世界のソーシャルキャンペーン WORLD’S SOCIAL CAMPAIGN

このブログではこれまでの常識に「ひとつまみの非常識」を加えることで世界中で話題となったソーシャルキャンペーン事例を、和訳文付きでご紹介。NPOや起業家等、社会をよりよくしたいすべての人のヒントになれば幸いです。

「計画しないという計画」で街を明るく彩ったソーシャルキャンペーン

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今回は、TEDで見つけた興味深いキャンペーンをご紹介します。無計画に建てられたリオ・デ・ジャネイロ北部のスラム街から始まった、世界中の街を染め上げるアートプロジェクトです。アーティストと現地の住民たちが力を合わせて、雑然としたスラムをきれいに染め上げていく様も素晴らしいですが、印象深いのが中盤の「いろいろ悩んだ末に、すべての数字や推定を捨て去り、元のアイデアに立ち返る事に決めた」というくだり。他にも「 アイデアがおかしいぐらいに大きければ、それだけ人々を巻き込みやすくなる」、「やる前からすべてを決めてしまう事は、生き物のようにプロジェクトが育っていく魔法のようなフィーリングを失う事につながる」など、イノベーションにチャレンジする人たちには勇気づけられる言葉が満載です。11分半ほどですが、和訳(←今回の更新が遅れた理由です泣)も付けましたので通勤時間などにスマホですいすいと、ぜひお楽しみください。

<ハース&ハーン:ペインティングはどのようにコミュニティを変えるか>


Haas&Hahn: How painting can transform ...

<ビデオ和訳>

ここの建物は、世界で一番有名なビーチで知られるコパ・カ・バーナにあります。ここから25キロ北側・リオの北部エリアに、ヴィラ・クルゼールという、およそ6万の人々が住むエリアがあります。リオのほとんどの皆さまは、この場所の名前をニュースでご存知の事と思います。しかし残念ながら、そのニュースのほとんどはバッドニュースです。しかし、ヴィラ・クルゼールは私たちの話の出発点でもあります。

10年前、私たちはファヴェイラ(スラム)での暮らしについてのドキュメンタリーを撮るためにリオに初めて降り立ちました。撮影を進めるうちに、ファヴェイラは非公認のコミュニティで、地方から職を求めてやって来た人たちが徐々に築いてきた場所である事を知りました。いわば、都市の中の都市です。犯罪と、貧困と、薬物を巡る警察とギャングの抗争が代名詞でした。しかし私たちの心を惹き付けたのは、ここが住民たちの手により、マスタープランもなく作られた場所である、という事でした。一方私たちの国であるオランダは、すべてが計画されている国です。ルールに従うためのルールがあるぐらいの勢いです(笑)。

撮影の終了後、私たちは町並みを眺めながら一杯飲んでいました。ほとんどの家はレンガがむき出しで、プラスターもペイントもされていませんでしたが、その中でも数軒、きちんとペイントされた家を見たときに思ったのです。「もしこのエリアにある家のすべての壁がペイントされたら、どのように見えるのだろう?」と。そこで盛り上がった私たちはひとつの作品ともいえる、大きな完成図をイメージしました。ほかの誰がこのような場所で、そんな事を思いつくでしょうか?私たちはそれが可能かどうか、家の数を数えたりしました。すぐに数えるのは無理だと分かりましたが、そのアイデアは心をとらえました。ヴィラ・クルゼールのNPOで働くノンコという友達も「家の壁をきれいにプラスターしたり、ペイントしてくれたら住民たちも喜ぶよ」とこのアイデアを気に入ってくれました。彼はクルーとしてヴィートとマオリを紹介してくれました。私たちは手始めとして、コミュニティの中心にある3軒の家のペイントに取りかかりました。いくつかデザインを検討しましたが、この、凧を揚げる少年のデザインが良いという事で作業を進めました。最初に下地の青色を塗りました。これだけでも充分よくなったと喜んでいたのですが、住民の人たちからは猛反発を食らってしまいました。「なんでウチの壁を、警察署と同じ色に塗るのよ!」と(爆笑)。ファベイラでは、それは良くない事でした。また、独房の色と同じじゃないか、とも言われました。なので慌てて少年の絵を描き、無事でき上がったと喜んでいたら、今度は子どもたちに「凧を揚げている少年なのに、凧がないじゃないか」と言われました。(笑)「いいかい、これはアートなんだ.凧は想像してもらいたいんだ」と答えても「凧が見たい」と分かってもらえなかったので、追加でちょっと丘を上がったところに凧をこさえました。これによって、少年が揚げている凧が実際に見えるようになりました。するとローカル紙はもとより、ガーディアン紙までがこれを良い試みだと取り上げてくれました。「悪名高いスラムが、オープンエア・ギャラリーに」という見出しで。

この成功に気を良くしてリオに戻った私たちは、第2弾に取りかかりました。私たちは、土砂崩れを防ぐためにコンクリートで固められた道が、まるで川のように見える場所を見つけました。私たちは「もしこの川が、鯉が駆け上がる日本画の川のようになったら」と思いました。そこで私たちは、日本画を専門とするタトゥーアーチストのロブを誘いました。私たちは結果的に丸々1年間、近所に住むジョバンニやホビーニョ、ヴィトーに協力してもらいながら、この絵にかかりきりになりました。この絵の近所に住むエリアスに誘われ、ついには彼の家に、彼の素晴らしい家族とともにロングステイする事になりました。残念ながら当時は麻薬マフィアと警察の抗争が再発した頃でした。(銃声と、緊張した家族の様子が映し出される。)私たちはこのような時、ファベイラの人たちが寄り添って耐え忍ぶ姿を目の当たりにしました。また同時にBBQのチカラを学びました(笑)。なぜならBBQをやると、いつものホストとゲストの関係が逆転するからです。そこで私たちはほぼ毎週、近所も招いてBBQをすることにしました。

