかった。そこで市は、維持するために税率のささやかなアップを人々に提案し、住民投票で決めることにした。

(文字:“税率0.7%上昇”)

これが「ティーパーティー(茶会党)」(保守派のポピュリスト運動のこと)と呼ばれる納税者グループの怒りに火をつけた。巧みに組織され、資金的にも潤沢な彼らは街中に「ノーと投票しよう」という看板を張り巡らし、フライヤーを送付し、街宣車を走らせた。これについての街の話題も彼らの意見が圧倒した。本来の論点である、図書館や本や読書の存続は、税金税金税金・・・というカネの話にすり替えられてしまった。

資金もなく、投票日までひと月を切った状況で、図書館は助けを求めていた。

彼らは「注意を引き」、「大胆で」、いうなれば「邪悪ですらある」アイデアを必要としていた。

そこで我々は、自分たちのグループを作ることにした。街中にこのような看板を張り巡らすことで。

「8月2日に、図書館を閉鎖するために投票しよう。“8月5日 本燃やしパーティ開催”」

本を燃やすというだけでも噴飯ものだが、それでパーティで行う、という暴挙が住民たちの堪忍袋を破裂させ、主催者のフェイスブックページにはたくさんの抗議の声が寄せられた。

市民の声A「あなたたちは病気だ」

市民の声B「最低だわ。こんなのに付き合わず、イエスと投票すべき。」

ナレーション:しかし我々はここで止まらなかった。我々はビデオを制作。

本燃やしパーティ「この2万倍の本を焼くぜ!最高だろ?」

ナレーション:ツイッターにも投稿。

本燃やしパーティ「トロイの図書館は資金はないかもしれないけど、燃やす本だけはたくさんあるよな」

ナレーション:オリジナルアイテムも販売。

本燃やしパーティ「本のバッグ。皮肉が効いてるだろ?」

ナレーション:さらに新聞にも開催告知を出し、会場予定地もシェア。フライヤーもばらまき(フライヤーの内容:本燃やしパーティに行く方、ベビーシッターします!)、余興のラインナップなども発表した。

市民C「バンドをよんだの?」

ナレーション:人々は激昂した。

市民たち「なんで本燃やすんだよ。間抜け。」「本当に最低!」「カスで低能。」「なんていうピー(放送禁止)なの?」などなど。

ナレーション:人々はリンクをポストし、友達にシェアした。そして図書館のあることのメリットや、本を燃やすことについての討論を繰り広げたのである。話はFacebookから市議会へ。新聞からテレビへ。ローカルから全国へ。そして世界的なニュースにまで拡散した。

そして論争が盛り上がったところで私たちは、このキャンペーンの本当の狙いをタネ明かししたのだ。「図書館にノーということは、本を燃やすことに投票するようなものです」と。

人々は再び、この種明かしについてポストやツイート。メディアも再び取り上げた。私たちは遂には、世論の流れを完全に変えることに成功したのだ。税金税金税金・・・というカネの話から、図書館図書館図書館・・・という本来の話へ。

そして投票当日。このような投票にはあまり参加しないとされる図書館支持層が予想を342%超える投票を行い、圧倒的大差で図書館の存続が決まった。

受賞をするような素晴らしい図書館は、救われたのだ。

すべてのこのような図書館がハッピーエンドを迎えられるわけではない。しかし少なくとも、トロイの図書館は救われたのである。