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世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、時に和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたい人たちのヒントになれば幸いです。

【夏の特別補講】シリアについて、一人の若者の目線から考える

戦争とテロリズム イシューの認知向上

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さて、日頃は世界の素晴らしいソーシャルキャンペーンについてご紹介するこのブログですが、今回は夏の特別補講と称して、斬新なアイデアを生み出すために欠かせない、世界に対する「新しい視点」をくれたシリア内戦に関する映画と、その上映にちなんで8月1日、渋谷アップリンクで行われたトークイベントについてご紹介します。

※この催しについての詳細はこちらをごらんください:

『それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』 - 上映 | UPLINK

まずは映画から。50年以上曲がりなりにも平和が続き、戦争なんて起きるはずがないと思っていたシリアの人々。しかし、2010年のアラブの春をうけて盛り上がりを見せた民主化運動と、その弾圧に端を発して泥沼化した内戦はシリア第3の都市、ホムスをほんの1〜2年で廃墟に変えてしまいました(日本でいうと名古屋がまるごと廃墟になってしまう、というイメージでしょうか)。その中で、地域の平和的民主化運動のカリスマだった19歳のサッカー選手バセットが、武器を手に取り、徐々に過激主義に傾倒していく過程を克明に撮影したドキュメンタリーフィルム「それでも僕は帰る〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと(原題:The Return to Homs)」です。それでは映画の予告編をどうぞ。

www.youtube.com

ちなみにグローバルバージョンはこちら。

www.youtube.com

民主化運動で盛り上がる、活気にあふれた街のシーンから一転、政府軍の攻撃から身を隠すため、壁に開けた穴を通り抜けて破壊された民家から民家を移動するシーンや、ターゲットとなり、破壊しつくされた同胞の実家から、家族のコーヒーカップを掘り出すシーンなど、上映時間89分を通じて心に迫ってきたのは、実はシリアの人々への同情ではなく「万が一、自分の街が戦争になったらこうなるんだ」というリアリティ。

そして何といっても印象的だったのが、主人公バセットがたどる心の変遷でした。輝くような魅力的な笑顔とラップ調の即興歌によるアジテーション、そしてYoutubeを活用した世界への情報発信で人々に力を与えていた青年が、度重なる戦闘と同胞の死でその輝きをすり減らしていく過程が心を痛めます。平和であれば、地域おこしの素晴らしいリーダーになるに違いない、カリスマだったのでしょうが…。

映画は渋谷と福岡で公開中(2015年8月2日現在)ですし、本国のサイトを見ると、映画館で観るのとさほど変わらない料金で、オンラインで見ることもできるようです。以下に関連サイトをリンクしておきますのでお時間のある方はぜひ、ご覧ください。

<日本語配給元サイト>

映画『それでも僕は帰る』 | ユナイテッドピープル - UNITED PEOPLE 映画配給・宣伝

<グローバルサイト※ここからオンラインレンタル&購入も可能のようです>

http://www.returntohoms.com

そして8月1日、渋谷アップリンクにて映画の上映に引き続き行われたトークショーでは、私の学生時代の先輩でもある前中東特派員、朝日新聞ニューデリー支局長の貫洞欣寛さんと、国境なき医師団の看護師としてシリアを始め南スーダンやネパールなど、世界中で活動している白川優子さんが登場。映画だけでは追えなかったシリアの実情をそれぞれの経験から語ってくれました。

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【写真キャプション】トークショー後の親睦会での1枚。右から2人目が貫洞さん、その左が白川さん。左端が映画の日本での配給を実現させたユナイテッドピープルのアーヤ藍さんです。感謝!

貫洞さんからは地政学的にロシアやトルコ、サウジやイラン、西側諸国の思惑がシリア国内の民族対立と複雑に絡み合い、解決の糸口が見えないシリア内戦の現実と、映画の主人公バセットの近況についてがわかりやすくプレゼンテーションされました。(以下ネタバレ注意:バセットは2014年末にYoutubeの自分のチャンネル上でISISへの忠誠を誓い、以降消息不明。おそらく今頃は、ISISの前線で戦っているのだろう、とのことです…)。

そして白川さんからは、シリア政府軍の標的となるため紛争地域の外れの民家に秘密の医療施設を作り、国境なき医師団の一員として市民たちの治療に当たっていた日々についてが語られました。子を持つ親として、罪のない子供たちが砲弾で傷つき、命を失っていく話は聞いていて本当に辛かったです。

映画やこれらのお話を伺うことで、これまでは新聞記事の話題の一つでしかなかったシリアでの出来事が、自分たちと同じ世界で、同じ人間により行われていることとして(本来当たり前のことなのですが)感じられるようになりました。また、これまでならず者の集まりというステレオタイプでしか認知してこなかったISISが、なぜ壊滅しないのか、という疑問についてもバセットを通じてより幅広い視点から考えることができるようになりました。

ソーシャルグッドを志すクリエーティブとして、気をぬくと自分の心を覆い尽くす思い込みとステレオタイプは、世界を変えるアイデアを思いつくための大敵です。私はこの映画を観ながら、「なぜバセットにあの時、武器の代わりにアイデアを与えるクリエーティブな人物が周りにいなかったのだろう」ということを本当に口惜しく思いました。そして自分の周りでもこれから、志を抱く人物が悩んで短絡的なソリューションに陥りそうであったら、クリエーティブパーソンの意地にかけて絶対に、アイデアの力で助けてみせる」と固く心に誓ったのでした。

 

…さて今回は、映画とトークショーの衝撃のあまり暑苦しい補講を開いてしまいましたが、次回からはまたカンヌで見つけた素晴らしいアイデアをご紹介します。引き続きこのブログをご愛顧のほど、どうぞよろしくお願いいたします。