もちろん絵を完成する事も忘れてなかったよね。そうそう。この絵は本当に巨大なだけでなく、とても精巧なものだったので、制作の間は本当に気が狂いそうになりました。ただ振り返ると、これらのプロセスを通じて経験した住民たちとの交流のひと時のほうが大切だった気もします。

そして、ヴィラ・クルゼールの丘のアイデアも私たちの中ではまだ生きていました。スケッチを描いたり、デザインしたり。紆余曲折ありましたが、結局シンプルなカタチにするのが一番良いのではないかという結論に達しました。より多くの人の手で、より多くの家を塗る、という事です。私たちはこの試みをリオの中心部にあるサンタ・マルタで試すチャンスを得ました。私たちはこのようなイメージを描き、人々を巻き込む事にしました。なぜならアイデアがおかしいぐらいに大きければ、それだけ人々を巻き込みやすくなるからです(笑)。

そしてサンタ・マルタの人々のひと月にわたる協力により、この場所はこのようになりました。(拍手)

なぜかこのニュースは世界中に駆け巡りました。そして「フィラデルフィア・壁画アートプログラム」という予想もしない場所から電話がかかってきたのです。彼らは私たちの活動が、アメリカで最も貧しい地域のひとつであるノース・フィリーでも有効かどうかを知りたがっていました。私たちは即座に「イエス」と答えました。どうやるかは全く検討つきませんでしたが、とにかく面白そうだったので、リオで培ったノウハウを活かしました。まずはBBQパーティを開いたのです。(笑)このプロジェクトは完成までにおよそ2年かかりました。私たちは通りのひとつひとつの建物のペイントをデザインしていきました。デザインにあたっては、ストアや建物のオーナーと協同で進めていきました。その土地の若者たちを数十名雇い入れ、ペインターとしてのスキルを学んでもらいました。彼らが一丸となり、ホームタウンの通りを、色彩豊かなパッチワークに塗り替えたのです。(拍手)結果、フィラデルフィア市当局はこれに参加したすべての人々を讃えました。

さて、通りをペイントするプロジェクトは果たしました。では、すべての丘をペイントする、最初の夢は?私たちはその夢を実現するために、出資者を求めました。しかし、すぐに問題にぶち当たりました。「いくつの建物の壁を塗りますか?」「それは何㎡ですか?」「塗料はどれぐらい使いますか?」「何人雇うつもりですか?」私たちは何年もかけて、出資を得るために必要な、これらの質問への答えを検討しました。しかしある時、これらの質問に答えようとする事は、自分がやろうとしている事をやる前から決めつけてしまう事であり、それは良くない事だと悟ったのです。やる前からすべてを決めてしまう事は、現場に行き、そこの人々とともに過ごすことで有機的に、生き物のようにプロジェクトが育っていく魔法のようなフィーリングを失う事につながるからです。

そこで我々は、すべての数字や推定を捨て去り、元のアイデアである「ヴィラ・クルゼールの丘全体をアート作品にする」ということに立ち返る事に決めました。そして出資者をさがす代わりに、クラウドファンディングのキャンペーンを行いました。わずかひと月あまりで、1500名以上からの協力を得て、何百何千ドルもの寄付金を得ています。(拍手)これはとても素晴らしい事で、なぜなら私たちはこれにより、これまでに得た学びをしっかりと活かし、ファベイラが出来上がっていった過程のように、草の根から、マスタープランなしに作品を育てていく自由を得たからです。

そこで我々は現地に戻り、ヴィラ・クルゼールのほとんどの人たちと顔見知りで才能あふれるローカルアーティスト、アンジェロと、私たちがホームステイ先で知り合った、建築の専門家であるリオスを雇いました。

私たちはどこから手を付けるかを相談し、家の壁にプラスターを施します。彼らがやりやすいように、ペイントしていく家の順番は現地の彼らにゆだねられています。彼らは説明しやすいように、Tシャツやバナーを活用してくれ、報道へのPR活動も行ってくれています。これはアンジェロについての記事です。

この活動を繰り広げると同時に、私たちはこのやり方を世界中に展開しています。フィラデルフィアの時のように、我々はグローサウ(?)のワークショップに招かれていますし、ハイチでは大きなプロジェクトが進行中です。

ファベイラは、私たちのアイデアが始まった場所であるだけでなく、自然発生的に発展した、インスピレーションに満ちた場所あり、マスタープランなしに始めるという、私たちの試みを可能にした場所でもあります。ここでは一緒に汗をかいて取り組む事で、まるで何百もの楽器がひとつの旋律を奏でるオーケストラのように働く事が可能なのです。

私たちは、この夢に協力してくれるすべての人に感謝し、この取り組みを続けていきます。そしてすぐに、この丘が染め上がっていく頃には、もっと多くの人々がこの取り組みに参加してくれる事を願っています。そして、みんなの力がひとつになった時、ヴィラ・クルゼールの丘はきれいにペイントされていることでしょう。どうもありがとう。

アートによるこのような取り組みは、日本の街おこしにも使えると思います。ハース&ハーンと同じような試みをフランス人アーティストのJRも繰り広げていますので、興味ある方は以下の記事の下の方にある、彼のTEDでのプレゼンテーション(日本語字幕付き)も必聴です。

アートはどこまで力になれるのか。無人爆撃機に向けて示された「少女の写真」 - 世界のソーシャルキャンペーン

みんなから人種や国籍をはがし、同じ人類としてのエモーションへとゆり戻すアートの力を、世界中の人々がもっとうまく使いこなせるようになれば良いな、と思います。 

今回は長文、失礼いたしましたッ。