世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、時に和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたい人たちのヒントになれば幸いです。

カンヌ国際クリエーティブ祭 ライオンズヘルス審査レポート vol.5

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【写真キャプション】 最終日前、ショートリストを決める審査室の様子。審査員は朝から晩まで一日中、このような暗い試写室で過ごします・・。

皆さまこんにちは!気づけば審査終了から一ヶ月がたってしまいましたが(早い…)、今回もカンヌ国際クリエーティブ祭ライオンズヘルスで私が審査した、ヘルス&ウェルネス部門から特にご紹介したい一品をお届けします。

今回はこれまでに紹介した「INTIMATE WORDS(デリケートな呼び名)」、「バックアップメモリー」と三つ巴でグランプリを争った「ラッキー・アイアンフィッシュ」をお届けします。ややマニアックな楽しみですが、なぜ前回取り上げた「命を救うビンディ」が銀賞で、この鉄の魚が金賞だったのかを比較してみると、両者とも構造的には、とてもよく似たアイデアなので面白いと思います。

実はこれが出てきた瞬間、私を含む審査員の何人かは「これがグランプリか」と盛り上がったのですが、審査委員長の冷静な判断もあり、全員一致でこれを金賞に留めることにしました。それについても後でさらりと触れますね。それではまずは、まっさらな気持ちで以下のビデオをご覧くださいませ。

<ラッキー・アイアンフィッシュ(幸運の鉄の魚)>

vimeo.com

<ビデオ和訳>

<世界的課題に対する、シンプルな解決方法 — CNN>

カンボジアでは、人口の半数が深刻な貧血に苦しんでいた。なぜなら彼らが食べる魚や米には鉄分がほとんど含まれていないからだ。鉄分の不足は妊娠中の流産、早産、死産などをはじめ、人々に様々な健康被害をもたらす。薬剤も存在するが、あまりにも高価であった。私たちには、安価で効果的な解決方法が求められていた。

そのとき我々が発見したのが「鉄の板」である。我々は、鉄の板を調理中の鍋にいれて10分置くことで、1日に必要な鉄分の75%が食材に染み込むことを発見したのだ。

ただ問題は、現地の人々に使ってもらうこと。確かに彼らは使ってくれたが…その使い方は、(机の位置調整に使うなど、)見当はずれのものだった。

みんなの役に立つためには、もっと工夫しなければならない。そこで見つけたのがこれ。現地で希望の幸運の文化的象徴とされる(”魚”にちなんだ)…

「ラッキー・アイアンフィッシュ」。

現地の人々はこのアイデアを受け入れてくれた。我々は現地に出向き、教育し、より多くの家族がこれを使うよう奨励した。結果は、暮らしを変えるような大きなものであった。9ヶ月の医学的検査やテストの後、鉄分不足は50%解消した。そして、5万人を越える人々が体調の改善を実感したのである。

さらに素晴らしいのは、これが持続可能な解決方法である、ということ。鉄は厳密な品質管理のもと、廃品からリサイクルされたものを使用。そして魚のパッケージは、その地域のコミュニティにより作られた。この過程で、このプロジェクトは多くの雇用をも生み出したのである。

アナウンサー「この試みは、アメリカの全大統領、ビル・クリントンにも賞賛されました。」

<世界中から26億のメディアインプレッションを獲得>

今やラッキー・アイアンフィッシュは慈善事業として、世界中の家族を救う大きな力となっている。

この魚を、広めていこう。

<ラッキー・アイアンフィッシュ>

さて皆様、いかがでしたでしょうか?実はカンヌでの審査の序盤では、現地の人々の行動を変容させたアイデアの秀逸さだけでなく、これが「持続可能な」リサイクルや雇用も生み出している、という点が審査員たちの心に深く刺さり、「これはグランプリ候補かもしれない」と審査委員長が口走るほどの勢いでした(そしてそれが銀賞だった「命を救うビンディ」との評価を分ける点でした)。

ただその後賢明だったのが、審査委員長の「であるからこそ、慎重に審査しよう」という判断。関連していそうなTEDのプレゼンテーションを確認したり、直接当事者にメールすることなどにより、アイデアのコアである「鉄の板を魚の形にする」という部分が、応募した広告代理店によるものではないことがわかったために、「これをライオンズヘルスとして、グランプリにするのは適切でない」という判断に至り、金賞に留めたのでした。

他にも評価が高かった作品を、過去の類似作と見比べて受賞リストから外したり等、今年のライオンズヘルスのヘルスケア&ウェルネス部門では、世界中から集まった審査員がそれぞれの角度から知見を出し合うことで、全体的にかなり精緻なジャッジができていたのではないか、と感じています。

さて次回も、そんな「緻密」なジャッジの結果受賞を果たした、ライオンズヘルスの素晴らしいアイデアを紹介してまいります。あと3回ほどライオンズヘルスがらみが続きますが、皆さま引きつづきお付き合いのほどどうぞ、よろしくお願いいたします!